43 / 49
2章
造形魔法至上主義
しおりを挟む
その頃、アキのブースには一人の訪問者がいた。
「アキ、久しぶり」
「……。ナギサさんこそ」
「新星社」のナギサだ。ナギサとアキは同じコンテストで何度もしのぎを削った仲。表彰式でいつも真ん中に立つのはナギサでその横にはアキが居て、ナギサには一度も勝てなかった。悔しいというより諦めの気持ちの方が強い。そんな事もあり、アキはナギサが少し苦手だった。
「どういう風の吹き回しですか?あなたが『手仕事祭』に出るなんて。あんなに『手仕事』には興味が無さそうだったのに」
「うん。興味は無かったよ」
ナギサははっきりと言い切った。
「でも、前回の手仕事祭に君が出たって言うのを聞いて興味が湧いたんだ。あれだけ造形魔法の才能があるのに何故『手仕事』に執着するのか。僕も出て見れば分かるかなって思って」
アキの作品を眺めながらナギサは続ける。
「これが君がやりたかったことなのかい?」
今回アキは新しい手法での製作に踏み切った。全てを造形魔法に頼るのではなく、造形魔法で作った原型を複製型で複製して手で仕上げる。リッカに指導をしてもらいながら手作業で仕上げと石留めを行ったのだ。
御世辞にも仕上げが完璧とは言えない。造形魔法のキズ一つ無い鏡面仕上げに比べたらまだまだ甘い部分も多い。それでもアキはこの方法で作品を作りたかった。
「そうです。何か文句でも?」
「せっかくの原型が台無しだ。複製魔法を使えばこんな不格好な」
「喧嘩を売りに来たんですか?」
アキはナギサの声を遮るように言った。
「あなたが造形魔法至上主義なのは知っています。確かに造形魔法は素晴らしい。複製魔法だって仕上げの手間が省けて便利です。
でも私がやりたいのは『手仕事』なんです。確かに不格好かもしれない。けれど一つ一つ自分の手で仕上げて石を留めて仕上げた大事な作品です。それをそんな言い方するなんて失礼にも程がありますよ?」
「理解できない」
ナギサは考え込むような仕草を見せる。この人とは分かり合えない。アキはそう思った。
「造形魔法を使えば完璧に仕上げる事が出来るし、複製魔法を使えばその姿のまま何個でも複製する事が出来る。なのに何故そんな前時代的な技法に拘るんだ?非効率だ。美しくない。
石だって何故わざわざ傷やムラのある物を使うんだ。魔工宝石ならば最上級の宝石をどんな大きさ、どんなカットでも用意出来るというのに」
「……あなたは他の出展者の作品を見て何も感じないんですか?」
「ん?そうだな。造形魔法を使えばもっと魅力的な作品になるのにとは思ったよ」
「……」
「やっぱり造形魔法はもっと広まるべきだと改めて思ったね」
(本気で言っているんだ)
真面目な顔でそう言い放つナギサを見て、まるで別世界の人間を見ているようだとアキは思った。造形魔法こそ至高。手仕事は非効率だから造形魔法に置き換わるべき。そういう考えの持ち主なのだと。
(この人、なんでこの場所にいるの……)
「場違いだ」と思った。もうこれ以上ナギサの言葉を聞きたくない。造形魔法について語り続けるナギサの声を頭に入れたくなくて、追い返すために言葉を発しようとした時
「通路塞がってるからどいてくれ」
というコハルの声がした。周りを見渡すとナギサを一目見ようとアキのブース周辺に人だかりが出来始めている。
「いちゃもんをつけに来ただけなら帰れ。営業妨害だぞ」
「コハルも来ていたのか」
「話ならオレが聞く。アキ、店に戻れ」
「……ありがとう」
コハルはナギサの腕を取り無理矢理広い通路の方へ連れ出した。
「あのさ、せっかくアキの夢が叶ったんだ。邪魔しないでくれ」
「邪魔とは失礼だな。ボクはただ勿体無いと思っただけだよ。アキならもっと美しくて素晴らしい作品に仕上げられる。せっかく美しい原型を作っても仕上げがアレでは台無しだろう」
「余計なお世話なんだよ。アキは『手仕事』で作品を作りたい、それが夢だったんだ。お前が造形魔法に傾倒しているのは知っているが、それを押し付けるのはやめろ」
「理解できないな。何故わざわざ不格好な物を作るんだ?」
ナギサは周りのブースを見渡して言う。
「ボクの作品を見たかい?造形魔法ならば前時代的なモチーフでもあんなに美しく完璧に作る事が出来る。ちゃんと一つずつ丁寧に作った一点物さ。あれがボクの『手仕事』の答えだ」
「『前時代的なモチーフ』ねぇ……」
「造形魔法は元々量産のために作られた物ではない。原型製作をよりスムーズに、簡単に、美しく仕上げるために作られた魔法だ。製作を補助する工具の一種みたいなものなんだよ。だから造形魔法を使ったって『手仕事』と言っても良いんじゃないかとボクは思う。
そう考えると『手仕事』に拘るなら何も前時代的な方法を使う必要はないんじゃないかな。ここにいる人達にももっと造形魔法の良さを知って貰いたいんだ」
(こいつ……)
コハルは目を輝かせて語るナギサを見てため息をついた。
「アキがどうしてあんなに前時代的な方法に拘るのかは分からなかったけど、色々なブースを見て分かったよ。まだまだ造形魔法を広める余地があるってことがね」
