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第61話 知るべきこと3

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 どこへでもドアでクリアがやってきたのは、『セインテッド』城内の謁見の間だった。
 
 クリアの思っていた通り、現在は誰もいない。
 
 ……まあ、現在の時刻を考えれば当然といえば当然なのだが。
 
 クリア達が本部に戻ったのがおよそ夕方に差し込む頃だった。
 
 故に今は明朝であり、こんな時間帯にわざわざ足を運ぶ者など普通はいない。
 
 ——さて、ここから警備をくぐり抜けて交渉相手国王の元に行くには……。
 
 まだ日が入ってこない薄暗い部屋の中で、周囲の状況を探る為【力】を展開しつつ、最後に見た謁見の間このへやの間取りを思い出す。
 
 クリアの記憶が正しければ、王が座っていた玉座の左右に奥へと続く扉があったはずだ。
 
 王族のプライベートルームに向かうなら、その扉からしかないだろう。
 
 クリアは物音一つ立てないよう注意しながら、まずは右の扉の前に移動し少しだけ扉を開ける。
 
 その隙間から【力】を使って様子を探ると、長い廊下があり、セキュリティ能力をあげるためか、謁見の間より百メートル程離れた壁面にようやく一つ扉があり、そこから幾つかの扉が並んでいるようだ。
 
 そして、この長い廊下には見張りが一人もいない。
 
 ——こっちははずれかな?
 
 クリアがそう思いもう一つの扉の方へ移動しようとした時だった。
 
 一番奥の扉が開いていく感覚が、【力】を通してクリアに伝わってくる。
 
 すぐさま警戒してその人物が誰なのか、息を呑んで扉の中から出てくるのを待っていると。
 
 やんわりとクリアの【力】を押し返しこちらに向かってくる人物は、どうやら王では無さそうだった。
 
 伝わってきた感覚から察するに、小柄な少女の様な背格好で。
 
 そして王族の中でそんな姿をしているクリアが思い当たる人物は一人しかおらず。
 
 ——王女様、か。
 
 しかし妙だとクリアは思う。
 
 別に、こんな時間にイエナが目を覚まして部屋の外に出ること自体は——王族の決まり事について別にクリアは詳しいわけでは無いが——おかしいことではない。
 
 クリアが引っかかっているのは、セキュリティ意識が高いこの長い廊下の先にイエナの部屋が存在するというのに、見張りの一人も立っていないということだ。
 
 巡回している様子も無いので、元々この場所には見張りが置かれていないと考えるのが妥当だ。
 
 しかし、いくら明朝とはいえ王女に対して見張りを付けないのは警備体制としていかがなものだとクリアは思ったのだ。
 
 ……もっとも、次の声により、そんなクリアの考えは吹き飛んでしまったが。
 
「クリアさん、そこにおられるんですね?」
 
 ——な⁉︎
 
 特別イエナが大きな声を出した訳ではなかった。
 
 この、普通なら大声を出さなければ届きそうも無い廊下の先にいるクリアに、【力】を伝わってクリアの元まで届くとわかっているかのように小声で話しかけてきたのだ。
 
 クリアは即座に【力】を【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】になるよう王女に向けて力を放出し、彼女を囲うように配置する。
 
「そこまで警戒しないでも、大声を上げて警備の方々を呼ぶつもりはありません。そのままこちらに来ていただけないでしょうか」
 
 ——罠……では無さそうだ。
 
 警備を呼ぶつもりならクリアに気付いた時点で声を上げているだろう。
 
 自分の存在に気が付いた彼女の能力についても興味が出たクリアは、イエナの言う通り扉を開け、
それでも慎重にイエナの部屋の扉を開けたところに無防備に立って待っている彼女の元へ足を運ぶ。
 
「何故ボクの存在に気が付いたのですか?」
 
 拍子抜けするほど簡単にイエナの目の前に来れたクリアは、戸惑いを隠さず彼女に問いかけた。
 
 クリアが来るまでは眠っていたのか、先日フードを脱いだ時のように降ろされたままの黄色の長髪に白いワンピースのような寝間着を身に纏っているイエナは、
とりあえずこの廊下で話す気は無いようで、手招きしてクリアに自室に入るように促した。
 
 まるで敵対関係を宣言した国の王女の行動に似つかわしくないイエナの振る舞いに戸惑いながら、クリアは渋々と警戒を解かずに中に入り扉を閉めた。
 
 イエナの部屋は流石に王女に与えられた部屋だけあってかなり広く。
 
 彼女が先程まで横になっていたであろう彼女の体のサイズに合わない大きなベッドやドレッサー——ドレッサーの上には幾つかクリアも知っている『ディールーツ』製の化粧品が置いてある——、大きなクローゼットが目に入った。
 
 その中でも、部屋の中心にある連絡テーブルと、二つあるイスにかけるようイエナに促され、クリアは素直に座った。
 
 何故クリアがこれだけの部屋の中の情報が視覚で得ることができたかといえば。
 
 まるで来ることを待っていたと言わんばかりに部屋内の明かりが灯されていたからである。
 
 イエナがクリアの正面のイスに座ると、口を開く。
 
「先程の質問に対してまだお答えしていませんでしたね。……本当はこんなことしてはならないのでしょうけど、あなたにはお伝えしましょう」
 
 何か、意を決したような表情を浮かべて言うイエナの顔を見ながら、クリアは彼女の話の続きを待つ。
 
「私達セインテッド王家に伝わるキャスティングできるエレメントは……〈ひじり属性〉といいます」
 
「聖属性……。それが、ボクの存在に気が付いたり、エレメント同士の結びつきをより強固にする力を持っているあなた方の隠し玉ですか」
 
「そうです。聖属性にはそれ以外にも分子反応により色々な作用がありますが……」
 
 淡々とクリアに自らの力の秘密を話すイエナに、当然のごとく疑問が浮かぶ。
 
 これから戦争を行うかもしれない相手に、こうも自らの手の内を明かすのは……些か愚行だと思わざるを得ない。
 
 そんなクリアの思考を読んだかのように、イエナは自分の真意を明かす。
 
「何故クリアさんに私達王家の力を話したか……。これは、勝手ですが私のあなた方に対する贖罪のつもりなのです」
 
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