108 / 180
2-6 外地にて
第90話 冒険者ギルド・センスバーチ支部 1
しおりを挟む俺の第二の故郷であるサウドを出発して一日半。
途中休憩に立ち寄ったニコ村では、時期外れの虫の大発生に遭遇するという不運に見舞われはしたが、その事を除けば至って順調。
街に入る際、がらんとした荷台を検められ多少怪しまれはしたものの、無事センスバーチへと到着した。
今回請け負った"定期便"を担当するという仕事も、全ては俺が持つスキルである、アイテムBOXの異次元空間の中に収納しているので、例えば雨風で物資が劣化する事も、何かの拍子に紛失し、数が不足するという事も起こり得ないので、仕事内容としては簡単な部類だ。
移動の行程が快適であったのは、ベテラン御者のガリウスに因るところが大きいが、この程度の距離であれば、今後もいい稼ぎの一つとなるやもしれない。
ギルド前に降り立った俺達は一旦解散、ガリウスはバルと一度休憩に、ロングはビビットが勧める有名なカフェがあるとの事で、二人で出掛けて行った。
二人きりでカフェに行く事を提案したのは他でも無い俺なのだが、中々良いアシストが出来たのではないかと思う。
納品の手続きなど担当者の俺一人で十分。
皆で押し掛けても退屈なものだし、ビビットがロングとの距離を縮めるのに『勝手を知らぬ街で』という、ある種の不安定な状況が良いアクセントになるのではと踏んだのだ。
一方俺は、サウドにて預かる定期便の物資を納品する為、冒険者ギルド・センスバーチ支部へと一人足を踏み入れた。
(中の造りは似てるんだなぁ。酒場が併設じゃないって所が違うけど)
受付人が横に三人程整列できる長さのカウンターに、依頼書が張り出される掲示板。
カウンター奥には守衛担当の冒険者が詰める部屋や、資料が保管され職員が雑務を行う部屋、倉庫に続いているであろう廊下等、サウド支部と然程変わりは見受けられない。
早速仕事を完遂する為、受付に尋ねてみる。
「こんにちは。サウドからやって参りました、定期便です」
冒険者証を提示し用件を伝える。
「はい、こちらでお伺いしますわ。あら? 確かこの名前……肩に鳥……」
受付の女性が俺の冒険者証を見るや否や、訝しむ表情を浮かべ何やら呟いている。
「あの……何か不備でも?」
「ぐぬぬぬっ……あなた!──あなたがそうなのね!!」
突如受付の女性がカウンターに両手を打ち下ろし立ち上がり、俺を指差し声を荒げる。
静まり返るギルド内。
「ホ~? (テキ?)」
張り詰める空気などなんのその。
様々な経験から、豪胆さの増したリーフルの羽繕いの音だけが微かに響き渡る。
(突然なんなんだこの人……それに、俺の事を知ってる……?)
「──っ! いけない……な、何でもございません事よ、おほほほ……」
我に返り、大声を上げてしまった事に狼狽している。
「て、定期便でしたわね! どうぞ応接室へお越しくださいませ」
サウドと同じ、衝立で間仕切られた簡易的な応接室へと誘導される。
「分かりました」
女性の後に続き移動する。
◇
「先程は取り乱してしまいまして、申し訳ございませんわ。まずはご挨拶を」
「私はこの栄えある冒険者ギルドセンスバーチ支部の看板娘! を務めます、"フライア"と申しますわ」
どこの支部でもギルドの顔であるというのは誇らしいものなのだろうか。
名をフライアと言う職員の女性が、語気を強め腰に手を当て胸を張り、"看板娘"である事を強調して話す。
(う~ん?? さっきから何だか……)
先程からのフライアの立ち振る舞いには何とも言えない既視感を覚える。
「ご丁寧にありがとうございます。サウド支部に所属しております、冒険者のヤマトと申します。今回は俺が定期便を担当致しまして、物資を運んできました」
「ホ」
書類をテーブルに差し出す。
「遠路はるばるお疲れ様でございますわ。では早速、検品の荷下ろしに──」
「──あ、馬車には乗ってません。俺が全て収納してますので」──ボワン
証明の為にサウド製マジックポーションを三本程取り出して見せる。
「なっ……!?──ちっ。そういえばそんな事言ってたわねあいつ……」
左右に別れた長い巻き髪の銀髪、長いまつ毛に整った顔立ちは所謂"お嬢様"を彷彿とさせる容姿をしているフライア。
そんな看板娘にふさわしい美人な彼女の表情が刺々しいものへと一変し、口調も粗暴な雰囲気に急変する。
「??」
「ホホーホ? (ナカマ?)」
