102 / 181
2-5 冒険者流遠足会
第86話 ナカマ
しおりを挟む街道の凹凸を拾う車輪から伝わる振動に揺られ、快適とは言えないまでも、俺達の馬車は順調に距離を稼いでいた。
出発前の緊張もどこへやら、ここまでの道中、魔物と遭遇することも無く数台の馬車とすれ違っただけで、気分はさながら観光バスから景色を眺める旅行者だ。
ただ、人間とは御しがたい生き物。平和を有り難く思うのも束の間に、どうしても"暇"が湧いて出てくるもので……。
「ホホーホ(ナカマ)」
集中する二人の前でリーフルが一言呟く。
「──はいはい! 『ロング』っすね!?」
ロングがいち早く手を上げアピールしている。
「何言ってんだい『赤身』って言ったんだよ!」
胡坐をかくビビットが身を乗り出す。
「う~ん、惜しい! 二人共ハズレですね」
「え~。でもそれって、よく自分を見て話してる鳴き方っすよ?」
「ん~、間違いでも無いんだけどね。正解は『友達、仲間』でした」
「かぁ~……これじゃあ昼ご飯がなくなっちまうよ~」
ビビットとロングが昼食の内容毎の代替となる木札をリーフルの前に差し出す。
「リーフルさん、どうしますか。これじゃあ二人共お昼ご飯抜きになってしまいますが」
「……ホ」
目の前に並ぶ十枚ほどの木札から、嘴を使い各々一枚ずつの木札を器用に押し戻す。
「リーフルちゃん……」
「リーフルちゃ~ん! なんて優しい子なんだろうねぇ!」
リーフルの慈悲深き行動に身を震わせる二人。
「偉いぞ~リーフル」
「ホッ!」──バサッ!
俺達は"クイズ"に興じていた。
ただ座っているだけというのも如何せん物寂しいし、リーフルも皆に構ってもらえて喜んでいる様子で、暇つぶしとしては十分に盛り上がっている。
「ホホーホ(ナカマ) ホ(イク)」
リーフルが二人と木札を交互に見比べ、まだ収まらないといった雰囲気をしている。
「えっ、リーフルちゃんまだやるんすか? 折角"カカパン"の札を返してくれたのに……また無くなるっす……」
「そうかいそうかい。愛らしいねぇ──よし分かった! ロング、折角だし絶対にリーフルちゃんの言葉を覚えるんだよ!」
「そうっすね!」
「はは」
リーフルを二人に任せ、御者台のガリウスの下へと移動する。
「お疲れ様です。すみません、お仕事中に」
「構わない。誇らしいさ」
ぶっきらぼうに前を向いたまま、だが温かみの籠る声色で答える。
「なるほど……さすがですね」
「もう少し行くと休憩できる川辺がある。バルを休ませる」
「はい──バル、堂々としてて綺麗で。長いんですか?」
「以前の相棒の息子だ。俺が育てた」
「そうなんですね。大切にされているのがよく分かります」
「お前もな。あの子も、とても幸せそうな気配を纏ってる」
「ありがとうございます」
ガリウスとは今回が初対面で、今まで馬車を利用する機会も無く接点が無かった。
だが、俺と同じく動物を相棒としている人物だ。親近感を覚えないはずがない。
彼は言葉少なで不愛想に見えるが、バルを観察すれば人となりは一目瞭然で、相当に愛情深い人物だと断言できる。
何よりもバル本人からネガティブな言葉が聞こえてこないのが良い証拠で、今朝から度々耳を澄ませているが『イク』という力強い言葉しか聞こえてこない。
互いに相棒の為を想い合っている様には、自分とリーフルを重ねて感じ、心打たれるものがある。
「あそこだ──」
ガリウスが道を外れるよう手綱を操り指示を出す。
「ブルルッ!」
繊細かつ力強い脚捌きで穏やかに荷台を停車させる。
「ホーホホ? (タベモノ?)」
リーフルが肩に戻る。
「そうだよ。昼ご飯だ」
順に馬車を降りる。
「結局よく分からないままっす……」
「そもそもヤマトが居ないんじゃ正解も何も無いね……」
「遊んでもらってよかったなぁ」
「ホ~」
「……ヤマト、アプルとアルファを頼む」
ガリウスがバルを荷台から解放しながら話す。
ガリウスの言う"アルファ"とは、牛や馬等に与えられる牧草の事だ。
日本では"アルファルファ"の名でペットショップ等で販売されているのを目にするのが一般的なフードで、サラリーマン時代にウサギを飼っていた俺としては、"チモシー"と並び非常に馴染み深い牧草で、何とも言えない懐かしさと親しみを覚える。
「わかりました」
異次元空間を開き、預かるバルのエサを取り出す。
