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 ある日、おれにとっても初陣になる魔獣退治で、もう少しで、魔獣に噛み殺されそうになった。

 おれの目の前にアイク先輩が降り立ち、強力な氷魔法で、魔獣を固めて、剣で切り裂いた。アイク先輩の体から白く輝く神々しいオーラが立ち上る。
 無表情さも含めてこの世ならざる神秘的な姿に、ただただ圧倒され目を見張る。

 あーこの人はおれたちとは違う存在なんだと自覚させられる。

 おれはアイク先輩の姿がかっこよくて、ほれぼれした。おれもあんな風に強くなりたいと思った。命を助けてくれた先輩に一生ついて行こうと思った。

 その日の夜、副団長の天幕でおれはアイク先輩に抱かれた。

 アイク先輩の服を片付けたり、お世話をしていたら、いきなり後ろから抱きしめられ、目が合って、見つめあって、その綺麗な瞳に吸いこまれそうになった。気付けばそのまま最後までされた。

 おれは拒否しなかった。どこかで昼間に魔獣に噛み殺されていたかもしれない、いつ死ぬかもわからないなら、先輩と抱き合いたいって思ったんだ。

 翌日恥ずかしくてベッドでモダモダしてしまった。いつも朝早い先輩もまだおれを背中から抱きしめていた。

 驚いたし、怖かったけど、先輩も戦いの後昂った体を鎮めるために必要なことなのかと思った。

 いや、先輩がおれを求めているのが嬉しかったし、おれも先輩のために役に立ちたかった。

 その時だけだと思っていたら、なぜかその後から宿舎もアイク先輩と同室になって、日夜、公私ともに一緒に過ごすことになった。

 周りの親しくないやつからは、やっかみ半分「うまくやったな」とか「愛人」とかからかわれて嫌だった。

 騎士学校から一緒のやつらには、「そうだよな」「やっとか」「お気の毒に・・・いや幸せに」と遠い目や生温い目で見られた。

 「とにかく第3騎士団が過ごしやすくなるかどうかはお前の肩にかかっている」と謎なことも言われたな。あれは何だったんだろう。


 肝心のアイク先輩は何も言わない。それでもアイク先輩の役に立てるならと思ってこの関係を続けてきた。

 だけどアイク先輩は公爵家の嫡男で、いずれは結婚する身。いつかは終わりがくる関係だった。

 5年ほどたってから、そうこないだ、訓練室を出たところで、ついに副団長が結婚するって話を団員たちが話をしているのを聞いてしまった。

 知らなかったけど、すでに婚約もしていたらしい。
 しかも長年、副団長がずっと望んでいて、やっと相手の両親が許可したそうだ。

 おれって本当にバカ。

 アイク先輩にそんな想い人がいるなんて知らなかった。

 いつか先輩が、副団長が結婚するって覚悟していたのに、望まれれば嬉しくて体の関係を続けていた。

 いくら戦いの熱を鎮めるためだけだからって、性欲処理のためだけだとしても。もうこの関係は続けられないと思った。

 それに結婚しているアイク先輩をみたくなかった。

 おれはアイク先輩が本当に好きになっていたから。自分の気持ちを誤魔化していたけど、学生の頃、アイクが戦っている姿を初めて見た時から憧れていたし好きになっていた。


 そんなことをぼんやり思い出す。

 「レイ。最初からおれにはお前だけだ」
 「でも・・・婚約者がいるんですよね、結婚もするって、おれはそんなの無理です」

 「ああ・・・何を落ち込んでいる?」
 「当たり前でしょ。相手の人にも失礼でしょ」

 「相手はお前だ」

 「は?」

 「もうお前のご両親にも許可を得ている。初めてレイを見た時からお前しかいないと思っていた。だからずっとご両親に打診をしていたが、なかなか許可が下りなかった。身分があわないと」
 「レイが騎士団に入った時に、やっとご両親に許可を頂いた。それで晴れて身も心も結ばれたんだ。でも結婚は5年経ってそれでも二人の気持ちが変わらなければと言われて」

 「ちょっと待って、おれはそんな話を聞いたことないですよ。なんで両親に許可を得て、おれに許可を得ないんですか? あなたがおれを好きなんて思ってもなかったですよ! 順番間違えてます!!」

 「レイノード」
 なぜ頬を染めているんですか?

 「怒った顔も可愛い。素直に気持ちを言ってくれてうれしい」
 おれはちょっと引いた。ちなみにまだ先輩のあれは勃っているままである。

 「一旦離れてください。足が攣りそうです」
 「逃げないか?」
 「逃げません」もしかしてちんこを楔にしようとしていた? 恐ろしい男だ。

 しぶしぶアイク先輩はやっとその凶悪な物を離してくれた。でもぎゅって抱きしめてきた。腕が太い硬い苦しい!

 おれの顔を両手で固定して、目を合わせてくる。綺麗な切れ長の紫色の宝石みたいな瞳だ。

 「改めていう。レイノード初めてお前を見た時から好きだった、一目惚れだ。その後、レイの一生懸命に訓練している姿や、みんなに優しいところ全て愛おしいと思っていた。不器用なおれを許してくれ。好きなんだ」

 おれはかぁーと赤面してしまう。先輩が本気で俺が好きだって伝わってきて、恥ずかしい。今までそんなこと思っていたなんて。先輩が何も言わなさすぎて、無表情すぎて伝わらなかった。

 「お前が分かってくれていると思って言葉に出さずにいた。こんなにも大事なことを言わずにいたおれはだめな奴だ、こんな可愛い顔を見れるならもっと早く、もっと何回でも言えばよかった」
 おれの手をとって甲に口づけをしてくる。

 おれは耳まで赤くなってるかもしれない。
 「なんなんですか、あなたは」

 「お前に惚れている、愛も告げれていなかった馬鹿な男だ。許されるならもう一度やり直してほしい。お前がいない人生なんて考えられないんだ」

 「レイ愛している」

 「あなたはバカだ」
 「ああ」

 「おれをこんなに不安にさせて」
 「すまなかった」

 「許しませんよ」
 「一生許さなくていい。ずっといい続けるから」

 「好きだレイ」
 先輩はおれの手にキスをして、伏せていた瞼を開けるとおれをじっと紫色の輝く瞳で見つめてきた。
 
 先輩の澄んだ瞳にうつるおれが真っ赤になって照れているのが見えた。

 本気になった先輩にかなう者なんていない。




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