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1-4 シロップ
第20話 青い実
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「私がここ、辺境都市サウドの統治官"リーゼス・リム"だ」
なんたってこの街で一番の権力者だ、どんな意地悪な人物かと想像していたが、彼からは真逆の印象を覚える。
高級感漂う紺色のダブルスーツに身を包み、整った顔立ちに綺麗な金色の髪をオールバックに揃えた、ザ・イケメン。
年齢も三十代後半と言った所で、要職に就く人間にしては随分若そうだ。
勝手なイメージだが、脂ぎった顔つきに飛び出た下腹、嫌らしい表情を浮かべた年寄り、というのを想像していたので驚いた。
「初めまして、統治官様におかれましてはご機嫌……」
「いや、大丈夫だ、そんなにかしこまる必要はない。君が大罪人の可能性もあるのだしな」
「は、はい。私はヤマトと申します。こっちは相棒のリーフルで、冒険者を生業としております」
「そう、ヤマト君。噂は耳に入っているよ」
「噂……でございますか?」
「一年程前突然この街に現れた、記憶喪失の異邦人。冒険者となり、日夜街で野良動物達に施しをして回っている、だったか」
(俺の事が丸裸じゃないか……! 下手な言い訳は通用しないという事か)
「今回君を召喚した理由だが、ある情報が届いてね。その真偽を確かめねばならないのだよ」
「情報とはどういった内容でしょうか?」
「最近、青い食べ物を探し回っている者がいるという。心当たりはないかね?」
最近、青い食べ物、完全に俺の事だ。
でもだからってそれが何の罪に当たるのか、話が見えないので大人しくしている方がいいだろう。
「それでしたら間違いなく私の事だと思われます。青い食べ物に関しては、結局何も掴めず終いでしたが」
「ふむ。やはり君で間違いはない……か。後ろめたさを感じないし、正直に私が得た情報通り話している、他意は無しか」
「ホー! (テキ)」
「こ、こらリーフルダメだ!」
リーゼスのこちらを値踏みするような目線に反応し、リーフルが叫んでしまった。
「君の相棒が興奮しているようだが?」
「す、すみません。統治官様とも仲良くしたいと申しております」
「そうなのか? 怒っているように見えるが……まぁいい、それと私の事は"リーゼス"と呼んでくれたまえ、その呼び方は好かん」
「わかりました。リーゼス様でよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで結構。さて、大方白だろうとは思うが念の為。君に今から魔法をかける。スルー・ライという私の持つユニーク魔法で、私の質問に対して嘘がつけなくなる。問題ないな?」
見るからに優秀そうだし当然ユニーク魔法も使えるというわけだ。
「構いません」
「では、スルー・ライ」
リーゼスが魔法を俺に行使するが、特段変わった感覚は無い。
「質問だ、君は"ホーリーベリー"を知っているか?」
統治官が質問を始めた途端、意識が遠のく……。
「いいえ……初耳です……」
「では我が国に対して異心はあるかね?」
「ございません……」
「結構。君は完全に白だと証明された」
「ええっと……?」「ホ? (ワカラナイ)」
意識が戻ったが、理解が及ばない。
「あぁ、すまないな。魔法の効果中は、どうやら記憶が残らないらしいんだ」
俺はしっかり魔法にかかっていたようだ、質問されたのかどうかも全く記憶に無い。
「私の疑いは晴れましたでしょうか」
「何も問題は無かった、君は潔白だ」
「それはよかったです。それで……私にかけられた嫌疑というのは?」
「そうだな、説明をしないといけないな。君が探していた青い食べ物なんだがね、実在するのだよ」
「え、あるんですか!?」
「ホーリーベリー、これは国王陛下が催事や儀式の際に用いられる物で、王家直轄の農園でしか栽培されていない、格式高い果物の事だ」
(国王陛下だって? とんでもない人物が出て来たな……)
「昔々、神様がこの世界を創造された際、我々人間の生きる糧となる水をお与えくださった。命の水を産み出すのには"聖水"が使われたという。その聖水は神々しい透き通る青い色をしていたそうだ」
以前獣人村で聞いたおとぎ話にはそんな話は無かった、また別の神話だろうか。
誰かが創作した物か、伝承か、神様にもしまた逢えたら質問してみたい。
「ホーリーベリーは、聖水を模した青い飲み物を作る為に使用される。そしてその聖水は催事や儀式の際に傍らに置くことで、陛下の威光を知らしめるのに使われる」
「なるほど、安易に使用できない貴重な物なんですね」
「そうだ。もし盗んだりしてそのまま売るなり、聖水を偽造するなりして、一儲けしようなどと企てた場合、重不敬罪や国家反逆罪に当たり、極刑は免れない」
さすがは王政の国、日本ではありえない罪が存在するようだ。
俺も外での話題には十分気を付けないといけないな。
「だから青い食べ物を探し回っていた私に、嫌疑がかけられたわけですね」
「その通りだ。君は何故青い食べ物を探していたんだね?」
「ええと、私が発案しました"かき氷"という氷菓子がありまして。氷に甘い果物のシロップをかけて完成するのですが、そのシロップの新製品に良いかと思い至った次第でして」
「なるほど、噂のかき氷か。君が発案者だったとは驚きだ。私はまだありつけていないのだがね」
「リーゼス様のような高貴なお方でも、下々の菓子に興味がおありなんですか?」
「よしてくれ、私は高貴でも何でもない。ただ己の努力と運に恵まれてこの地位に居るだけだ。街の人々とさして変わりはない、菓子だって当然食べたいと思う」
この若さで統治官に任命されるぐらいだ、相当な努力をしたのだろう。
