チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第二章 ドッデ村編

第十四話 戦闘開始!

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 作戦会議をしてみて、一つ思った事がある。


 最初は村長やその他の人達から色々な意見を募って、挙げられた意見を吟味し試行錯誤しながら一つの作戦を組み立てていく。


 俺はそう考えていた―――。


 「――爆弾とか使いたいですねぇ。そういうのってあるんですかね?」


 俺がそう尋ねる。

 これに対して


 「さぁ……?私は分かりません」

 「私も把握しておりません……」

 「……討伐隊の備品には我々は一切タッチしていないもので……」


 まぁ、こんな感じで。

 いざ作戦会議となると隊長を除いた管理職の人達がクッソ使えない事が分かった。


 ……いや、当たり前なんだけどね?

 行政関連の仕事をしてきた人達にいきなり

 「ドラゴンを倒せるような作戦を挙げてけ」とか「爆弾はどこにあるの?」って聞いてもそりゃ無理な話よ。

 普通の社会人は自分の担当外の仕事の事なんざ分かる訳がない。


 ……そうは言っても、全く案が挙がってこないというのは流石に想定外だった俺。

 結局は俺と隊長の二人で作戦を立てなきゃいけないような状況になった。


 ……俺もただのサラリーマンなんだけどなぁ。


 そうして時間を掛けてようやく作戦を立てることが出来た。作戦内で使用するものは俺が指示して、ここまであまり活躍出来ていない彼らに準備してもらう。


 そして肝心の作戦決行日時は、明日の昼からとなった。


 作戦会議が終わった後に俺は事情をかるーく説明して公民館に泊めさせてもらった。

 その時はめちゃめちゃ怪しむような目で見られたが、何も言われなかったのでまぁ大丈夫だろう。

 明日に備えてその日は早めに就寝した。


 

 ◆◆◆◆


 

 朝を迎えると俺は落とし穴の進捗状況確認のために、落とし穴設置予定の現場へと歩いて向かった。

 到着すると隊長が俺に気づいたようで、こちらにゆっくりと近付いてきた。

 俺は軽く会釈して話しかけてみた。


 「お疲れ様です!……おおっ!その後ろの大きい穴!……モグモグ……ついに落とし穴が出来たんですか!……モグモグ……」


 「ああ、予定よりも少し遅れてしまったが、穴の出来は完璧だ。……それよりも、勇者殿はなにを食べているのだ?」


 隊長は不思議そうな表情で俺に尋ねてきた。

 その質問に俺は口をモグモグさせながら答える。


 「スライムガムってお菓子ですよ。……にしても、これ美味い。この世界のお菓子って安くて美味しいとか最高。……モグモグ……で、隊長さんに1つ頼み事があるんだけど良いですか?」


 俺は唐突に切り出した。


 「ん?どうした?」


 「その穴をちょっとだけ覗かせてもらう事って出来ます?……モグモグ……」


 すると隊長は腕を組んで、少しの間考え込むような仕草を見せた。

 そして、しばらくすると隊長はひとつ溜息をつき、ゆっくりと首を縦に振った。


 「……少々時間が押しているが特別だ。自由に見てくれて構わんよ」


 「ありがとうございます!……モグモグ……」


 そうして俺は穴に近付き、顔だけを出して穴の中を覗き込んだ。


 「それじゃあ、どれどれ……。おお~!結構深いな~。…………。はい。もう充分です。ありがとうございました」


 「え、もう良いのか?」


 拍子抜けしたような顔をしている隊長に、俺は親指をグッと立てた。


 「はい!バッチリです!じゃあ俺はこれで!」


 俺は隊長にニカッと笑いかけると、先程来た道を走って引き返した。


 「お、おう……」


 隊長は何がなんだか分からないといった表情のまま、俺の走り去る後ろ姿を呆然と見送っていた。


 

 ◆ ◆ ◆


  

 俺と隊長、そして数名の管理職兼魔法使いの方々を乗せたバスは目的地であるドラゴンのいる森へと移動していた。

 森の中にある道はろくに舗装されていないため、ところどころに凹凸があり、バスに乗っていると時々尻がフワッと浮き上がったような感覚を感じた。

 そのせいで少し車酔いしそうになっている俺に、通路を挟んだ向かいの席に座っている隊長は質問をぶつけてくる。


 「まさか王国が運営しているあの10ゴールドバスを借りて、それでドラゴンの場所まで向かうとは……。こんな事は前代未聞だぞ?」


 「だって仕方がないじゃないですか。俺だって出来るならバスで戦いになんて行きたくないですよ。けど、討伐隊が所持してる輸送用装甲車は前のドラゴン戦でぶっ壊されて、他は全部出払ってるとか言われたら、もうこれしかないじゃないですか!」


