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2-4 平凡の非凡
第80話 見い出す力 2
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(いくら何でもこの状況……そんな都合の良い、ラブコメの主人公でもあるまいし……)
頭の中で冷静に事を推察する。
(でも嘘を付いてるって感じもしない……むぅ……恋愛事に関してはあまりに経験値が足りないな…………ストレートに聞くしかないか)
俺の事を『運命の人』と言い張り、元気に押し掛けて来た金髪おさげ髪の商人"マリン"。
夕食を共にしながら自己紹介も済ませ、お互いに世間話をしているのだが、俺には一つ、うっすらと引っかかる事がある。
それが確認できない限りは、例え絶世の美女だろうが、どんなに好意を寄せられようが、ともすると"テキ"と認識せざるを得ない。
俺の二度目の人生において最優先する存在、"リーフル"の事だ。
「マリちゃん、一つ聞きたいんだけどいいかな?」
マリンを見据えそう告げる。
「ん~? なに~? あ! もしかしてうちの得意料理が知りたいん? せやなぁ、しいて言うならサンドイッチかな?──ってなんやそれ! パンに具挟んでるだけで、料理って言えんのかいな!」
マリンが一人でノリツッコミをかましている。
「アハハ……」
「くふふ、マリちゃんさん面白いっすね」
「こうして接してると──露店での優先権の発想とか、さっきの変貌ぶりも含めてだけど、マリちゃんは凄く賢いよね」
「もぉ~なに~? そんな褒めてもなんも出えへんよ?──そや、飴ちゃん食べる?」
誉め言葉に少し照れながら、飴玉を取り出し俺達に配ってゆく。
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます!」
「ホーホホ? (タベモノ?)」
「リーちゃんは喉詰まるから小さくしてあげような」
リーフルの事を慮り飴玉を小さく砕いてくれる。
「よかったなぁリーフル」
んぐんぐ──「ホッ……」
「ホホーホ! (ナカマ!)」
初めての飴に目を丸くして喜んでいる。
「……ヤマちゃん。あんたの言いたい事は分かってる。隠す気なんて毛頭あらへんよ」
やはり頭の回転が速いのか、マリンは自ら俺の疑念に答えると言う。
「隠し事? なんの話っすか?」
「ロンちゃん。ヤマちゃんはな、リーちゃんの事を心配してんのよ」
「リーフルちゃんっすか?」 んぐんぐ──「ホッ……」
事情が理解できないリーフルは、呑気にロングの膝の上で飴を頬張っている。
「うちは腐っても"商人"や。打算的な事も当然考えとる。でもな、それも含めてぜ~んぶ最初からヤマちゃんに言うつもりやったよ?」
「なるほど……ってことは、修行って事に嘘は無いけど、多分市場調査も兼ねてるんだよね?」
「うん!」
「?? ヤマトさん、分からないっす。どういうことっすか?」
「結論から言うと、マリちゃんはリーフルをマスコットとして"宣伝"に使いたいんだよ。多分今回マリちゃんがサウドに来た目的……」
昨日ロングから聞いた行商の修行に来たという話だが、恐らくその話に嘘は無いが真実も半分程度だと思われる。
頭の回転が速く、客によって雰囲気を変えるという技術も持ち合わせ、年齢も二十歳と成人してから五年も経過している。
商家に産まれ育ち、店の手伝いや父親の仕事ぶりを見て育っているわけで、完璧とまではいかずとも、唯の"見習い"という事は無いと見ていい。
今回の状況──単身サウドへの魚の行商を任されている事が何よりの証拠だ。
狙いはサウド支店の創設。
今回の行商は、その市場調査を兼ねてのものだろう。
俺の情報を仕入れたという事は、必然的にリーフルの事も知り得るという事。
