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2-1 第二の故郷
第51話 自然の脅威
しおりを挟む「初めまして、ヤマトと申します。こっちは相棒のリーフルです……失礼ですが、随分お若いんですね」
一見するとラインと同じく絶世の美男子といった整った顔立ちに、金色と銀色の中間といった輝く髪をポニーテールに束ねた髪型の、かなり若々しい外見をしている。
長という立場に居るという話だったので、相応に年季の入った容姿を想像していたが、なんならラインよりも若く見える。
しかし漂う雰囲気は威厳がしっかりと感じられ、ラインも少々改まっている様子だ。
「あぁ、知らないのであれば当然の反応だな。我々は精霊の末裔故に、肉体的に老いる事は無い。若い見た目のまま寿命が来れば死んでゆく」
「それはなんとも羨ましいですね」
「若く見えるだろうが実際にはもう三十数歳になる」
「長はこのドグ村の中で一番の御高齢だ」
「さ、三十歳で御高齢?? えっと……」
老いることが無いという話も衝撃だが、年齢も何か違和感を感じ、少し混乱してしまう。
「む? ライン、説明は?」
「そういえば暦については未だ……」
「そうか、なら驚くのも無理はない。人族のヤマト殿よ、貴殿らの一日は朝陽が昇り起床し、陽が沈むと就寝する。それを一区切りとし、一日としているな?」
「そうです」
「暦の数え方に違いがあるのだよ。我々エルフ族の一日とは、その区切りを人族の十日分なのだ。貴殿らの数え方で言うならば、私は三百数十歳ということになるな」
「なるほど、長寿と噂のエルフ族特有の時間の捉え方なんですね。ちなみにラインさんはおいくつなんですか?」
「俺は七歳──七十歳になる」
(俺は七歳……)
至って真面目な会話なのだが、絶世の美男子がそう言っていると思うと、なんだか可笑しく聞こえる。
「ラインよ、どうやらお告げは本当だったようだ……」
「ええ。長のおっしゃる通りの状況でしたので、精霊様のお導きで間違いは無いかと」
「? お告げとはなんでしょうか?」
「私には時々精霊様の神託が降りてくる事があってな。守護者様の顕現、並びに行動を共にする者の身の危険、ある日それらがお告げとして頭の中にイメージとして浮かんだのだ。それがいつ、どこで等、具体的な事は分からなかったが、守護者様とヤマト殿、貴殿らの事であるのは間違いないだろう」
「長から村を出る際にはその事を注意するよう言われていた俺は、ここ最近はそれを念頭に置いて行動していた。で、実際にそのような状況に出くわし、ここへお前を背負って来たと言う訳だ」
「精霊様のお告げですか……」
俺が知る唯一の精霊様とは"ウンディーネ"様。
もしかしてウンディーネ様は、俺とリーフルの危機を予知し、助かるように導いてくれたのかもしれない。
「それにしてもなんと神々しい翠色か……神話の通り英明な御顔つきもされて……」
エルフ族の長がリーフルを尊敬の眼差しで見据えながらそう呟く。
「ホ?」
「そういえば、その神話とはどういった内容なんでしょうか?」
「内容は……と言っても、てんでバラバラ。『森を大災害が襲った際、動物達を導き多くの命を救った』とか。或いは『守護者様のその癒しの波動──御力の庇護の下、森の安寧を築いた』とか。はたまた『邪悪な魔物をその鋭き爪で屠り、英雄と称えられた』など要約すると、色々な内容の話があってな。実際の所、どれが正解も、正史も無いのだよ」
「……確かに纏まりの無い感じですね」
「だが実際に今、私の目の前で守護者様はそのお姿を披露されている。"伝説のフクロウ"の存在自体は本当だった事の証明だ」
「ラインさんも神話をご存知なんですよね?」
「あぁ。我々エルフ族は皆子供の頃にその話を枕に育つからな」
「ホーホホ(タベモノ)」
話に飽きたのか──久しぶりの俺からのご飯という事もあるだろうが、リーフルが要求してくる。
「さっき途中だったもんな──スス」
「んぐんぐ──ホッ……」
上等な赤身をもらい、満足そうに余韻に浸っている。
「しかし、ヤマト殿がこの村に運び込まれた時に報告のあった、『大層懐かれている様子だ』というのは本当なのだな」
「自慢の相棒です」 「ホ」
『ドタドタドタッッ!』 『人手だ! 集めろ!』 『長を! 長を呼べ……』
話もそこそこに、何やら外が騒がしい様子が聞こえてくる。
「バタン!! ザッ──」
「──し、失礼します! ほ、崩落です、入り口が塞がれてしまいました!!」
酷く慌てた様子の男性が扉を勢いよく開け放ち、長の前に駆け込んできた。
「なに!? 最近は雨も無かったというのに……長、失礼します。私は先に救助に向かいます」
「うむ。気張るなよ、救助する側も被害に遭う事の無きよう」
「はっ! すまんがヤマト、詳しいことは長に聞いてくれ。お前も一緒に行くぞ、では!──」
そう告げるとラインは報告に来た男性と共に、脱兎のごとく家を飛び出して行った。
「あの、崩落って……」
ただ事では無いことは雰囲気と単語から推し量れるが、どういうことなのか、長に説明を求めた。
「この村の特産品が"マジックエノキ"だというのは聞いているかな?」
「ええ、ラインさんが街へ卸していると、そこで俺を助けてくれたと聞いています」
「そのマジックエノキを栽培している洞窟があってな、崩落とは言葉通り土砂崩れが起こったようだな」
「それは……!」
「今日は確かラインの妹も作業に当たっていたはず。兄として心配なのは当然だろう」
「中に救助を待つ人が取り残されているんですね」
「これも自然のお導き、受け入れるしかあるまい。もちろん救助には全力を尽くすがな」
(土砂崩れで入り口が塞がれた状況……)
俺のアイテムBOXなら土砂を取り除くのは容易なはず。
洞窟内の酸素も刻々と減りつつある今、迷っている暇は無い。
現場を確認しなければ何とも言えないが、ここで傍観しているよりは、少しでも何かの助けになるよう動くべきだ。
「長、俺も行きます。俺のユニーク魔法は、先程リーフルのご飯を取り出したように、逆に収納する事も出来るんです」
「そうか!──いや、嬉しい申し出だが、ヤマト殿は大層な怪我を負っていると聞いている。二次被害になる可能性があるなら容認する事は出来んな」
「大丈夫です。お陰様で出血もしていませんし、激しく動く事もありません──ボワン」
俺はその場を動く事無く、異空間を操作してみせる。
「なるほど……そういった魔法なのであれば、安全な場所から協力を頼んでも大丈夫か……」
「はい。助けて頂いた御恩返しもまだですし、俺は行きます」
「……であればわかった、よろしくお願いする。そうだ、念の為にこれを──カチャ」
そう言って長が壁に立てかけてあったロングソードを俺に差し出す。
「見たところヤマト殿は武器を携帯していないようだ、これを貸そう。この辺りは森と同じ魔物も出る故、丸腰では危険だ。くれぐれも用心してくれ」
「ありがとうございます、お借りします──リーフル、行こうか」
「ホホーホ(ナカマ)」
長からロングソードを借り受け、崩落現場の洞窟へと急ぎ家を後にした。
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