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9.混沌【レゾナール王国視点】

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 罪状を述べてからはあっという間の出来事だった。

 そしてあまりの急展開に皆ついて行けずしばらく呆然としていた。

 だがしばらくして、謎の拘束が解けたことに気づいた彼等はその数分後に事態を把握し、混乱を極めた。

「どっどういうことだ?!いったい今の出来事はなんだったんだ?!それに、セレーナはどこへ消えた?!ええい!早く探せっ!」

 ざわざわと貴族たちが騒ぐ中、チャーリーは上級魔道士であり、この断罪に協力していたキングダムスクールの教師、マルコに向かって怒鳴りつけていた。

「はっ!今しばらくお待ち下さい。今探査魔法で調べます」

 イヤイヤながらも恋のライバルであるチャーリーにうやうやしく敬礼をしてから探査魔法を展開するマルコ。

 だがそう言ってから一向に返事がない。

 そして、よくよく見るとマルコの額に汗が流れていた。

 正確には冷や汗をかいており、その表情は苦悶に満ちていた。

「…っ!おい!どうした?まだ見つからないのか?」

 痺れを切らしたチャーリーがマルコに問いかける。

「あ…の…。も、もうしばらくお待ちください」

 マルコは焦っていた。何故か魔法が使えなくなっていたからだ。

(おかしい。さっきまで使えていたはずなのに)

 魔力が集まらない。

「………役立たずめ!誰か他にセレーナの足取りのわかるものはいるか?」

 チャーリーが会場にいるもの達に命令するが、会場は静まり返っていた。

 勿論、探査魔法が使えるものはとっくに使っていた。けれど、皆魔法が使えなかった。

「どういうことだ!」

「殿下、お気をお沈め下さい。」

 そばにいた近衛騎士がチャーリーを諌めるもチャーリーの怒りは収まらなかった。

「うるさい!きっとそう遠くへは言っていない!逆に逃げ出したことを後悔するほどもっと重い刑にしてやる!」

「そうですわ!チャーリーぃ…私、あの女がまだ生きていると思うと…コワイ。」

 そう言ってミリアはチャーリーの袖をチョンと摘んで上目遣いをするとぱちぱちっと瞬きをした。

 ちなみに涙は出ていない。

「可哀想に…ミリー…怖いだろう。俺が絶対あの女から守ってやるからな」

 そういうとより一層チャーリーは怒気を孕んだ口調でセレーナを探すように命じた。

「……なんなら仕事はしないけど腕だけは一級品のあの男を連れてこいっ!」

 あの男とはマイケルのことだ。

 けれど残念。マイケルはもうこの世界にはいない。

「はっ!先程、マイケル氏を探しに行ったところ、家はもぬけの殻でした」

 そう言った騎士の言葉に反応したのは国王だった。

「なんだとっ!」

「どうやら…数日前から家に帰っていないそうです」

「なんてことだ…足取りは?」

「掴めておりません」

「ではマサキに連絡をとれ。あやつなら海外にもたくさんのコネクションがある」

「……それが。マサキ氏も行方をくらましております。その、グループ企業ごと」

 その騎士の一言で会場にいる聡明な者は自体の深刻さに驚愕した。

「まさか…他国に寝返った…とか?」

 誰かがぽつりと呟いた一言は一瞬にして拡散されてあたりは騒然となった。

 そんな中、報告に来た騎士はさらに報告があるとした上で話を続けた。

「あの、それでですね…。実はマサキ氏にゆかりのある貴族や平民の大多数の人間が忽然と消えていたのです…た、建物ごと…!もちろん王都周辺しか今は分かっておらず他の領地も確認に向かっている最中です。」

「…なんだと?!」

 国王の声が会場中に響き渡り、先程まで騒いでいた声が鳴りを潜め、静寂が訪れた。

 そして最悪の事態を想定した。

 セレーナとマサキ、マイケルには何らかの繋がりがあったのだろう。3人と3人に関わった人達はセレーナの断罪をきっかけに忽然と姿を消した。

 全てをレゾナール王国から持ち出して。

「……っ!あの小娘ぇ!!!」

 そう言い放った国王は諌めようとしてくれた神官長の手を振り解き、国王は怒りに身を任せ、魔法を発動した…はずだった。

「…???」

 そしてこの時ようやく国王自身もも魔力を失った事に気づいた。


xxx


「……っ!誰か!誰か国の結界が機能しているか見てこいっ!急げっ!」

 レゾナール王国の結界は代々王家が担っていた。今代の王は魔力が少なかったため、生まれたばかりの息子の魔力を使って結界を張っていた。

 そう、チャーリーは魔力はあったのだ。

 魔力の少ない両親から生まれたとは思えない量だった。まぁ、セレーナには敵わないが。

 可哀想なチャーリーは国王の体面を守るために利用されたのだ。

 もっとも国王も他に子供が生まれたらもらう魔力をチャーリーと半分こする予定だったが、一向に子は成せなかった。

 側室も愛人も侍女にも手を出したと言うのに。




「なぜ私ばかり…」

 そう呟いた声は混乱を極める貴族達の声の中に消えていった。
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