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1-4 シロップ
第16話 定期クエスト
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「ホッホー。ホッホー……」
「リーフル……なんで毎朝そこに居るんだ……」
定宿の俺の部屋、備え付けのタンスの上に止まり木は用意してある。
なのにリーフルは何故か毎朝俺の枕元に立っている。
愛らしい行動で嬉しく思う反面、羽繕いをしているせいで、白いフケのようなもので枕元を汚されるのは複雑な気分だ。
羽繕いするなら止まり木の方でやっていただけませんか? リーフルさん。
まぁそうは言っても、わざわざ人の近くでやるのは、安心している証拠らしいと聞いたことがあるので、怒る気にはならないのだが。
ペットを飼っている人の必需品、掃除道具の定番"コロコロ"が懐かしい……。
朝部屋を出て宿の受付に降りていくと、シシリーは決まって先に起きており、チェックアウトする客を見送る仕事をこなしている。
俺も冒険者稼業で早起きには慣れたが、毎日そうしているわけではないし、欠かさずとなると大変な事だろうな。
「あ、おはようヤマトさん、リーフルちゃんも」
「おはようシシリーちゃん」 「ホ」
「今日もクエスト? 無茶は厳禁……ってヤマトさんは大丈夫よね」
「よくお分かりで。シシリーちゃんこそ毎朝偉いね、冒険者の俺より先に受付に居るってことは相当早起きでしょ?」
「ん~慣れかな? 物心ついた時にはもう受付に座ってたもん。色々な人が来てくれるから見てて楽しかったの。子供の好奇心の延長上って感じね」
「そうなんだ。自宅が宿屋だし自然と慣れるんだね」
「でも毎日毎日同じ仕事するのって正直退屈。ヤマトさんみたいに冒険者になれば刺激があって面白そうね~」
確かに。宿屋としての人生しか知らないんだし、人として当然の感想だろう。
俺だってサラリーマン時代は日常に変化を求めて動物を飼ったり、地域猫活動に参加していたしな。
お金を稼ぐ為だけに人生の時間を使っていたら、"生きる意味"を見失ってしまうと思う。
努力の結果か、はたまた運が良かったか、自分の好きな何かが仕事になった人は幸運だろう。
そう考えると第二の人生は楽しめている。
「刺激的なのは確かにそうだね、上を見ればいくらでも危険なクエストはあるし。でも"金より命"だよ。堅実に稼げるならそれに越した事は無いと思う」
「ヤマトさんてホント冒険者っぽくないよね、普通はみんな『ビッグになって大金を!』みたいな事夢見てるじゃない?」
「俺だって能力がもっと高ければ受ける仕事の難易度を上げると思うよ? 分不相応な仕事は選ばないようにしてるってだけで。それに神様にも言われ──っとなんでもないよ」
「神様?いつもの部屋で瞑想してるあれ?」
「そ、そうだよ。神様今日もありがとうございます~! ってね」
(『人生を全うしなさい』と神様に言われてる、なんて信じてもらえないよな……)
危うくまた"かわいそうな奴"扱いを受ける所だった。
「ふ~ん。空想の神様より、現実の人間に時間を割いた方が有意義だと思うけど」
不満げな表情をしてジト目でシシリーが俺を見てくる。
「じゃ、じゃあ行ってきます!」
「ちょっと! ヤマトさん!」
恋愛経験の無い俺では上手くいなせない。
そっち系──恋愛事の話題を避けるため、そそくさと宿を後にした。
◇
今日の現場は、隣町へと整備された道が続いている正門側から出て街道沿い、道を挟んで小麦畑や根菜類──ジャガイモやニンジンその他──の畑が広がる農耕地帯。
今はちょうど収穫時期なので、金色の光を反射して風に揺れる小麦が、一枚の風景画のように美しい景色を表現している。
ベッドタウン産まれベッドタウン育ちの俺からすれば、田んぼくらいは見た事があるが、小麦が栽培されている様子に初見は感動したものだ。
今回受けた仕事は街の農業組合から定期的に出されている"ミドルラット"の駆除依頼。
魔物版ドブネズミと言った感じで、成ウサギの二倍程の大きさ、頑丈な鋭い前歯を持っていて、動きも俊敏ですばしっこい。
他の魔物と違って人間を襲うことは稀だが、いざ対峙すると結構恐ろしい、中々油断ならない相手。
弓を満足に扱えなかった最初の頃は、短剣一本を片手にに右往左往苦労したものだが、今となっては弓が扱えるようになり、堅実な稼ぎの一つとなった。
リーフルのご飯も手に入るし、俺にとっては一石二鳥の仕事だ。
(大量発生とかそういう話は無かったし、今回は見かけたら駆除で、この一帯の様子見ってとこだろうか)
小麦畑の場合、ミドルラットが動けば小麦が揺れて存在は確認できる。
だが小麦に隠れて視認できない為、畑内でむやみに仕留めようとせず、ミドルラットを畑の外に追い立て、出て来た所を弓で狙い撃つやり方をとっている。
見た所小麦は風にそよいでいる程度で動きはない。
ここには居ないかと、次へ行こうとした矢先、小麦畑の中でガサガサと何かが動いた。
「ホー! (テキ)」
「そうだなリーフル」
リーフルの鳴き声に反応し、距離を取ろうとミドルラットが生い茂る小麦の足元から飛び出した。
それを確認した俺は弓を構え狙いを定める。
最初の頃は当たるまで何本も矢を消費したが、今は反省を生かし、ミドルラットが俺から真っすぐ距離を取るように、直線的な動きに落ち着くまで弓は引かない。
(今だ!)
「ドスッ──ギャッ……」
狙い通りにミドルラットのお尻辺りに矢は命中した。
「まず一匹」
「ホーホホ(タベモノ)」
この一画には一匹だけだったので、次の区画に向かう事にする。
「ドスッ──チューッ!」
「こっちにも一匹いたな」
普通のネズミと違って体が大きい分、一定の範囲内に五匹以上集まることは稀だが、見回り終えて合計二匹というのは経験から言えば平均より少ないか。
小麦畑の方はあらかた見回り終えた。
根菜類の畑の方に、野菜を収穫している人がいるようなので、話を聞いてみる。
「リーフル……なんで毎朝そこに居るんだ……」
定宿の俺の部屋、備え付けのタンスの上に止まり木は用意してある。
なのにリーフルは何故か毎朝俺の枕元に立っている。
愛らしい行動で嬉しく思う反面、羽繕いをしているせいで、白いフケのようなもので枕元を汚されるのは複雑な気分だ。
羽繕いするなら止まり木の方でやっていただけませんか? リーフルさん。
まぁそうは言っても、わざわざ人の近くでやるのは、安心している証拠らしいと聞いたことがあるので、怒る気にはならないのだが。
ペットを飼っている人の必需品、掃除道具の定番"コロコロ"が懐かしい……。
朝部屋を出て宿の受付に降りていくと、シシリーは決まって先に起きており、チェックアウトする客を見送る仕事をこなしている。
俺も冒険者稼業で早起きには慣れたが、毎日そうしているわけではないし、欠かさずとなると大変な事だろうな。
「あ、おはようヤマトさん、リーフルちゃんも」
「おはようシシリーちゃん」 「ホ」
「今日もクエスト? 無茶は厳禁……ってヤマトさんは大丈夫よね」
「よくお分かりで。シシリーちゃんこそ毎朝偉いね、冒険者の俺より先に受付に居るってことは相当早起きでしょ?」
「ん~慣れかな? 物心ついた時にはもう受付に座ってたもん。色々な人が来てくれるから見てて楽しかったの。子供の好奇心の延長上って感じね」
「そうなんだ。自宅が宿屋だし自然と慣れるんだね」
「でも毎日毎日同じ仕事するのって正直退屈。ヤマトさんみたいに冒険者になれば刺激があって面白そうね~」
確かに。宿屋としての人生しか知らないんだし、人として当然の感想だろう。
俺だってサラリーマン時代は日常に変化を求めて動物を飼ったり、地域猫活動に参加していたしな。
お金を稼ぐ為だけに人生の時間を使っていたら、"生きる意味"を見失ってしまうと思う。
