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石になる

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 おれは石になる呪いにかけられた。

 有名パーティに雑用係として参加していたダンジョンで、最後の間でラスボスにかけられた呪いだ。

 パーティメンバーは呪いをかけられたおれを置いていった。

 きっと引き返してくれる。きっと探しに戻ってくれる。きっと誰かが見つけてくれる。

 きっと、きっと、きっと・・・・






 泣きたいのに涙は出ているかわからなかった。

 一人置いていかれた最後の間は、真っ暗闇だからわからないが、目は見えているのだろうか。

 どこか遠くに岩に当たっているような水滴が聞こえるから耳は聞こえるのだろう。

 おれは暗闇で、ただどこかで水が一定間隔でぴちゃん、ぴちゃん、と落ちる音をずっと聞いていた。

 水滴が落ちる音だけを聞き続けて、寒いのか暑いのか、痛みも感じず何の感覚もない。
 死んでるのか生きてるのかもわからない。

 ただ水滴が落ちる音だけを聞き続けていた。
 悠久の時間、水滴はおれ以外に聞かれることもなくただ落ち続けていたんだろう。
 おれの存在がなくなるのと、水滴が岩を削るのとどちらが先なんだろうか。
 いっそおれの上に水滴が落ちてきたら、おれはその水滴を友達のように思うのに。

 時折水滴の音だけだった空間に、なんだかガタガタ、バンバン、壁が揺れるような振動が混じって聞こえた。
 人らしき声が聞こえる時がある。

 あ、だれか、人が・・パーティを組んでたやつらの名前も思い出せない。

 ・・・が迎えにきてくれた・・?

 そんなことが気が遠くなる期間に数回あった。

 その度におれはここにいる!

 助けて・・・!  と声にならない声を出す。

 だけどだれもこの最後の間に来なかった。遠かった喧噪はいつのまにか更に遠ざかり、深い闇の中でぴちゃん、ぴちゃんと水滴が落ちる音が繰り返されるだけだった。





 あの時、最後の間で、ラスボスをパーティリーダーである剣士が切りつけていった。魔法使いが防御魔法を繰り出しながら地面を固めて、ラスボスを地面に縫い付けて動けなくしていた。聖職者が結界を張りながら仲間の怪我を次々と治していく。

 弓使いが、後方からラスボスに弓を次々と射た。

 おれ? おれは何をしていたんだろうか。

 生活魔法くらいしか使えないおれは、雑用係兼料理担当としてパーティに誘われた。

 有名パーティだから、給金は高い。みんな優しいとはいい難いが、辛く当たられることもないし、不当な扱いをされることもない。雑用係の扱いなんてこんな物だろう。

 それにパーティリーダーである・・・は優しくしてくれた。

 困ったことはないか、などいつも気にかけて声をかけてくれていた。

 いつも戦闘中は邪魔だからと来るな、と他のメンバーに言われて離れた所や外で待機していたため、同じパーティにも関わらず経験値などは一切貯まることはなかった。

 あの日は最後だから、経験値も貯まるし、一緒に来いとリーダーに言われた。「いつもありがとう」と言われて嬉しかった。

 おれは戦闘に関係ないため、邪魔にならないように岩陰に隠れていた。 
 胸がドキドキしていた。一切戦闘ができないおれは戦う音に身を縮こませていた。

 名前を呼ばれた気がして、岩陰から顔を出す。
 そういえばおれの名前はなんだっけ。

 確かノ・・・ア・・・
 「ノア・・・!」おれの名前を呼ばれて、更に顔を出す。呼ばれたリーダーの方に近づこうとする。
 仲間からは何か叫び声みたいなものが聞こえた。

 おれは慌てて、みんなの方に近づこうとした。なんて言っているかわからないからだ。
 
 その時まばゆい光がみんなのいる方向、更にその奥のラスボスから放たれた。眩しくて目を閉じる。
 一筋の光がそのままおれに向かって伸びた。おれの心臓を目掛けて。

 眩い光芒に目がくらむ。たくさんの光点が弾けて泡となる。一筋の白い光はそのままおれの心臓を貫いた。その光が膨張しておれを包み込んだ。激しい波のような波動とおれを圧する力を感じる。おれは立っていられず、痛みよりも驚きで、地面に膝をつこうとした。だけどそれは叶わなかった。

 動こうとしても身動き一つできない。

 「あ」

 そのままリーダーに手を伸ばしたままおれの体は倒れた。

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