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魔獣編
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国境に、魔獣が繁殖をしており、今にも国に入ってきそうだと王都で至る所で噂されている。
騎士団の縛りに関係なく、実力のあるものが国境に行くよう要請されていっていた。
リタはマイラと一緒に庭園でティータイムを楽しんでいた。マイラは相変わらずリタに構ってくる。
「このお茶は美味しいな」
「リタなら気に入ってくれると思っていた」
和やかに微笑み合っていると、執事が慌てた様子でマイラの元にきた。
「旦那さま。王室からの手紙です」
マイラが不可解な顔をする。
リタは何となく不安を感じた。まさか、ないと呟く。引きこもっているリタでさえ魔獣の噂を知っていたが、マイラの仕事は王都周辺の治安を守ることだ。管轄が違う。
王家の蝋印で封じられていた手紙を読んだマイラが難しい顔をしている。
「リタ」
マイラがリタに王の勅命を見せる。
マイラが討伐隊の隊長に任命されていた。
「マイラの仕事は、王都を守ることなのに」
リタは怒っている。
「マイラに危険な仕事をしてもらいたくない。国境なんて関係ない。これ以上、体に傷を作って欲しくない。死んだらどうするんだ。今すぐ騎士団をやめよう」とリタは言う。
さすがにマイラは苦笑して「今魔獣を止めないと、王都までやってくるかもしれない」
「そうなるとリタが怪我をするかもしれない」
「それでもだよ」
貴族として王命を守る義務がある。マイラは国境に出立する準備を始めた。
リタは怒ってマイラとずっと口を利かなかった。
出発の日、マイラがまだ怒っているリタに懇願する。
「最後に声と顔見たい。必ず帰ってくるよ。だから待ってておくれ」
ずっとそっぽを向いていたリタは、マイラに顔を向けると「最後とか言うな。これを持っていけ。怪我をしたら許さない。絶対に生きて帰ってくること。早急に」といいながら、作ったポーションを何本も渡す。
無茶ばかり言うリタを抱きしめて、マイラは「必ず約束するよ。おれはいつも約束を守るだろう」と優しく言う。
「ばか」
リタは涙を見せたくなかった。またそっぽを向く。マイラはそんなリタを後ろから抱きしめる。
「愛してるよ。おれのリタ」
「・・・わかってる。おれも愛してる。大好きだ」
涙が止まらなくて、マイラの後ろからリタを抱きしめている腕にしがみつく。
※
早く帰るって言ったのにマイラは帰ってこない。
もう一ヶ月以上も経っている。状態はどうなっているんだ。
魔獣はやっつけたのだろうか。リタが不安に潰されそうになる。
なぜ自分もついていなかったんだろうか、今からでも行こうか。
足りない物資はないだろうか。
なぜもっと薬やポーションを渡さなかったんだろうか。
リタはマイラが帰ってきても安心できるように、屋敷を整えて、領地業務が滞らないように目を配った。
魔術団にいた頃の知識で、ポーションを大量に作っていく。
何かをし続けないと、不安で押しつぶされそうだった。物資やポーション、薬を届けに行こうと準備を始めてた。
第二騎士団副団長が大怪我をしたと言う一報が騎士団に入ったとリタの元に報告が入った。
侯爵邸には直接何も情報は入ってこない。
天候も優れなくなるため執事は止めたが「話を聞いてくる」と詳しい話を騎士団までリタは聞きに行った。いてもたってもいられなかった。
王宮に向かう馬車の中でも、手を合わせて祈り続けた。どうかマイラが無事でありますように。
第二騎士団につくと騒然としている。
団長室にて、団長に会う。随分やつれていた。
マイラの右足が魔獣の牙の毒によって腐りかけていると報告があったと団長が言う。
「薬は?」
「大勢が怪我をしていて、薬の数が足りないのです。それにマイラ副団長の傷には魔獣の毒が回っていて、薬が効かないと報告に上がっています。聖水が必要ですが、その聖水の数も足りていない」
「聖水? どこに行けば聖水が手に入るのです」
「神殿で作られていますが、圧倒的に数が足りないのです」
「そんなバカな、夫は王都を守るために今まで頑張ってきました、それなのに薬も聖水も与えてくれないと言うのですか」
「理解してください。渡せるものならばいくらでもを出します。ないのです。すみません。・・・私も出陣の準備をしなければいけません。これにて失礼します」
団長がリタに帰るよう扉を開ける。食ってかかろうか一瞬考える。理不尽だと。人の命を軽く考えるなと。
マイラのいない王都で、そんなことをやっても無駄だとリタもわかっていた。
リタはふらふらとなりながら、騎士団の団長室から出た。そのまま中庭で立ちつくす。風に煽られ、髪が後ろに靡く。空を見上げると、どんよりとした厚い灰色の雲がすごい勢いで流れている。
あの美しいマイラの足がなくなるのか。もしその毒が体中に回ったら、死ぬかもしれない。マイラが死ぬ。初めてそんなことを考えた。
いや、初めて実感した。
リタを愛していると、幼い頃からいい続けた、そばにずっといると言っていたマイラがいなくなる?
「嘘つき、マイラは嘘つきだ」
いないマイラに悪態をつく。
「誰よりも酷い嘘をつく、どうして、どうしてなんだ」
いつの間にか、雨が降ってリタの全身を濡らす。リタは気にならない。
「ずっとおれのそばにいると言っていたのに」
ギュッと拳を作って握りしめる。手のひらに爪が食い込む。いっそ皮膚を破って血が流れたらいい。マイラが好きだと、きれいな手だと誉めた手の皮膚が破れて、マイラのせいだと詰れるように。
「どうして行ってしまったんだ。おれを悲しませないと、おれを1人にしないと、・・・言ったのに」
誰よりも嘘つきだ!
