16 / 81
第二章 ドッデ村編
第十六話 ドラゴンスレイヤー
しおりを挟む
「おのれェェェェェ!!この外道勇者がアアアァァァ!!」
ドラグノフは悲鳴にも似た叫び声を上げるが、そんなの知ったこっちゃない。
構わずショベルカーは前進を続ける。
キュルキュルとキャタピラー特有の金属音と、エンジンの爆音を轟かせてショベルカーは穴へと近付いていく。
そして、ギリギリまで近付いたところでショベルカーは停止した。
3台の動きが止まったことを確認した俺は、手を振って合図を出した。
「それじゃあ、お願いしまーす!!」
合図を確認したショベルカーの操縦者達は、周囲の土を掘り起こし、それを穴の中へと次々に入れていく。
その間、ずっとドラグノフの怒号が聞こえていたが、しばらくすると何も聞こえなくなった。
少し時間はかかったが、ドラグノフの姿が完全に土に隠れたのを確認して、俺と隊長は距離を取る。
そして、俺と隊長の二人が充分に距離を取った事を確認した後、
「……ポチッとな!」
そうしてスイッチを押した瞬間、けたたましい爆音が響き渡り、それに続いて土が火山の噴煙のように空中に噴き上がる。
その噴き上げられた土が雨のように俺達に降り注いできた。
俺は咄嗟に頭をジャケットで覆って、土から身を守った。
「いででででで!!いだっ、いだい!!」
……まぁ、防げたのは土だけで小石やそこそこでかい石は四方からバンバンぶつかってきたけれど。
しばらくして土砂の雨も止み、俺はドラグノフの生死を確認しようとするが、穴から立ちのぼる煙で判断が出来ない。
それを歯痒く思っていると、
「やったか!?」
森の方から、フラグとしか思えない発言が聞こえてきた。
これには思わず俺も声を荒らげる。
「おい、誰だ!露骨にフラグ立てたの!今の絶対わざとだろ!」
そんな事を言っているうちに少しずつ煙が晴れていき全体が見えてきた。
穴の周囲の地面は深く抉れて、クレーターのようになっている。この惨状だけで、あの爆弾がどれ程の威力を持っていたのかを窺い知る事が出来る。
そして、その中心には未だにスライムガムにくっついたまま身動きが取れないドラグノフがいた。
体表は魔法と爆弾によって焼き焦がされてボロボロになっていたが、腹部が一定の間隔で動いている事から生きている事が分かった。
「……これでも倒せないのか」
一見すると絶望的な状況だが、隊長のその声や目からは落胆は感じない。それどころか、より一層声に力が入っているように感じる。
彼はまだ諦めてはいないのだ。
勿論、俺もまだまだ諦めちゃいない。
ドラグノフは全身の筋肉を隆起させ、力を入れて何とか抜け出そうとしている。
無駄な抵抗を、と一瞬思ったがすぐにドラグノフの狙いが分かった。
(……こいつ、くっついてる岩盤ごと剥がすつもりか!)
落とし穴の底はかなり頑丈な岩盤で出来ており、その岩盤の上にスライムガムを仕掛けていた。
しかし、爆発で脆くなった岩盤を、ドラグノフは爪を立てて踏ん張る事で粉砕しようとしている。
徐々にドラグノフの足元の岩盤に出来たヒビが大きくなっていく。
(これだけのダメージを与えて、まだこんな力があるのかよ……)
俺がそんな事を考えていると。
「ふ、ふふふ!ふーはははははは!この我がここまで追い詰められたのは数十年……いや、100年ぶりくらいか!良い!良いぞ!……だが、どうやらここで万策尽きたようだな?残念だ。あと一撃、強力な攻撃を食らっていたら流石の我も力尽きていただろうに。さあ!次は我の番だ!」
凄まじい殺意によってギラついた目で俺を睨みつけるドラグノフは、尚も隆起させた全身の筋肉の力を脚へと向けて立ち上がろうと試み続ける。
その様子を見ながら俺はあっけらかんとしてドラグノフに語る。
「って思うでしょ?俺もこれだとギリギリ倒し切れないだろうな~とは思ってた。まあ、それはあくまで最悪の状況として考えてたんだけど」
「………何が言いたい?」