努力の結果か、はたまた運が良かったか、自分の好きな何かが仕事になった人は幸運だろう。
そう考えると第二の人生は楽しめている。
「刺激的なのは確かにそうだね、上を見ればいくらでも危険なクエストはあるし。でも"金より命"だよ。堅実に稼げるならそれに越した事は無いと思う」
「ヤマトさんてホント冒険者っぽくないよね、普通はみんな『ビッグになって大金を!』みたいな事夢見てるじゃない?」
「俺だって能力がもっと高ければ受ける仕事の難易度を上げると思うよ? 分不相応な仕事は選ばないようにしてるってだけで。それに神様にも言われ──っとなんでもないよ」
「神様?いつもの部屋で瞑想してるあれ?」
「そ、そうだよ。神様今日もありがとうございます~! ってね」
(『人生を全うしなさい』と神様に言われてる、なんて信じてもらえないよな……)
危うくまた"かわいそうな奴"扱いを受ける所だった。
「ふ~ん。空想の神様より、現実の人間に時間を割いた方が有意義だと思うけど」
不満げな表情をしてジト目でシシリーが俺を見てくる。
「じゃ、じゃあ行ってきます!」
「ちょっと! ヤマトさん!」
恋愛経験の無い俺では上手くいなせない。
そっち系──恋愛事の話題を避けるため、そそくさと宿を後にした。
◇
今日の現場は、隣町へと整備された道が続いている正門側から出て街道沿い、道を挟んで小麦畑や根菜類──ジャガイモやニンジンその他──の畑が広がる農耕地帯。
今はちょうど収穫時期なので、金色の光を反射して風に揺れる小麦が、一枚の風景画のように美しい景色を表現している。
ベッドタウン産まれベッドタウン育ちの俺からすれば、田んぼくらいは見た事があるが、小麦が栽培されている様子に初見は感動したものだ。
今回受けた仕事は街の農業組合から定期的に出されている"ミドルラット"の駆除依頼。
魔物版ドブネズミと言った感じで、成ウサギの二倍程の大きさ、頑丈な鋭い前歯を持っていて、動きも俊敏ですばしっこい。
他の魔物と違って人間を襲うことは稀だが、いざ対峙すると結構恐ろしい、中々油断ならない相手。
弓を満足に扱えなかった最初の頃は、短剣一本を片手にに右往左往苦労したものだが、今となっては弓が扱えるようになり、堅実な稼ぎの一つとなった。
リーフルのご飯も手に入るし、俺にとっては一石二鳥の仕事だ。
(大量発生とかそういう話は無かったし、今回は見かけたら駆除で、この一帯の様子見ってとこだろうか)
小麦畑の場合、ミドルラットが動けば小麦が揺れて存在は確認できる。
だが小麦に隠れて視認できない為、畑内でむやみに仕留めようとせず、ミドルラットを畑の外に追い立て、出て来た所を弓で狙い撃つやり方をとっている。
見た所小麦は風にそよいでいる程度で動きはない。
ここには居ないかと、次へ行こうとした矢先、小麦畑の中でガサガサと何かが動いた。
「ホー! (テキ)」
「そうだなリーフル」
リーフルの鳴き声に反応し、距離を取ろうとミドルラットが生い茂る小麦の足元から飛び出した。
それを確認した俺は弓を構え狙いを定める。
最初の頃は当たるまで何本も矢を消費したが、今は反省を生かし、ミドルラットが俺から真っすぐ距離を取るように、直線的な動きに落ち着くまで弓は引かない。
(今だ!)
「ドスッ──ギャッ……」
狙い通りにミドルラットのお尻辺りに矢は命中した。
「まず一匹」
「ホーホホ(タベモノ)」
この一画には一匹だけだったので、次の区画に向かう事にする。
「ドスッ──チューッ!」
「こっちにも一匹いたな」
普通のネズミと違って体が大きい分、一定の範囲内に五匹以上集まることは稀だが、見回り終えて合計二匹というのは経験から言えば平均より少ないか。
小麦畑の方はあらかた見回り終えた。
根菜類の畑の方に、野菜を収穫している人がいるようなので、話を聞いてみる。
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