どうやらリーフルも同じように感じている様子で、互いに顔を見合わせる。
(そうだよなぁ……素直に聞いてみるのが早いか)
「あのぉ……先程から気になってたんですが、もしかして"キャシー"さんとお知り合いなんですか?」
「キャシー……そう、キャシー!! あいつばっかり! ずるいずるい!」
キャシーの名を口にした途端、フライアが癇癪を起こしたように両手足をばたつかせ、憤っている。
「えっ、あの……どうもすみません」
彼女の態度や言葉から、何か因縁がある事は明白だが、事情が掴めないので取り敢えず謝っておく。
……というよりも、成人女性の駄々っ子を前に、俺には他に為す術が無い。
「──ハッ!……お恥ずかしいところを。おほほほ……」
先程同様我に返り、落ち着いた雰囲気に居直る。
「え~っと、倉庫に移動した方がいいですよね?」
これ以上要らぬ地雷を踏む前に、仕事を終わらせるべく進言する。
「そ、そうですわね! では、倉庫の方へお願いいたしますわ」
フライアの後に続き、物資を検品してもらう為に倉庫へと移動する。
◇
無事倉庫で仕事を完遂した俺は、再びフライアと応接室にて紅茶を囲み、話し合っていた。
「いやぁ、さすがセンスバーチですね。高級そうな物が沢山ありますね」
倉庫で目にした保管されている品々は、俺の知る相場の高い物から、未知の煌びやかな布や食器、装飾品だったり、頑強そうな鱗に覆われた何かの魔物と思しき尻尾だったり、とサウドに比べ嗜好品の類が多いような印象を受けた。
「あんなの反則よ……」
ぶつぶつと爪を噛みながら何やら呟いている。
「あ~……よ、よく驚かれるんですよ~、ハハハ……」
恐らくアイテムBOXの事を指しての言葉だろうが、一人の世界に没入し、自問自答する癖があるようなので、何とも接し辛い。
「さっきの倉庫内でもそうだけど、散々見せちゃったんだからもういいわよね?」
(自分で認めるんだなぁ。潔いところを見ると嫌いなタイプの人では無さそうか)
「ええ。正直俺としても、何かあるたびに変容されても戸惑いますし」
「看板娘も楽じゃないのよねぇ『優雅に愛想良く、羨望を集める存在であれ』」
「統治官様の仰る努力義務も分かるけど、四六時中ニコニコお嬢様なんてやってらんないわよ」
「へぇ~。同じギルド職員でも、統治官様の色が違うんですね」
「ぐぬぬっ……ホントだったらとっくに有望冒険者の求婚にまみれて、玉の輿に乗って人生楽々! だったはずなのに……」
再び自分の世界に没頭し、恨み言を並べている。
(人生設計は十人十色あるとはいえ、露骨に願望を話す人も珍しいな……)
「アハハ……ところで、キャシーさんとはどういったご関係なんですか?」
「あいつは私の敵よ! あいつさえいなければ私は──」
衝立をノックする音。
「お話し中失礼します。フライアさん、緊急要請です」
何やらギルド職員が鬼気迫る表情を浮かべ、応接室にやってきた。
「──こほん。承知しましたわ。 ヤマト様、少々失礼いたします。お話は後程」
フライアがカウンターへと急ぐ。
「あ、はい」
「ホ~? (テキ?)」
リーフルが、立ち去るフライアを指し尋ねる。
「う~ん、どうかな? 悪い人では無さそうだけどね」
話は途中だが何もせず待つのも暇なので、観光気分でも味わおうと、街へ繰り出すことにした。
25
お気に入りに追加
2,163
あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。
KBT
ファンタジー
神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。
神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。
現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。
スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。
しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。
これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」

食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる