チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第二章 ドッデ村編

第十六話 ドラゴンスレイヤー

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 「おのれェェェェェ!!この外道勇者がアアアァァァ!!」


 ドラグノフは悲鳴にも似た叫び声を上げるが、そんなの知ったこっちゃない。

 構わずショベルカーは前進を続ける。

 キュルキュルとキャタピラー特有の金属音と、エンジンの爆音を轟かせてショベルカーは穴へと近付いていく。

 そして、ギリギリまで近付いたところでショベルカーは停止した。

 3台の動きが止まったことを確認した俺は、手を振って合図を出した。


 「それじゃあ、お願いしまーす!!」


 合図を確認したショベルカーの操縦者達は、周囲の土を掘り起こし、それを穴の中へと次々に入れていく。

 その間、ずっとドラグノフの怒号が聞こえていたが、しばらくすると何も聞こえなくなった。

 少し時間はかかったが、ドラグノフの姿が完全に土に隠れたのを確認して、俺と隊長は距離を取る。

 そして、俺と隊長の二人が充分に距離を取った事を確認した後、


 「……ポチッとな!」


 そうしてスイッチを押した瞬間、けたたましい爆音が響き渡り、それに続いて土が火山の噴煙のように空中に噴き上がる。

 その噴き上げられた土が雨のように俺達に降り注いできた。

 俺は咄嗟に頭をジャケットで覆って、土から身を守った。


 「いででででで!!いだっ、いだい!!」


 ……まぁ、防げたのは土だけで小石やそこそこでかい石は四方からバンバンぶつかってきたけれど。


 しばらくして土砂の雨も止み、俺はドラグノフの生死を確認しようとするが、穴から立ちのぼる煙で判断が出来ない。

 それを歯痒く思っていると、


 「やったか!?」


 森の方から、フラグとしか思えない発言が聞こえてきた。

 これには思わず俺も声を荒らげる。


 「おい、誰だ!露骨にフラグ立てたの!今の絶対わざとだろ!」


 そんな事を言っているうちに少しずつ煙が晴れていき全体が見えてきた。

 穴の周囲の地面は深く抉れて、クレーターのようになっている。この惨状だけで、あの爆弾がどれ程の威力を持っていたのかを窺い知る事が出来る。

 そして、その中心には未だにスライムガムにくっついたまま身動きが取れないドラグノフがいた。

 体表は魔法と爆弾によって焼き焦がされてボロボロになっていたが、腹部が一定の間隔で動いている事から生きている事が分かった。


 「……これでも倒せないのか」


 一見すると絶望的な状況だが、隊長のその声や目からは落胆は感じない。それどころか、より一層声に力が入っているように感じる。


 彼はまだ諦めてはいないのだ。

 勿論、俺もまだまだ諦めちゃいない。


 ドラグノフは全身の筋肉を隆起させ、力を入れて何とか抜け出そうとしている。

 無駄な抵抗を、と一瞬思ったがすぐにドラグノフの狙いが分かった。


 (……こいつ、くっついてる岩盤ごと剥がすつもりか!)


 落とし穴の底はかなり頑丈な岩盤で出来ており、その岩盤の上にスライムガムを仕掛けていた。

 しかし、爆発で脆くなった岩盤を、ドラグノフは爪を立てて踏ん張る事で粉砕しようとしている。

 徐々にドラグノフの足元の岩盤に出来たヒビが大きくなっていく。


 (これだけのダメージを与えて、まだこんな力があるのかよ……)


 俺がそんな事を考えていると。


 「ふ、ふふふ!ふーはははははは!この我がここまで追い詰められたのは数十年……いや、100年ぶりくらいか!良い!良いぞ!……だが、どうやらここで万策尽きたようだな?残念だ。あと一撃、強力な攻撃を食らっていたら流石の我も力尽きていただろうに。さあ!次は我の番だ!」


 凄まじい殺意によってギラついた目で俺を睨みつけるドラグノフは、尚も隆起させた全身の筋肉の力を脚へと向けて立ち上がろうと試み続ける。

 その様子を見ながら俺はあっけらかんとしてドラグノフに語る。


 「って思うでしょ?俺もこれだとギリギリ倒し切れないだろうな~とは思ってた。まあ、それはあくまで最悪の状況として考えてたんだけど」


 「………何が言いたい?」


 「最悪の状況を想定しておいて、なんにも対策してない訳がないじゃんって事。当たり前だろ?……とはいってもこれから何が起こるか分からないだろうから……そうだなー、特別にちょっとしたクイズをしようか。これに答えられたらこの先の作戦の一切合切を全部教えてやるよ」


 「そんな言葉で我が揺らぐとでも思って――」


 しかし俺はドラグノフの話を途中で遮る。


 「だったら無視してくれて構わねぇよ?ただ、お前の勝てる確率はさらに下がるだけだ。……安心しろよ、俺だってこの状況で嘘はつかねぇよ。……ほら、本当は聞きたいんじゃないのか?この絶体絶命の状況を覆せるかもしれないぜ?」


