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2-1 第二の故郷

第55話 宴席

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「皆よく頑張った。誰一人の犠牲者も出す事なく、ラフボアの猛進も退け、再び平穏は訪れた。これも自然のお導き、精霊様に感謝の祈りを──」
 そう長が告げると、エルフ族達は目つむり手を前に組み祈りを捧げだした。
 俺もそれに倣い同じポーズをとる。

(精霊様って"ウンディーネ"様の事かな)
 俺もコナーさんの件で実際にお会いしてはいるが、あの大らかな性格を思い出すと、祈りを捧げる事に対してあまりピンと来ないのは不敬なことなんだろうか。
 
「ホーホホ(タベモノ)」

「そうだなぁ、いっぱいあるもんなぁ」

『守護者様が御言葉を……』 『ヒソヒソ……』
 俺が気を失った後の顛末としては、エルフ族達は洞窟から無事被災者を救い出し、ラフボアの群れもなんとか撃退できたようで、諸々を祝して大木に囲まれた地上中央にある広場にて宴席が設けられることになった。
 広げられたテーブルの上の皿には様々な料理──ではなく色とりどりのキノコだけが乗っており、どうやらエルフ族達は本当にキノコしか食べないようだ。
 今朝方ラインが用意してくれた食事は、話に夢中で食べ損ねていたので、どういう味がするのかとても興味が湧いて来た。

(なんだか体が軽いな)
 自分の精神状態を鑑みれば、食べ物に関して興味が出てきたというのは良い兆候ではないかと思う。
 やはりリーフルと一緒に居てよかった、あの一言で俺は救われたのだ。

「──皆既に承知の事とは思うが……守護者様、ヤマト殿、こちらへ」
 長が隣に来るよう促す。

「改めて紹介する、かの神話に伝わりし森の守護者様とその相棒、冒険者のヤマト殿だ」

「ど、どうも冒険者のヤマトです。こっちが相棒のリーフルです」 「ホ」

「皆、しかと目にしたな! この人族──ヤマト殿の、自分の体調も顧みず必死に救助に尽力する様を。さらに言うならば──非常に口惜しい……私は目にしていないが、どうやら守護者様がその御身から魔法を発せられて、ヤマト殿を落石から守ったとも聞いている」

(目撃証言があるって事は……やっぱりあれはリーフルの力──魔法だったんだ)

「我々エルフ族は精霊の末裔と言われ自然を尊重し、愛し、共生する事を信条としている。しかし同時に獣人族や人族と同じ"人間"である。であれば受けた恩は返さねばならない、それが人の世に生きるという事。今宵は守護者様に失礼の無いよう十分配慮し、ヤマト殿をもてなそうではないか!」
 挨拶も終わり、やっとこの衆目にさらされた状況から抜け出せると思っていると、先程の長の話もどこへやら、村人達がリーフルに詰め寄って来た。

『あ、あの! 守護者様は何がお好きなんですか!?』 『やっぱり神話の通り読み書きも出来るんですか?』 『どうか息子の頭に乗っていただけませんか!』
 やはり小さい頃から神話を聞いて育ったというのは、とても印象深いらしく、待ってましたと言わんばかりに質問が飛び交う。

「ホーホホ(タベモノ)バサッ──」

「──ス……つんつん」
 当のリーフルは我関せずといった様子でテーブルの料理の方へ飛んで行ってしまった。

『守護者様!』 『守護者様お待ちを!』
 俺を取り囲んでいたエルフ族達はリーフルの後を追いテーブルの方へと向かった。

「──すまないな、皆リーフル様の御利益を賜りたいと躍起になっているようだ」
 やれやれと言った感じのラインがやってきた。

「いえいえ、敵意が無いことは本人リーフルも分かってますから」

「しかし驚いたぞ。自分では"下位"などと言っていたが、ラフボアを仕留めたあの一閃、見事だった」

「いやぁ……正直自分でもよく分からないんです、お話した通り俺は今まで短剣しか使ってきませんでした。お借りしたロングソードでの実戦は初めてだったんですが……」
 
「そうなのか?……いや、でも確かに。といった感じは見て取れなかったな。という事はお前自身今まで気が付いていなかっただけで、剣の才能があったんじゃないか?」

「う~ん……どうでしょうか」
 『才能があった』なんてことは、無いと断言できる。
 師匠ビンスに面倒を見てもらっていた時に、武器の種類はあらかた試し終えている。
 その結果筋力もそうだが、戦闘のセンスもあまり無いというのは師匠から言われた事だ。
 だから今回ロングソードで立ち向かえたのは、やはり加護のパワーアップによって俺の筋力が増強された結果だと思う。
 良い機会だし、弓は無事だが短剣は無くしてしまったので、街に帰ったらロングソードを考慮してもいいかもしれない。
 
「……恩に着る。無事妹を救い出せたのは偏にお前の提案、尽力のおかげだ。感謝するぞ、ヤマト」

「俺も命を救っていただきましたし、お互い様ですかね」

「お前とリーフル様は俺達兄妹の大恩人だ。何かお返しをしないといけないな」

「……あ、そうだった。でしたら、街への道も分からないし、証言もしてくださるという話でしたので、それをお願いします」
 "冒険者"としては金銭を要求する場面なのだろうが、そもそもがラインは命の恩人で、救助に参加したのも自分のエゴだ。
 何かお返しをしなければならないのはこちらの方だと、内心では思うところだが、つらつらと気の重くなる事を話してもしょうがないのでそう提案しておく。

「うむ、任せておけ。お前の活躍ぶりも、しかとギルドへと報告しよう!」

「助かります」

「──見てよあれ。まぁでも気持ちは分かるわ。私はリーフル様と一対一で触れ合えたもの、だから落ち着いていられるだけね」
 そう言いながらどこか得意げなアメリアが、リーフルを取り囲む村人達を指差しながらやってきた。

「リーフルはサウドでも人気者なんだ。俺が冒険者として依頼を円滑に運べるのも、半分ぐらいリーフルのおかげかも」

「アメリア、ちゃんと礼は言ったのか? リーフル様に失礼は?」

「もちろんよ! まったく──私ももう四歳だって言うのに、いつまでも子供扱いして……」

(見目麗しい絶世の美女が『私は四歳』……相変わらず年齢の話になると違和感がすごいな……)

「いや!──俺はお前の事を心配してだな……」
 まるで我が子を心配する父親のような表情でラインが話す。
 多分固有魔法ウッドオペレーションの件もあるのだろう。
 兄からすれば、妹が不自由の無いようにと、普段から気にかけているという事は、救助の際の態度からも、今の表情からも明白だ。

「兄さんっていつもこうなのよ? いいかげん妹離れもしなきゃ、自分のお嫁さんも見つからないわよ」

「お、俺はお前さえ幸せならそれで……」

「はは──仲良いね」
 
 リーフルは村の皆に囲まれているが気にせずキノコをついばんでいる。
 "森の守護者"がどういった者か、聞いた神話には纏まりが無く、何かしら使命でもあるのかさえ分からない。
 だが例えどんな事があろうと、この先も俺はリーフルを優先するんだろうと、目の前の仲の良い兄妹の様子に、自分とリーフルの姿が重なって見えた。
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