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3-1 浮上する黄昏れ
第101話 充実と過分 1
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すっかり陽も落ち、活発だった生き物や木々のざわめきも静まる夕食時。
サウド周辺を取り囲む森の休憩所にて、整えた陣地の中心に据えた焚火を囲みながら、リーフルとのんびり今日の反省会を開いている。
朝はかき氷とパンの出張販売に時間を割き、昼からは森の地図の作成、索敵や自然素材の採集と、特に危険と遭遇する事も無く順調に一日を終えた。
マリンを襲ったディープクロウの存在があるのでもちろん油断は禁物だが、今回無駄な緊張をそれ程感じないのは、やはりセンスバーチへの遠征で色々な経験を積めた事が大きいだろうか。
今回は自ら掲げた訓練計画の二度目となり、遠征のおかげで懐に多少の余裕が出来た為、様々な魔物への『対処法の構築』については優先度が低い。
比較的高額で買い取ってもらえる上位の魔物群を討伐できるようになれば、自ずと収入増にも繋がる訳だが、それよりも今回は現状把握を優先すべきだろうと考えているからだ。
具体的に洗い出しておきたい内容とは、俺が戦闘時に行使できる特異な力についてだ。
一つは俺の持つ神力についてと、それに付随した形を変えるロングソード。
もう一つは、先日購入した弓で放つ魔法矢だ。
前々から神力の具体的な作用については気に掛かる部分で、意図せず形を変えてしまうこのロングソードも依然謎のままだ。
新しく購入した弓で放つマジックアローについても、どの魔石が何の属性に変化するのか、先日の対プルグロス戦においてはリーフルの導きのおかげで難を逃れた訳だが、その種類を把握しなければ実用的とは言えない。
そういった諸々の不安定な要素を抱えたままでは、宝の持ち腐れというもので、箱に大切に仕舞い込んで日の目を浴びる事無く痛んでゆくスニーカーのようなものだ。
「まず気になるのは神力だよなぁ。リーフル、プルグロスと戦った時、助けてくれただろ?」
──んぐんぐ「ホッ……」
「幽霊の時もそうだけど、リーフルが"発動"させてるのは間違いないよね?」
「ホ~」
「じゃあスロウは?」
──んぐんぐ「……ホーホホ(タベモノ)」
ビビットがくれた赤身のように上等なものではないが、賢いリーフルは同じように満足気に頬張っている。
「うん、今回は牛と豚も用意したから美味しいのは分かるけど」
「ホーホ? (ヤマト?)」
「うん、俺も食べるよ。神力は?」
「ホ~? (ワカラナイ)」
「ハァ~……言葉が増えてくれないかなぁ……」
贅沢な想いではあるが、こういった具体的な話し合いをする際には、理解できるリーフルの言葉が少ない事にもどかしさを感じてしまう。
というのも、これまでの経験による推察では、リーフルは"スイッチ"のような役割を担っているのではないかと考えられるのだ。
例えるなら神力を保有する俺がバッテリー、そのバッテリーのエネルギーを行使──ON、OFFを切り替える役割がリーフルと、俺がどれだけ念じても単独では発動出来ない事から、そのような仮説が腑に落ちる。
それに俺自身に神力が宿っているというのは、精霊であるウンディーネ様直々の御言葉によるものだし、何か体内からエネルギーを消費した感覚や、気絶してしまう程の脱力感に襲われる事が良い証拠だ。
リーフルのこの小さな体に大量の神力が宿っているとも考えにくいし、リーフルをきっかけとして力が発動している事は間違いないので、それらを踏まえると恐らくこの推察に大きなずれは無いだろう。
「"液体の操作"って言ってた奴は──」
──木製のコップに注がれた水に手をかざし意識を集中する。
すると、コップの中の水が静かに渦を描き動き出す。
「これは不思議と念じれば出来るんだよなぁ」
この力はどの程度の液量まで作用するのか、どういった利点があるのか、今のところ検証不足で差し当たり戦闘の役には立ちそうにないが、遊び半分に訓練だけは続けている。
「ホーホ? (ヤマト?)」
リーフルがコップをつつき、何かを要求するように訴えている。
「ん~? オット水? あれは限りがあるからダメだよ?」
「ホゥ (イラナイ) ホーホ (ヤマト)」
どうやら違ったらしく、リーフルがロングソードを眺め呟いている。
「剣? そうだなぁ。これも不思議だよな~」
手製のベンチに立て掛けているロングソードに手を伸ばす。
「ホー……!」
「うっ──あ……光った」
リーフルが呟くと同時に剣が青白い光を纏い、かなりの脱力感に襲われる。
「ホーホ? (ヤマト?)」
リーフルが両翼を小さく上下させ喜んでいる。
「そうそう! 偉いぞ~リーフル」
リーフルの頭を撫でる。
「ホ!」──バサッ
両翼を広げ、誇らしげにしている。
今まさに起こった剣が光を纏うに至るまでの一連の事象から、やはり俺の立てた仮説は正しいと思われる。
しかし、俺が理解できる語彙が増えた訳でも、リーフルに対して普段と違った要求をした訳でも無い。
となると、リーフルはつぶさに俺の神力の残量を鑑み、ここぞという場面で自主的に発動させてくれていたということになるか……。
「はは、やっぱりリーフルは賢いなぁ」
リーフルを抱きしめる。
「ホーホ (ヤマト)」
リーフルも胸に顔を埋め返し応えてくれる。
「そういう事なら神力は当てにし過ぎずに、リーフルを信じてればいいか」
「……スゥ……」
どうやら腕の中で安心して寝てしまったようだ。
(剣自体は……)
エルフ族の長には知り得なかっただけで、元々この剣が神力に反応して変形する特異な物質の可能性。
他に思い当たる要因としては、一時期アイテムBOXに収納していた事があるので、異次元空間より何らかの影響を受けて、普通の剣が特異な物へと変化したという可能性か。
どちらにせよ俺には計り知れない不思議パワーの超常現象なので、ウンディーネ様、もしくは神様にお伺いを立てない限り、答えは出ないだろう。
(弓の方は訓練中に一つずつ調べればいいんだから明るいよな~)
先程確認して判明したのだが、風のマジックアローを発揮した魔石はローウルフのものだった。
ローウルフであれば数も多く、通常の弓でも仕留められる部類なので魔石の補充は比較的容易いので、風属性に関しては自信を持って実践使用出来るだろう。
その反面、魔石であれば全てが活用できるといったものでは無さそうで、日中に検証を兼ねて試射したころ、スライムやラビトーといった最下級の魔物達の魔石では、マジックアローは発動しなかった。
強さや体躯の大きい魔物程、内に秘める魔力の量も大きいという話だし、恐らくは魔石に含まれる魔力量が影響しているのだろう。
「スゥ……スゥ……」
微かな寝息を立て、リーフルが気持ちよさそうに眠っている。
(グルグルと考えるのも嫌いじゃなけど、やっぱりこうしてリーフルとのんびりしてるのが一番幸せだな……)
物静かな休憩所に焚火の弾ける音と澄んだ空気。
抱く温もりに幸福を感じ、明日の予定も決まっている。
後は訓練だけに打ち込めればこの上ないのだが……。
(それにしても祭りって……なんで俺が……)
信頼されている証拠なので文句をつけるのも罰当たりではあるのだが、自身が"冒険者"である以上致し方無いと、納得せざるを得ない。
話は前日の朝、ギルドへ報告に赴いた場面へと遡る。
サウド周辺を取り囲む森の休憩所にて、整えた陣地の中心に据えた焚火を囲みながら、リーフルとのんびり今日の反省会を開いている。
朝はかき氷とパンの出張販売に時間を割き、昼からは森の地図の作成、索敵や自然素材の採集と、特に危険と遭遇する事も無く順調に一日を終えた。
マリンを襲ったディープクロウの存在があるのでもちろん油断は禁物だが、今回無駄な緊張をそれ程感じないのは、やはりセンスバーチへの遠征で色々な経験を積めた事が大きいだろうか。
今回は自ら掲げた訓練計画の二度目となり、遠征のおかげで懐に多少の余裕が出来た為、様々な魔物への『対処法の構築』については優先度が低い。
比較的高額で買い取ってもらえる上位の魔物群を討伐できるようになれば、自ずと収入増にも繋がる訳だが、それよりも今回は現状把握を優先すべきだろうと考えているからだ。
具体的に洗い出しておきたい内容とは、俺が戦闘時に行使できる特異な力についてだ。
一つは俺の持つ神力についてと、それに付随した形を変えるロングソード。
もう一つは、先日購入した弓で放つ魔法矢だ。
前々から神力の具体的な作用については気に掛かる部分で、意図せず形を変えてしまうこのロングソードも依然謎のままだ。
新しく購入した弓で放つマジックアローについても、どの魔石が何の属性に変化するのか、先日の対プルグロス戦においてはリーフルの導きのおかげで難を逃れた訳だが、その種類を把握しなければ実用的とは言えない。
そういった諸々の不安定な要素を抱えたままでは、宝の持ち腐れというもので、箱に大切に仕舞い込んで日の目を浴びる事無く痛んでゆくスニーカーのようなものだ。
「まず気になるのは神力だよなぁ。リーフル、プルグロスと戦った時、助けてくれただろ?」
──んぐんぐ「ホッ……」
「幽霊の時もそうだけど、リーフルが"発動"させてるのは間違いないよね?」
「ホ~」
「じゃあスロウは?」
──んぐんぐ「……ホーホホ(タベモノ)」
ビビットがくれた赤身のように上等なものではないが、賢いリーフルは同じように満足気に頬張っている。
「うん、今回は牛と豚も用意したから美味しいのは分かるけど」