「ブフンッ!」
『タベモノ』
バルが食事を前に興奮した様子だ。
「ホーホ? (ヤマト?)」
バルの前に置かれたアプルを指し、リーフルが訴える。
「うん。俺達も食べようか」
◇
街道沿いに流れる澄んだ小川の傍に陣取り、俺達は昼食のパンやシチューを前に、諸々について話し合っていた。
クイズに大敗を喫し、昼食のほとんどをリーフルに押収されてしまっていた二人だが、あくまでもお遊び。
リーフルもいけずをするような性格では無いので、その温情をもって昼食の制限は解放された。
「ヤマトさまさまだねぇ。作り立てを労する事無く食べられるなんてさ。あんた冒険者なんか辞めて、移動レストランでも始めたらどうだい? ははは」
豪快な笑い声を上げながらビビットがそう語る。
「えっ! そんなの困るっす! 自分、ヤマトさんが居ないとサウドで生きていけないっすよ!」
「また大袈裟な。自分一人でしっかり稼いでるよね」
「『心細い』って意味だろう? 言葉を選びなロング。センスバーチで馬鹿にされちまうよ?」
「あ……そうっすよね。センスバーチ……うぅ……」
ロングがうなだれている。
「安心しなロング、あたしとヤマトが付いてるんだ。何よりあんたはもう立派に一人前。恐れる事はないさ」
この定期便のメンバーに指名した際、珍しくロングは渋い顔をして、一瞬だが躊躇いの表情を浮かべていた。
それも当然で、サウドへやって来た当時のロングを思い返せば、尻込みする原因には心当たりがある。
「そうですね。もう昔のロングとは違う。今や立派な"サウド支部所属の冒険者"だ」
「そう……っすよね……」
「それにいつも言ってくれてるじゃないか。リーフルを守ってくれるんだろ? 俺もリーフルも、ロングの事、頼りにしてる」
「ホホーホ(ナカマ)」
リーフルがロングに歩み寄り、膝によじ登る。
「リーフルちゃん……」
「……そうっすね! 自分、任されてたっす!」
リーフルの頭を撫でながら、覇気を取り戻したロングが熱い瞳で宣言する。
35
お気に入りに追加
2,185
あなたにおすすめの小説

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。
KBT
ファンタジー
神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。
神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。
現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。
スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。
しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。
これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます
網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。
異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。
宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。
セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

剣しか取り柄がないという事で追放された元冒険者、辺境の村で魔物を討伐すると弟子志願者が続々訪れ剣技道場を開く
burazu
ファンタジー
剣の得意冒険者リッキーはある日剣技だけが取り柄しかないという理由でパーティーから追放される。その後誰も自分を知らない村へと移住し、気ままな生活をするつもりが村を襲う魔物を倒した事で弓の得意エルフ、槍の得意元傭兵、魔法の得意踊り子、投擲の得意演奏者と様々な者たちが押しかけ弟子入りを志願する。
そんな彼らに剣技の修行をつけながらも冒険者時代にはない充実感を得ていくリッキーだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる