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3-3 類える現実

第111話 きっかけ 1

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無事にモンスタークラウドの掃討を終え日が暮れる前に街へと帰還出来た俺達は、報告と報酬の分配を済ませ併設の酒場で一息ついている。
 

「おやつ、奮発出来るね」
 今回得た報酬。一人頭凡そ金貨四枚分の硬貨が詰まった袋を眺め、マルクスが微笑む。 

「今日は任せていいか?」

「うん」

「おやつと言えば、やっぱりマカロとか。パンよりお菓子が人気ですよね?」

「いや、ヤマトに限ってはかき氷。あれ一択」── 

 ──んぐんぐ「ホッ……」
 テーブルの上で忙しなく皆に愛嬌を振りまくリーフルにアプルをあげながら、ショートが端的に呟く。
 
「そうですか。でしたらダナさんに頼んで多めに作って貰います」

「特にエマ。あの子ったら『リーフルちゃん、次はいつ来てくれるの?』って。夢中みたいよ、ふふ」

 戦闘中においては皆揃い見せる般若の如き険しい表情も、通い慣れたこの酒場の席ではその勢いも影を潜め、まるで親しい友人達と何をするとはなく集まっているかのような居心地の良さ。

 冒険者然としている時とはあまりにも落差のある、各々が放つ和やかで柔らかな空気感。
 このような言い草はおこがましいとは思うが、彼らと馬が合う理由の一つだ。
 
 これも冒険者を生業としている特典の一つだと思う。
 この四人に関しては、どちらの側面も共にしたことがある故に、彼らを応援している人々の中でも一馬身抜きん出て俺が尊敬しているという自負──優越感を持っている。


「でも驚きました。噂には聞いてましたけど、あんなにも密集してるなんて」

「ん~……そりゃ多い事は多かったけどよ。モンスタークラウドにしちゃ、今回は少なかったか?」
 意外にもロットは少し訝しむように、疑問を口にしている。

「そう……だね。それだけ今回情報を持ち帰ってくれた人が鋭かったって事じゃないかな」

「経験者だったんじゃない? 事前に感じ取れるってことは、相当な手練れのはずよ」

「少ないのもある。けど、普段の何倍もスムーズにいったのは、ヤマトのおかげ」

「だね~。ヤマトさんお手製の地図が正確だから、浅域はあっという間だったもんね。相変わらずアイテムBOXも凄いし」

「やっぱりヤマトさん、うちに加入してくださいよ!」
 
「アハハ……つい先程、己の実力を痛感したばかりですので」

「そんな謙遜する事無えと思うけどな? 初めて会った時から比べりゃ、随分見違えたと思うぜ」

「それにもれなく癒しのリーフルちゃんも付いてくる……ヤマトさんが加入してくれたら凄くお得ね」──

 ──んぐんぐ「ホッ……?」

「ヤマトは孤高のモドキ冒険者。俺達が独占していい男じゃない」

(ショートさん、それは褒めてくれてる……のか?)