「最悪の状況を想定しておいて、なんにも対策してない訳がないじゃんって事。当たり前だろ?……とはいってもこれから何が起こるか分からないだろうから……そうだなー、特別にちょっとしたクイズをしようか。これに答えられたらこの先の作戦の一切合切を全部教えてやるよ」
「そんな言葉で我が揺らぐとでも思って――」
しかし俺はドラグノフの話を途中で遮る。
「だったら無視してくれて構わねぇよ?ただ、お前の勝てる確率はさらに下がるだけだ。……安心しろよ、俺だってこの状況で嘘はつかねぇよ。……ほら、本当は聞きたいんじゃないのか?この絶体絶命の状況を覆せるかもしれないぜ?」
「くっ……貴様ァ……!!」
悔しげに喉を唸らせるドラグノフ。
それを見て俺は口元を歪める。
「決まりだな。それじゃあ問題!俺達は一番最初にお前にどんな攻撃をしたか覚えてるか?」
「最初の攻撃?……それがどうした。一体何の関係がある?」
「まぁまぁ、いいからいいから。それじゃあシンキングタイムを10秒あげよう。はい、いーち。にーい………」
俺がそうして数えている間もドラグノフの全身には力は入ったままであった。
しかし、俺に気を取られているせいなのだろう、地面に次々と入っていたヒビがピタリと止まっていた。
そしてたっぷり10秒数え終わった俺はドラグノフへと問いかける。
「さあ、時間だ!答えを聞こう!」
「………魔法、だ。貴様らは最初に不意打ちで、この我に魔法攻撃を仕掛けてきた」
「おっ、正解!それじゃあここまで言っても分からない勘が悪いドラグノフ君に最期にもう一問!」
俺は人差し指をピンと立て、ドラグノフに向かって突き出す。
―――俺のその動作とほぼ同じタイミングだった。
深紅に輝く魔法陣がひとつ、ドラグノフの真上に出現した。
それを俺と隊長、そしてドラグノフが同時に魔法陣を見る。それを見上げたドラグノフは、一瞬だけ狼狽したような表情を見せた。
それを確認した俺は、満を持して最期の質問を投げ掛けた。
「最初に使った魔法の二発目のチャージが完了するまで、あと何秒かかるでしょうか?」
俺が言い終えたその瞬間、たったひとつの深紅の魔法陣の真上に、ほんの瞬き程度の一瞬で様々な色に輝く魔法陣が数え切れないほどに展開されていく。
本日2度目の魔法陣の塔である。
そう言って俺はドラグノフに向かって邪悪な笑みを浮かべ、どうだと言わんばかりに両手を大きく広げた。
「さぁ、これが俺達の作戦の全てだ。……言ったろ?約束は破らねぇって」
――俺が充分に魔法のチャージ時間を稼ぎ、頃合いを見て合図を出す。今回は『立てた人差し指をドラグノフに向けて突き出す』が合図だった。それを周囲に潜伏している魔法使い達が確認し次第、魔法による一斉攻撃を開始する――。
大雑把な作戦だ。
成功の確率も高くなかった。
まさに博打のような作戦だったが、これまでの行動全てがこれ以上ないほど上手く噛み合った。その結果が、今俺の前に鮮やかに輝いている魔法陣として現れた。
一瞬の沈黙の後、ドラグノフは大声で笑った。
「フハハハハハハ!!馬鹿め!その距離なら貴様らも巻き添えになるぞ!もはや、今からでは逃げ切れまい!さあ!共に生命を散らそうぞ!……いや、我はもうすぐここから抜け出せる!直撃を避けることが出来れば、我は生き残れる!残念だったな!」
更に筋肉を隆起させ、全身から蒸気を放ちながら、全力で地面を砕かんとする。
ドラグノフの言う通り、足元の岩盤には複数の細かい亀裂が走っており、もうあまり持ちそうにない。
あと1分間持つか、持たないか。
だが、それで充分だった。
「残念、散るのはお前の生命だけだ。隊長、頼む」
「了解。『エアデス』」
隊長と俺の足元に、二人の体がスッポリ埋まるぐらいの穴が一瞬で出来上がった。
穴の中からそれを察したらしいドラグノフは、全身から動揺や怒り、憎しみなど、俺のこれまでの人生で感じたことがないほどの負の感情が発せられている。
「時間稼ぎも終わったことだし!あとは、この穴の中に隠れて魔法が発動するのを待つ事にしよう!それじゃ」
それだけを伝えて、俺と隊長は穴の中へと入り、最後に穴を魔法で塞いだ。
