62 / 94
第61話 知るべきこと3
しおりを挟む
どこへでもドアでクリアがやってきたのは、『セインテッド』城内の謁見の間だった。
クリアの思っていた通り、現在は誰もいない。
……まあ、現在の時刻を考えれば当然といえば当然なのだが。
クリア達が本部に戻ったのがおよそ夕方に差し込む頃だった。
故に今は明朝であり、こんな時間帯にわざわざ足を運ぶ者など普通はいない。
——さて、ここから警備をくぐり抜けて交渉相手の元に行くには……。
まだ日が入ってこない薄暗い部屋の中で、周囲の状況を探る為【力】を展開しつつ、最後に見た謁見の間の間取りを思い出す。
クリアの記憶が正しければ、王が座っていた玉座の左右に奥へと続く扉があったはずだ。
王族のプライベートルームに向かうなら、その扉からしかないだろう。
クリアは物音一つ立てないよう注意しながら、まずは右の扉の前に移動し少しだけ扉を開ける。
その隙間から【力】を使って様子を探ると、長い廊下があり、セキュリティ能力をあげるためか、謁見の間より百メートル程離れた壁面にようやく一つ扉があり、そこから幾つかの扉が並んでいるようだ。
そして、この長い廊下には見張りが一人もいない。
——こっちははずれかな?
クリアがそう思いもう一つの扉の方へ移動しようとした時だった。
一番奥の扉が開いていく感覚が、【力】を通してクリアに伝わってくる。
すぐさま警戒してその人物が誰なのか、息を呑んで扉の中から出てくるのを待っていると。
やんわりとクリアの【力】を押し返しこちらに向かってくる人物は、どうやら王では無さそうだった。
伝わってきた感覚から察するに、小柄な少女の様な背格好で。
そして王族の中でそんな姿をしているクリアが思い当たる人物は一人しかおらず。
——王女様、か。
しかし妙だとクリアは思う。
別に、こんな時間にイエナが目を覚まして部屋の外に出ること自体は——王族の決まり事について別にクリアは詳しいわけでは無いが——おかしいことではない。
クリアが引っかかっているのは、セキュリティ意識が高いこの長い廊下の先にイエナの部屋が存在するというのに、見張りの一人も立っていないということだ。
巡回している様子も無いので、元々この場所には見張りが置かれていないと考えるのが妥当だ。
しかし、いくら明朝とはいえ王女に対して見張りを付けないのは警備体制としていかがなものだとクリアは思ったのだ。
……もっとも、次の声により、そんなクリアの考えは吹き飛んでしまったが。
「クリアさん、そこにおられるんですね?」
——な⁉︎
特別イエナが大きな声を出した訳ではなかった。
この、普通なら大声を出さなければ届きそうも無い廊下の先にいるクリアに、【力】を伝わってクリアの元まで届くとわかっているかのように小声で話しかけてきたのだ。
クリアは即座に【力】を【不可視疑の一部】になるよう王女に向けて力を放出し、彼女を囲うように配置する。
「そこまで警戒しないでも、大声を上げて警備の方々を呼ぶつもりはありません。そのままこちらに来ていただけないでしょうか」
——罠……では無さそうだ。
警備を呼ぶつもりならクリアに気付いた時点で声を上げているだろう。
自分の存在に気が付いた彼女の能力についても興味が出たクリアは、イエナの言う通り扉を開け、
それでも慎重にイエナの部屋の扉を開けたところに無防備に立って待っている彼女の元へ足を運ぶ。
