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第34話 追跡
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本来なら、ここで声を出してしまったらヒカリとの通信がバレて追跡しにくくなってしまうと考えるべきだった……いや、普段のクリアならそう考えて我慢しただろう。
だが、大切な人に手を出されて平然としてられるほどクリアはまだ、大人ではなかった。
「……聞こえているか、愚か者。それ以上その娘達に手を出してみろ。『ディールーツ』クリアの名にかけて、地の果てまで追いかけてでも絶対に……潰す」
もし近くに一般人がいたならば、恐怖で足がすくみ暫く立つこともできなくなっていただろう。
それほど今のクリアから発された声に乗せられた怒りの気配は凄まじいものだった。
『なっ、この女通信道具を隠し持ってやがった!』
『しかもあの組織の関係者だったのか! ちぃっ、そいつをよこせ!』
最初に聞こえた男とは別の男の声と端末を叩きつけられた音を最後に、ヒカリの端末から人の声は聞き取れなくなった。
「絶対に許さない……」
怒りで思わず——石路に叩きつけられても壊れないぐらいには頑丈な——端末を握り潰しそうになるが、何とか堪えたクリアは最後にヒカリの端末があった場所を把握するため、もう一つ端末の機能を起動した。
それは『端末追跡』と呼ばれる、指定の『ディールーツ』が支給した端末の位置を割り出すことのできる——もちろんプライバシー保護のため、この機能を使われた側に通知が行き、相手側から発信を止めることができるが——機能だ。
クリアがこの機能を使えば、案の定ヒカリの端末は最後に別れた場所からそう遠くない場所で位置情報を発信していた。
一応別れる前に【どこからでもドア】で戻るために位置情報を確認しておいたのが不幸中の幸いだった。
何故なら、【端末追跡】は位置情報しか割り出せないので、地図と併用しないと正確な場所まで割り出せないからだ。
——恐らく、ボクが声を出してしまったせいでミヤの端末もそこにある。
自分の軽率な行動をやらかしてしまった事に対しての反省は後にするとして、あまりその場所から離れられる前に追いつかなければとクリアは早々に端末が示す地点へと【どこからでもドア】を使って移動した——。
「やっぱり二人とも端末を取り上げられて捨てられてたか……」
クリアが到着した地点には、白色とピンク色の端末が石路上に転がっていた。
その場所は前か後ろにしか行けない一本道の裏路地だったが、それなりに表街道から離れている場所で、一目ではどちらにヒカリ達が連れて行かれたのかわからない。
進んだ先にさらに左右に曲がれる十字路等の複雑な道があるならば、さらに厄介だ。
しかし、そんな状況でもクリアは慌てる事も無く。
ここ最近の訓練の成果である、より繊細なコントロールで自らの【力】を路地に這わせるように薄く前後両サイドに展開していく。
『トーライ』からの一件でさらに鍛え直したクリアは、コントロールの精密さ、そして展開できる【力】の量、保持できるエレメントの量を飛躍的に伸ばしていた。
それ故、今まで以上に展開できるようになった【力】を使い周囲の様子をより広範囲で調べることができるようになっていた。
展開した場所から得られる感覚や情報を一つも逃さないよう次々と慎重かつ高速で【力】を展開していくと。
——見つけた!
現在クリアの向いている方向から、石路に含まれないエレメントである〈木属性〉と〈金属性〉のエレメントの分子に【力】が触れた感覚をクリアは覚えたのだ。
〈木属性〉は恐らく先程聞こえた車輪を構成するエレメントだろうが、〈金属性〉のエレメントはいったい何を構成するものなのか。
〈金属性〉はもっぱら、武器の刃や鎧などに使用される物質として多様される属性でその名前から金属性から作られる物質の塊は金属と称される。
様々なエレメントとの組み合わせで色々な材質になるのが特徴なのだが。
——石路に直接触れる金属性のエレメント……? ダメだ、思いつかない。けど、こんなところに金属性のエレメントがあるなんて流石に不自然だ。
クリアは疑問を抱きながらも後方に展開していた【力】を体に戻しながら、触れている物の動きを阻害しない程度に【力】を這わせて纏わせていく。
粗方纏わせてその形を把握した時、クリアが抱いた感情は驚愕だった。
木属性の方から把握できたのは、荷台を布で覆って内部を出入り口からしか見ることができない構造の荷車だった。
そして金属性の正体は……この国が作った王国騎士が身に纏う鎧と同じ物だったのだ。
クリアとしては何かの間違いだと思いたかったが、逆にその鎧を纏っているなら確かに怪しまれることなくヒカリとミヤを誘導して捉える事も容易だったと納得できる。
この治安の良いと評判の国で何故こんな事が起こったのかは不明だが、誘拐犯達がこの成人の生誕祭に合わせての犯行計画を練っていたとしたら、もしかしたら数年前からこの機会を狙って騎士団に潜り込んだのかもしれない。
はたまた、悪名高き賊が何らかの手段で国に入り込み鎧を手に入れてしまったのか。
——国家ぐるみの犯行? いや、恐らくそれは無い。なら奴らの目的は……。
可能性はいくらでも思いついてしまう。
