平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
上 下
92 / 181
2-4 平凡の非凡

第79話 運命?の出会い

しおりを挟む
 訓練三日目の昼食時を過ぎた頃。
 ある魔物と遭遇し、かれこれ一時間以上駆け引きが続いている。
 
 俺の脇をその小さな身体を活かし、巧妙にすり抜けてゆく。

「このっ──」
 ロングソードを水平に薙ぎ払うように振るうが捉え切れない。

「ちっ──ロング! 一匹抜けてった!」
 声を張り上げ後ろに控えるロングに注意を促す。

「む! ちょろちょろとすばしっこい!」
 ハンマーが空を切る。

 ロングを取り囲む"ケイプスクワール"がその鋭い前歯を誇示するかのように前に突き出し、距離を測りながら威嚇の態勢を取っている。

 俺に背を向けているロング目掛け、脇を抜けたケイプスクワールが飛び掛かる。

「チュー!!──」

「ふんんっ!!」
 ロングがハンマーを自らの体ごと駒のように一回転させる。

 ──空中でハンマーの直撃を受けたケイプスクワールが吹き飛ぶ。

「上手いぞロング!──」
 幾度か攻撃が掠り手負いの状態の、目の前の一匹にロングソードのの部分で殴り掛かる。

「──チュブッ……」
 
「残り三匹!──」
 ロングの元へ駆け寄る。


『タベモノ、アソビ、アソビ』
 念が伝わってくる。

(こいつらリスなのに人間も食べるのか……? 気味の悪い顔付きもそうだけど、全然可愛くないな──)
 駆け寄る勢いそのままにロングソードで殴りかかる。

「──! チュ~。チュチュチュ」
 難なく攻撃を避け、まるでこちらを嘲笑うかのように軽快な声を発している。


「むぅ……こいつら性格悪いっす」

「だよね──」
 ケイプスクワールが俺の足に噛み付こうと飛び込んできた。

「──ちっ!」
 咄嗟に足を引き嚙みつきを回避する。
 
「──! せいっ!!──」
 ロングが隙を逃さず真上からハンマーを叩きつける。

「──ブビッ……」
 正確に振り下ろされたハンマーが見事に一匹を仕留めた。

(すばしっこい……追いかけまわすのも効率が悪い……)
 確実性を上げるために考えを巡らせるが、現状の俺達の技量では、素早い身のこなしのケイプスクワールを正面切って捉える事は困難だ。
 一つ分かっているのは、これまでの戦闘を鑑みると、意図せぬ相手の隙が決定打となっている事か。

「……よし、ロング……」
 思い付いた策をロングに伝える。

「了解っす!」

 各々が一匹ずつケイプスクワールに牽制をかけ、自分に注意が向くよう誘導してゆく。
 
「ふんっ!──」

「このっ!──」
 攻防が続くが、やはり決定的な一撃を入れることは叶わない。


 徐々に包囲を狭められ、ロングと背中合わせに挟み撃ちにされる。

「チュチュチュ!」

「チューッ!」
 自らが有利な状況だと悟り、笑い声を上げながら同時に飛び掛かってきた。

「今だ!!──」

「──っす!!」
 同時に回避行動に移る。

「「チュブッ!!」」
 突如攻撃対象を失った二匹のケイプスクワールが空中で衝突する。

「「せいっ!!」」
 二人同時にとどめの一撃を繰り出す。


 策がはまり、何とかケイプスクワール達を撃退することが出来た。

「ふぅ……『骨折り損のくたびれ儲け』とはまさにこの事だなぁ」

「そうっすね~……せめて毛皮くらい取れればいいんすけどね……」

「ホホーホ……(ナカマ)」
 リーフルが俺達の前に降り立ち慰めてくれている。

「ありがとなリーフル」

「リーフルちゃん優しいっす!」

 ケイプスクワールは肉が不味く、毛皮も加工する価値の無い程に酷く汚れ荒い毛並みで、討伐しようと一銭にもならない、相手をするだけ損をする事で有名な魔物だ。
 "エゾリス"を一メートル程の体躯に巨大化し、口内に収まりきらない大きな幅の広い鋭い前歯と、長く尖った耳が特徴的な姿形をしており、俺の知る可愛らしいエゾリスとは似て非なる醜悪な顔付きをした容姿をしている。
 こちらを馬鹿にしたようなあの態度や、他者の食べ物を盗む事を好む習性から、性根の悪さが外見に出ている典型例といったところだろうか。