「おのれ…おのれおのれおのれおのれおのれおのれェェェェェ――――!!!」
怒りや憎しみなど様々な感情が混ざったドラグノフの断末魔の叫びは、その直後に発動した本日2度目の『魔法陣の塔』の爆発音に掻き消されていった―――。
◆◆◆◆
その爆発音もやがて止まり、今聞こえる物音は俺と隊長の呼吸音のみ。
異様な緊張感から沈黙に耐えきれなくなった俺は、隊長に話しかける。
「……そろそろ出ても大丈夫じゃない?」
「あぁ、恐らくはな」
「じゃあ出ようか。悪いけどさっき『エアデス』で閉じた上を開けてくれ」
「分かった、『エアデス』」
隊長がエアデスを唱えると、天井の土がまるで液体のようにドロリと溶け、周囲の土の壁の中へ浸透していくように消えていった。
そうやって開いた穴からぶはっと勢い良く顔を出し、新鮮な空気を吸い込む。
別に中が息苦しかったわけではなかったのだが、薄暗く狭い空間から外に出た事でつい反射的に大きく息を吸い込んだ。
だが、俺が外に出て得られたものはそれだけではなかった。
「「「やったあああああああ!!ドラグノフを倒したあああああああ!!」」」
魔法使い達の大きな大きな歓喜の雄叫びを全身に浴びた俺は、そこで初めて俺達があの強大な敵に勝利する事が出来たのだと知り、安堵からどっと全身の力が抜けていくのが分かった。
そうして今たっぷり吸い込んだ空気を、緊張と共にゆっくりと吐き出すのだった。
ドラグノフは悲鳴にも似た叫び声を上げるが、そんなの知ったこっちゃない。
構わずショベルカーは前進を続ける。
キュルキュルとキャタピラー特有の金属音と、エンジンの爆音を轟かせてショベルカーは穴へと近付いていく。
そして、ギリギリまで近付いたところでショベルカーは停止した。
3台の動きが止まったことを確認した俺は、手を振って合図を出した。
「それじゃあ、お願いしまーす!!」
合図を確認したショベルカーの操縦者達は、周囲の土を掘り起こし、それを穴の中へと次々に入れていく。
その間、ずっとドラグノフの怒号が聞こえていたが、しばらくすると何も聞こえなくなった。
少し時間はかかったが、ドラグノフの姿が完全に土に隠れたのを確認して、俺と隊長は距離を取る。
そして、俺と隊長の二人が充分に距離を取った事を確認した後、
「……ポチッとな!」
そうしてスイッチを押した瞬間、けたたましい爆音が響き渡り、それに続いて土が火山の噴煙のように空中に噴き上がる。
その噴き上げられた土が雨のように俺達に降り注いできた。
俺は咄嗟に頭をジャケットで覆って、土から身を守った。
「いででででで!!いだっ、いだい!!」
……まぁ、防げたのは土だけで小石やそこそこでかい石は四方からバンバンぶつかってきたけれど。
しばらくして土砂の雨も止み、俺はドラグノフの生死を確認しようとするが、穴から立ちのぼる煙で判断が出来ない。
それを歯痒く思っていると、
「やったか!?」
森の方から、フラグとしか思えない発言が聞こえてきた。
これには思わず俺も声を荒らげる。
「おい、誰だ!露骨にフラグ立てたの!今の絶対わざとだろ!」
そんな事を言っているうちに少しずつ煙が晴れていき全体が見えてきた。
穴の周囲の地面は深く抉れて、クレーターのようになっている。この惨状だけで、あの爆弾がどれ程の威力を持っていたのかを窺い知る事が出来る。
そして、その中心には未だにスライムガムにくっついたまま身動きが取れないドラグノフがいた。
体表は魔法と爆弾によって焼き焦がされてボロボロになっていたが、腹部が一定の間隔で動いている事から生きている事が分かった。
「……これでも倒せないのか」
一見すると絶望的な状況だが、隊長のその声や目からは落胆は感じない。それどころか、より一層声に力が入っているように感じる。
彼はまだ諦めてはいないのだ。
勿論、俺もまだまだ諦めちゃいない。
ドラグノフは全身の筋肉を隆起させ、力を入れて何とか抜け出そうとしている。
無駄な抵抗を、と一瞬思ったがすぐにドラグノフの狙いが分かった。
(……こいつ、くっついてる岩盤ごと剥がすつもりか!)
