チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第四章 ハルマ編

第三十六話 隠蔽

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 「お前が『勇者』だと……?」


 何だか厳つい顔に加えてスキンヘッドという、随分強面な男がそう言った。

 それになんだかここにいる人達が、物凄く訝しげな顔でこちらを見てくる。

 ドッデ村の時は砕けた感じで行って大失敗したから、今回はいかにも勇者っぽい態度で行ってみたんだが……。どうやら今回もファーストコンタクトは失敗のようだ。

 だがそんな事を、いつまでも気にしてはいられない。


 「あぁ、そうだ。先日起こったドッデ村でのドラグノフ討伐。その件で俺は『勇者 山田太郎』として魔王軍の巨大なドラゴン、竜王ドラグノフ討伐に大きく関わっている!」


 俺は腕を組んで仁王立ちをし、背後にドン!という効果音が現れんばかりの勢いでそう言い放った。

 しかし、スキンヘッド男の表情は変わらない。


 「そんな人物の名前は記録には無い!……いや待てよ、【貧困】の発言の事もある。この段階で決めつけるのは早計か……。おい、お前。その事件に関与したという証拠は出せるか」


 証拠の提出を求めるスキンヘッド男。

 だが、これも想定内。俺は慌てず淡々と答える。


 「証拠か。それならば、討伐隊のベルドルム・ボックス隊長に確認を取ってみる事だな。『勇者、山田太郎』の名を出せば分かるはずだ。彼なら全てを正直に伝えてくれるだろう。……なんなら、俺が直接話をしようか?」


 「いや、それは出来ない。事実確認はこちらで行う」


 「そうか、なら良いんだ」


 伝えたい事を言い終えると、息継ぎを挟んで話を続ける。


 「さて。それでは君達が確認を取るまでの間、俺達は……この街にある『勇者公園』で待つ事にしよう。あまりグダグダと話し合っていられるほど、時間に余裕がある訳では無いのでね。出来る限り急いで判断して貰えると、そちら側も、こちら側としても互いに得策だと思うがね」


 俺はそれだけを伝えると「英断を期待しておこう」と言い残し、くるりと踵を返してテントを後にした。


 そうしてテントから出て一、二歩歩いたところで後ろからむんずと肩を掴まれる。それに俺は反応し、スっと振り向く。


 「おい太郎!あれで本当に良いのか?いくらなんでもあの対応はまずいんじゃないのか?」


 「……私もそう思いました。あれでは『突然現れた男が妄言を語るだけ語って去っていった』と取られてもおかしくないです」


 デイモスとヴェルデは、眉間に皺を寄せた渋い表情でそう言った。

 だが俺は表情を崩さない。


 「だからどうした。あの程度で奴等が後退りするようなら、所詮その程度だったということ。それに、事実すらまともに把握出来ないような組織に未来など無い。奴等に頼らずとも他に方法はいくらでもある」


 「……いつまでその口調でいるんだ?もう戻ってもいいと思うぞ」


 「あ、そう?じゃあそうする」


 デイモスの声掛けで、俺は身体に入っていた緊張を一気に解す。

 首をグイグイと動かして関節を鳴らす。パキパキという小気味よい音が鳴った。


 「まぁそんなわけで。ちゃんと色々考えてはいるから、とりあえず大丈夫だって!こう見えても悪知恵だけは常にフル稼働してるからさ!……それじゃあ公園に行く前に、ちょっとだけ寄りたい所があるんだけど良い?その途中で歩きながら説明するから」


 「……はぁ、分かった。けど、ちゃんと説明してもらうからな」


 「私もそれで良いですよ!」


 「よし!それじゃあ早速行こう!」


 

 ◆◆◆◆


 

 「――あぁ、ようやく繋がったか。俺だ、ゲザブラートだ。久しぶりだな、ベルドルム」


 ゲザブラートと名乗ったスキンヘッドの男――第5討伐隊の隊長が、小型の遠距離通信用の魔道具を用いて連絡を取った。


 『あ、あぁそうだな。……じゃない!お前のところに今【貧困】が来ているはずだろ!こっちも割とまずい事になってるんだから、そっちはもっと大変な状況だろう!?』


 通信機越しに聞こえてくるベルドルムの声は、いつもの冷静な感じではなく非常に慌てているようだった。そして周りの騒がしい音も入ってくる。前の会議で副隊長が話していた事がふと頭をよぎった。


 「確かに危機的状況だ。だからそれを解決する為に今お前と通信を取っているんだ。……あまりグダグダと長話をするのは嫌いだ。時間も無いしな。単刀直入に聞こう。『勇者 山田太郎』を知っているか?」


 「………ッ!どうしてそれを……!?まさか、この短時間で調べたのか!」


 「いや、まだ調べていない。調べる前にその本人……本人と思われる人物が、直接拠点に乗り込んできたんだ。だが、我々もそう簡単に判断することは出来ない。その旨を伝えると彼は『だったらベルドルムに確認してみろ』ときた。……実はあまり信じてはいなかったんだが、お前のその動揺した反応を聞く限り、嘘じゃないみたいだな」


 「……そうだ。ドッデ村を襲撃したドラゴン、魔王の配下を名乗った『竜王ドラグノフ』の討伐、あの事件は彼の活躍がなければ最悪の結末になっていた」


 「なんだと?そんな話は聞いた事が無いぞ!その事件に関するものはあらかた調べたが、そんな人物の名前は無かった!あったのはベルドルム、お前の名前だけだった!……まさか、お前に限ってそんな事は無いだろうとは思うが、一つ聞きたい」

 
  ゲザブラートは一旦小さく呼吸を整えた。

 

 「その話が事実であれば、『山田太郎』という人物はまさに『勇者』の称号を名乗るに相応しい。ましてドラゴンを相手に大勢の村の人々を救ったとあれば、彼は歴史上に名を残す偉大な人物として語り継がれただろう。……お前は……いや、『第3討伐隊隊長、ベルドルム・ボックス』、貴様はその人物の活躍を隠蔽し、己の手柄としたという事か」


 その言葉ひとつひとつは終始乱れることは無かったが、それでもなお伝わるほどの強い怒気がそこには込められていた。

 通信機の向こうからはベルドルムの声と、周囲の騒音は聞こえなくなっていた。会話をしながら場所を変えたのだろう。

 長い沈黙が続く。

 先に痺れを切らしたのはゲザブラートだった。


 「黙っていても状況は好転しないぞ。何かあるのであれば言ってみろ。それとも、その沈黙を答えと受け取ればいいのか?」


 「……これを知られたのがゲザブラート、お前で本当に良かった」


 ようやく聞こえてきた声は、やっと絞り出した、か細く、何かに安堵しているように感じた。


 「どういう意味だ」


 「お前に全てを話す。だが、その前にひとつだけ聞かせてくれ。……ゲザブラート、魔法や特殊能力が使えない者が虐げられるこの世界をどう思っている?」

 

 全く予想していなかった部分からの質問に、ゲザブラートは思わず面食らった。


 「……は?それと今の話に何の関係があるというんだ?全く別の問題じゃないか。話を逸らすつもりか?」


 「違う、この質問はこれから話す内容と大いに関係がある。……ゲザブラート、お前はどう思っているんだ?」


 これを受けたゲザブラートはしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


 「……俺は、この現状が正しいとは思っていない。その事をお前は知っているはずだ。なんせ最初にお前と知り合ったきっかけがこれに関する事だったからな。……何故、改めて聞く?」


 この返答を聞いたベルドルムは、覚悟を決めたように小さく深呼吸をした。

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