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第七章 サダルア編

第七十六話 ゴミ勇者

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 ――サダルアに向かうことになった俺たちは、兵士達に促されるまま近くにスタンバイしていたリムジンへと案内される。

 当然、これまでの人生でリムジンに乗ったことはおろか、リムジンで送迎してもらえるなんてVIP待遇を受けたことがない。

 そんなわけで、アホみたいに浮かれた俺は神妙な表情を浮かべる仲間たちをよそに、奇声を上げながら飛び込むように乗り込んだ。
 
 その道中、立ち並ぶ建築物なんかを眺める機会があったんだが、これまで訪れた街とはだいぶ雰囲気が違っていた。
 というのも、これまでといったらゴリッゴリの現代日本風な建物ばかりだったが、この街は全体的にレンガ造りでいかにも中世ファンタジーっぽい。

 これだけで安上がりな俺のテンションはギュンッ!と急上昇する。

 で、城も同じような中世のような雰囲気で、しかもめちゃくちゃ豪華でデカい。この世界で一番最初に見た、俺が召喚された城にも引けを取らないインパクトがあった。
 城の前に到着した俺たちは間抜け面で城を見上げながら、4人揃って「ほえ~~~」と気の抜けた声を漏らした。

 ……兵士たちが「何だこいつら」みたいな顔で見てくるが、そんなことは気にしない。

 そんなわけで城の中へと案内され、俺たちは謁見の間みたいなところに通された。

 このだだっ広く豪華な装飾が施された部屋の一番奥に、これまたギラギラとした玉座のようなデカイ椅子が置かれている。

 そして、その椅子にどっかりと腰掛けている人物の前まで通された。

 「――おお、ソチたちが勇者か。……構わん、もう少し寄れ。余がこの国の皇帝サダイナーガである」

 皇帝を名乗った初老の男性は、シンプルな王冠を頭に乗せ、服装もこれといって派手ではない。
 しかし、左目を覆い隠す眼帯と、こちらを射抜くような右目の眼光に気圧されて、無言で見つめ返すくらいしか出来なかった。

 どこぞの伝説の兵士を彷彿とさせるその佇まいと目力に、チキンハートの俺は一瞬で石像のように硬直してしまう。

 これまでもたくさんの実力者と出会ってきたが、対面した時の迫力はその中でも一番かそれ以上かもしれない。

 まさに蛇に睨まれた蛙状態になった俺。

 ……なんか、似たような場面になると、ことある事に固まってる気がする。

 だが、そんな俺などお構い無しで、皇帝は嬉々とした表情で語り始める。

 「この国は、魔法や特殊能力が優れた者について他所の国以上の待遇でもてなす。まさに、力を持つ者の理想郷である。……その理想郷に、真の強者が訪れたことがないというのは、どうにも悲しい話ではないか。なぁ?数多の魔王軍幹部を打ち倒した勇者よ」
 
 「は、はあ……」

 緊張と困惑が入り混じった相槌を打つ。

 『力を持つ者の理想郷』……。そんなところに俺、いていいんですかね……?
 それに、皇帝の話を聞いてみて、なんだかよく分からないがもやもやと嫌な予感がし始める。
 デイモスとヴェルデも緊張のせいなのか、あるいは同じように何か感じているのか、いつもより表情が硬い。
 ダリルはクッソ興味無さそうな顔で周囲を眺めてた。……強心臓すぎない?

 皇帝は話を続ける。

 「これまでソチ達、勇者が収めてきた功績は『人類を脅かす魔王軍、その幹部と呼ばれる者達の討伐』。これは紛れもなく人類史に残る偉業である。よって、サダルア帝国はここに褒美を取らせよう。さあ、何を望む?申してみよ」

 「金が欲しいです」
 「金が欲しいです」
 「金が欲しいです」
 「金が欲しいです」

 「………………」

 これには皇帝も分かりやすくドン引きである。

 だって、欲しいものは欲しい。
 ……「他に頼む物があるだろ?」とか「褒美と言われて金は安直すぎ」などの異論は認めん。

 「わ、分かった。ではそれぞれに渡す金を準備しておこう。……さて、話は変わるが、実はソチ達に見てもらいたいものがあってな」

 もう、明らかに本題そっちだろと思ったが、グッと言葉を飲み込んだ俺、偉い。

 皇帝が言うと同時に、入口の扉が開いて何だか巨大な物体が安っぽい台車に載って運ばれてくる。

 どっかのバラエティ番組臭がプンプンするが、それはこの際どうでもいい。
それは、パッと見た感じ巨大な水晶の塊だった。……じっと見ても水晶の塊だったけども。

 ただ、その大きさが半端ない。

 大きさは俺の身長の2倍以上はあり、大体4メートルくらいか。近くで見るとこれまた結構迫力がある。

 ただ、ぶっちゃけそれだけだ。でかくて綺麗なだけでそれ以上特筆すべきことはない。

 一体なぜこれを見せてきたのか分からない俺とデイモス、ダリルは眺めながら首を傾げる。
 しかし、ヴェルデだけは目をキラキラ輝かせながらその水晶を見つめている。

 そんな俺たちに対し、皇帝は

 「これは、この世でたったひとつしかないと言われる『魔力を測定する魔道具』だ。ソチにはこれを試してもらいたい。魔王軍幹部を超える実力者が一体どれほどのものなのか見てみたいのだ」