「何故ボクの存在に気が付いたのですか?」
拍子抜けするほど簡単にイエナの目の前に来れたクリアは、戸惑いを隠さず彼女に問いかけた。
クリアが来るまでは眠っていたのか、先日フードを脱いだ時のように降ろされたままの黄色の長髪に白いワンピースのような寝間着を身に纏っているイエナは、
とりあえずこの廊下で話す気は無いようで、手招きしてクリアに自室に入るように促した。
まるで敵対関係を宣言した国の王女の行動に似つかわしくないイエナの振る舞いに戸惑いながら、クリアは渋々と警戒を解かずに中に入り扉を閉めた。
イエナの部屋は流石に王女に与えられた部屋だけあってかなり広く。
彼女が先程まで横になっていたであろう彼女の体のサイズに合わない大きなベッドやドレッサー——ドレッサーの上には幾つかクリアも知っている『ディールーツ』製の化粧品が置いてある——、大きなクローゼットが目に入った。
その中でも、部屋の中心にある連絡テーブルと、二つあるイスにかけるようイエナに促され、クリアは素直に座った。
何故クリアがこれだけの部屋の中の情報が視覚で得ることができたかといえば。
まるで来ることを待っていたと言わんばかりに部屋内の明かりが灯されていたからである。
イエナがクリアの正面のイスに座ると、口を開く。
「先程の質問に対してまだお答えしていませんでしたね。……本当はこんなことしてはならないのでしょうけど、あなたにはお伝えしましょう」
何か、意を決したような表情を浮かべて言うイエナの顔を見ながら、クリアは彼女の話の続きを待つ。
「私達セインテッド王家に伝わるキャスティングできるエレメントは……〈聖属性〉といいます」
「聖属性……。それが、ボクの存在に気が付いたり、エレメント同士の結びつきをより強固にする力を持っているあなた方の隠し玉ですか」
「そうです。聖属性にはそれ以外にも分子反応により色々な作用がありますが……」
淡々とクリアに自らの力の秘密を話すイエナに、当然のごとく疑問が浮かぶ。
これから戦争を行うかもしれない相手に、こうも自らの手の内を明かすのは……些か愚行だと思わざるを得ない。
そんなクリアの思考を読んだかのように、イエナは自分の真意を明かす。
「何故クリアさんに私達王家の力を話したか……。これは、勝手ですが私のあなた方に対する贖罪のつもりなのです」
クリアの思っていた通り、現在は誰もいない。
……まあ、現在の時刻を考えれば当然といえば当然なのだが。
クリア達が本部に戻ったのがおよそ夕方に差し込む頃だった。
故に今は明朝であり、こんな時間帯にわざわざ足を運ぶ者など普通はいない。
——さて、ここから警備をくぐり抜けて交渉相手の元に行くには……。
まだ日が入ってこない薄暗い部屋の中で、周囲の状況を探る為【力】を展開しつつ、最後に見た謁見の間の間取りを思い出す。
クリアの記憶が正しければ、王が座っていた玉座の左右に奥へと続く扉があったはずだ。
王族のプライベートルームに向かうなら、その扉からしかないだろう。
クリアは物音一つ立てないよう注意しながら、まずは右の扉の前に移動し少しだけ扉を開ける。
その隙間から【力】を使って様子を探ると、長い廊下があり、セキュリティ能力をあげるためか、謁見の間より百メートル程離れた壁面にようやく一つ扉があり、そこから幾つかの扉が並んでいるようだ。
そして、この長い廊下には見張りが一人もいない。
——こっちははずれかな?
クリアがそう思いもう一つの扉の方へ移動しようとした時だった。
一番奥の扉が開いていく感覚が、【力】を通してクリアに伝わってくる。
すぐさま警戒してその人物が誰なのか、息を呑んで扉の中から出てくるのを待っていると。
やんわりとクリアの【力】を押し返しこちらに向かってくる人物は、どうやら王では無さそうだった。
伝わってきた感覚から察するに、小柄な少女の様な背格好で。
そして王族の中でそんな姿をしているクリアが思い当たる人物は一人しかおらず。
——王女様、か。
しかし妙だとクリアは思う。
別に、こんな時間にイエナが目を覚まして部屋の外に出ること自体は——王族の決まり事について別にクリアは詳しいわけでは無いが——おかしいことではない。
クリアが引っかかっているのは、セキュリティ意識が高いこの長い廊下の先にイエナの部屋が存在するというのに、見張りの一人も立っていないということだ。
巡回している様子も無いので、元々この場所には見張りが置かれていないと考えるのが妥当だ。
しかし、いくら明朝とはいえ王女に対して見張りを付けないのは警備体制としていかがなものだとクリアは思ったのだ。
……もっとも、次の声により、そんなクリアの考えは吹き飛んでしまったが。
「クリアさん、そこにおられるんですね?」
——な⁉︎
特別イエナが大きな声を出した訳ではなかった。
この、普通なら大声を出さなければ届きそうも無い廊下の先にいるクリアに、【力】を伝わってクリアの元まで届くとわかっているかのように小声で話しかけてきたのだ。
クリアは即座に【力】を【不可視疑の一部】になるよう王女に向けて力を放出し、彼女を囲うように配置する。
「そこまで警戒しないでも、大声を上げて警備の方々を呼ぶつもりはありません。そのままこちらに来ていただけないでしょうか」
——罠……では無さそうだ。
警備を呼ぶつもりならクリアに気付いた時点で声を上げているだろう。
自分の存在に気が付いた彼女の能力についても興味が出たクリアは、イエナの言う通り扉を開け、
それでも慎重にイエナの部屋の扉を開けたところに無防備に立って待っている彼女の元へ足を運ぶ。
「何故ボクの存在に気が付いたのですか?」
拍子抜けするほど簡単にイエナの目の前に来れたクリアは、戸惑いを隠さず彼女に問いかけた。
クリアが来るまでは眠っていたのか、先日フードを脱いだ時のように降ろされたままの黄色の長髪に白いワンピースのような寝間着を身に纏っているイエナは、
とりあえずこの廊下で話す気は無いようで、手招きしてクリアに自室に入るように促した。
まるで敵対関係を宣言した国の王女の行動に似つかわしくないイエナの振る舞いに戸惑いながら、クリアは渋々と警戒を解かずに中に入り扉を閉めた。
イエナの部屋は流石に王女に与えられた部屋だけあってかなり広く。
彼女が先程まで横になっていたであろう彼女の体のサイズに合わない大きなベッドやドレッサー——ドレッサーの上には幾つかクリアも知っている『ディールーツ』製の化粧品が置いてある——、大きなクローゼットが目に入った。
その中でも、部屋の中心にある連絡テーブルと、二つあるイスにかけるようイエナに促され、クリアは素直に座った。
何故クリアがこれだけの部屋の中の情報が視覚で得ることができたかといえば。
まるで来ることを待っていたと言わんばかりに部屋内の明かりが灯されていたからである。
イエナがクリアの正面のイスに座ると、口を開く。
「先程の質問に対してまだお答えしていませんでしたね。……本当はこんなことしてはならないのでしょうけど、あなたにはお伝えしましょう」
何か、意を決したような表情を浮かべて言うイエナの顔を見ながら、クリアは彼女の話の続きを待つ。
「私達セインテッド王家に伝わるキャスティングできるエレメントは……〈聖属性〉といいます」
「聖属性……。それが、ボクの存在に気が付いたり、エレメント同士の結びつきをより強固にする力を持っているあなた方の隠し玉ですか」
「そうです。聖属性にはそれ以外にも分子反応により色々な作用がありますが……」
淡々とクリアに自らの力の秘密を話すイエナに、当然のごとく疑問が浮かぶ。
これから戦争を行うかもしれない相手に、こうも自らの手の内を明かすのは……些か愚行だと思わざるを得ない。
そんなクリアの思考を読んだかのように、イエナは自分の真意を明かす。
「何故クリアさんに私達王家の力を話したか……。これは、勝手ですが私のあなた方に対する贖罪のつもりなのです」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる