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呪術師に言われたこと1

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また固まって石のようになりかけてしまった時に、ジェイクが呪術師をおれの元に連れてきた。

 子供ほどの背丈で、顔は何百年生きているかのように、皺が刻まれている。老人の割には身のこなしは意外にも軽く、黒のフード付きマントで全身を覆っている。長い白髪がフードからはみ出ていた。手や首に幾重もの紐飾りや銀輪をつけていた。

 「ノア呪術師に来てもらったよ」
 ジェイクが横たわって固まっているおれに声をかけてくる。

 「はん、できるものとできないものがあるんじゃというとろうが」
 「お願いだ。ノアを助けてくれ」
 「見てみないとわかるか」
 呪術師は、ベッドで横たわっているおれの胸をはだけさせ、皺くちゃの手を当てた。たくさんの腕輪がジャランと音を立てた。
 
 手を当てられたところが熱い。呪術師は無言で難しい顔をしている。
 何か悪いことがあるのか聞きたいが、聞けない。呪術師の真剣な顔をじっと見る。
 「なんてことだ。…これは難しい」呪術師のお婆さんの眉間の皺が深くなる。
 「この呪いは生きている。人間が人間を呪うなんてものとわけが違う」
 ジェイクが意味がわからないと聞き返す。
 「どういう意味だ」

 「古代の呪いの一種さ。一体どこでこんなもんを拾ったんだか。生きているものを宿主として、宿主が、死んだら次に移る。転々とな。そうやって忍び込んで生きてるんだ」
 「一旦元気になったんだ。動けるようになったんだ」
 ジェイクが呪術師に訴える。
 「病気と一緒さ、宿主が、気力体力共に元気だったらなりを潜めるのさ。ほらこの胸の花みたいな紋様が見えるかい。今は呪いが活性化しているから、くっきり見えるのさ」

 ジェイクがおれの胸にある何かを見て、額にこぶしを当てて、耐えるような顔をしていた。おれも自分の胸を見たいが、正面から見れないからはっきりわからない。小さなあざのようなもののことだろうか。

 おれは呪術師の言葉に絶望を感じた。
 おれがジェイクの側で死んだらジェイクに呪いが移るかも知れないってことだ。ジェイクに移すくらいなら、おれは自分の体に呪いを縛りつけている方がいい。

 おれは死ねない。ジェイクにだけは呪いを移したらダメだ。その一念だけで、また動けるようにとあきらめずに頑張った。


※※

 そんな風に一進一退しながら、夜と朝を繰り返し、ジェイクの渾身の世話もあり、なんとかおれは歩くまで回復することができた。

 スープだけだったのからパンが食べれるようになって、お腹もすくようになってきたら、徐々に排泄もでるようになった。

 元々少量は食べるようになってからあったようで、それもすべてジェイクが世話をしてくれていた。

 おれはぼんやりしていたけど、いつもみたいに体を拭いてもらっている時に、ふっとそれに気が付いた。

 なんだか普通よりもお尻を拭いてもらっている回数が多い気がする。もしかして!? と思った。

 最初はなぜか何も思わなかった。そういうものだと思っていた。おれの羞恥心が仕事をしていない。 

 段々これって恥ずかしいことじゃないかなと思うようになってきたら恥ずかしくて仕方がない。

 それから猛烈に動けるようになりたくなった。トイレに行けるようになりたい。

 下の世話をさせていたなんて、ますます頭が上がらない。申し訳なさすぎる!
 トイレに行くのも支えてもらいながらなんだけど。

 支えてもらわないと体が倒れるような状態だ。
 しているところを見られるというか傍にいられるのと、している物を拭かれるのとどちらがましなのか・・・。
 もう考えたくない。

 早く動けるようになって、ジェイクの世話にならないようにならないと。その一念でおれはだいぶ動けるようになった!

 ジェイクは最初おれが動けるようになって喜んでいたけど、おれが自分一人で歩こうとして転んだり、躓いたりしているのを見ると「焦らないで」と言うようになった。
 焦るよ! これ以上ジェイクの世話になりたくない。

 それから歩く訓練もして、支えてもらわなくても歩けるようになった。たまにふらつくけど。

 おれが必死に歩く様子をみて「誰かに何か言われたの?」とジェイクに聞かれたけどおれは首を振った。

 ジェイクはいつもおれが寝ている時に、さっとパンなどの食材や日用品を買いにいく。

 ジェイクがいない間にドムレットがまたやってきた。黒の長髪に黒の装束、体格のいいところも含めて前のパーティリーダーを思い出す。

 おれは寝ていたけどドムレットに容赦なく「起きろ」と起こされた。
 ベッド上でドムレットの鋭い眼差しを見つめる。
 椅子まで連れていかれそうになるのを、自分で歩いていく。
 「ふん」とドムレットは鼻で笑っている。ヨタヨタ歩いているのがおかしかったんだろうか。

 「お前ジェイクにどれだけ世話になっているかわかっているのか。あいつはA級の冒険者なんだ。こんな家の中でお前の世話をしているような男じゃない。いいかげんあいつを手放してやってくれ」
 ドムレットは黒い髪をかき上げた。ジロっとおれを睨む。鋭い眼差しだ。
 「おいまた固まるのはなしだぞ。だいぶ動けるようになったんだろ。それなら早くここから出て行って、あいつを自由にしてやってくれ」

 ドムレットの言うことは正しい。

 「わかってる」誰よりもわかってる。
 「わかってるなら、今からでも家をでろ」
 「わかった」
 おれは背中を押してもらった気持ちで、立ち上がってそのまま扉に向かった。

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