平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
上 下
45 / 181
1-7 想う心

第40話 緑縁

しおりを挟む
 はぐれのローウルフの群れだったのだろう、ここで出くわすとは驚いた。
 ローウルフの主な生息域は、サウドの街を北東から西まで半円状に取り囲むが中心のはずだが、この街道付近まで移動してくる事もあるとは。ギルドに報告を上げておいた方が良いだろう。
 
(林にはローウルフ……でも他に手がかりも無し)
 
「──!……ホ(イク)──バサッ」
 ハプニングで半ば強引に林から追い出されたので、次はどう捜索に向かおうと考えていると、リーフルが突然林の方へ飛んで行ってしまった。

「リーフル!」
 リーフルと一緒に過ごすようになって以降、俺の元から勝手に飛び去ってしまうなんて初めての事だ。

「ダダッ──」
 はぐれるわけには行かないので、すぐさま俺も後を追う。

(林の中にはまだローウルフが居る可能性があるけど……リーフルの方が大事だ!)

「スッ……ホ(イク)」
 見失ってしまうかと心配したが、リーフルは俺を見失わない程度の距離の木に止まり、また『イク』と言っている。

(どういうことだ……)
 
「リーフル! 待ってくれ!」

「バサッ──」
 俺が近づくとまた飛び上がり、林の中を進んで行く。
 
(──! もしかして……どこかへ導いているのか?)

「スッ──ホ(イク)」 
 後を追い林の中を進んで行くが、やはりリーフルは俺を見失う程離れようとはせず道案内でもするかのように進んで行く。

(やっぱりそうなんだな。わかった、付いて行くよ)

「ホ(イク)」

◇ 

 結局ローウルフと遭遇することも無く、リーフルと追いかけっこを始めて二十分程経った頃、とうとう林の反対側まで来てしまった。
 林を抜けるとそこには小さな池があった。
 木もまばらで視界は開けており、陽の光が十分に降り注ぎ、咲き誇る鮮やかな花達が空間に色を添えている。
 漂う空気がその綺麗な景色からか、神聖な雰囲気を帯びているように思える。
 野生動物達が過ごしやすそうなビオトープと表現するのがしっくりくる環境が広がっていた。
 

「ホー(ニンゲン)」

「勝手に行っちゃダメだろ、もう……ん? 人間?」
 定位置の肩に戻って来たリーフルが『ニンゲン』と言って池の方を見ている。
 俺もそれに釣られ目線をやると、はっきりとしない人の形のような物が一瞬見えた。

(人……なのか? 一瞬だけ見えたような……)
 本当に一瞬だけしか目に映らなかったこともあり、人間なのか見間違いなのか自信がない。
 ただ『ニンゲン』と言ったので、リーフルには見えていて、もしかしたらを追いかけて林を抜けてきたのかもしれない。
 動物は霊的感覚が人より敏感だと言うし、リーフルにはくっきりとした物が見えていたのかもしれない。

「ホーホホ(タベモノ)──バサッ」
 先程人影の様な物が見えた場所にリーフルが飛んで行った。

「スッ──つんつん」
 何か見つけたのか、嘴でつついている。
 俺もリーフルが降り立った場所へ向かう。


(これ……)
 見るとリーフルがつついていたのは、何者かに襲われと成り果てたラビトーだった。
 先程襲い来たローウルフの仕業かは分からないが、自然死で無い事は確かだ。
 一瞬件のラビトーかと期待したが、ペンダントは見当たらない。

「キラッキラッ」
 不意に視線の端で何かが光を反射している事に気が付いた。
 視線を光っている元へやると、四方が一メートル程の岩がそこにあった。
 遠目にはただの岩にしか見えないのだが、気になるので近付いて確認してみる。

  
(普通の岩……じゃなくて所々綺麗な石が埋まってる?)
 見ると掘削前の宝石を含んだ石のように黄色い綺麗な石が見え隠れしていて、素人目にも何かしらの価値がありそうな岩だった。

(コナーさんの言っていた石の情報と、色に関しては一致してるな)
 ペンダントがダメなら石を納品して欲しいという特殊な依頼でもあるので、実物は確認できていないが、少しの可能性でも拾いたいのでアイテムBOXに収納して持ち帰る事にした。

「ボワン──」
 現れた異空間を操作し大岩を覆っていくと、そこには元から何も無かったかのようにがらんと、大岩が存在していた痕跡だけを残し収納された。
 魔法を行使する場合、魔力──精神力とも言える──を消耗するらしいが、俺の場合アイテムBOXを使って、疲れ等を感じたことが無い。
 収納している物の大きさや個数等が増減しても、なんの影響も感じない。
 こんな重量のありそうな物を苦も無く運べるのだから、この力をくれた神様には只々感謝だ。
 ペンダントを見つける事は出来なかったが、手掛かりとなりそうな岩を発見できたので、まずはコナーさんに確認してもらうのがいいだろう。

 いざ街へ帰ろうと歩き出した時、池の方から何かの気配を感じた。
 昼間だと言うのに景色は薄っすらと影を落とし、木々がざわめき立ち、水面がうねり出した。
 不自然な状況だというのに不思議と不安感が無いが、何か得体のしれない物の登場を予知した俺とリーフルは、池の中心付近を注視する。

「ザザー──ドゥルン……」
 池の水が中心付近で水柱を形成しながら人型を模していく。
 連想したのは『金の斧、銀の斧』の寓話だ。
 しかし俺はここに着いたばかりで何も落とし物をしていないし、そもそもこちらに友好的な存在かもまだ分からない。
 弓に手をかけ警戒しつつ様子を伺っていると、"何者か"はこちらに向かって言葉を発した。

「あら? あらら~? 私の事が感じ取れるなんて、エルフの子達以外では珍しいわね~」
しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

処理中です...