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実はその要素はあるんだ2
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いくらゲームの内容を思い出しても、そんな描写はなかった。誰にでも優しくて、太陽のように明るいテオバルト。
(いいえ、ここはゲームの世界ではないわ! 何度もそう思ったじゃないの! ゲームではなく、今のテオバルト様を見るのよ!)
慌てるアデルの耳に、やわらかな笑い声が届いた。小さくても間違うことはない、テオバルトの声。
「……ごめん、冗談だよアデル嬢。驚かせてごめんね」
「いえ、こちらこそご心配をおかけして申し訳ありません。これから裁判までは外に出ないつもりですわ」
「うん。アデル嬢、覚えておいて。アデル嬢の心にも体も、これ以上傷ついてほしくないのは本音だから」
「……はい」
テオバルトの心配が、嬉しくて少しこそばゆい。
テオバルトの目にまだハイライトが戻っていないことに気付かず、アデルは居住まいをただした。
「テオバルト様にお話ししなければならないことがあります。実は、裁判の証拠が揃ったのです。……ここまで来てようやく、私は気付きました。テオバルト様の気持ちを、心を聞いていないことに」
「俺の心?」
「はい。私は、テオバルト様が冤罪を晴らしたいか……騎士に戻りたいかさえ、聞いていませんでした」
テオバルトがそれを望むのは当たり前だと思って、気にかけてすらいなかった。
どれだけ自分が身勝手だったか気付いた時はもう、羞恥のあまり地面に埋まってそのまま死にたいほどだった。
テオバルトに何かの理由があってこのままでいたいのならば、アデルがこの数か月してきたことは全て無駄になる。前世の記憶が戻った時点でさっさと婚約破棄をして、テオバルトを自由にしてあげられた。
「……アデル嬢。ふれてもいい?」
脈をはかって、アデルの気持ちを探るのだろうか?
素直に差し出したアデルの腕に、テオバルトのたくましい手がふれた。背中にそっと手を添えられて立つように促されたアデルは、そのままソファーへと導かれる。
先にソファーに座ったテオバルトに手を引かれ、アデルはテオバルトの脚に腰を下ろした。
「きゃっ! テオバルト様……!?」
「ふれてもいいんだよね?」
「いいです、けど、これはさすがに……!」
テオバルトの脚の上で横抱きにされているアデルの右側は、テオバルトの体にぴったりとくっついている。体を支えるために回された腕は見かけより太く、しっかりとアデルを抱きかかえていた。
かつてないほど近く、テオバルトの体温を全身で感じているアデルは、失神しそうなほど真っ赤になっていた。
「お、重いですわ……!」
「軽くて心配だよ。もっとちゃんと食べないと」
「ひぇ……」
「ふふ、可愛い」
とろけるような甘い声で囁かれ、アデルの頭は沸騰寸前だった。
テオバルトが何を考えてこの行動に至ったのか、ろくに働かない頭で考えてもさっぱりわからない。
自分の心臓の音が大きくて速くて、テオバルトに聞こえてしまっていないか心配でたまらない。
「俺も謝らなくちゃいけない。アデル嬢だけじゃなくて、俺もきちんと話していなかった。言い訳になってしまうけど、裁判からずっと目まぐるしくて……ずっと、体と心がバラバラに動いているみたいだった。アデル嬢さえよければ、俺の気持ちを聞いてくれる?」
「はい。聞かせてください」
テオバルトはどこか遠くを見るように微笑み、アデルを抱きしめたまま語り始めた。
(いいえ、ここはゲームの世界ではないわ! 何度もそう思ったじゃないの! ゲームではなく、今のテオバルト様を見るのよ!)
慌てるアデルの耳に、やわらかな笑い声が届いた。小さくても間違うことはない、テオバルトの声。
「……ごめん、冗談だよアデル嬢。驚かせてごめんね」
「いえ、こちらこそご心配をおかけして申し訳ありません。これから裁判までは外に出ないつもりですわ」
「うん。アデル嬢、覚えておいて。アデル嬢の心にも体も、これ以上傷ついてほしくないのは本音だから」
「……はい」
テオバルトの心配が、嬉しくて少しこそばゆい。
テオバルトの目にまだハイライトが戻っていないことに気付かず、アデルは居住まいをただした。
「テオバルト様にお話ししなければならないことがあります。実は、裁判の証拠が揃ったのです。……ここまで来てようやく、私は気付きました。テオバルト様の気持ちを、心を聞いていないことに」
「俺の心?」
「はい。私は、テオバルト様が冤罪を晴らしたいか……騎士に戻りたいかさえ、聞いていませんでした」
テオバルトがそれを望むのは当たり前だと思って、気にかけてすらいなかった。
どれだけ自分が身勝手だったか気付いた時はもう、羞恥のあまり地面に埋まってそのまま死にたいほどだった。
テオバルトに何かの理由があってこのままでいたいのならば、アデルがこの数か月してきたことは全て無駄になる。前世の記憶が戻った時点でさっさと婚約破棄をして、テオバルトを自由にしてあげられた。
「……アデル嬢。ふれてもいい?」
脈をはかって、アデルの気持ちを探るのだろうか?
素直に差し出したアデルの腕に、テオバルトのたくましい手がふれた。背中にそっと手を添えられて立つように促されたアデルは、そのままソファーへと導かれる。
先にソファーに座ったテオバルトに手を引かれ、アデルはテオバルトの脚に腰を下ろした。
「きゃっ! テオバルト様……!?」
「ふれてもいいんだよね?」
「いいです、けど、これはさすがに……!」
テオバルトの脚の上で横抱きにされているアデルの右側は、テオバルトの体にぴったりとくっついている。体を支えるために回された腕は見かけより太く、しっかりとアデルを抱きかかえていた。
かつてないほど近く、テオバルトの体温を全身で感じているアデルは、失神しそうなほど真っ赤になっていた。
「お、重いですわ……!」
「軽くて心配だよ。もっとちゃんと食べないと」
「ひぇ……」
「ふふ、可愛い」
とろけるような甘い声で囁かれ、アデルの頭は沸騰寸前だった。
テオバルトが何を考えてこの行動に至ったのか、ろくに働かない頭で考えてもさっぱりわからない。
自分の心臓の音が大きくて速くて、テオバルトに聞こえてしまっていないか心配でたまらない。
「俺も謝らなくちゃいけない。アデル嬢だけじゃなくて、俺もきちんと話していなかった。言い訳になってしまうけど、裁判からずっと目まぐるしくて……ずっと、体と心がバラバラに動いているみたいだった。アデル嬢さえよければ、俺の気持ちを聞いてくれる?」
「はい。聞かせてください」
テオバルトはどこか遠くを見るように微笑み、アデルを抱きしめたまま語り始めた。
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