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2章

嬉しい言葉

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「おかえりなさい。どうでしたか?」
「楽しかったです。手仕事祭とはまた違った雰囲気で。可愛いお皿も見つけたので後で買いに行こうかと」
「ほほう。良かったですね。私も後で色々見て回ろうと思っています。このイベントは初めてなので」
「そうだったんですね!工芸系の職人さんが多くて面白いですよ」

 出展者はイベント開始前に会場に入ることが出来るが、作品を購入するのは開場してからにしようとリッカは決めていた。一般参加者に対して申し訳ない気がするからだ。

 そうこうしているうちに開場時間を迎え、通路にはお目当てのブースへ急ぐ客が溢れ始め、早速リッカのブースにも客がやってきた。様々な装飾品を身に纏っている女性は宝石箱の中にある指輪をじっと見つめて吟味している。

「宜しければご試着も出来ますよ」
「良いんですか?ではこちらを試してみても宜しいでしょうか」

 女性はそう言うといくつか指輪をピックアップして試着を始めた。リッカが掲げた鏡に手をかざし念入りに着け心地を確認している。試着している様子をよく見るとサイズが少し大きかったり小さかったりするようだった。

「サイズは大丈夫ですか?一点物なので他のサイズが用意出来なくて」

 申し訳なさそうにリッカが声をかける。手仕事祭でよく見た光景だった。

「大丈夫ですよ。自分で調節出来るので。……あ、作り主さんの前で言う事じゃなかったですね。気を悪くされたらごめんなさい」
「いえ!もしかして造形魔法を使われるんですか?」
「ええ」

 女性はそう言って指に嵌めている指輪をなぞりながら続けた。

「私、指輪が好きなんです。でもなかなか好みのデザインで自分のサイズに合うものが無くて。せっかく素敵なデザインの指輪と出会えたのにそれを逃すのは勿体ないって思って自分で調節出来るよう勉強したんです」
「なるほど……。そういう使い方もあるんですね」
「はい。作品を作ったりは出来ませんがサイズを気にしないで買えるので良いなって。市販の指輪もそんなにサイズのバリエーションがあるわけではないですし」

 散々吟味した結果、女性は指輪を三つほど見繕い購入して行った。

「ありがとうございました」

 リッカは女性を見送ったあと指輪のサイズ問題について考えながら悶々としていた。まさかサイズ変更をするために造形魔法を学ぶ人が居るとは。しかしそれ程「サイズが合わなくて買えない」という事象が多いのだろう。

 あの女性は指輪に対する熱い情熱を持っているからこそ造形魔法を会得したが、客のほとんどは自分でサイズ変更をする手段を持たない。「やはり造形魔法でのサイズ調整サービスは需要があるのでは……?」とリッカは悩んでいた。

「早速売れて良かったですね」

 横で見ていた宝石商の声ではっと我に返る。

「そうですね!しかも一気に三つもお買い上げ頂けるなんて嬉しいです」
「ふふ、この調子で頑張りましょう!」

 手仕事祭と比べると来場者は少ないものの、大型イベントだけあって賑わっている。遠征先で固定客が居ない為少し不安だったが、お昼頃にかけてぽつぽつと作品が売れて行ったので安堵した。

「そろそろ交代でお昼休憩をとりましょうか」
「そうですね!宝石商さん、お先にどうぞ」
「ではお言葉に甘えて。何かあったら連絡してください」

 人の流れが落ち着いた頃、リッカと宝石商は交代で昼休憩を取る事にした。今回は昼食を持参していないので出展している飲食店ブースで購入する。多種多様な飲食店が出展しているのでそれを楽しみにしている者も多いのだ。

 宝石商が休憩に入ってから少し経った頃、一人の女性がそわそわしながらリッカのブースへやってきた。その女性が身に着けているペンダントを見たリッカは思わず「あ!」と声を上げる。

「あの、もしかしてそのペンダント……」
「は、はい!数年前にこちらで購入させて頂いた物です!」

 女性が身に着けていたのは間違いなくリッカの作品だった。しかもまだ駆け出しの頃に作った作品で、今は廃盤になっているものである。

「毎回『夜の装飾品店』さんが参加されていないか探していたんです。だから今回出展されているって分かって凄く嬉しくて飛んできちゃいました!あ、これ差し入れです!」

 そう言うと女性は恥ずかしそうにしながら可愛らしい袋に入ったお菓子の詰め合わせをリッカに手渡す。

「ありがとうございます……!」

 毎回探してくれていたとは、作り手として冥利に尽きる言葉だ。しばらく参加していなかったイベントなのにこうして駆けつけてくれるファンが居るとは思っても見なかった。女性は「拝見します」と言って作品を眺め始めた。

「持っていない物ばかりなので迷っちゃいます」

 と言いつつペンダントや指輪、ブローチを試着する。女性にとっては数年分の新作がずらっと並んでいる状態だ。あれもこれもと試着をしながら最終的にはブローチやペンダントなど2点を購入した。

 そのうちの1点は以前作ったラピスラズリのブローチだ。この作品は売れ行きが良く、すっかり「夜の装飾品店」の定番商品として定着していた。

「ご連絡先を教えて頂ければ次回出展する際に手紙を送りますよ」
「え!良いんですか?」

 別れ際に女性の連作先を聞いてチラシを送る約束をした。今時手紙と思われるかもしれないが、これも大事な宣伝手段だ。満足げな様子で去って行く女性の後ろ姿を見送っていると宝石商が休憩から帰って来た。

「ただいま戻りました。おや、何か良い事でもあったんですか?」

 晴れやかな顔をしているリッカを見て宝石商が尋ねる。

「はい。とても良い事が!宝石商さんは何か良い物買えました?」
「ええ。来客用にティーカップを二組とお皿を何点か。宝石をモチーフにした陶器屋さんがあってデザインが素敵だったので」
「え!宝石モチーフの?」
「はい。ルースを描いたお皿やカップを作っていらっしゃって可愛かったですよ」
「どこのブースですか?」

 リッカは宝石商にブースの番号を教えて貰い、休憩がてら買いに行く事にした。店番を宝石商に任せ昼食と買い物に繰り出す。先に食事をするために飲食店のブースへと向かった。
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