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2-1 第二の故郷

第52話 唯一の権能

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 エルフ族の長と面会し話をしていた矢先、土砂崩れが起こったとの急報で事態は逼迫。
 俺が行使できる唯一の能力、"アイテムBOX"であれば土砂を取り除くのに効率的だと思い、事故現場へと急いだ。


「いたたっ……早足程度でも少し響くな……」 「ホホーホ……(ナカマ)」
 村中のエルフ族が事故現場へと目掛け人の流れが出来ているので、聞かずとも場所は分かるが、負っている傷のせいで駆けることが出来ず、もどかしい思いを引きずりながら目的地へと歩を進める。

『守護者様だ……』 『あの緑色、噂の守護者様だって……』 『凛々しいお姿だわ……』

 同じく救助へと向かっているエルフ族達が、俺を追い越しざまにひそひそと話す声が聞こえてくる。
 ラインの言っていた事は本当で、皆一様に"守護者の神話"の事を知っているようだ。



 遅い歩みでなんとか現場へと到着すると、既にエルフ族が一丸となって土砂の撤去作業が始まっていた。
 不思議なことに、街ではよく見かける土木現場等で使われる"シャベル"等の道具を誰も持っておらず、皆手作業で石や砂を掻き出している。
 そこには小高い小さめの規模の山があり、こちら側から見える山肌はむき出しで木が植わっておらず、日本の山道でよく見る防止柵等も無く、確かに崩れやすい条件が揃っているのが見てとれる。
 自然のなすがままに洞窟を活用していたのだろう、仕方のないことだが、多少の現代日本の知識がある俺からすると、何とも歯がゆい思いに駆られる。
 洞窟の入り口と思しき周辺を集中的に撤去作業が進められているが、多分このままではダメだと思われる。
 またいつ崩れるとも分からない状況で下の部分を取り除いていけば、積み木の下をいきなり引き抜くように、上物がバランスを崩し襲い掛かってくるだろう。

「気をつけろよー!! まだ崩れてくるかもしれない、周りに取り付く人数は最小限にするんだ!」

「アメリア!──聞こえるかアメリア! 今出してやるからな!」
 妹の名前だろうか、ラインが必死に声掛けしている様子を発見した。
 陣頭指揮を執っていると思われるラインに、俺は考えを伝えるべく急ぐ。

「ラインさん、お話が」

「!──ヤマト、なんでお前がここに」

「話は後程、それよりも俺の考えをお伝えします……」
 俺は思いつく限りの対策をラインに伝える。

「なるほど確かに。では、木材を用いて上物の崩落を食い止める土台となる簡易的な壁を作ればいいのだな」

「はい、このまま撤去作業を続ければ、さらに被害は拡大すると思います。土砂を取り除く周辺に土台を固定出来れば、後は離れた位置から俺がアイテムBOXで収納していって、安全かつ迅速に撤去出来るはずです」

「……よし、皆聞いていたな! 周辺の木材の確保、並びに運搬作業に移る!」

「ありがとうございます。俺も手伝います」

「礼を言うのは俺の方だ、だがお前は休んでいてくれ、体に障る。後でな」
 ラインが他のエルフ族を伴いながら村へと向かった。

(運搬だって俺のアイテムBOXなら……)
 


「離れてろよ──ウインドカッター!」

「スパッ──ズズズ……ドシンッ!」
 ウインドカッター風の刃の魔法が使えるエルフ族が木を伐採し、使えない者は固有魔法ウッドオペレーションで、後に組みやすいように穴や溝等を施した"木材"へと加工している様子が窺がえる。

「お疲れ様です。俺が運びますので」 「ホ」
 
「これは守護者様!──っと、お前は相棒の人族だったな。運ぶと言ってもどうやって……」

「ボワン──スー……」
 傷のせいで駆けることのできない俺だが、人力よりは早く運搬できると思い、木を伐採しているエルフ族に声を掛けつつ木材を収納していく。

「お前のユニーク魔法なのか!──すごいな、助かる」
 俺は他のエルフ族の元へと急ぐ。


「お疲れ様です。運びます」
 エルフ族が木材を作り出し、俺が収納し事故現場へと運び込む、それを何度も繰り返す。
 

「──つつっ……張り切りすぎたかな」
 傷口が開いてしまったのか、患部を覆っている葉の隙間から血が滲んでいる。
 だが急がなければならない、洞窟内の空気がいつまで持つかわからない以上、俺が限界まで時間を稼がないと、助かるものも助からなくなる。

「ボワン──ドサッドサッ」

「フゥー……いたたっ……」

「ホホーホ……(ナカマ)」

(他のエルフ族も運んでくれてる、材料はこれぐらいで足りるか)
 何度伐採現場から事故現場へと往復したのか、さすがに無理がたたりその場にへたり込んでしまう。
 するとその様子を目撃したラインが駆け寄ってきた。

「お前──! ヤマト! 血が出ているじゃないか……休んでいろと言ったろう、何故そこまでして……」

「大したことはありません、それにラインさんには大恩がありますから」
 そう言って作り笑いを浮かべるが、本心は別の所にある……。
 もちろん恩義に報いたい思いがあるのは嘘ではない。
 だが奴を──本当の所は、ダムソンを殺してしまった事実や守護者の神話の事からの逃避の為に、何かに没頭したかっただけのような気がする。

「あまり無理はするな。壁が完成するまでは休んで居てくれ、ほら──スス」
 ラインが街では見かけない色の薬瓶を俺に差し出してくれる。

「これは?」

「我々エルフ族の秘薬だ、万能なわけでは無いが、普通のポーションよりは治癒効果は高い。それを飲んで身体を休めていろ、お前にがあったら、リーフル様はどうする?」

「!」
 
(そうだ……俺にはリーフルの生活もかかっているんだ)

「……失念してました──ありがとうございます」

「では後程頼む、どうか妹を救ってくれ」
 そう言い残しラインは簡易的な防護壁の建築へと向かった。



「すぅ……すぅ……」

「ヤマト、すまない、そろそろお前の出番だ」

「あ……わかりました、任せてください」
 どうやら眠ってしまっていたようだ。
 ラインに起こされ山肌へと目を向けると、洞窟があると思われる周辺を中心に防護壁の建築は既に終わっており、後は入り口を塞ぐ土砂の撤去を待つばかりというところまで事は進んでいた。

(よし、距離は取りつつ……)

「ボワン──ブーン……」
 様子を見ながら慎重に土砂を収納していく。
 防護壁が功を奏したのか、新たに山が崩れてくる気配はない。

『おぉ……』 『さすが守護者様の相棒、あいつも神の御使いなのか?』 『あいつ、木材運ぶ時も頑張ってくれてたよな』
 森の守護者の神話の事も、自分の体調の事も重なり、称賛の声が聞こえるがあまり素直に喜ぶ気にはなれない。


 収納作業は順調に進み、いよいよ入り口の一部が露になったその時、後方から鬼気迫る叫び声が聞こえてきた。

「大変だー!! "ラフボア"の群れだ!──こっちに向かってきてるぞ!!」
 迫り来る危機を伝えるべく、エルフ族の男性が大声を張り上げ駆け込んできた。
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