チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

文字の大きさ
上 下
5 / 81
第一章 はじまりの王都編

第五話 テンプレなんざクソ喰らえ

しおりを挟む
 

 俺は今公園のベンチに腰掛けて、先ほど購入した『ヒノキの棒』を虚ろな目で眺めている。


 実はあの後すぐに、俺はホームセンターへと向かった。

 その理由としては、武器屋では『ヒノキの棒』という商品名で角材が1200ゴールドで販売されていたが、果たしてホームセンターで全く同じような角材は何ゴールドで売られているのだろうと気になったのだ。


 300ゴールドだった。


 俺はその値札を見た瞬間、手に持っている1200ゴールドの木の棒を真っ二つにへし折りたい衝動に駆られた。


 まあそんなわけで、ほとんどボッタクリであることを知ってしまったため、俺は今少々へこんでいるのだ。


 ……気分を入れ替える為に、今の状況を簡単に整理してみようかな。


 取り敢えず、ここが異世界だという事は分かった。

 そして、俺はこの異世界に勇者として召喚された、という事も。

 何はともあれ、まずは装備を整えなきゃいけない!けど、渡された金は1500ゴールド。

 その内、1200ゴールドは武器代(ヒノキの角材)に消えていった。


 金がない以上、そこら辺に落ちてる装備を見つけたりする事くらいしか出来ねぇな……。


  …………ん?


 ここである事を閃いた俺。

 ゲスい笑いを浮かべながら早速行動に移るため、今来た道を引き返して街の方へ歩を進める。

 俺は街に向かって歩きながら、王の言っていた話を何度も頭の中で反芻する。


 『―――お主には勇者として魔王を倒して来てもらいたい』


 そうだよ、俺は勇者なんだよ。

 なんでもっと早くこの方法が思いつかなかったんだ。

 俺は今までゲームの中で培ってきた経験と、ゲーマー的直感を駆使して『勇者としてしなければならない事』を考える。

 そして、早速行動に移す事にした。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 王は一人、自室兼執務室にある椅子に腰掛け紙の上でペンを走らながら思慮を巡らす。


 勇者を送り出してから約4、5時間ほどが経過した頃だ。果たしてあの男は本当に世界を救えるのだろうか。


 とその時、自室の扉をコンコンとノックする音が聞こえてきた。

 それから数秒遅れて声が聞こえてくる。


「セバスです。陛下にお伝えしたい事が」


「……入れ」


 それから数秒遅れて扉が開き、その向こうからタキシードを身につけた『セバス』と名乗った白髪の男性が入ってくる。

 セバスは静かに室内に入り音を立てずに扉を閉めた。


「失礼致します、陛下。実は衛兵隊長殿が至急、陛下に会わせてほしいと仰っているのですがいかが致しましょうか」


「構わん、すぐにここに呼んでくれ」


「畏まりました」



 ――しばらくすると頭部以外を銀の鎧で覆った屈強な男が現れた。


「―――国王陛下、お久しぶりでございます。この度は………」


 衛兵隊隊長が礼儀正しく挨拶をしようとした動作を、王は途中で片手で制する。


「今回はかしこまった挨拶はいい。それよりも、何か急を要する事態が起きたのだろう?」


「はい。それが……先ほど勇者を名乗る者を拘束致しまして……。本来であれば陛下のお手を煩わせず我々で処理する問題なのですが、前々から話で聞いていた『異世界から勇者を召喚する日』が今日だったという事もあり念の為にと……」


 衛兵隊長は続ける。


「そもそもこの情報は各組織のトップを含むごく一部の人間にしか知らされていないはずなので、本来であればこのタイミングに勇者を騙る者などいるはずがないのですが………」


 嫌な予感を感じた国王は。


「………とりあえず、その者を連れてこい」


「はっ!承知しました!直ちに連れて参ります!」


 そう言うと衛兵隊長はくるりと踵を返し、扉を開いて部屋を一旦後にした。


 それから数分と待たずに再び扉が開かれた。

 開かれた扉から隊長の姿が最初に目に入った。隊長は片手に縄を持ち、こちらからは扉の影になって見えないが、確かに誰かを連れて来たようだ。


「さぁ、早く中に入るんだ」


 連れてこられた者は隊長の指示にきちんと従っているようで、ピンと張っていた縄が徐々に緩んでいく。


 そしてその者の姿が見えた時、王はあまりの衝撃に絶句した。


 現れたのは、つい数時間前に旅立ったはずの勇者――手錠を両手にはめられた山田太郎だった。


「すんません王様、なんか捕まっちゃいました」


 あっけらかんとそう述べる勇者を、王は呆然と見つめる。


「……この者は、なぜ捕まったのだ?」


 王はなんとか声を振り絞って衛兵隊長に尋ねた。

 すると、隊長は懐から折り畳まれた書類を取り出し、それを淡々とした口調で読み上げ始めた。


「……まずは、壺や樽などの器物損壊が三十一件、さらに不法侵入と強盗が合わせて七十八件、挙句の果てには職務中の王国職員に執拗に話しかけたことによる公務執行妨害。しかも、これ全部をたった1人で三時間の間に起こしています……」


  隊長はさらにその補足説明を加えた。


「被害者の話を聞くと、男は『こんにちはー!』など挨拶をしながら堂々と玄関から侵入。そのままの足でタンスやクローゼットに向かい、室内を物色。あまりの事に驚き硬直していた住民に、『薬草とかってあったりします?』、『ちいさなメダルはないのかぁ……』などの意味不明な発言を繰り返し、強盗や器物損壊を繰り返したようです。……よくもまあ、この短時間でこれだけの事が出来るもんですね」


「まあ、勇者ですから」


「いや、お前の言っている意味が分からん」


 隊長は冷徹にそう言い放つ。

 しかし、勇者は何故かこの発言に対し非常に興奮した様子で。


「人ん家のタンス漁ったり、置いてある壺をぶっ壊すのは勇者の特権だろうがァ!!」


「いや何そのお前の中にある歪んだ勇者像。知らねーよ」


「しかもだ!公務執行妨害とか言ってるが、俺が話しかけたのは村人だけだ。断じて公務員なんかじゃなかった!」


「お前に執拗に話しかけられて邪魔されたと、被害を受けた本人が言っているんだ!覚えていないのか!?」


 しばらく考え込む勇者。

 すると突然ハッと顔を上げおずおずと話し始めた。


「………それってもしかして、あの街の出入り口近くにいた何回話しかけてもニコニコして『ここはフツーノ王国です!』しか喋らないあの人のこと……」


「そうだ、あの人はきちんとした王国職員だ」


「ヒエッ、マジかよ。てっきり何回か話しかけたら、チート武器が手に入る隠しイベントが発生するんじゃないかと思ったんだがなぁ……」


「そんなわけないだろう!それになんだ!隠しイベントって!」


「隠しイベントをご存知でない!?………それはだな――」


 意味不明な主張を続ける太郎に対し、王はため息混じりにこう言った。


「もう良い。それよりも……、勇者よ。今回の事は私の方で何とかしておこう。これからはくれぐれも気をつけてくれ」


「あ……はい、すみませんでした。…………それで、あの~……俺が町中走り回って見つけたアイテムって、どうなるんですかね……」


「すべて没収して本当の持ち主に返すに決まっているだろう」


「…………そっすよねぇ」


 すごく残念そうに肩を落とす勇者を見た王は呆れたような表情で衛兵隊長に指示を出した。


「このおと――勇者殿を外までお連れしてあげなさい」


 その指示を受けた隊長はすごく嫌そうな表情を一瞬見せたが、言われた通り勇者を連れていった。



 ――その後、一人部屋に残された王が頭を抱えて盛大なため息を漏らしたのは言うまでもないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

【3章開始】刀鍛冶師のリスタート~固有スキルで装備の性能は跳ね上がる。それはただの刀です~

みなみなと
ファンタジー
ただいま、【3章・魔獣激戦】を書いてます。【簡単な粗筋】レベルがない世界で武器のレベルをあげて強くなって、国を救う物語【ちゃんとした粗筋】その世界には【レベル】の概念がなく、能力の全ては個々の基礎能力に依存するものだった。刀鍛冶師兼冒険者である青年は、基礎能力も低く魔法も使えない弱者。──仲間に裏切られ、魔獣の餌になる寸前までは。「刀の峰に数字が?」数字が上がる度に威力を増す武器。進化したユニークスキルは、使えば使うだけレベルがあがるものだった。これは、少しお人好しの青年が全てをうしない──再起……リスタートする物語である。小説家になろうにも投稿してます

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...