落とし穴の底はかなり頑丈な岩盤で出来ており、その岩盤の上にスライムガムを仕掛けていた。
しかし、爆発で脆くなった岩盤を、ドラグノフは爪を立てて踏ん張る事で粉砕しようとしている。
徐々にドラグノフの足元の岩盤に出来たヒビが大きくなっていく。
(これだけのダメージを与えて、まだこんな力があるのかよ……)
俺がそんな事を考えていると。
「ふ、ふふふ!ふーはははははは!この我がここまで追い詰められたのは数十年……いや、100年ぶりくらいか!良い!良いぞ!……だが、どうやらここで万策尽きたようだな?残念だ。あと一撃、強力な攻撃を食らっていたら流石の我も力尽きていただろうに。さあ!次は我の番だ!」
凄まじい殺意によってギラついた目で俺を睨みつけるドラグノフは、尚も隆起させた全身の筋肉の力を脚へと向けて立ち上がろうと試み続ける。
その様子を見ながら俺はあっけらかんとしてドラグノフに語る。
「って思うでしょ?俺もこれだとギリギリ倒し切れないだろうな~とは思ってた。まあ、それはあくまで最悪の状況として考えてたんだけど」
「………何が言いたい?」
「最悪の状況を想定しておいて、なんにも対策してない訳がないじゃんって事。当たり前だろ?……とはいってもこれから何が起こるか分からないだろうから……そうだなー、特別にちょっとしたクイズをしようか。これに答えられたらこの先の作戦の一切合切を全部教えてやるよ」
「そんな言葉で我が揺らぐとでも思って――」
しかし俺はドラグノフの話を途中で遮る。
「だったら無視してくれて構わねぇよ?ただ、お前の勝てる確率はさらに下がるだけだ。……安心しろよ、俺だってこの状況で嘘はつかねぇよ。……ほら、本当は聞きたいんじゃないのか?この絶体絶命の状況を覆せるかもしれないぜ?」
「くっ……貴様ァ……!!」
悔しげに喉を唸らせるドラグノフ。
それを見て俺は口元を歪める。
「決まりだな。それじゃあ問題!俺達は一番最初にお前にどんな攻撃をしたか覚えてるか?」
「最初の攻撃?……それがどうした。一体何の関係がある?」
「まぁまぁ、いいからいいから。それじゃあシンキングタイムを10秒あげよう。はい、いーち。にーい………」
俺がそうして数えている間もドラグノフの全身には力は入ったままであった。
しかし、俺に気を取られているせいなのだろう、地面に次々と入っていたヒビがピタリと止まっていた。
そしてたっぷり10秒数え終わった俺はドラグノフへと問いかける。
「さあ、時間だ!答えを聞こう!」
「………魔法、だ。貴様らは最初に不意打ちで、この我に魔法攻撃を仕掛けてきた」
「おっ、正解!それじゃあここまで言っても分からない勘が悪いドラグノフ君に最期にもう一問!」
俺は人差し指をピンと立て、ドラグノフに向かって突き出す。
―――俺のその動作とほぼ同じタイミングだった。
深紅に輝く魔法陣がひとつ、ドラグノフの真上に出現した。
それを俺と隊長、そしてドラグノフが同時に魔法陣を見る。それを見上げたドラグノフは、一瞬だけ狼狽したような表情を見せた。
それを確認した俺は、満を持して最期の質問を投げ掛けた。
「最初に使った魔法の二発目のチャージが完了するまで、あと何秒かかるでしょうか?」
俺が言い終えたその瞬間、たったひとつの深紅の魔法陣の真上に、ほんの瞬き程度の一瞬で様々な色に輝く魔法陣が数え切れないほどに展開されていく。
本日2度目の魔法陣の塔である。
そう言って俺はドラグノフに向かって邪悪な笑みを浮かべ、どうだと言わんばかりに両手を大きく広げた。
「さぁ、これが俺達の作戦の全てだ。……言ったろ?約束は破らねぇって」
――俺が充分に魔法のチャージ時間を稼ぎ、頃合いを見て合図を出す。今回は『立てた人差し指をドラグノフに向けて突き出す』が合図だった。それを周囲に潜伏している魔法使い達が確認し次第、魔法による一斉攻撃を開始する――。
