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第45話 王の意向2

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「ほう、そなたは自分達が敵対している組織の人間を庇うと言うのか」
 
 王から出た言葉が少々意外だったのか、レッドは少しだけ驚きで表情が崩れるが、すぐさま元に戻す。
 
 そんなレッドに代わるように王に言葉を返したのは、グリーンだった。
 
「横から当然お言葉お許しください。
……我々の事をどこまで知っているのかは存じ上げませんが。それとこれとは話は別では無いのでしょうか? 少なくとも、この国は昔から『ディールーツ』と大きな公益をしていることは周知の事実でしょう。それも、傘下に入っているなどではなく、あくまで対等な立場の取引相手としての」
 
 グリーンの言う通り、この国と『ディールーツ』はかなり大きな取引相手として付き合いが長い。
 
 組織こちらから提供した高度な技術を含んだ様々な商品はこの国の発展に大いに貢献している。
 
 故に、無下に扱われるいわれもなく。
 
 大臣の態度からも感じたが、この王は今、あからさまに『ディールーツ』という組織に対して嫌悪とでも言える態度を露わにしてきているのだ。
 
「……よかろう。どちらにせよ、この場でおおやけにするつもりだったからな。ブルー、彼らに説明を」
「承知しました」
 
 王から命を受けたブルーは、イエナを連れて王の側に移動すると、一瞬だけクリアに意味深な視線を向けると口を開く。
 
「よくお聞きなさい。今、この場で我が国『セインテッド王国』は企業組織『ディールーツ』とは手を切り、敵対関係になる事を宣言します」
 
 突然の一方的な条約破棄の宣言に、クリアはおろか、その場に居た『セインテッド王国』の関係者及び『所有者ホルダー』の三人、そして王女であるイエナはざわつき、動揺する。
 
 周りの様子を見る限り、この件に関して王やブルーはイエナや国の重役にすら話を通していないようだった。
 
「皆のもの、静まれ」
 
 動揺する者達へ向けて王が一喝すると、すぐさまその場に静寂が訪れる。
 
 そんな中、一つブルーが咳払いをすると、続きを話すため再び口を開く。
 
「私、ブルー・ティアを含め一部の者と調査したところ、このクリアが所属する組織『ディールーツ』は昨今とある遺物を回収するため手段を選ばず現時点で関係地域に被害を出している事が判明しています。今回この場に招いた『所有者ホルダー』というこの者達は、言葉に聞き覚えのない者に端的に説明するとその遺物を持っている人物となります」
 
 淡々と説明するブルーの言葉に、先程一喝を受けたせいか声には出さないが、周囲の人々はお互いに顔を合わせたり「信じられない」といった表情を浮かべていた。
 
 更には、クリアに得物を向ける兵士の緊張感がより増した様にクリアは感じたが、今はそんな事はどうでもよかった。
 
「何故『所有者ホルダー』を招いたといえば、この場で実際にその『ディールーツ』と敵対し、遺物の回収を阻止するため戦った事を証明してもらいたいということ、そして共に『ディールーツ』と戦ってもらう協力関係を結ぶために招きました」
 
 ——なるほど、今この状況を作り出したのも、初めから王国側の想定内だったと言うわけだ。
 
 クリアが一人でこの場にいる事も。
 
 ガウスと合流させなかったこと、そしてガウスも恐らく一人でこの城内の何処かで身柄を抑えられている可能性がある事も。
 
 そして、もしかしたら……誘拐事件自体も王国が起こしたものだとしたら。
 
 その理由は……ボスの息女であるミヤの身柄を抑えること。
 
 要するに人質として交渉材料にするつもりで。
 
 今頃は、組織の出店している区画にいる社員達も不当な扱いを受けているかもしれない。
 
 止め処なく溢れてくる想像でしかない、しかし可能性が無いとは言い切れない思考がクリアの頭に浮かんでは焦燥感を掻き立てる。
 
「どうかしら、『所有者ホルダー』の皆さん? 協力してくれると言うのであれば、手始めにこの右腕さんを一緒に無力化して欲しいのだけれど」
 
 ブルーの提案は、レッド達にとって有益なものだ。
 
 手を取らない理由を探す方が逆に難しいだろう。
 
 それでも。
 
 クリアは、期待してしまっていた。
 レッド達がこの提案を否定することを。
 
 理由はうまく説明できないが……レッド達、特にレッドがこの騙し討ちの様な形の提案を呑まないと、
クリアは今までの彼らの付き合いから期待してしまったのかもしれない。
 
「……いいでしょう。その手を組むという提案、呑ませてもらいます」
 
 そんなクリアの淡い期待を打ち砕いたのは、グリーンの返答だった。
 
 レッドとゴールドは納得していないのか、驚きと怒りが入り混じった表情でグリーンの顔に視線を向けた。
 
 特にレッドは「グリーン、お前……」と信じられないという気持ちを言葉に漏らした。
 
 グリーンの返事に満足気に頷いたブルーは、笑みを浮かべて何か言葉を発しようとした。
 
 が、その言葉を発する前にグリーンが先に口を開く。
 
「ただし、こちらも無条件での協力はしません」
 
 その言葉に、ブルーはキョトンとした表情でグリーンを見る。
 
「……何が望みか?」
 
 グリーンに言葉を返したのは、王だった。
 
 少しだけ険しくなった表情で返した王に、グリーンは物怖じせず返す。
 
「幾つかありますが。まず一つ、企業組織『ディールーツ』には、遺物回収に携わっていない、いわゆる表側の企業に何も知らない社員が大勢所属しています。
その者達を決して迫害しない事、『ディールーツ』が解体された場合に、その者達の生活を保障すること」
 
 ——グリーンさんは、『ディールーツ』の事をどこまで知っているんだろう。
 
 そう思えるほど、無関係な社員達の未来を保障する様な条件だった。
 
「次に、まともに正面切って手を切る宣言を行うには、クリアこの者とまともに戦えるかどうかを証明してもらいたいのですが。
……これまで何度か遺物回収にあたって戦闘を行なって来ましたが、この者は右腕を名乗るに値する強さを持っているもので」
 
「……今すぐにでもその首を刎ねて見せようか」
「無理でしょうね」
 
 即答したグリーンの言葉を信じたのか、打ち取れれば良し、ダメで元々なのか、王が手を上げて合図を出すと、一斉にクリアに向けられていた得物が各々襲いくる——。
 
 
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