 ややキレ気味に応答する俺。

 しかし、当の隊長は口笛を吹いて露骨に俺から視線を外しやがった。

 ちょっと1発ぶん殴ってやろうかと思ったが、このタイミングで運転手から声が掛かる。


 「――そろそろ目的地に到着します!」


 これを合図に車内の空気がこれまで以上に張り詰めたものになった。

 すると、隊長は座席からスッと立ち上がり、後ろにいる魔法使い達に振り返る。


 「よし、ではあらためて向こうに着いた後について手短に説明する!よく聞いておけ!」


 よく通る隊長の声が車内中に響き渡った。

 隊長は続ける。


 「まずはバスを魔法が届くギリギリまで接近させる。そして俺が合図を出したら、バスに乗車したまま自分が出せる最大火力の魔法をドラゴンにぶつけてやれ!……それが終わればしばらく貴様らに出番はない!なにか質問は?」


 大まかな作戦は今、隊長が言った通りだ。

 だが、もう少し補足を加え、簡潔にまとめると。


 寝ているドラゴンにバスで接近し、魔法で攻撃。

 その攻撃でドラゴンが目覚めたのを確認したら、あとは逃げる。

 ひたすら、逃げる。


 と、ここまでが第一段階の作戦となっている。


 その名も

 『寝起きピンポンダッシュ!大作戦』だ!

 ……おい、誰だ!今『ダサい』とか言ったやつ!


 と、ここで魔法使いの一人が手を挙げた。


 「……質問なのですが宜しいでしょうか?」


 「どうした。言ってみろ」


 「私の認識ではドラゴンに魔法は全く効かなかったはずです。そんな相手に魔法なんか撃ってどうするんですか?」


 この質問を受けた隊長は一瞬ポカンとした表情を見せたが、すぐに厳しい表情に戻った。


 「それについては事前に説明したはずなのだがな?……はぁ。ではもう一度、簡単に説明しよう。どれだけ強力な魔法であろうとも、ドラゴンには傷ひとつすら付けられない。それは事実だ。……そこでこれを使うのだよ」


 隊長は懐から銀色に鈍く光沢を放っているブレスレットを取り出した。

 隊長が持っているそれは装飾などは施されておらず、とてもシンプルなデザインとなっている。


 「術者にこのブレスレットを装備させる事で、魔法攻撃の効果がない敵にもダメージを与える事が出来る。俗に言う『魔導兵器』と呼ばれるものの1つだ。……貴様が今右手につけているそれの事だ」