激しい雨と稲妻が鳴り響く。強い雨粒が叩くようにリタを濡らす。
騎士団の縛りに関係なく、実力のあるものが国境に行くよう要請されていっていた。
リタはマイラと一緒に庭園でティータイムを楽しんでいた。マイラは相変わらずリタに構ってくる。
「このお茶は美味しいな」
「リタなら気に入ってくれると思っていた」
和やかに微笑み合っていると、執事が慌てた様子でマイラの元にきた。
「旦那さま。王室からの手紙です」
マイラが不可解な顔をする。
リタは何となく不安を感じた。まさか、ないと呟く。引きこもっているリタでさえ魔獣の噂を知っていたが、マイラの仕事は王都周辺の治安を守ることだ。管轄が違う。
王家の蝋印で封じられていた手紙を読んだマイラが難しい顔をしている。
「リタ」
マイラがリタに王の勅命を見せる。
マイラが討伐隊の隊長に任命されていた。
「マイラの仕事は、王都を守ることなのに」
リタは怒っている。
「マイラに危険な仕事をしてもらいたくない。国境なんて関係ない。これ以上、体に傷を作って欲しくない。死んだらどうするんだ。今すぐ騎士団をやめよう」とリタは言う。
さすがにマイラは苦笑して「今魔獣を止めないと、王都までやってくるかもしれない」
「そうなるとリタが怪我をするかもしれない」
「それでもだよ」
貴族として王命を守る義務がある。マイラは国境に出立する準備を始めた。
リタは怒ってマイラとずっと口を利かなかった。
出発の日、マイラがまだ怒っているリタに懇願する。
「最後に声と顔見たい。必ず帰ってくるよ。だから待ってておくれ」
ずっとそっぽを向いていたリタは、マイラに顔を向けると「最後とか言うな。これを持っていけ。怪我をしたら許さない。絶対に生きて帰ってくること。早急に」といいながら、作ったポーションを何本も渡す。
無茶ばかり言うリタを抱きしめて、マイラは「必ず約束するよ。おれはいつも約束を守るだろう」と優しく言う。
「ばか」
リタは涙を見せたくなかった。またそっぽを向く。マイラはそんなリタを後ろから抱きしめる。
「愛してるよ。おれのリタ」
「・・・わかってる。おれも愛してる。大好きだ」
涙が止まらなくて、マイラの後ろからリタを抱きしめている腕にしがみつく。
※
早く帰るって言ったのにマイラは帰ってこない。
もう一ヶ月以上も経っている。状態はどうなっているんだ。
魔獣はやっつけたのだろうか。リタが不安に潰されそうになる。
なぜ自分もついていなかったんだろうか、今からでも行こうか。
足りない物資はないだろうか。
なぜもっと薬やポーションを渡さなかったんだろうか。
リタはマイラが帰ってきても安心できるように、屋敷を整えて、領地業務が滞らないように目を配った。
魔術団にいた頃の知識で、ポーションを大量に作っていく。
何かをし続けないと、不安で押しつぶされそうだった。物資やポーション、薬を届けに行こうと準備を始めてた。
第二騎士団副団長が大怪我をしたと言う一報が騎士団に入ったとリタの元に報告が入った。
侯爵邸には直接何も情報は入ってこない。
天候も優れなくなるため執事は止めたが「話を聞いてくる」と詳しい話を騎士団までリタは聞きに行った。いてもたってもいられなかった。
王宮に向かう馬車の中でも、手を合わせて祈り続けた。どうかマイラが無事でありますように。
第二騎士団につくと騒然としている。
団長室にて、団長に会う。随分やつれていた。
マイラの右足が魔獣の牙の毒によって腐りかけていると報告があったと団長が言う。
「薬は?」
「大勢が怪我をしていて、薬の数が足りないのです。それにマイラ副団長の傷には魔獣の毒が回っていて、薬が効かないと報告に上がっています。聖水が必要ですが、その聖水の数も足りていない」
「聖水? どこに行けば聖水が手に入るのです」
「神殿で作られていますが、圧倒的に数が足りないのです」
「そんなバカな、夫は王都を守るために今まで頑張ってきました、それなのに薬も聖水も与えてくれないと言うのですか」
「理解してください。渡せるものならばいくらでもを出します。ないのです。すみません。・・・私も出陣の準備をしなければいけません。これにて失礼します」
団長がリタに帰るよう扉を開ける。食ってかかろうか一瞬考える。理不尽だと。人の命を軽く考えるなと。
マイラのいない王都で、そんなことをやっても無駄だとリタもわかっていた。
リタはふらふらとなりながら、騎士団の団長室から出た。そのまま中庭で立ちつくす。風に煽られ、髪が後ろに靡く。空を見上げると、どんよりとした厚い灰色の雲がすごい勢いで流れている。
あの美しいマイラの足がなくなるのか。もしその毒が体中に回ったら、死ぬかもしれない。マイラが死ぬ。初めてそんなことを考えた。
いや、初めて実感した。
リタを愛していると、幼い頃からいい続けた、そばにずっといると言っていたマイラがいなくなる?
「嘘つき、マイラは嘘つきだ」
いないマイラに悪態をつく。
「誰よりも酷い嘘をつく、どうして、どうしてなんだ」
いつの間にか、雨が降ってリタの全身を濡らす。リタは気にならない。
「ずっとおれのそばにいると言っていたのに」
ギュッと拳を作って握りしめる。手のひらに爪が食い込む。いっそ皮膚を破って血が流れたらいい。マイラが好きだと、きれいな手だと誉めた手の皮膚が破れて、マイラのせいだと詰れるように。
「どうして行ってしまったんだ。おれを悲しませないと、おれを1人にしないと、・・・言ったのに」
誰よりも嘘つきだ!
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