 『魔力を測定する魔道具』……ですか……。

 俺たちは思わず顔を見合わせる。
 ……ヴェルデだけは、水晶にへばりつくくらいの勢いで隅々まで観察しながら「うわあ!これがあの伝説と呼ばれた魔道具ですか!?」とか何とか大声を上げている。
 ……このモードに入ってしまったダリルは、しばらく治まらないのでこのまま放置して進めることにした。

 まあ、本当だったらようやく異世界らしいアイテムが出てきたということで、
 「やったああああああああ!!ついにきたあああああああ!!俺はこれを待ってたんだよ!!!」
 なんて、どこかの誰かと一緒に発狂しながら歓喜していたと思うのだが、いかんせん今の状況があまりにもヤバすぎる。

 ぶっちゃけ、そんな測定しなくてもすでに結果は分かってる。能力どころか魔力なんてものは微塵もない。
 
 ……もしも、主人公補正なんていうものがあったなら、きっと俺が触れた途端に水晶は砕けて

 『そ、測定不能だと……ッ!?』
 『す、凄い……!さすが勇者様!!』
 『素敵!抱いて!』
 『……え?また俺何かやっちゃいました?』

――の、一連の流れを披露するイベントだったに違いない。

 しかも、この国は能力を持ってなかったり、魔法を使えない者を人間とすら思わないって話じゃん?

 逆に、チート能力持ってる主人公なら特別待遇は間違いなしなわけで。

 かたや絶体絶命ですよ。現在進行形で。

 ……なるほどね、能力の有り無しでこんなに状況って変わるもんなんですね。

 「まさかこの最悪なタイミングで、最も期待してたアイテムが出てくるんだもんな。俺、マジで何かヤバめの存在に目を付けられてるか、呪われてるかもしれん」

 誰にも聞こえないくらいの声で思わず呟く。

 とりあえず、この場から逃げなければ……!
 
 この時ばかりは珍しく以心伝心が完璧に出来ていた俺たちは、顔を見合せたまま小さくこくりと頷いた。

 大丈夫、言い訳なら任せとけ。
 俺は悪巧みと煩悩にリソースを95%以上割かれてるカスカス脳みそを、手回し充電器のように必死こいてギュンギュン動かしながら口を動かす。

 「皇帝陛下、申し訳ありませんが――」

 「――なに、手をポンと置くだけだ。そこまで手間もかかりはせぬ。……余がここまで言っておるのだぞ?」

 うおい!!まだ『申し訳ありません』しか話してないが!?
 なんすか?拒否権はなしっすか?そうですかそうですか。
 
 だけど、俺が手を置く訳には行かない。

 こうなりゃ誰かに代わってもらうしかない。……この中だと、間違いなくダリルが魔力量はずば抜けているだろう。

 俺はダリルに「代わりにやってくれ!」という思いを目に込めながら目配せをするが、

 「余は勇者の力が見たいのだ。……脅すつもりは無いのだが、余は気が長い方ではないのでな。カッとなってしまったらうっかり殺してしまうかもしれん」

 先手打たれちゃった。やべぇ、皇帝激おこだよ。だって目ェ血走ってるもん。青筋ビキビキ浮いてるもん。
 ただでさえ迫力あった顔がさらに凄み増してるもん。
 それに俺ら、仮にも客人ですよね?バチバチ脅してくるじゃん。

 ……これはもう、やるしかない。これ以上刺激するのはマジでヤバそうだ。

 「分かりました、やりましょう」

 膝をガクガク震わせながら水晶へと近付く。
 手が届く距離まで来ると、改めてその大きさと美しさに驚くが、そんなのは一瞬。もう頭の中はそれどころじゃない。

 尋常じゃないくらい震えている手を前に出し、水晶にゆっくり近づける。

 頼む!!

 頼む!!

 俺は俺の中に秘められた僅かな可能性に賭ける!!

 本当は何か伝説の力が隠されているんだけど、水晶には全て見通されていて、英雄とかと同等の数値よ、出てこいッッッッ!!!!!

 『【判定:ゴミ】』

 静まり返る部屋の中。

 張り詰めた空気と刺すような視線が俺の背中に突き刺さる。

 俺は引き攣る笑顔を浮かべながら、錆び付いたブリキ人形のようにギギギとゆっくり仲間に振り返った。

 「……悪ぃ。俺、死んだ」

 その時の、仲間の唖然とした顔が頭から離れない。


 ――そうして、俺たち勇者一行はたった二文字の判定によって死刑を宣告されることとなった。
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