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アナザーストーリー
閑古鳥のなかに飛んで入る根暗
しおりを挟む“スナック・パンジー”は雨のせいか閑古鳥が鳴いていた。
そういった場所に縁のない私でもわかる、煌びやかな内装とは裏腹に手狭な店内、それでいって誰ひとりと客は無く。
店のママと思しき六十代ほどの女性とホステスと思しき二十代ほどの女性ひとりが店内の掃除をしていた。
先に私の存在に気づいたのはやはりと言うべきか、六十代ほどの女性のほう。
彼女は掃除する手を止めると私のほうへと身体ごと向き直って、
『ようこそ、“スナック・パンジー”へ。
わたくしはママの直子と申します』
と名刺を差し出してくれた。
そうこうとしているうちに私は直子さんともうひとりの女性に挟まれる形でソファーに腰かけて。
緊張で顔もろくにあげられない私に寄り添うような形で二十代ほどの女性が穏やかな声で
『こういったところは初めてですか?
私は春美って言います。
よろしくね』
と膝に置いたままの私の手の上から自分の手を重ねて囁いてくれた。
仕事だと頭ではわかっていても心臓は跳ねあがるばかりで。
結局その日はただウーロンハイを一杯だけいただいて何を話したのか覚えていない状態でその場を後にして。
一体自分は何を話したのか記憶がないままに帰宅した私の心持ちは重かった。
何故なら八雲様にどう言い訳をしたものかと悩んだからだ。
だが、結論から言うとそれは杞憂に終わった。
『大山~。行ってきてくれてありがとぉ♡
これからも“スナック・パンジー”に通ってね!』
そう、社に戻って対面した八雲様は上機嫌だった。
それも私に抱きついて頬擦りするほどに。
『やめてください、八雲様。
女神ならともかく男神である貴方にそんなことされても少しも嬉しくありません』
『あれぇ?大山、ちょっとお酒臭くなぁい?
あ、そっか。スナックだもんねー』
私が嫌味と言うにはありありと嫌がってみせたら八雲様はますます面白がって、結局茶一様が止めてくださるまで私は八雲様に揉みくちゃにされてた。
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