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第二章 ドッデ村編
第十二話 原点回帰
しおりを挟むコンビニがある場所から少しだけ歩いたところに、小さな公園を見つけた。
俺はキョロキョロと公園内を見渡してみる。
そこには青々と葉が茂った広葉樹が公園のど真ん中に1本だけ植えてあり、それ以外には年季の入った木製のベンチがあるだけで遊具などは何もない。
なんだか随分寂れたような雰囲気が漂っているが、なかなかどうして嫌いじゃない。
俺は「どっこいしょ」とじじくさい声を出しながら、その木製のベンチに腰掛けた。
するとベンチからメキメキメキメキと、今にもぶっ壊れるんじゃねぇかと思わず心配になるくらいの軋んだ音が鳴った。
……怖いから若干浅めに腰掛けておく。
そうして腰掛けた俺は、コンビニのレジ袋の中から先程購入した『マンモスチョコ』、そして『スライムガム』、その他数点の10ゴールド菓子と鮭おにぎりを取り出した。
それらをベンチの上に、なるべくスペースを取らないように、小さくまとめて置いた。
……それじゃあ気持ちも大分落ち着いたし、お菓子を食べながらドラゴンに対抗するための作戦を考えてみよう。
―――そう。
俺はまだ諦めてはいない。
……まぁ、ちゃんとした作戦を立てても勝てなかったってのが分かった時は一瞬諦めかけたけれども……。
だが、一度でも勇者と名乗り、倒せると宣言してしまった以上は諦める訳にはいかないだろう。
一度定めた以上、最後まで通さなきゃいけない筋がある。
確かに俺には魔法や特殊能力なんて大層なものはない。そんな奴が誰かを守ろうなんざ語る事がちゃんちゃらおかしいのは百も承知だ。
だけどこれから先、もしかしたら死ぬ人だって出てくるかもしれない。
……誰も死なせたくないし、俺も死にたくない。
だから、今やれるだけの事はやらなければならない。
そうして俺は早速お菓子に手を伸ばす。
まずは『スライムガム』からにしよう。
包装紙を取り、口の中へと放り込んだ。
しばらくの間、そのガムを噛んでいたが案外すぐ味が無くなったので、包装紙に包んでベンチ近くに置いてあったくずかごに投げ入れた。
そのまま捨てるととんでもない事になるらしいからな……。
いやぁ、けどなぁ。
こんなにすぐ味が無くなると思ってなかった俺は、今噛んだガムと同じ物を何個か購入した事に軽く後悔した。
さあ。早速切り替えてマンモスチョコを食べようかな。
そうして俺は包装紙を破き、取り出したチョコに齧り付く。
10ゴールドの商品なので味にはあまり期待していなかったのだが意外や意外、味は思っていた以上に美味しかった。
デカくて美味いとかやべぇな。
おまけにこれがたったの10ゴールドときた。
最高じゃないか、マンモスチョコ。
ありがとう、異世界。ありがとう、チョコレート。
……何言ってんだ、俺。
冷静になった俺は口いっぱいにチョコレートを頬張りながら、ドラゴン討伐の作戦を考え始めた。
――異世界特典のチート能力なんか持ってない俺じゃ、ドラゴンを相手に戦えない。
つまり俺は、魔法が使えるこの世界の人達を裏でバックアップするくらいしか出来ない。
……かと言って、魔法が使えれば良いというわけじゃない。だって、魔法が使えるこの世界の人々でも歯が立たないんだし。
となると、あと勝てる可能性が残っているのは戦術面くらいだが……。
正直、討伐隊のあのゲリラっぽいやつより有効な戦術とか思いつかない。
だって俺、サラリーマンだったから。
戦わなきゃいけない状況なんて、今までなかったから。
………あ、無理かも。
いくら考えても何にも出来ない只の一般人の俺には、ドラゴンに勝てる想像がつかない。
俺はチョコを食べながら、がっくりと項垂れる。
………にしてもこの『マンモスチョコ』本当に美味いな。
俺はモグモグしながら、手に持ったマンモスチョコをまじまじと眺める。
マンモスか……。
そういえば原始時代の人ってマンモス食ってたんだったよな。
よくもまぁ、まともな武器もないのにマンモスとか馬鹿でかい生き物を倒せたな。
俺はふと、そんな事を考えた。
……あれ。
そういえば原始時代の人達ってどうやってマンモスを倒してたんだっけ?
俺は何処かで聞いた事のある古い記憶を必死に手繰り寄せる。
しばらく考え込み、ようやく思い出した。
「……そうだ、思い出した」
誰にともなくポツリと呟いた。
昔の人々は『あの方法』で自分達よりも巨大な動物を倒していたはずだ。
これは使えるかもしれない。
これをベースとして、色々と考えていけばもしかしたら……。
俺の脳内に浮かんだ方法はかなり原始的であり、運の要素が強く、ほとんど博打みたいなものだが、やってみるだけの価値はあるのではないだろうか。
一度、狩猟の原点へと立ち返るのだ。
興奮を隠せない俺は、正義のヒーロー的ポジションの主人公が絶対にやっちゃいけないような邪悪な笑みを浮かべながら、次のお菓子へと手を伸ばした。
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