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別離(リタが別の人と結婚あり)

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 「王様から手紙来なかった?」
 「あれじゃあ納得できない」
 リタはまだ顔色が冴えないマイラを壇上の椅子から見下ろした。







 魔獣討伐の行われた国境から、まだ回復しきっていないマイラと会うこともなく、第7王子とまたゲートを使って王都に戻った。
 マイラの侯爵邸に戻ることなく、第7王子の宮殿にそのまま行った。
 「荷物は?」と聞かれたが首を振った。
 何もいらない。処分してくれるだろう。

 リタは第7王子の婚約者になった。
 不思議なことに、マイラが一度死んだことになって、なぜか結婚したこと自体がなくなり、リタは第7王子の婚約者になった。

 リタがマイラに聖水をかける前に死亡届けが出されていたらしい。確かに死にかけていたが、誰だだしたやつ。王家か。

 結婚して一年未満は、寡婦を救うために未婚扱いになる制度があったらしい。よくわからない。いいようにしてくれ。それに何の意味があるかわからない。
 ただ、あのマイラと過ごした特別な日々がないものになるとは感慨深い。
 幸せだったといっても過言ではない。
 それがなかったことになるとは。

 一年ギリギリ経ってなかったらしい。

 マイラは生き返ったので、王籍は戻るが、結婚はなかったことにすでになったので、リタとの婚姻は戻らない。

 更に、王から通達か親書か知らないがリタとの結婚の取り消しの文章が、マイラ宛にいっている筈だ。

 マイラ自身が団員を守るために自己を犠牲にして闘ったこと。マイラ侯爵の名前で、リタが持っていった物資やポーションなどに対する功労や、たぶんリタと別れたことによる慰謝料が含まれているのか、国から莫大な報奨金が支払われたはずだ。

 リタ自身の功労に対する報奨金も、マイラに行くように伝えている。もちろん名目は変えるように言っている。
 マイラなら、戦った騎士や負傷者、被害にあった領民など、上手に分配してくれるだろう。


 

 今回のリタと第7王子の婚約は、甚大な魔獣被害で国民の不満や不安が大きい中、討伐の主役となったリタを王家に取り込み、王家への不満を逸らす目的があるようだ。

 あそこまでの力は国宝ありきだったが、リタの脅威的な力は諸刃の剣なため王家で管理する目的もあると第7王子が自ら言っていた。

 






 
 何度も何度も第7王子の宮殿に国境から戻ったマイラがやってくる。門の前から離れない。

 一カ月以上毎日繰り返されて、第7王子が会ってあげたらと言い出した。面白そうに笑っている。この殿上人は、修羅場とか、面白おかしい噂なんかがあるとコロコロ笑っている。
 何がおかしいのかわからず、そういう時リタは無表情だ。

 謁見の間で、おれと第7王子は階段の壇上の豪華な王族の椅子に座っている。マイラは階段下で床に直接片膝をついて、第7王子に頭を下げている。

 権力者怖いな。ここまで身分の違いをわからせる必要あるのか。

 第7王子に挨拶をした後、マイラがおれに話しかけてくる。リタはマイラのつむじを見下ろす。身長差もあって見上げることがあっても見下ろすことは長い付き合いでもなかった。

 「王様から手紙来なかった?」
 「あれじゃあ納得できない」
 まあ、そうだろうなとリタは思った。

 「納得できない。おれは死んでいない。リタはおれと結婚していた。ずっと一緒にいると言っただろう」
 顔を見ると、マイラはまだやつれていた。こんなとこに毎日来るくらいなら、体をもっと休めてほしい。


 「・・・まず、おれは嘘つきが嫌いだ」
 リタはこの諦めの悪い男が諦めがつくように言葉を選ぶ。
 「怪我をしない、無事に帰る、すぐに帰る。全部守られなかっただろう」
 「だから終わりなのか」
 「そうだ。今までと変わらない。お前も今までのやつと変わらない。だから別れるんだ」

 「この足のせいなのか、聖水と引き換えにおれと別れろと言われたか? それなら足なんていらなかった」
 マイラが腰に佩いていた剣を抜くと、自分の足に向かって突き立てようとした。走っても止められないスピードだ。
 「な」
 おれは風の魔法で剣を飛ばした。
 「お前、何してるのかわかってるのか!」
 感情的にならないようにしていたのに、怒鳴ってしまう。
 「この足のせいで、リタが第7王子から借りを作ったんじゃないのか。聖水を手に入れるために」
 全部正解だけど、全部違う。


 「もう疲れたんだよ」
 マイラが元気でいるだろうか? 
 怪我をしていないだろうか? 
 毎日毎日そんなことを考えるのが疲れた。
 この先もそんなことを考えて生きていけない。
 でもマイラの性格なら、同じような状況があれば、また体を張って、国境でもどこでも駆けつけて助けに行くだろう?
 そんなマイラが好きだ。誇らしい。

 だけど・・・もう、耐えれない。次はもう無理だ。


 「それにさっきの嘘が嫌いだって言うのも本当だ。知ってるだろ? その足は餞別がわりだ。手に入れた聖水の効果を見たいのもあった。ただそれだけだ」

 おれは第7王子の方を見た。

 「リタ疲れたのかい。マイラ副団長。王族の前で、剣を抜いたこのたびの不敬は不問にしてやろう。面白いものが見れたからな。リタもそれを望んでいないだろう」
 おれは頷いた。事を大きくしたくない。
 「それにマイラ副団長、見苦しいぞ。なかった縁に縋るとは、公正で信の篤い副団長らしくない。そう思わないか? 婚約者殿」


 にこやかに王子に言われて、おれも頷く。
 清廉で誰からも好かれるマイラらしくない行動だ。こんなことが続けば、マイラがおかしいと思われる。
 自分は侯爵から王子に乗り換えたなど、何を言われてもいいが、マイラは何も言われて欲しくない。
 評判を落として欲しくない。

 いつでも公正で民に慕われて、優しくて頼もしい騎士。おれの心の最後の砦だった。おれの誇りだった。

 命を落としかけるほど、民のために戦ったのだから報われてほしい。

 「マイラ副団長、二度とこの宮殿に来ないように。私の前にも。もう二度と会うことはないです。もうあなたと私は何の縁もないのです」
 おれは淡々とマイラに告げた。目を瞑る。疲れた。もう何も見たくない。

 真実の愛とか、一緒に育てようとか、何もかも幻想だ。おれが悪い。おれはそんなものを求めるには値しない。

 だけど、マイラは違う。誰か別の、マイラに似合う優しい人と幸せになってほしい。
 
 第7王子に肩を抱かれて、おれは席を離れた。



 背中からマイラのおれを、呼ぶ声が何度も聞こえた。







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