「ホーホ? (ヤマト?)」
「うん、俺も食べるよ。神力は?」
「ホ~? (ワカラナイ)」
「ハァ~……言葉が増えてくれないかなぁ……」
贅沢な想いではあるが、こういった具体的な話し合いをする際には、理解できるリーフルの言葉が少ない事にもどかしさを感じてしまう。
というのも、これまでの経験による推察では、リーフルは"スイッチ"のような役割を担っているのではないかと考えられるのだ。
例えるなら神力を保有する俺がバッテリー、そのバッテリーのエネルギーを行使──ON、OFFを切り替える役割がリーフルと、俺がどれだけ念じても単独では発動出来ない事から、そのような仮説が腑に落ちる。
それに俺自身に神力が宿っているというのは、精霊であるウンディーネ様直々の御言葉によるものだし、何か体内からエネルギーを消費した感覚や、気絶してしまう程の脱力感に襲われる事が良い証拠だ。
リーフルのこの小さな体に大量の神力が宿っているとも考えにくいし、リーフルをきっかけとして力が発動している事は間違いないので、それらを踏まえると恐らくこの推察に大きなずれは無いだろう。
「"液体の操作"って言ってた奴は──」
──木製のコップに注がれた水に手をかざし意識を集中する。
すると、コップの中の水が静かに渦を描き動き出す。
「これは不思議と念じれば出来るんだよなぁ」
この力はどの程度の液量まで作用するのか、どういった利点があるのか、今のところ検証不足で差し当たり戦闘の役には立ちそうにないが、遊び半分に訓練だけは続けている。
「ホーホ? (ヤマト?)」
リーフルがコップをつつき、何かを要求するように訴えている。
「ん~? オット水? あれは限りがあるからダメだよ?」
「ホゥ (イラナイ) ホーホ (ヤマト)」
どうやら違ったらしく、リーフルがロングソードを眺め呟いている。
「剣? そうだなぁ。これも不思議だよな~」
手製のベンチに立て掛けているロングソードに手を伸ばす。
「ホー……!」
「うっ──あ……光った」
リーフルが呟くと同時に剣が青白い光を纏い、かなりの脱力感に襲われる。
「ホーホ? (ヤマト?)」
リーフルが両翼を小さく上下させ喜んでいる。
「そうそう! 偉いぞ~リーフル」
リーフルの頭を撫でる。
「ホ!」──バサッ
両翼を広げ、誇らしげにしている。
今まさに起こった剣が光を纏うに至るまでの一連の事象から、やはり俺の立てた仮説は正しいと思われる。
しかし、俺が理解できる語彙が増えた訳でも、リーフルに対して普段と違った要求をした訳でも無い。
となると、リーフルはつぶさに俺の神力の残量を鑑み、ここぞという場面で自主的に発動させてくれていたということになるか……。
「はは、やっぱりリーフルは賢いなぁ」
リーフルを抱きしめる。
「ホーホ (ヤマト)」
リーフルも胸に顔を埋め返し応えてくれる。
「そういう事なら神力は当てにし過ぎずに、リーフルを信じてればいいか」
「……スゥ……」
どうやら腕の中で安心して寝てしまったようだ。
(剣自体は……)
エルフ族の長には知り得なかっただけで、元々この剣が神力に反応して変形する特異な物質の可能性。
他に思い当たる要因としては、一時期アイテムBOXに収納していた事があるので、異次元空間より何らかの影響を受けて、普通の剣が特異な物へと変化したという可能性か。
どちらにせよ俺には計り知れない不思議パワーの超常現象なので、ウンディーネ様、もしくは神様にお伺いを立てない限り、答えは出ないだろう。
(弓の方は訓練中に一つずつ調べればいいんだから明るいよな~)
先程確認して判明したのだが、風のマジックアローを発揮した魔石はローウルフのものだった。
ローウルフであれば数も多く、通常の弓でも仕留められる部類なので魔石の補充は比較的容易いので、風属性に関しては自信を持って実践使用出来るだろう。
その反面、魔石であれば全てが活用できるといったものでは無さそうで、日中に検証を兼ねて試射したころ、スライムやラビトーといった最下級の魔物達の魔石では、マジックアローは発動しなかった。
強さや体躯の大きい魔物程、内に秘める魔力の量も大きいという話だし、恐らくは魔石に含まれる魔力量が影響しているのだろう。
「スゥ……スゥ……」
微かな寝息を立て、リーフルが気持ちよさそうに眠っている。
(グルグルと考えるのも嫌いじゃなけど、やっぱりこうしてリーフルとのんびりしてるのが一番幸せだな……)
物静かな休憩所に焚火の弾ける音と澄んだ空気。
抱く温もりに幸福を感じ、明日の予定も決まっている。
後は訓練だけに打ち込めればこの上ないのだが……。
(それにしても祭りって……なんで俺が……)
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