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結局、ベンの親切でベンの城に泊まった。今から街に戻っても道が暗くなって狼や魔物が出てくると言われたからだ。いくら戦場で戦っていたとはいえ、長旅で疲れた体で、知らない土地で自ら一人で狼や魔物と戦う元気はない。
紹介されたベンの家族はベンの家族らしく大らかで、僕の身分や出自を根掘り葉掘り聞いて来ず、戦場でお世話になったとお礼まで言われた。
溜まらず僕はハイランド国の人間ですと白状した。ご両親は僕を同国人だと思っているのではないかと思ったからだ。勘違いされちゃだめだ。
身寄りのない僕を、親切なベンが仕事を紹介してくれるために連れてきてくれた、と慌てて伝えた。
ご両親は目を点にしていたが、大笑いした。
「ベン、戦場で敵国の人間を引き抜くなんてやるじゃない。こんなきれいな方を連れてくるからお嫁さん候補かと思ったわ」と訳の分からないことをベンの母親の元王女様が言う。
なんでもこの国では同性の結婚も許されるらしく、おれは慄いた。
「いえいえとんでもないです。僕は敵国の人間というだけじゃなく、黒髪黒目で不吉と言われ両親に捨てられましたし、孤児院育ちで、無学ですし、何一つベンさんと釣り合わないし、まったくの誤解です」とベンが誤解されないように必死に言い募った。
恥ずかしい話だけど、後からわかって、「騙された」とベンのご両親に言われるよりは今自分の口から言った方がいい。ベンのご両親が、真実を知って僕の国の人間みたいに裏切ったり僕を蔑んだりすることがないように、あらかじめ言うんだ。
あくまで僕がここにいるのは親切なベンの慈悲のおかげだと伝える。
「あら身分なんて、関係ないのよ」
僕は力なく笑う。「それはおとぎ話の中だけです」とは言えなかった。貴族のいうことに反対なんてできない。それにベンのお母さんは元王女だ。王族から貴族になったけれど、平民になったわけじゃない。ぶっきらぼうにそんなことを言いたくなるのを耐える。
「ベンあなた全然伝わってないわよ」とベンの母親がベンを哀れそうに見て言っている。
なんのことだろう。
ベンは苦笑している。
「これからです。いらないことは言わないでください」
ベンがいらないことと言ったのを聞いてズキンと胸が痛くなる。そうだよね。
その後は晩餐を一緒にと誘われたが、家族水入らずを邪魔するなんてできないから、必死になって断った。晩餐なんて服もないし、マナーも何も知らない僕が行くべきじゃないし、そんなところまで僕みたいな孤児の平民がついていくなんて非常識だ。
人の集まるようなところに僕は顔を出さない方がいいだろう。
幼いころ親に言われた言葉を思い出す。
生まれて初めて温かいお風呂に入り、清潔で着心地の良い部屋着を貸してもらった。お風呂もメイドが手伝おうとするのを、全身で拒否して遠慮してもらった。
幼いころ使用人に受けた折檻を思い出す。
優しそうな若いメイドさんで、そんなことはしなさそうだけど、僕が自国で嫌われていた事を知ったら、顔色が変わるかもしれない。
今の僕なら叩こうとされても若い女性のメイドさんに打ち勝つことはできるけど、そんなことをベンの家のメイドさんにしたくない。
どうやって使ったらいいのかわからなかったけど、なんとかお風呂に入った。出てからも迷惑はかけられないので、濡れた床もちゃんと拭いた。できるだけ元通りにする。きれいなタオルも汚したら悪いので、着ていた服で体を拭く。
簡単なもので結構ですと言ったのに、僕にとっては豪華な食事を、落ち着いた部屋でいただき、疲れていた僕は清潔でふかふかのベッドでぐっすり寝てしまった。
だから誰かが寝ている僕の髪を愛おし気に撫でていたなんて気づかなかった。
紹介されたベンの家族はベンの家族らしく大らかで、僕の身分や出自を根掘り葉掘り聞いて来ず、戦場でお世話になったとお礼まで言われた。
溜まらず僕はハイランド国の人間ですと白状した。ご両親は僕を同国人だと思っているのではないかと思ったからだ。勘違いされちゃだめだ。
身寄りのない僕を、親切なベンが仕事を紹介してくれるために連れてきてくれた、と慌てて伝えた。
ご両親は目を点にしていたが、大笑いした。
「ベン、戦場で敵国の人間を引き抜くなんてやるじゃない。こんなきれいな方を連れてくるからお嫁さん候補かと思ったわ」と訳の分からないことをベンの母親の元王女様が言う。
なんでもこの国では同性の結婚も許されるらしく、おれは慄いた。
「いえいえとんでもないです。僕は敵国の人間というだけじゃなく、黒髪黒目で不吉と言われ両親に捨てられましたし、孤児院育ちで、無学ですし、何一つベンさんと釣り合わないし、まったくの誤解です」とベンが誤解されないように必死に言い募った。
恥ずかしい話だけど、後からわかって、「騙された」とベンのご両親に言われるよりは今自分の口から言った方がいい。ベンのご両親が、真実を知って僕の国の人間みたいに裏切ったり僕を蔑んだりすることがないように、あらかじめ言うんだ。
あくまで僕がここにいるのは親切なベンの慈悲のおかげだと伝える。
「あら身分なんて、関係ないのよ」
僕は力なく笑う。「それはおとぎ話の中だけです」とは言えなかった。貴族のいうことに反対なんてできない。それにベンのお母さんは元王女だ。王族から貴族になったけれど、平民になったわけじゃない。ぶっきらぼうにそんなことを言いたくなるのを耐える。
「ベンあなた全然伝わってないわよ」とベンの母親がベンを哀れそうに見て言っている。
なんのことだろう。
ベンは苦笑している。
「これからです。いらないことは言わないでください」
ベンがいらないことと言ったのを聞いてズキンと胸が痛くなる。そうだよね。
その後は晩餐を一緒にと誘われたが、家族水入らずを邪魔するなんてできないから、必死になって断った。晩餐なんて服もないし、マナーも何も知らない僕が行くべきじゃないし、そんなところまで僕みたいな孤児の平民がついていくなんて非常識だ。
人の集まるようなところに僕は顔を出さない方がいいだろう。
幼いころ親に言われた言葉を思い出す。
生まれて初めて温かいお風呂に入り、清潔で着心地の良い部屋着を貸してもらった。お風呂もメイドが手伝おうとするのを、全身で拒否して遠慮してもらった。
幼いころ使用人に受けた折檻を思い出す。
優しそうな若いメイドさんで、そんなことはしなさそうだけど、僕が自国で嫌われていた事を知ったら、顔色が変わるかもしれない。
今の僕なら叩こうとされても若い女性のメイドさんに打ち勝つことはできるけど、そんなことをベンの家のメイドさんにしたくない。
どうやって使ったらいいのかわからなかったけど、なんとかお風呂に入った。出てからも迷惑はかけられないので、濡れた床もちゃんと拭いた。できるだけ元通りにする。きれいなタオルも汚したら悪いので、着ていた服で体を拭く。
簡単なもので結構ですと言ったのに、僕にとっては豪華な食事を、落ち着いた部屋でいただき、疲れていた僕は清潔でふかふかのベッドでぐっすり寝てしまった。
だから誰かが寝ている僕の髪を愛おし気に撫でていたなんて気づかなかった。
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