自分で言うのも憚られるが、"平凡ヤマト"という冒険者の存在、"リーフルスペシャル"という人気の氷菓子、常に肩に乗り街中を闊歩する鮮やかな"全身緑色の姿"。
それらの要素によって、今やリーフルはサウドにおいて有名人だ。
そんなリーフルを、新たに出店する支店のイメージキャラクターとして起用出来れば、大いに客寄せの助けとなるし、馴染みあるキャラクターが看板であれば安心感も生まれる。
マリンの言う打算的要素とは、俺と結婚すれば、自然とリーフルも手に入るという事だろう。
「……って感じかな? 俺とリーフルの名前が、マリンちゃんの住むハーベイまで轟いてるって事は無いだろうから、俺の事を知ったのは本当に偶然なんだろうけどね」
「さっすがヤマちゃん! うちが思た通りの切れ者やねぇ」
「ということは、マリちゃんさんがヤマトさんと結婚したい理由って、リーフルちゃんでお金儲けをしたいからって事っすか?」
「……だとすると君には距離を置いてもらいたいかな」
少し怒気の籠る声色になってしまう。
「うっ……顔が怖いっすヤマトさん」
荒い雰囲気を纏ってしまった俺に、ロングが少したじろいでいる。
リーフルの存在がある程度知られるようになったのは致し方無い事だ。
リーフルは全身緑色で、絶対に傍を離れようともしないので、サウドにおいて冒険者として生活している以上、目立たず生きてゆくには無理がある。
幸い街の人達や仲間達は、俺達の生活を温かい目で見守ってくれているし、今の所リーフルを狙う者が現れた事も無い。
だが、こちらから積極的にリーフルを前面に押し出し、宣伝するとなると事情が変わってくる。
店の看板、商品ロゴ、口コミ等色々な要素から、リーフルの存在がこれまで以上に広範囲に拡散される事となるのは明白で、不逞の輩を引き寄せる確率も格段に高くなってしまう。
「まぁまぁ、そんな怖い顔せんと!──男前が上がってかっこええけどな、ふふ」
「……『リーちゃんをイメージキャラクターに』って言うのはあくまでもおまけや。うちは金勘定を生業としてるけど、そこまでお金に取り憑かれてるわけやない。仮に結婚して、リーちゃんとも一緒になっても、ヤマちゃんが嫌なんやったらリーちゃんの事は一切表に出さへんよ」
「そっか……『隠す気なんて無い』って言ってたし、嘘を付いてるようにも見えないから、きっと本心なんだね」
「確かに、商人さんなら自分の狙いは隠すはずっす」
「そうや、今のうちは嘘偽りなく、只々ヤマちゃんに恋する一人の乙女や」
マリンは屈託のない笑顔で、俺を真っ直ぐ見据えながら真剣そうに語る。
「むぅ……」
俺にとって仇となるかの確認が取れて一安心といったところだが、それでもスタートラインに立っただけにすぎない。
こんなにも積極的に、はっきりと好意を向けられる事もそうあるものでは無いので、対応に困ってしまう……。
「それにしてもヤマちゃんさすがやねぇ。あのホワイトベアやっけ? ヤマちゃんが思い付いたんやろ?」
「ま、まぁね……」
自分の発想では無く、説明できないことに後ろめたさを覚える。
マリンの言う"ホワイトベア"とは、今回限定品として新たに用意したかき氷の事で、練乳とフルーツを贅沢に使用した、鹿児島名物の某有名氷菓子を疑似再現した物の事だ。
「値段設定も絶妙やん? 銀貨一枚渡して買ったら、銅貨が一枚お釣りに戻ってくる。お得感を演出する、消費者の心理を突いたええ作戦や!」
「ヤマトさんすごいっす! そこまで考えて露店をやってたんすね!」
「ホーホ! (ヤマト!)」──バサッ
「いや、値段設定はたまたまで……」
「ほんま……やっぱヤマちゃんは理想の人やわぁ……さっきの『大切なもんを守る為なら容赦しない!』っていうその姿勢! かっこええわぁ……」
「くふふ、ヤマトさんはリーフルちゃん命っすからね~」
「ホホーホ~(ナカマ)」
「ロ、ロングソードの素振りがまだだった! やってくる!」
