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君が一番なのに2

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「きゃあっ! ごめんなさい!」


 ビリっという音と共に、足元にレモンが転がってくる。それをサラが蹴飛ばして、私を後ろに庇った。
 剣呑な雰囲気に驚く女の子に、テオバルトが声をかけた。


「いきなり出てきたから驚いちゃって、ごめんね」
「いっ、いえ、こちらこそ急いでいて前を見ていませんでした! ごめんなさい!」


 護衛が剣の柄から手を離すのを見て、アデルはホッとため息をついた。慌てた女の子がテオバルトにぶつかってしまっただけのようだ。

 アデルは護衛3人に向かって大きく頷いてみせた。前に強盗に襲われかけた時のことを活かし、ちゃんとアデルを守ってくれた。サラにもお礼を言って、女の子と話し終えたテオバルトの背から出る。
 真っ先に庇ってくれたテオバルトにお礼を言おうとした瞬間、アデルの息が止まった。


「……ヒロ、イン……」


 金色の髪と薄緑の瞳、可愛らしい顔立ちと見覚えのあるエプロンドレス。
 ―—そこには乙女ゲームのヒロイン、レティシアがいた。

 この乙女ゲームは、スチルでヒロインの顔が出るタイプだった。何度も見た顔を間違えるわけがない。
 いつかヒロインがテオバルトを選んだのなら自分は去らないといけない、でももしかしたらヒロインは実在しないかもしれない……そんなアデルのわずかな希望を打ち砕くように、確かな実体をもってレティシアがアデルを見つめていた。


「あ……」
「アデル嬢? どうしたんだ?」


 逃げるように後ろへ出した足に、何かが当たる。サラが蹴飛ばしたレモンが、再びアデルの足元に戻ってきていた。


「……レモンを、駄目にしてしまって……ごめんなさい。テオバルト様、彼女を家まで送ってくださいますか? 途中でレモンを買って、それで……」
「アデル嬢を放って行くわけがないよ」
「でも、彼女が……私なんかよりも彼女を」
「気にしないでください、前を見ていなかった私が悪いんですから! デートの邪魔をしてしまってすみませんでした!」
「ま、待って……!」


 レティシアがレモンを拾っているのに、テオバルトは動こうとしない。こういう時、真っ先に動くのがテオバルトなのに。
 さっきまで二人の間に流れていたあたたかな空気は消え、テオバルトはむっすりとした顔でアデルを見つめていた。
 その後ろから、ひょっこりと三郎が顔を出す。


「俺が送り届けます。代わりのレモンを購入すればいいのですね?」
「三郎……」
「彼女を送ったらすぐに追いかけます」
「私がぶつかったのが悪いので、本当に大丈夫です!」
「……いいえ、レモンを駄目にしてしまったのはこちらのせいだもの。三郎、お願いね」


 暗に「家を突き止めてきてほしい」と頼むと、それを察した三郎が頷いた。
 破れてしまった紙袋にできるだけレモンを詰めて去っていく二人を見送った後も、まだ心臓が痛い。
 なんとか平静を装ったけれど冷や汗は止まらず、すぐにテオバルトに気付かれてしまった。

 その後は、気分が悪くなればすぐに帰ると約束して温室へ行ったものの、会話は弾まなかった。
 こうして、アデルの初デートは微妙な空気のまま終わってしまった。




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