俺は『自分は努力した』と胸を張って他人に話せる自信は無いかな……。
なんたってこの街で一番の権力者だ、どんな意地悪な人物かと想像していたが、彼からは真逆の印象を覚える。
高級感漂う紺色のダブルスーツに身を包み、整った顔立ちに綺麗な金色の髪をオールバックに揃えた、ザ・イケメン。
年齢も三十代後半と言った所で、要職に就く人間にしては随分若そうだ。
勝手なイメージだが、脂ぎった顔つきに飛び出た下腹、嫌らしい表情を浮かべた年寄り、というのを想像していたので驚いた。
「初めまして、統治官様におかれましてはご機嫌……」
「いや、大丈夫だ、そんなにかしこまる必要はない。君が大罪人の可能性もあるのだしな」
「は、はい。私はヤマトと申します。こっちは相棒のリーフルで、冒険者を生業としております」
「そう、ヤマト君。噂は耳に入っているよ」
「噂……でございますか?」
「一年程前突然この街に現れた、記憶喪失の異邦人。冒険者となり、日夜街で野良動物達に施しをして回っている、だったか」
(俺の事が丸裸じゃないか……! 下手な言い訳は通用しないという事か)
「今回君を召喚した理由だが、ある情報が届いてね。その真偽を確かめねばならないのだよ」
「情報とはどういった内容でしょうか?」
「最近、青い食べ物を探し回っている者がいるという。心当たりはないかね?」
最近、青い食べ物、完全に俺の事だ。
でもだからってそれが何の罪に当たるのか、話が見えないので大人しくしている方がいいだろう。
「それでしたら間違いなく私の事だと思われます。青い食べ物に関しては、結局何も掴めず終いでしたが」
「ふむ。やはり君で間違いはない……か。後ろめたさを感じないし、正直に私が得た情報通り話している、他意は無しか」
「ホー! (テキ)」
「こ、こらリーフルダメだ!」
リーゼスのこちらを値踏みするような目線に反応し、リーフルが叫んでしまった。
「君の相棒が興奮しているようだが?」
「す、すみません。統治官様とも仲良くしたいと申しております」
「そうなのか? 怒っているように見えるが……まぁいい、それと私の事は"リーゼス"と呼んでくれたまえ、その呼び方は好かん」
「わかりました。リーゼス様でよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで結構。さて、大方白だろうとは思うが念の為。君に今から魔法をかける。スルー・ライという私の持つユニーク魔法で、私の質問に対して嘘がつけなくなる。問題ないな?」
見るからに優秀そうだし当然ユニーク魔法も使えるというわけだ。
「構いません」
「では、スルー・ライ」
リーゼスが魔法を俺に行使するが、特段変わった感覚は無い。
「質問だ、君は"ホーリーベリー"を知っているか?」
統治官が質問を始めた途端、意識が遠のく……。
「いいえ……初耳です……」
「では我が国に対して異心はあるかね?」
「ございません……」
「結構。君は完全に白だと証明された」
「ええっと……?」「ホ? (ワカラナイ)」
意識が戻ったが、理解が及ばない。
「あぁ、すまないな。魔法の効果中は、どうやら記憶が残らないらしいんだ」
俺はしっかり魔法にかかっていたようだ、質問されたのかどうかも全く記憶に無い。
「私の疑いは晴れましたでしょうか」
「何も問題は無かった、君は潔白だ」
「それはよかったです。それで……私にかけられた嫌疑というのは?」
「そうだな、説明をしないといけないな。君が探していた青い食べ物なんだがね、実在するのだよ」
「え、あるんですか!?」
「ホーリーベリー、これは国王陛下が催事や儀式の際に用いられる物で、王家直轄の農園でしか栽培されていない、格式高い果物の事だ」
(国王陛下だって? とんでもない人物が出て来たな……)
「昔々、神様がこの世界を創造された際、我々人間の生きる糧となる水をお与えくださった。命の水を産み出すのには"聖水"が使われたという。その聖水は神々しい透き通る青い色をしていたそうだ」
以前獣人村で聞いたおとぎ話にはそんな話は無かった、また別の神話だろうか。
誰かが創作した物か、伝承か、神様にもしまた逢えたら質問してみたい。
「ホーリーベリーは、聖水を模した青い飲み物を作る為に使用される。そしてその聖水は催事や儀式の際に傍らに置くことで、陛下の威光を知らしめるのに使われる」
「なるほど、安易に使用できない貴重な物なんですね」
「そうだ。もし盗んだりしてそのまま売るなり、聖水を偽造するなりして、一儲けしようなどと企てた場合、重不敬罪や国家反逆罪に当たり、極刑は免れない」
さすがは王政の国、日本ではありえない罪が存在するようだ。
俺も外での話題には十分気を付けないといけないな。
「だから青い食べ物を探し回っていた私に、嫌疑がかけられたわけですね」
「その通りだ。君は何故青い食べ物を探していたんだね?」
「ええと、私が発案しました"かき氷"という氷菓子がありまして。氷に甘い果物のシロップをかけて完成するのですが、そのシロップの新製品に良いかと思い至った次第でして」
「なるほど、噂のかき氷か。君が発案者だったとは驚きだ。私はまだありつけていないのだがね」
「リーゼス様のような高貴なお方でも、下々の菓子に興味がおありなんですか?」
「よしてくれ、私は高貴でも何でもない。ただ己の努力と運に恵まれてこの地位に居るだけだ。街の人々とさして変わりはない、菓子だって当然食べたいと思う」
この若さで統治官に任命されるぐらいだ、相当な努力をしたのだろう。
俺は『自分は努力した』と胸を張って他人に話せる自信は無いかな……。
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