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後編

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さてと。

「じゃあ、あなたがわたくしの相手だから、戦いましょう?」

そうニーナに笑顔で伝えるも、彼女から返事はない。

いまだに蹲っている。

「…もう、仕方ないわね。」

元気なのに戦う気がないのってシラけるわよね。

本当に何しにきたのかしら?

治癒ばっかりに頼るからよ。もう、ちゃっちゃと終わらせるに限るわね。こんな茶番。

「きゃあ!う、うそでしょ?」

「ごめんね。1発で終わるから。」

そう言ってわたくしは魔力を練り、巨大な水球を作る。

先程デイビッドが出した何倍もの大きさだ。

気球くらいはあるかしら?

ちなみにここまでのものを作れるのは学校の先生とか、魔法省の方くらいだろう。

本当は火でも風でも雷でもおんなじようなものを作れるんだけど…可哀想じゃない?

いくらニーナが治癒魔法が使えるって言っても肌が爛れたり、大きな傷を負ったり、感電して万が一にも死んじゃったら後味悪いし。

「あ、あんたなんなよの…!」

まぁまぁ、ニーナさんたらあんなに怯えて。

しょうがないわよね。頼みの綱であるデイビッドも怯えてるもの。

デイビッドったら、あなたの相手はカールよ?よそ見してていいの?

本当カールってば優しいんだから。

「ふふっ。じゃあね」

そう言ってわたくしはニーナに向かって水球を投げた。

ドッヂボールは得意だから、外さないわよ。

水球はニーナに当たる寸前で壊した。

ニーナは水球が割れた衝撃で気絶したわ。

本当は当たっても割れずに閉じ込めることも出来るし、当てる前に消さなくてもいいんだけどそれしちゃったら死んじゃうかもしれないから、消したわ。

わたくしって本当優しいわよね。

そう思いながら会場を見渡すと、しーんと静まりかえっていた。

え?なぜですの?わたくしニーナに勝ったのに!


xxx



圧倒的な強さを目の当たりにした会場は静まりかえっていた。

平民であるはずの女生徒が、貴族であり聖属性使い…いずれ聖女となる女生徒を倒した。

会場中に動揺が起きていた。

まぁ、それも全ての人間ではない。

他国の王族は大いに盛り上がっていた。

あの武術大会を開催している小国だ。

その王族の異様な盛り上がりに、自国のものは心底引いた。

どんだけ戦い好きなのかと。


xxx


さてと、隣はどうなっているのかしら?

あらあら、楽しそうね~。

隣を見るとカールとデイビッドが魔法を撃ち合っていた。

ニーナを倒した後、デイビッドから余計なチャチャが入らなかったことや、会場がしーんとしていたのはこのせいね。

確かにこの戦いは面白い。

フレイのような一方的な試合ではなく、互角のような戦いぶりだからだ。

デイビッドは4属性使い。

カールは1属性ってことになってるけど…。本当はもっと使えるんじゃないかとわたくしは睨んでいる。

けれど彼はわたくしと違って慎重派だから、手の内は見せないわね。

まぁ、わたくしもあの程度の水球がマックスではないけれども。

さて、デイビッドが4属性なのに対してカールは1属性なのになんで戦えているのかというとカールの属性が闇属性だから。

実力から言えばおそらく一瞬で終わるだろうけど一瞬で終わらせない辺りが彼らしいわね。

わたくしは面倒だから一瞬で終わらせちゃったけどね?

xxx

そんなこんなで魔法の撃ち合いが始まってから10分ほどが経過した。

わたくし、ひまだわ~。

ニーナもう一回目覚めてくれないかしら?

そうしたら今度はもうちょっと長く遊んであげるのに…。

でももうすぐか。

見たところデイビッドの魔力が底をつきかけている。

「く、くそっ!」

魔法も当たらなくなってきたし。もうそろそろ終わる頃かしら?

ちなみにカールの魔力は当然尽きていない。

「ダークショット」

闇属性の無数の矢がデイビッドに向かう。

「終わりね。」

フレイがつぶやいた瞬間デイビッドが倒れ込む。

「勝者!カール&フレイーーーーー!」

「「「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」!」」」」」」」」」

先程の試合で一言も発言しなかった司会者が叫ぶと会場が一気に湧いた。

一部の貴族を除いて。

怒っているのはデイビッドの親だろう。

ちなみにデイビッドは死傷ではないが要看護が必要な状況だろう。

ニーナが目覚めていれば一回くらいは回復してもらえただろうけど、何回挑んでもカールは倒せないわよ?きっと。



xxx


「面倒なことになったな…予想はしてたけど。」

あの後決勝が行われる予定だったが急遽決勝で当たる人達が体調不良を申し出たため、前代未聞の決勝不戦勝でカールとフレイが優勝した。

フレイはアイテムを手に入れてほくほく顔だ。

「なにがですの?」

なんで勝ったのに不満げな顔をするのかしら?かーるにもちゃんとアイテム差しあげましたのに。

「お前さ、わかってる?」

「わかっているとは?」

なんのことでしょう?