「──っと。すまねえな、そろそろ行くわ」
 ロットがおもむろに席を立ちあがる。

「無事な顔、早く見せてあげないとね」

「ホント仲いいわね~」

「最近逞しさが増した。良い事だ」

「お疲れ様でした」 「ホホーホ~(ナカマ)」

「お疲れさん!」
 大盾を背に担ぎ、右手を上げ軽く挨拶をすると、ロットは恋人の待つ中央広場へと帰って行った。


「私ももう帰るわ。早く魔力を回復させなきゃ」

「連発してましたもんね。お疲れ様です」 「ホホーホ(ナカマ)」

「今日はありがとね、ヤマトさん」

「マジックポーション、買い足しておこうか?」

「ううん。だったらあの子たちのおやつ買っておいて」

「じゃあねリーフルちゃん。また一緒にかき氷でも食べましょ」
 如何にもなつばの大きな帽子を上下させリーフルにウインク一つ、疲れを感じさせない笑顔で去って行った。

「ホーホホ! (タベモノ!)」


「今日はありがとうございましたヤマトさん。さっきネアも言ってましたけど、やっぱりヤマトさんは頼りになりますよ」

「ありがとうございます。こちらこそ、冒険者を続けられているのは、皆さんのおかげによるところが大きいです」

「ロットも一段と堅牢になった。お見合いのおかげだ」

「やっぱり想い人がいると、張り合いがあるという事なんですかね」
 
「──そういえば、お二人はどなかと交際は?」

「ん~、いませんね」

「興味ない」

「そうですか……」

「──あの、突然なんですが……」
 このチャンスを逃すまいと、目的遂行の為二人に話を切り出す。


「……俺はパス」

「ん~……ヤマトさんの催しって言うんなら、俺は参加してみようかな?」

「お前はリーダーとして、さらに逞しくなれるなら参加するべき」

「実際、戦闘における司令塔はショートだけどね?」

「そうやってすぐへ逃げようとする。悪い癖だ」
 いつもの事と言わんばかりに、少し呆れた様子でショートが苦言を呈している。

「そう言わないでさ。ま、おかげで俺はのびのびと剣を振るえるわけだからね。感謝してるよ」

「ふんっ……」

「俺は先に帰る。後は二人で詰めろ」

「あ、じゃあおやつよろしくね」
 マルクスがショートにいくらかの銀貨を手渡す。

「分かった。じゃあな」

「お疲れ様です」 「ホホーホ~(ナカマ)」


「──それで、前回のロットの時は手紙? でしたっけ。今回はどういう経緯なんですか?」

「ええ。実は、人族の暮らしぶりに興味があると、街に遊びに来ているエルフ族が居まして……」

 事の次第を話すと、マルクスは思いのほか興味を持ってくれたようで、つつがなく予定についての打ち合わせは終了した。



 そして、急遽要請されたモンスタークラウドの掃討任務を終えた二日後の事。


『今日の予約は、っと……』
 会計台に向かう従業員が台帳を確認している。

『そうそう。クロスは絶対にしわを残さないようピシッとね!』 『はい!』
 傍に控える先輩従業員が、新人と思われる若い女性に仕事内容を指導している。

 そして仕込み作業だろう。奥の調理場から液体が沸き立つ音や、包丁が降ろされるリズミカルな音がこちらまで響いてくる。

 夜の営業に向け、従業員達が熱心に各々の仕事をこなしている最中、このレストランのオーナーであるシャロンに資料の提出を済ませた俺は、雑談を交えながら詰めの打ち合わせに臨んでいた。 


「やっぱり未知の緑翼の人気は凄いわね。もう週末なんかは猫の手も借りたいぐらいで」

「そうなんですか。偶然の賜物とは言え、でしたら俺も仲人を務めた甲斐があります」

「……それと、あなたの口からも聞きたいわ。どうぞ忌憚のない彼の印象を教えて頂戴」

「そうですね……率直に申し上げて『強い』です。先日偶然にも、この件の直後にご一緒させてもらう機会があったんですが、自分の経験値が増せば増すほど、その"凄み"が如何に高い所に位置するのか。気が遠くなる想いでした」

「評判に偽りは無いのね?」

「ええ。まさに結婚相手として、これ以上頼れる男性も居ないかと思います」

「ふむ……頂いた資料には後でじっくりと目を通させてもらうとして。ざっと拝見した通りだと、素行も申し分ないようね」
 提出した数枚の羊皮紙を流し見、感心した様子でシャロンが考えを巡らせている。 

「素行についても間違いなく。街や子供達の為に剣を振るう、立派な人となりです」

「盟友であるあなたには少し……ふふ、ごめんなさいね。あなたも知っての通り、父親が男で、たった一人の愛娘で──となると、つい慎重になり過ぎてしまって」

「いえ、お察しします。それに、十分な報酬は頂いていますので、お気にされる事はありませんよ」

「ありがとう」

「それじゃ、用意させるからお相手よろしくね」

「はい、ご馳走になります」 「ホーホホ(タベモノ)」

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