慣れないお世辞の気恥ずかしさから話を遮り、ロングソード片手に皆から距離を取り、素振り練習を始めた。
頭の中で冷静に事を推察する。
(でも嘘を付いてるって感じもしない……むぅ……恋愛事に関してはあまりに経験値が足りないな…………ストレートに聞くしかないか)
俺の事を『運命の人』と言い張り、元気に押し掛けて来た金髪おさげ髪の商人"マリン"。
夕食を共にしながら自己紹介も済ませ、お互いに世間話をしているのだが、俺には一つ、うっすらと引っかかる事がある。
それが確認できない限りは、例え絶世の美女だろうが、どんなに好意を寄せられようが、ともすると"テキ"と認識せざるを得ない。
俺の二度目の人生において最優先する存在、"リーフル"の事だ。
「マリちゃん、一つ聞きたいんだけどいいかな?」
マリンを見据えそう告げる。
「ん~? なに~? あ! もしかしてうちの得意料理が知りたいん? せやなぁ、しいて言うならサンドイッチかな?──ってなんやそれ! パンに具挟んでるだけで、料理って言えんのかいな!」
マリンが一人でノリツッコミをかましている。
「アハハ……」
「くふふ、マリちゃんさん面白いっすね」
「こうして接してると──露店での優先権の発想とか、さっきの変貌ぶりも含めてだけど、マリちゃんは凄く賢いよね」
「もぉ~なに~? そんな褒めてもなんも出えへんよ?──そや、飴ちゃん食べる?」
誉め言葉に少し照れながら、飴玉を取り出し俺達に配ってゆく。
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます!」
「ホーホホ? (タベモノ?)」
「リーちゃんは喉詰まるから小さくしてあげような」
リーフルの事を慮り飴玉を小さく砕いてくれる。
「よかったなぁリーフル」
んぐんぐ──「ホッ……」
「ホホーホ! (ナカマ!)」
初めての飴に目を丸くして喜んでいる。
「……ヤマちゃん。あんたの言いたい事は分かってる。隠す気なんて毛頭あらへんよ」
やはり頭の回転が速いのか、マリンは自ら俺の疑念に答えると言う。
「隠し事? なんの話っすか?」
「ロンちゃん。ヤマちゃんはな、リーちゃんの事を心配してんのよ」
「リーフルちゃんっすか?」 んぐんぐ──「ホッ……」
事情が理解できないリーフルは、呑気にロングの膝の上で飴を頬張っている。
「うちは腐っても"商人"や。打算的な事も当然考えとる。でもな、それも含めてぜ~んぶ最初からヤマちゃんに言うつもりやったよ?」
「なるほど……ってことは、修行って事に嘘は無いけど、多分市場調査も兼ねてるんだよね?」
「うん!」
「?? ヤマトさん、分からないっす。どういうことっすか?」
「結論から言うと、マリちゃんはリーフルをマスコットとして"宣伝"に使いたいんだよ。多分今回マリちゃんがサウドに来た目的……」
昨日ロングから聞いた行商の修行に来たという話だが、恐らくその話に嘘は無いが真実も半分程度だと思われる。
頭の回転が速く、客によって雰囲気を変えるという技術も持ち合わせ、年齢も二十歳と成人してから五年も経過している。
商家に産まれ育ち、店の手伝いや父親の仕事ぶりを見て育っているわけで、完璧とまではいかずとも、唯の"見習い"という事は無いと見ていい。
今回の状況──単身サウドへの魚の行商を任されている事が何よりの証拠だ。
狙いはサウド支店の創設。
今回の行商は、その市場調査を兼ねてのものだろう。
俺の情報を仕入れたという事は、必然的にリーフルの事も知り得るという事。
自分で言うのも憚られるが、"平凡ヤマト"という冒険者の存在、"リーフルスペシャル"という人気の氷菓子、常に肩に乗り街中を闊歩する鮮やかな"全身緑色の姿"。
それらの要素によって、今やリーフルはサウドにおいて有名人だ。
そんなリーフルを、新たに出店する支店のイメージキャラクターとして起用出来れば、大いに客寄せの助けとなるし、馴染みあるキャラクターが看板であれば安心感も生まれる。
マリンの言う打算的要素とは、俺と結婚すれば、自然とリーフルも手に入るという事だろう。
「……って感じかな? 俺とリーフルの名前が、マリンちゃんの住むハーベイまで轟いてるって事は無いだろうから、俺の事を知ったのは本当に偶然なんだろうけどね」
「さっすがヤマちゃん! うちが思た通りの切れ者やねぇ」
「ということは、マリちゃんさんがヤマトさんと結婚したい理由って、リーフルちゃんでお金儲けをしたいからって事っすか?」
「……だとすると君には距離を置いてもらいたいかな」
少し怒気の籠る声色になってしまう。
「うっ……顔が怖いっすヤマトさん」
荒い雰囲気を纏ってしまった俺に、ロングが少したじろいでいる。
リーフルの存在がある程度知られるようになったのは致し方無い事だ。
リーフルは全身緑色で、絶対に傍を離れようともしないので、サウドにおいて冒険者として生活している以上、目立たず生きてゆくには無理がある。
幸い街の人達や仲間達は、俺達の生活を温かい目で見守ってくれているし、今の所リーフルを狙う者が現れた事も無い。
だが、こちらから積極的にリーフルを前面に押し出し、宣伝するとなると事情が変わってくる。
店の看板、商品ロゴ、口コミ等色々な要素から、リーフルの存在がこれまで以上に広範囲に拡散される事となるのは明白で、不逞の輩を引き寄せる確率も格段に高くなってしまう。
「まぁまぁ、そんな怖い顔せんと!──男前が上がってかっこええけどな、ふふ」
「……『リーちゃんをイメージキャラクターに』って言うのはあくまでもおまけや。うちは金勘定を生業としてるけど、そこまでお金に取り憑かれてるわけやない。仮に結婚して、リーちゃんとも一緒になっても、ヤマちゃんが嫌なんやったらリーちゃんの事は一切表に出さへんよ」
「そっか……『隠す気なんて無い』って言ってたし、嘘を付いてるようにも見えないから、きっと本心なんだね」
「確かに、商人さんなら自分の狙いは隠すはずっす」
「そうや、今のうちは嘘偽りなく、只々ヤマちゃんに恋する一人の乙女や」
マリンは屈託のない笑顔で、俺を真っ直ぐ見据えながら真剣そうに語る。
「むぅ……」
俺にとって仇となるかの確認が取れて一安心といったところだが、それでもスタートラインに立っただけにすぎない。
こんなにも積極的に、はっきりと好意を向けられる事もそうあるものでは無いので、対応に困ってしまう……。
「それにしてもヤマちゃんさすがやねぇ。あのホワイトベアやっけ? ヤマちゃんが思い付いたんやろ?」
「ま、まぁね……」
自分の発想では無く、説明できないことに後ろめたさを覚える。
マリンの言う"ホワイトベア"とは、今回限定品として新たに用意したかき氷の事で、練乳とフルーツを贅沢に使用した、鹿児島名物の某有名氷菓子を疑似再現した物の事だ。
「値段設定も絶妙やん? 銀貨一枚渡して買ったら、銅貨が一枚お釣りに戻ってくる。お得感を演出する、消費者の心理を突いたええ作戦や!」
「ヤマトさんすごいっす! そこまで考えて露店をやってたんすね!」
「ホーホ! (ヤマト!)」──バサッ
「いや、値段設定はたまたまで……」
「ほんま……やっぱヤマちゃんは理想の人やわぁ……さっきの『大切なもんを守る為なら容赦しない!』っていうその姿勢! かっこええわぁ……」
「くふふ、ヤマトさんはリーフルちゃん命っすからね~」
「ホホーホ~(ナカマ)」
「ロ、ロングソードの素振りがまだだった! やってくる!」
慣れないお世辞の気恥ずかしさから話を遮り、ロングソード片手に皆から距離を取り、素振り練習を始めた。
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