「それにしてもヤマトさん。らしくないっすね? その剣」

「あぁ~……俺にもよくわからないんだ。この戦闘に入る前に抜刀して気づいたんだけどね」

「へぇ~。自分も興味あるっすから、今晩"観察"してみましょうよ!」

「そうだね……」
 


 休憩所へと戻ったロングは緊張の糸が解けたのかリーフルと共に眠ってしまった。
 この時間帯であれば休憩所を利用する冒険者も多く、二人きりになる事もそうそうないので、ロングとリーフルを寝かせたまま、俺は計画のルーティンであるかき氷の販売をしている。

『お~っす。今日も買いに来たぜ』 『仕事終わりの一杯! ってか~。癖づくと財布がやべえけど……』
『早く私にもちょうだい!』

「す、すみません!」──ボワン
 この三日の間に好評を得たのは幸運だが、帰還するほぼ全員が購入してくれるもので、俺一人では対応に追いつかない状況へとなってしまっていた。

「銅貨一枚のお返しです。ありがとうございました~」
 
「──おいおい、俺が先に並んでただろうが!」

「なんだとぉ~? 俺は今日ローウルフ五匹の男だぞ! 疲れてんだよ!」

「関係ねえだろそんなこと!」

「すみません! すぐ用意しま──」

「──あぁもう! 見てられへんわ!──はいはい~! うちに注目やで~!」
 突如露店の前に群がる冒険者達の後ろから、一人の女性の声が響き渡り場が静まり返る。

「こほん、ええかな? みんな急く気持ちも分かるけど、店番はお兄さん一人だけや。それはわかるやろ? それでも急ぎたいって言うんなら!……銅貨一枚でどうやろ?」

「な、なんだあんた……銅貨一枚って何のことだよ」
 面食らった様子の一人の冒険者が控えめに尋ねる。

「"優先権"や。他人よりはよ買いたいって人は代金に銅貨一枚上乗せするんや。お金が惜しいって人は黙って待ってればいい。これならみんな納得出来るんちゃう?」

「……」
 お客さん共々俺達は思案を巡らせる。

「──な、なぁ、どうだお前ら。俺は銅貨一枚余計に払ってでも早く買って街に帰りたいけどよ」

「わ、わたしは待つわ。そもそも商品自体が銅貨九枚もするし……」
 少女とも成年とも判断が付かない見た目の女性の提案を皮切りに、冒険者達は優先権を購入する者とそうで無い者とに自然と整列してゆく。

(確かに納得の提案で助かった……? けど、この言葉遣い……)

「ありがとう……そ、それでは優先権を行使される方は銀貨一枚となります!」
 その後目立った混乱も無く、この日の営業は終了した。



 休憩所へと戻った俺達は、未だ熟睡中のロングとリーフルを脇目に、先程助け舟を出してくれた人物と焚火を囲んでいた。

「いやぁ、助かったよ。君、頭いいね」
 
「ふふん。うち、商売の事なら結構頭回んねん。ゆくゆくはお父さんの商いも継ぎたいし」
 得意げに腕組みをしながらそう語る。

 背は小柄で、肩の長さ程の髪を二股に結い分けた金色のおさげ髪に、少女とも成年ともつかない顔付き。
 そして何といっても特徴的なのはその"関西弁"。
 当然この世界には"関西地域"など存在しないはずなので、俺の加護を通して翻訳される方言が、関西弁に聞こえるといったところだろうか。
 
「あぁ、商人さんなんだ。だったら鼻が利くのも納得だね」

「それだけじゃないねんで! うち、結構可愛い見た目してるやろ? それに料理もできんで?」
 
(確かに可愛らしい見た目はしてるけど、何の話だ……?)

「う、うん。どうしたの急に」

「サウドへ来た目的の一つや。見つけたで~!」
 一人納得した様子で喜んでいる。

「?」

「うち、あんたと結婚する!!」

「……はいぃぃっ?!」
しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...