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1-4 シロップ
第17話 昼食にて
しおりを挟む「イザーク?」
間近の、幼馴染の端整な顔をリアは、瞬いて見た。
「私もあなたを信頼しているし好きよ?」
彼は呟く。
「俺の好きはそういうのじゃなくて……」
「え?」
「……いや」
「ドレス、押さえているからもう大丈夫よ」
「ああ」
彼は腕を解いて離れた。
「……着るの手伝うよ。リボンを付ければいいのか?」
「ええ」
彼はリアの後ろに回り、ドレスのリボンを結んでくれ、言った。
「ちゃんとできてるか、わかんないけど」
リアは鏡で、背を映してみる。綺麗にまとまっていた。
「ありがとう、イザーク。助かったわ」
これで帰れる。
「私、屋敷に戻るわ。メラニー様に、帰ったと伝えておいてくれる?」
「了解。馬車まで送るよ」
それでリアは、彼と部屋から出た。
お茶会でジークハルトと顔を合わさずにすみ、残念に思うのと安堵が入り混じっていた。
ジークハルトと会えば、感情が揺れて仕方ないのだ。
※※※※※
メラニーは目の前の少年を熱い眼差しで見つめる。
「ふうん、そうなんだ。姉上と君の兄上がね……」
「はい」
(ああ、今日もなんて素敵なのかしら。カミル様……)
メラニーは、リアの弟──カミル・アーレンスに、恋焦がれていた。
名門アーレンス公爵家は、美貌の血筋で有名だ。
彼の父も年齢を感じさせない若々しさで、美青年と呼べるほどだし、カミルの叔母も、月の女神と評された綺麗な女性で、現皇帝が皇太子だったときに、一目惚れして婚約が決まったらしい。
アーレンス家の血を引く、オスカーとカミルの二人は、女性人気が凄まじい。
メラニーも彼らを慕う一人である。
オスカーもカミルもメラニー好みだ。どちらも大好きだが、特に弟のカミルが好きだった。
カミルと庭園の彫像前で落ち合い、今日あった出来事を報告していた。
彼は柔らかい雰囲気の少年で、姉──といっても従兄弟──と似ていない。
彼ら同様、リアもアーレンス家の人間なので、綺麗だ。だが美少女すぎ、纏う空気が冷たくみえ、悪役っぽい。
そのため誤解されやすい。
メラニーが、リアにいじめられたと周囲にほのめかせば、信じてもらえる。
皇太子に近づく女性──特にメラニーをリアがいじめているという噂を、メラニーはせっせと広めていた。
だがさすがに、リアと一緒に暮らしているカミルやオスカーには嘘だとバレてしまう。前にちらりとそれらしいことを話したら、日頃声を荒げないカミルに叱責されてしまった。
だから、そういったことは話していない。
カミルには事実のみを告げている。
(ジークハルト様も素敵だし、皇太子という唯一無二の存在だけど、威圧感があるし)
一つ下のカミルは母性本能を擽られる可愛らしさと、どこか小悪魔的な婀娜っぽさがある。
そんな彼にメラニーは夢中だ。
数年前、カミルからジークハルトに近づいてほしいと言われたときはショックだった。
だがカミルの言う通りにすれば、彼と接点をもてる。
報告する際、他の幾多のライバルを押しのけて彼と話ができる。
それに皇太子であるジークハルトに気に入られれば、正妃は無理だとしても愛妾になれるかもしれない。
それはそれで魅力的だ。
メラニーはカミルの言葉に従い、彼の喜ぶ顔もみたくて、逐一報告していた。
カミルの兄オスカーは、リアと結婚をしたいらしく、ジークハルトとリアの仲をこわすよう、弟のカミルに命じているらしい。その手助けをメラニーはしているのだ。
「ん、ありがとう。よくわかったよ」
にっこりとカミルは天使のような笑顔を浮かべた。
「ということは、君は殿下に求婚されたってことだね」
「そうです」
「おめでとう。幸せになってね」
彼はとても嬉しそうで、メラニーは複雑な心持ちとなる。
愛妾でも、と思っていたところ、ジークハルトに結婚を考えると言われ、歓喜したが、メラニーが恋しているのはカミルなのだった。
「でもわたしが本当に好きなのは……」
カミルと結ばれるのが、メラニーの最上の願いだ。
カミルは小首を傾げ、人差し指をメラニーの唇の前に柔らかく立てた。
彼は優しく囁く。
「君は帝国において、将来、最も高貴な女性となるんだ。何も口にしないで。ね」
メラニーはぽうっとする。
「じゃあね」
笑顔で優雅に立ち去るその姿を、メラニーはうっとりと見送った。
間近の、幼馴染の端整な顔をリアは、瞬いて見た。
「私もあなたを信頼しているし好きよ?」
彼は呟く。
「俺の好きはそういうのじゃなくて……」
「え?」
「……いや」
「ドレス、押さえているからもう大丈夫よ」
「ああ」
彼は腕を解いて離れた。
「……着るの手伝うよ。リボンを付ければいいのか?」
「ええ」
彼はリアの後ろに回り、ドレスのリボンを結んでくれ、言った。
「ちゃんとできてるか、わかんないけど」
リアは鏡で、背を映してみる。綺麗にまとまっていた。
「ありがとう、イザーク。助かったわ」
これで帰れる。
「私、屋敷に戻るわ。メラニー様に、帰ったと伝えておいてくれる?」
「了解。馬車まで送るよ」
それでリアは、彼と部屋から出た。
お茶会でジークハルトと顔を合わさずにすみ、残念に思うのと安堵が入り混じっていた。
ジークハルトと会えば、感情が揺れて仕方ないのだ。
※※※※※
メラニーは目の前の少年を熱い眼差しで見つめる。
「ふうん、そうなんだ。姉上と君の兄上がね……」
「はい」
(ああ、今日もなんて素敵なのかしら。カミル様……)
メラニーは、リアの弟──カミル・アーレンスに、恋焦がれていた。
名門アーレンス公爵家は、美貌の血筋で有名だ。
彼の父も年齢を感じさせない若々しさで、美青年と呼べるほどだし、カミルの叔母も、月の女神と評された綺麗な女性で、現皇帝が皇太子だったときに、一目惚れして婚約が決まったらしい。
アーレンス家の血を引く、オスカーとカミルの二人は、女性人気が凄まじい。
メラニーも彼らを慕う一人である。
オスカーもカミルもメラニー好みだ。どちらも大好きだが、特に弟のカミルが好きだった。
カミルと庭園の彫像前で落ち合い、今日あった出来事を報告していた。
彼は柔らかい雰囲気の少年で、姉──といっても従兄弟──と似ていない。
彼ら同様、リアもアーレンス家の人間なので、綺麗だ。だが美少女すぎ、纏う空気が冷たくみえ、悪役っぽい。
そのため誤解されやすい。
メラニーが、リアにいじめられたと周囲にほのめかせば、信じてもらえる。
皇太子に近づく女性──特にメラニーをリアがいじめているという噂を、メラニーはせっせと広めていた。
だがさすがに、リアと一緒に暮らしているカミルやオスカーには嘘だとバレてしまう。前にちらりとそれらしいことを話したら、日頃声を荒げないカミルに叱責されてしまった。
だから、そういったことは話していない。
カミルには事実のみを告げている。
(ジークハルト様も素敵だし、皇太子という唯一無二の存在だけど、威圧感があるし)
一つ下のカミルは母性本能を擽られる可愛らしさと、どこか小悪魔的な婀娜っぽさがある。
そんな彼にメラニーは夢中だ。
数年前、カミルからジークハルトに近づいてほしいと言われたときはショックだった。
だがカミルの言う通りにすれば、彼と接点をもてる。
報告する際、他の幾多のライバルを押しのけて彼と話ができる。
それに皇太子であるジークハルトに気に入られれば、正妃は無理だとしても愛妾になれるかもしれない。
それはそれで魅力的だ。
メラニーはカミルの言葉に従い、彼の喜ぶ顔もみたくて、逐一報告していた。
カミルの兄オスカーは、リアと結婚をしたいらしく、ジークハルトとリアの仲をこわすよう、弟のカミルに命じているらしい。その手助けをメラニーはしているのだ。
「ん、ありがとう。よくわかったよ」
にっこりとカミルは天使のような笑顔を浮かべた。
「ということは、君は殿下に求婚されたってことだね」
「そうです」
「おめでとう。幸せになってね」
彼はとても嬉しそうで、メラニーは複雑な心持ちとなる。
愛妾でも、と思っていたところ、ジークハルトに結婚を考えると言われ、歓喜したが、メラニーが恋しているのはカミルなのだった。
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カミルと結ばれるのが、メラニーの最上の願いだ。
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