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溺愛する藤井君に僕は気付かない。
藤井君が猫にヤキモチ
しおりを挟む僕が道端で猫と話をしていたら藤井君に怒られた。
僕が、猫に話していたのは、藤井君が僕をたまにお姫様みたいに扱うのが嫌だってこと。
藤井君が友達と話している時はもっと雑で乱暴で適当な口調なんだ。
なのに僕には甘やかすような、優しい話しかけなのが、友達って思われていないみたいで嫌だってこと。
たまに藤井君が僕にそんな口調で話しかけていると、周囲がニヤニヤしてるような気がする。
僕は子ども扱いされている気になってなんだか恥ずかしい。それに対等に思われてないような気がして哀しくもなってくる。
藤井君の部屋に連れられて、あぐらをかいている藤井君の足の上に何故か座らされて、腰には軽く腕を回されている。
とにかく近い。顔がちゃんと見えるようにって思った僕の気持ちをくんでくれたのもわかるんだけど。
「おれも悪かった。考えたら奏が話す前におれが話すからだよな」
藤井君が謝ってきた。本当に優しい。
確かにそうなんだ。僕は喋れないんじゃなくて、ただ苦手というか、あまりにも人と話してなかったからか、急に何を話せばいいのか、わからなくなっているだけなんだ。
話す練習をしたら、高校の二次試験の面接も受かったからね。
なんだか自分の不甲斐なさに、悲しくなってきた。
「猫にヤキモチ焼いただけ。ほらまずは猫に話したこと言ってみ」
にこにこと藤井君が笑ってる。猫にヤキモチ?
どうしてかわからないけど、こうやって譲歩してくれる藤井君は本当に優しくて僕より大人だ。
「あのね」
「おう」と藤井君が笑いながら答える。
「藤井君のこと話してた。・・相談?」
「・・何お前、可愛いすぎるんだけど」
藤井君が僕を抱きしめて顔を僕の体にすりすりしてくる。
話すのやっぱりやめようか、と思った僕の間を感じとった藤井君が、僕を抱きしめるのをやめて、真面目な顔で促してくる。
「それで何、猫ちゃんに話してた?」
どこか、からかっている雰囲気を感じたけど、僕も、話さなきゃ何も変わらないと思って続ける。
「あの、昨日僕がこけたとき」
「体育の時な」
「運んでくれたでしょ」
なんて表現すればいいかわからない。
「膝大丈夫か」
そうだとばかりに、ぐいぐいを膝を押さえつけて見ようとする。なんともなってないから、少し擦れただけだから。
バランスを崩しそうになって、藤井君の首を両手で捕まってなんとか倒れないようにする。
「おっと」なんていいながら楽しそうな藤井君。藤井君優しいんだけど、そういうとこがある。
藤井君も話が進まないことに気づいて、体勢を直しながら首にしがみついている僕を抱きしめて、僕の口元に耳を寄せてくる。
こんなに密着しなくても話できるんだけど! 二人きりだから内緒話みたいにしなくてもいいんだけど! 僕の声が小さいから聞こえないの?
「あの、転けたとき・・抱っこしていったでしょ・・」
いわゆるお姫様だっこみたいに藤井君にされて、グランドから保健室まで運ばれた件。
「抱っこ」のところで、何か興奮したのか、ぐいぐい頭を擦り付けてくる藤井君をなんとかやり過ごしながら、最後までいう。
「あれ、嫌だった」
頭の動きをとめる藤井君。止まるんだ。
「え、なんで」
「なんでって」
抱っこされて喜ぶ男子がいるのだろうか。
「おれ、奏保健室まで運べてすごくなかった?」
藤井君はすごいけども!
「なんで、嫌なの」
「恥ずかしい」
「恥ずかしいって可愛いな!」って喜んでいる藤井君。なんでかな。
「そっか恥ずかしいのかな。でも困ったな。おれ奏が怪我したら運びたいし、助けたいし。なんでもしたい」
「・・・」
ありがたい申し出だけど顔が近い。恥ずかしい。
唇が触れそうなんだけど。
「あの、僕、転けただけだったし、まだ体育できたのに、・・・あれから授業受けれなかった」
うん。僕は真面目に授業に参加する皆勤賞だけが取り柄なんだ。
「うーん」
なんか悩むとこあるかな。
「おれは、奏をみんなの前で抱っこできて、その後二人きりで保健室で過ごせて楽しかった」
実は・・・僕も楽しかった。
授業をさぼるなんて初めてで、ドキドキした。
外からは生徒たちの声が聞こえてくるのに、誰もいない保健室の中は静寂だった。
膝小僧は藤井君が慣れない手つきで一生懸命に消毒してくれた。
保健室の先生はいなくて、いつもなら不安になるのに、藤井君がいてくれるから不安にならなかった。
でも、「みんなの前でされて恥ずかしかった」と伝えたる。
「恥ずかしかったんだ・・」
仕方がないやつみたいな顔で僕を見ないでほしい。
恥ずかしくない? 恥ずかしい僕が恥ずかしいやつなの?
「なんで恥ずかしかったの?」
「だから、みんなの前で、抱っこされて恥ずかしかったの!」
なぜかぎゅぎゅっと抱きしめてくる。なんなの無限ループなの?
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