 隊長はそう言って、質問してきた魔法使いの右手につけられたブレスレットを指差した。

 このブレスレットは出発前に魔法使い全員に貸与されている。


 俺は『ドラゴンにも魔法でダメージを与える方法がある』とは事前に聞いていたが、それが敵の魔法無効化能力を打ち消すチート装備だとは知らなかった。

 俺はこの世界に異世界っぽいものがあるという事に強い感動を覚えた。

 と、同時に『やっぱり、ここは異世界なんだなぁ』と再確認した。


 「ありがとうございました!」


 質問した魔法使いは一礼し、座席に腰を下ろした。


 「……っと、どうやら着いたようだな」


  ここでバスの動きが止まり、右の窓からドラゴンの真紅の体表がはっきりと見えた。

 この前見た時よりも若干遠くに停車しているのだが、その姿は以前よりも遥かに大きく見える。

 それは単に身体が大きいだけが理由ではあるまい。


 その巨躯から放たれる、見た者を圧し潰すかのようなプレッシャー。


 それが、ただでさえ馬鹿でかいドラゴンの身体を、より一層大きく見せているのだ。

 車内を見渡すと、その圧力にやられかけて身体を小刻みに震わす者や、座席にへたり込む者も数名ほど見受けられた。


 だが恐ろしいことに、この禍々しいまでの圧力を放っている生命体は、未だこちらの存在に気付いておらず、殺気などは一切放っていない。

 この時点で感じる、圧倒的なまでの実力差。


 早くも暗雲が立ち込み始めしんと静まり返ってしまった車内に、俺の声が響く。


 「――みんなさ、腹立たねーの?」


 車内にいる全員が一斉に俺に視線を向けた。

 俺は飄々とした口調で魔法使い達に問いかける。

 今の俺の喋り方はこの状況ではあまりに場違いな、としかいえない緊張感に欠けるマイペースな話し方だ。

 しかしこの時、俺の言葉には惹きつけられてしまう何かが確かに宿っていた……ような気がする。よく分からんが。

 魔法使い達、そして隊長は無言で次の言葉を待つ。

 俺は張り詰めた静寂などものともせず、言葉を続ける。


 「だってさ、あのドラゴンが来てから対策やら何やらとかで、ろくに休み取れてないでしょ?そんなの、俺だったらブチ切れるね」


 俺が言うように、ここにいる魔法使い兼管理職の彼らは、ドラゴンがこの村に襲来した日から今までほとんど休み無しで働き続けている。

 この問いかけに、皆は無言という形で肯定の意を表す。


 「さぁ思い出して、思い出して……。あの残業、残業、残業三昧だった日々を。辛く、苦しく、眠い、そして積み重なっていくストレスの山……。これら全ての元凶はなんだ?何が原因でこうなったんだ?!諸悪の根源はなんだ?!」


 「……ドラゴン」


 誰かがポツリと小さな声でそう言った。

 だが、尚も煽り続ける。


 「聞こえねぇ!お前らの溜まりに溜まったストレスはその程度なのかァ!?もういっぺん言ってみろ!何が原因だ!?」


 「「……ドラゴンだ!」」


 徐々に彼らの瞳に光が戻り始め、声が大きくなっていく。

 それに比例して俺の声もさらに大きくなる。


 「まだだァ!奴への恨みや憎しみはそんなもんじゃないはずだ!これまでの事をよく思い出してみろ!……さあ!全ての元凶は、なんだァァァァ!!」


 「「「ドラゴンだ!!!!」」」


 そして俺は、自分の手を叩きパァンと小気味良い音を響かせる。


 もはや誰にも止められない。


 俺も止まらない。

 暴走機関車と化した俺達はドラゴンに対して集まった膨大なヘイトを燃料として、ひたすら前へと突き進む。


 「そうだァ!全部ドラゴンのせいだ!っしゃあ!!お前らァ!これまで積もりに積もった鬱憤、全部あのトカゲにぶちまけてこい!勇者である俺が許可する!」


 俺のその一言で狂喜の咆哮を上げる魔法使い達。


 そんな俺達をずっと冷ややかな目で見ていた隊長は、溜息をつき俺にだけ聞こえるように小さな声で呟いた。


 「……溜まった不満や怒りの矛先をドラゴンに向けさせたか。勇者を名乗る奴がやることじゃないな。……だが――」


 ここで言葉が途切れ、隊長は何かを考え込むように目線を一瞬俯かせた。

 だが、すぐに目線を上げ、魔法使い達の方を真っ直ぐに見つめながら隊長はポツリと呟いた。


 「――助かった。恩に着る」


 そう言った時の隊長の横顔はこれまでの厳しいものではなく、穏やかな、それでいてどこか照れたような表情だった。

 だが、瞬きをしたほんのわずかな間に元の険しい顔へと戻っていた。


 「各員!詠唱始め!」


 隊長は声を張り上げ、合図を出した。

 その合図を聞いた魔法使い達が一斉に呪文のようなものを唱え始める。

 しかし、俺は聖徳太子みたいに複数人の声を同時に聞き分ける事なんて出来ない。


 今の俺に出来るのは外のドラゴンを見る事くらいだ。

 そう思った俺は、外の光景を見て言葉を失った。


 赤や青、黄に緑……これ以外にも様々な色の魔法陣が光を放ち、縦に重なり合い、ドラゴンの真上に展開されている。

 幻想的なそれは、まるで魔法陣の塔のように見える。


 「放て!」


 隊長がそう叫んだ次の瞬間、思わず耳を覆ってしまうほどの轟音が響き渡り、それに続いて凄まじい衝撃波と爆風がバスを直撃した。

 横転してしまうのではないかと思ってしまうほど車体が右へ左へ揺れ動き、窓の外は爆風の影響により、土煙が巻き起こりドラゴンの姿が見えなくなっていた。

 もしもバスの中でなければ俺達もタダでは済まなかっただろうと考え、思わず身震いした。


 出来ればこれでやられてほしかったが、流石にそうはいかないらしい。


 息つく間もなく、次はドラゴンの凄まじい咆哮が轟き俺達の耳を劈いた。

 その咆哮でドラゴンの姿を覆い隠していた土煙は吹き飛び、バスの窓ガラスを、そして鼓膜を激しく震わせた。

 思わず耳を手で塞いだが、全員の目だけは真っ直ぐにドラゴンを見据えていた。


 咆哮が止まったことを確認し、そっと耳から手を離す。

 すると、腹の底にまで響いてくるような低い声が聞こえてきた。


 「……偉大なるこの我、竜王ドラグノフの眠りを妨げる者は貴様らか」
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