「あんだけ派手に魔法ぶっ放して…目ぇつけられてっぞ!」

「え!?なんでですの?!」

わたくしなにもしていないわ!ただ、ニーナを倒しただけよ。

「そ・れ・に!その口調!」

口調?

「口調って?なにがですの?」

はっ!

フレイは口を押さえる。

思わず普段の言葉遣いがでていましたわ!

「ちなみに、みんなにもバレてるぞ」

「え!?みんなにですの?!」

「だって、お前途中から言葉崩れてたし。」

「そんな!」

衝撃の事実ですわ!

「…気づいていなかったのか?」

「ええ。…じゃなくて、うん。」

「今更だろ?とりあえずここには俺たちしかいないから話しやすい方でいい」

「…わかりましたわ。」

「それで?なんでアシャタールのお姫様がこの学校にいるわけ?」

「……ご存知でしたの?」

カールの顔を見るとどうやらもうバレているようなので正直に話すことにしたわ。

わたくしの正式な名前はフレアリール・アシャタール。

武術大会を催しているアシャタール王国の王女。

まぁ、王女とはいえ4番目の姫なので割と自由。

「まぁ、最初はわかんなかった。でも、一緒に行動するうちに…だ。それで、調べた」

「そうでしたの…。」

「それで?なんでこの国に?」

「……それは、単純に魔法が使いたかったんですわ。」

「それだけ?」

「それだけよ。自国には魔力を持つ者がいないから独学でしか使えなくて、もっと魔法が使いたかったからこちらに入学したの。……でも。」

「こちらの方にあなたの望む知識はなかった。そうだな?」

「そうよ。」

「…だろうな。」

わたくしの目的はより魔法が使える環境で、まだ見ぬ魔法を使えるようになることだった。

けれど、マジックキングダムにはわたくしの求める魔法はなかった。

正確に言えば全部知っているものばかりで、わたくしの知識よりも下だった。

それは魔力に関しても。

わたくしと同等のものはカール以外にはいなかった。

マジックキングダムが聞いて呆れるわよね?

「それで?こんなこと聞いてわたくしをどうするの?……マジックキングダムの失われし王子様?」

そう、わたくしもカールが気になったから独自に調べた。もちろん自分の足で。

そうしたら、カールの出自が17年前に失踪した第二王子ルカリオールだということがわかったの。

大方跡目争いによるもの…でしょうね。

第一王子と第二王子の母親は違ったはずですから。

子供の頃から第一王子よりも多くの魔力を有していたのでしょう。

フレアリールはルカリオールの返事を待った。

ことの次第では戦うことも考えて。

しかし、ルカリオールの答えはフレアリールの想像とは違った。

「…もない。」

「えっ?」

「……なにもない。ただ、お前の口から聞きたかっただけだ。」

どういうことだろう。

「お前は今この国に狙われている。」

「でしょうね」

それすら覚悟で魔法大会に参加した。

乙女ゲームの内容が変わろうが変わらまいが、狙われようが狙われまいが、どうでもよかったからね。

アイテムの方がよっぽど大事でしたし!

大方この国の第一王子との結婚を迫られるのでささょうね。

お断りですけど。

第一王子はバカと専らのうわさですし。

その前に逃げるつもりだった。

「だが、もし俺がこの国の王位についたら、俺の手を取ってはくれないだろうか…?」

「えっ……?」

「今の身分ではお前に求婚すらできない。けれど、国王になればそれも叶う。元々、学校の在学中にクーデターを起こす予定だった。」

クーデター!物騒!

「でも、学校でお前と過ごすうちに、王位とか母の仇とかはどうでも良くなっていた。お前が平民なら俺も平民でいいかって思っていた。けれどお前がアシャタールの王女だということもわかってからは、違った。」

「カール……!」

わたくし、地位とか気にしないのに…!もう…!すきっ!

「俺はお前が好きだ…!」

「わたくしでいいの?」

「ああ!」

「じゃあ、どうしましょうか?」

地位は特にいらないけれど余計なものは排除に限る。

まぁ、排除したあと面倒な立場になるだろうけれど、一応これでも王女でしたので帝王学は学んでおりますわ。

それに、どんどんこちらに近づく足音も気になり出しましたしね。

「まずは、手始めにすぐに本丸に向かうか。飛べるだろ?」

「ええ。」

「だよな。」

そう言うとお互い窓の方に歩き出す。

「ちなみに、準備はいかほどでして?」

そう言うと

「2人いれば十分だろ。むしろ1人でも行けると思っていた。」

「まぁ!」

そう言って2人は歩き出した。


その日の晩、マジックキングダムの王族は滅亡し、新たな国が建国された。

王族や一部の高位貴族だけが血を流したこのクーデターは国民にも支持された。

ルカリオール1世は自身の即位と共に隣国のアシュタール王国の第四王女と結婚だった。




めでたしめでたし。
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