 「くっ……貴様ァ……!!」


 悔しげに喉を唸らせるドラグノフ。

 それを見て俺は口元を歪める。


 「決まりだな。それじゃあ問題!俺達は一番最初にお前にどんな攻撃をしたか覚えてるか?」


 「最初の攻撃?……それがどうした。一体何の関係がある?」


 「まぁまぁ、いいからいいから。それじゃあシンキングタイムを10秒あげよう。はい、いーち。にーい………」


 俺がそうして数えている間もドラグノフの全身には力は入ったままであった。

 しかし、俺に気を取られているせいなのだろう、地面に次々と入っていたヒビがピタリと止まっていた。


 そしてたっぷり10秒数え終わった俺はドラグノフへと問いかける。


 「さあ、時間だ!答えを聞こう!」


 「………魔法、だ。貴様らは最初に不意打ちで、この我に魔法攻撃を仕掛けてきた」


 「おっ、正解!それじゃあここまで言っても分からない勘が悪いドラグノフ君に最期にもう一問!」


 俺は人差し指をピンと立て、ドラグノフに向かって突き出す。


 ―――俺のその動作とほぼ同じタイミングだった。

 深紅に輝く魔法陣がひとつ、ドラグノフの真上に出現した。


 それを俺と隊長、そしてドラグノフが同時に魔法陣を見る。それを見上げたドラグノフは、一瞬だけ狼狽したような表情を見せた。

 それを確認した俺は、満を持して最期の質問を投げ掛けた。


 「最初に使った魔法の二発目のチャージが完了するまで、あと何秒かかるでしょうか?」


 俺が言い終えたその瞬間、たったひとつの深紅の魔法陣の真上に、ほんの瞬き程度の一瞬で様々な色に輝く魔法陣が数え切れないほどに展開されていく。


 本日2度目の魔法陣の塔である。


 そう言って俺はドラグノフに向かって邪悪な笑みを浮かべ、どうだと言わんばかりに両手を大きく広げた。


 「さぁ、これが俺達の作戦の全てだ。……言ったろ?約束は破らねぇって」


 ――俺が充分に魔法のチャージ時間を稼ぎ、頃合いを見て合図を出す。今回は『立てた人差し指をドラグノフに向けて突き出す』が合図だった。それを周囲に潜伏している魔法使い達が確認し次第、魔法による一斉攻撃を開始する――。


 大雑把な作戦だ。

 成功の確率も高くなかった。

 まさに博打のような作戦だったが、これまでの行動全てがこれ以上ないほど上手く噛み合った。その結果が、今俺の前に鮮やかに輝いている魔法陣として現れた。


 一瞬の沈黙の後、ドラグノフは大声で笑った。


 「フハハハハハハ!!馬鹿め!その距離なら貴様らも巻き添えになるぞ!もはや、今からでは逃げ切れまい!さあ!共に生命を散らそうぞ!……いや、我はもうすぐここから抜け出せる!直撃を避けることが出来れば、我は生き残れる!残念だったな!」


 更に筋肉を隆起させ、全身から蒸気を放ちながら、全力で地面を砕かんとする。

 ドラグノフの言う通り、足元の岩盤には複数の細かい亀裂が走っており、もうあまり持ちそうにない。

 あと1分間持つか、持たないか。

 だが、それで充分だった。


 「残念、散るのはお前の生命だけだ。隊長、頼む」

 「了解。『エアデス』」


 隊長と俺の足元に、二人の体がスッポリ埋まるぐらいの穴が一瞬で出来上がった。

 穴の中からそれを察したらしいドラグノフは、全身から動揺や怒り、憎しみなど、俺のこれまでの人生で感じたことがないほどの負の感情が発せられている。


 「時間稼ぎも終わったことだし!あとは、この穴の中に隠れて魔法が発動するのを待つ事にしよう!それじゃ」


 それだけを伝えて、俺と隊長は穴の中へと入り、最後に穴を魔法で塞いだ。


 「おのれ…おのれおのれおのれおのれおのれおのれェェェェェ――――!!!」


 怒りや憎しみなど様々な感情が混ざったドラグノフの断末魔の叫びは、その直後に発動した本日2度目の『魔法陣の塔』の爆発音に掻き消されていった―――。



 ◆◆◆◆



 その爆発音もやがて止まり、今聞こえる物音は俺と隊長の呼吸音のみ。

 異様な緊張感から沈黙に耐えきれなくなった俺は、隊長に話しかける。


 「……そろそろ出ても大丈夫じゃない?」


 「あぁ、恐らくはな」


 「じゃあ出ようか。悪いけどさっき『エアデス』で閉じた上を開けてくれ」


 「分かった、『エアデス』」


 隊長がエアデスを唱えると、天井の土がまるで液体のようにドロリと溶け、周囲の土の壁の中へ浸透していくように消えていった。

 そうやって開いた穴からぶはっと勢い良く顔を出し、新鮮な空気を吸い込む。

 別に中が息苦しかったわけではなかったのだが、薄暗く狭い空間から外に出た事でつい反射的に大きく息を吸い込んだ。


 だが、俺が外に出て得られたものはそれだけではなかった。


 「「「やったあああああああ!!ドラグノフを倒したあああああああ!!」」」


 魔法使い達の大きな大きな歓喜の雄叫びを全身に浴びた俺は、そこで初めて俺達があの強大な敵に勝利する事が出来たのだと知り、安堵からどっと全身の力が抜けていくのが分かった。

 そうして今たっぷり吸い込んだ空気を、緊張と共にゆっくりと吐き出すのだった。

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