大雑把な作戦だ。
成功の確率も高くなかった。
まさに博打のような作戦だったが、これまでの行動全てがこれ以上ないほど上手く噛み合った。その結果が、今俺の前に鮮やかに輝いている魔法陣として現れた。
一瞬の沈黙の後、ドラグノフは大声で笑った。
「フハハハハハハ!!馬鹿め!その距離なら貴様らも巻き添えになるぞ!もはや、今からでは逃げ切れまい!さあ!共に生命を散らそうぞ!……いや、我はもうすぐここから抜け出せる!直撃を避けることが出来れば、我は生き残れる!残念だったな!」
更に筋肉を隆起させ、全身から蒸気を放ちながら、全力で地面を砕かんとする。
ドラグノフの言う通り、足元の岩盤には複数の細かい亀裂が走っており、もうあまり持ちそうにない。
あと1分間持つか、持たないか。
だが、それで充分だった。
「残念、散るのはお前の生命だけだ。隊長、頼む」
「了解。『エアデス』」
隊長と俺の足元に、二人の体がスッポリ埋まるぐらいの穴が一瞬で出来上がった。
穴の中からそれを察したらしいドラグノフは、全身から動揺や怒り、憎しみなど、俺のこれまでの人生で感じたことがないほどの負の感情が発せられている。
「時間稼ぎも終わったことだし!あとは、この穴の中に隠れて魔法が発動するのを待つ事にしよう!それじゃ」
それだけを伝えて、俺と隊長は穴の中へと入り、最後に穴を魔法で塞いだ。
「おのれ…おのれおのれおのれおのれおのれおのれェェェェェ――――!!!」
怒りや憎しみなど様々な感情が混ざったドラグノフの断末魔の叫びは、その直後に発動した本日2度目の『魔法陣の塔』の爆発音に掻き消されていった―――。
◆◆◆◆
その爆発音もやがて止まり、今聞こえる物音は俺と隊長の呼吸音のみ。
異様な緊張感から沈黙に耐えきれなくなった俺は、隊長に話しかける。
「……そろそろ出ても大丈夫じゃない?」
「あぁ、恐らくはな」
「じゃあ出ようか。悪いけどさっき『エアデス』で閉じた上を開けてくれ」
「分かった、『エアデス』」
隊長がエアデスを唱えると、天井の土がまるで液体のようにドロリと溶け、周囲の土の壁の中へ浸透していくように消えていった。
そうやって開いた穴からぶはっと勢い良く顔を出し、新鮮な空気を吸い込む。
別に中が息苦しかったわけではなかったのだが、薄暗く狭い空間から外に出た事でつい反射的に大きく息を吸い込んだ。
だが、俺が外に出て得られたものはそれだけではなかった。
「「「やったあああああああ!!ドラグノフを倒したあああああああ!!」」」
魔法使い達の大きな大きな歓喜の雄叫びを全身に浴びた俺は、そこで初めて俺達があの強大な敵に勝利する事が出来たのだと知り、安堵からどっと全身の力が抜けていくのが分かった。
そうして今たっぷり吸い込んだ空気を、緊張と共にゆっくりと吐き出すのだった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
【3章開始】刀鍛冶師のリスタート~固有スキルで装備の性能は跳ね上がる。それはただの刀です~
みなみなと
ファンタジー
ただいま、【3章・魔獣激戦】を書いてます。【簡単な粗筋】レベルがない世界で武器のレベルをあげて強くなって、国を救う物語【ちゃんとした粗筋】その世界には【レベル】の概念がなく、能力の全ては個々の基礎能力に依存するものだった。刀鍛冶師兼冒険者である青年は、基礎能力も低く魔法も使えない弱者。──仲間に裏切られ、魔獣の餌になる寸前までは。「刀の峰に数字が?」数字が上がる度に威力を増す武器。進化したユニークスキルは、使えば使うだけレベルがあがるものだった。これは、少しお人好しの青年が全てをうしない──再起……リスタートする物語である。小説家になろうにも投稿してます
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる