溺愛する藤井君に僕は気付かない。

くまだった

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溺愛する藤井君に僕は気付かない。

藤井君に話しかけられて

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 友達のいない僕に声を掛けてきたのは藤井君。

 藤井新君。あらたって言うんだって。なんか名前までかっこいいなと思った。

 何度か話した後、あらたって呼んでいいよって言われた。
 
 クラスの子たちに「あらた」と言われているのを知っていたため、僕が彼をそう呼ぶのは違うと思った。

 恐れ多いというか、おこがましい気持ちだった。それに僕は「藤井」という響きが好きだった。

 なので僕は「・・・藤井君」と呼んだ。
 藤井君は首をかしげながら「ま、いいかー」と言った。


 それからも藤井君は、上手く話せない僕を気にすることなく、何度も声をかけてきた。
 だんだん藤井君とその友達と一緒にいることが多くなった。

 藤井君の友達も僕が、うまく話せなくても、返事が遅くても、笑って「いいよいいよ。照れ屋さんだね」とからかうので、顔が赤くなるようになってしまった。
 赤面症じゃなかったのに。

 藤井君はいつのまにか、僕を二木と名字で呼ばず、「奏」と名前で呼ぶようになった。

 藤井君は、藤井君の友達が僕を下の名前で呼ぼうとしたら、なぜか断固反対してきた。

 みんなは二木ちゃんと呼ぶことで落ち着いた。

 空気だった僕が藤井君のおかげで、クラスで存在しはじめた。僕を僕と認識してくれる人ができた。

 クラスにゆっくりと馴染んでいった。
 だけど、藤井君は僕に急接近してきた。


 学校帰りには、反対方向なのに、帰りは送るからと、藤井君の家に寄ることが普通になった。

 最初はそんなに仲良くないのに、と戸惑いながらも、友達の家に誘われたことに僕は喜んでいた。

 藤井君の部屋はテレビはないけど、パソコンがある。

 画面で動画をみたり、ゲームをしたりした。どれも初めての体験で楽しくてしかたがなかった。

 藤井君のスマホでいっぱい写真を撮って、加工してみたり、それを一緒に見て笑ったりした。

 好きなものは何かと聞かれて、すぐに出てこなかった。

 ちょうど猫の写真のカレンダーがあって、それを指差した。

 「猫がすきなんだ。犬は? 動物全部好き? ぽいな。似合ってるってことだよ」

 こんな風に会話は、藤井君が主に話して僕が頷いたり、ジェスチャーか、短い単語で答えていた。

 藤井君は僕の表情から推察して、僕の気持ちがよくわかるみたいだ。

 「すごいね」と伝えたら、「奏はだだもれ」と笑われた。そんなにわかりやすいのかな。

 隣同士に座り、藤井君は僕の肩に腕をかけてくる。ある意味抱き抱えられながら、お気に入りの猫の動画を一緒に見ていた。

 最初は距離が近すぎて戸惑っていた。

 A4ノートサイズのPCの画面は小さいから、体を寄せ合わないとよく見えない、と言われたら、そうかと思った。

 たまにベッドにもたれて座る藤井君の足の間に、僕が座って藤井君にもたれて見ることもある。

 藤井君は僕のお腹に手を回して、僕の体をぎゅっとしている。

 最初は子どもみたいで、さすがに拒否をしようとしたけど、「なんで? 手の置き場がないし、奏の体に手を回したらちょうどいいし」と不思議そうに言われた。

 そんな風に言われたら、拒否している僕がおかしいみたいになったので、頷いてしまった。

 藤井君はにっこり笑った。眩しくて僕は目を細めた。藤井君は左右対称な完璧な笑顔でまるで芸能人みたいだ。

 本当にどうしてこんなかっこよくて優しい人が僕の友達になったんだろう。

 そうやって動画を見ていたら、藤井君が僕の頭に鼻を突っ込んで匂いを嗅いできた。

 さすがに驚いて振り返ると、藤井くんが「ふふ」と笑っているのが、耳元で聞こえる。こめかみに藤井君の口があたった。

 え、と思っている間に、こめかみだけでなく、ほほや、額、まぶた、鼻、僕の唇の端にも、藤井君の唇があたった。

 くすぐったくて笑いながら、身を捩る。
 「藤井君」
 「嫌?」

 ふざけてるわりには、真剣な目な藤井君。
 「・・・こそばい」
 「こそばい? それだけ?」

 首をかしげなから頷くと
 「もう一回」
 「藤井君」

 さっきよりもゆっくりと、僕の顔を両手ではさみながら、額、まぶた、頬、鼻と唇を当ててきて、藤井君が顔をかしげたなっと思ったら、僕の口にもそっと唇を当ててきた。

 柔らかい感触が意外な気がした。

 藤井君って言うつもりで口を開けようとしたら、何度も優しく唇に触れてきた。

 藤井君の体からの熱量に当てられて、僕の体も熱くて仕方がなかった。

 首の向きを変えようとしても、藤井くんの大きな両手でしっかりと顔を挟まれていたのでできなかった。

 藤井くん

 そのうちいつの間にか、押し倒されて、大きな藤井君の体が僕の上にあった。

 奏、そう、と優しく囁やかれ、僕はそのままキスをされ続けた。

 犬や猫のじゃれあいのように思っていたけれども、やっと僕はこれがキスだと気づいたんだ。

 「いい?」
 嫌かと言われたら、もうやめてと言うつもりだったけれども、いいと聞かれたら、藤井君の唇は気持ちいいと思っていたので、小さくうなずいてしまった。

 藤井君は、それはそれは嬉しそうな甘い笑顔で僕を見つめると

 「奏 好きだよ」

と言って僕の唇をペロっとなめてから、口の中を舐め始めた。

 「好きだ」
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