やはり、いくら治安が良いと言えどもヒカリ達を二人きりにしたのは良くなかったと思いながら、クリアは荷車の車輪の一部を吸収して、ヒカリ達の元へ急ぐのだった。
だが、大切な人に手を出されて平然としてられるほどクリアはまだ、大人ではなかった。
「……聞こえているか、愚か者。それ以上その娘達に手を出してみろ。『ディールーツ』クリアの名にかけて、地の果てまで追いかけてでも絶対に……潰す」
もし近くに一般人がいたならば、恐怖で足がすくみ暫く立つこともできなくなっていただろう。
それほど今のクリアから発された声に乗せられた怒りの気配は凄まじいものだった。
『なっ、この女通信道具を隠し持ってやがった!』
『しかもあの組織の関係者だったのか! ちぃっ、そいつをよこせ!』
最初に聞こえた男とは別の男の声と端末を叩きつけられた音を最後に、ヒカリの端末から人の声は聞き取れなくなった。
「絶対に許さない……」
怒りで思わず——石路に叩きつけられても壊れないぐらいには頑丈な——端末を握り潰しそうになるが、何とか堪えたクリアは最後にヒカリの端末があった場所を把握するため、もう一つ端末の機能を起動した。
それは『端末追跡』と呼ばれる、指定の『ディールーツ』が支給した端末の位置を割り出すことのできる——もちろんプライバシー保護のため、この機能を使われた側に通知が行き、相手側から発信を止めることができるが——機能だ。
クリアがこの機能を使えば、案の定ヒカリの端末は最後に別れた場所からそう遠くない場所で位置情報を発信していた。
一応別れる前に【どこからでもドア】で戻るために位置情報を確認しておいたのが不幸中の幸いだった。
何故なら、【端末追跡】は位置情報しか割り出せないので、地図と併用しないと正確な場所まで割り出せないからだ。
——恐らく、ボクが声を出してしまったせいでミヤの端末もそこにある。
自分の軽率な行動をやらかしてしまった事に対しての反省は後にするとして、あまりその場所から離れられる前に追いつかなければとクリアは早々に端末が示す地点へと【どこからでもドア】を使って移動した——。
「やっぱり二人とも端末を取り上げられて捨てられてたか……」
クリアが到着した地点には、白色とピンク色の端末が石路上に転がっていた。
その場所は前か後ろにしか行けない一本道の裏路地だったが、それなりに表街道から離れている場所で、一目ではどちらにヒカリ達が連れて行かれたのかわからない。
進んだ先にさらに左右に曲がれる十字路等の複雑な道があるならば、さらに厄介だ。
しかし、そんな状況でもクリアは慌てる事も無く。
ここ最近の訓練の成果である、より繊細なコントロールで自らの【力】を路地に這わせるように薄く前後両サイドに展開していく。
『トーライ』からの一件でさらに鍛え直したクリアは、コントロールの精密さ、そして展開できる【力】の量、保持できるエレメントの量を飛躍的に伸ばしていた。
それ故、今まで以上に展開できるようになった【力】を使い周囲の様子をより広範囲で調べることができるようになっていた。
展開した場所から得られる感覚や情報を一つも逃さないよう次々と慎重かつ高速で【力】を展開していくと。
——見つけた!
現在クリアの向いている方向から、石路に含まれないエレメントである〈木属性〉と〈金属性〉のエレメントの分子に【力】が触れた感覚をクリアは覚えたのだ。
〈木属性〉は恐らく先程聞こえた車輪を構成するエレメントだろうが、〈金属性〉のエレメントはいったい何を構成するものなのか。
〈金属性〉はもっぱら、武器の刃や鎧などに使用される物質として多様される属性でその名前から金属性から作られる物質の塊は金属と称される。
様々なエレメントとの組み合わせで色々な材質になるのが特徴なのだが。
——石路に直接触れる金属性のエレメント……? ダメだ、思いつかない。けど、こんなところに金属性のエレメントがあるなんて流石に不自然だ。
クリアは疑問を抱きながらも後方に展開していた【力】を体に戻しながら、触れている物の動きを阻害しない程度に【力】を這わせて纏わせていく。
粗方纏わせてその形を把握した時、クリアが抱いた感情は驚愕だった。
木属性の方から把握できたのは、荷台を布で覆って内部を出入り口からしか見ることができない構造の荷車だった。
そして金属性の正体は……この国が作った王国騎士が身に纏う鎧と同じ物だったのだ。
クリアとしては何かの間違いだと思いたかったが、逆にその鎧を纏っているなら確かに怪しまれることなくヒカリとミヤを誘導して捉える事も容易だったと納得できる。
この治安の良いと評判の国で何故こんな事が起こったのかは不明だが、誘拐犯達がこの成人の生誕祭に合わせての犯行計画を練っていたとしたら、もしかしたら数年前からこの機会を狙って騎士団に潜り込んだのかもしれない。
はたまた、悪名高き賊が何らかの手段で国に入り込み鎧を手に入れてしまったのか。
——国家ぐるみの犯行? いや、恐らくそれは無い。なら奴らの目的は……。
可能性はいくらでも思いついてしまう。
やはり、いくら治安が良いと言えどもヒカリ達を二人きりにしたのは良くなかったと思いながら、クリアは荷車の車輪の一部を吸収して、ヒカリ達の元へ急ぐのだった。
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