「お前は根本的な所から間違っている。ここに集まっているのは造形魔法を『あえて』使わない連中ばかりだ。手で作るのが好きなんだよ。理解出来ないならそれでいい。ただ、お前のエゴを押し付けるな!」
そう言い捨ててコハルはアキのブースに戻って行くコハルをナギサはぽかんとした顔で見つめていたのだった。
「アキ、久しぶり」
「……。ナギサさんこそ」
「新星社」のナギサだ。ナギサとアキは同じコンテストで何度もしのぎを削った仲。表彰式でいつも真ん中に立つのはナギサでその横にはアキが居て、ナギサには一度も勝てなかった。悔しいというより諦めの気持ちの方が強い。そんな事もあり、アキはナギサが少し苦手だった。
「どういう風の吹き回しですか?あなたが『手仕事祭』に出るなんて。あんなに『手仕事』には興味が無さそうだったのに」
「うん。興味は無かったよ」
ナギサははっきりと言い切った。
「でも、前回の手仕事祭に君が出たって言うのを聞いて興味が湧いたんだ。あれだけ造形魔法の才能があるのに何故『手仕事』に執着するのか。僕も出て見れば分かるかなって思って」
アキの作品を眺めながらナギサは続ける。
「これが君がやりたかったことなのかい?」
今回アキは新しい手法での製作に踏み切った。全てを造形魔法に頼るのではなく、造形魔法で作った原型を複製型で複製して手で仕上げる。リッカに指導をしてもらいながら手作業で仕上げと石留めを行ったのだ。
御世辞にも仕上げが完璧とは言えない。造形魔法のキズ一つ無い鏡面仕上げに比べたらまだまだ甘い部分も多い。それでもアキはこの方法で作品を作りたかった。
「そうです。何か文句でも?」
「せっかくの原型が台無しだ。複製魔法を使えばこんな不格好な」
「喧嘩を売りに来たんですか?」
アキはナギサの声を遮るように言った。
「あなたが造形魔法至上主義なのは知っています。確かに造形魔法は素晴らしい。複製魔法だって仕上げの手間が省けて便利です。
でも私がやりたいのは『手仕事』なんです。確かに不格好かもしれない。けれど一つ一つ自分の手で仕上げて石を留めて仕上げた大事な作品です。それをそんな言い方するなんて失礼にも程がありますよ?」
「理解できない」
ナギサは考え込むような仕草を見せる。この人とは分かり合えない。アキはそう思った。
「造形魔法を使えば完璧に仕上げる事が出来るし、複製魔法を使えばその姿のまま何個でも複製する事が出来る。なのに何故そんな前時代的な技法に拘るんだ?非効率だ。美しくない。
石だって何故わざわざ傷やムラのある物を使うんだ。魔工宝石ならば最上級の宝石をどんな大きさ、どんなカットでも用意出来るというのに」
「……あなたは他の出展者の作品を見て何も感じないんですか?」
「ん?そうだな。造形魔法を使えばもっと魅力的な作品になるのにとは思ったよ」
「……」
「やっぱり造形魔法はもっと広まるべきだと改めて思ったね」
(本気で言っているんだ)
真面目な顔でそう言い放つナギサを見て、まるで別世界の人間を見ているようだとアキは思った。造形魔法こそ至高。手仕事は非効率だから造形魔法に置き換わるべき。そういう考えの持ち主なのだと。
(この人、なんでこの場所にいるの……)
「場違いだ」と思った。もうこれ以上ナギサの言葉を聞きたくない。造形魔法について語り続けるナギサの声を頭に入れたくなくて、追い返すために言葉を発しようとした時
「通路塞がってるからどいてくれ」
というコハルの声がした。周りを見渡すとナギサを一目見ようとアキのブース周辺に人だかりが出来始めている。
「いちゃもんをつけに来ただけなら帰れ。営業妨害だぞ」
「コハルも来ていたのか」
「話ならオレが聞く。アキ、店に戻れ」
「……ありがとう」
コハルはナギサの腕を取り無理矢理広い通路の方へ連れ出した。
「あのさ、せっかくアキの夢が叶ったんだ。邪魔しないでくれ」
「邪魔とは失礼だな。ボクはただ勿体無いと思っただけだよ。アキならもっと美しくて素晴らしい作品に仕上げられる。せっかく美しい原型を作っても仕上げがアレでは台無しだろう」
「余計なお世話なんだよ。アキは『手仕事』で作品を作りたい、それが夢だったんだ。お前が造形魔法に傾倒しているのは知っているが、それを押し付けるのはやめろ」
「理解できないな。何故わざわざ不格好な物を作るんだ?」
ナギサは周りのブースを見渡して言う。
「ボクの作品を見たかい?造形魔法ならば前時代的なモチーフでもあんなに美しく完璧に作る事が出来る。ちゃんと一つずつ丁寧に作った一点物さ。あれがボクの『手仕事』の答えだ」
「『前時代的なモチーフ』ねぇ……」
「造形魔法は元々量産のために作られた物ではない。原型製作をよりスムーズに、簡単に、美しく仕上げるために作られた魔法だ。製作を補助する工具の一種みたいなものなんだよ。だから造形魔法を使ったって『手仕事』と言っても良いんじゃないかとボクは思う。
そう考えると『手仕事』に拘るなら何も前時代的な方法を使う必要はないんじゃないかな。ここにいる人達にももっと造形魔法の良さを知って貰いたいんだ」
(こいつ……)
コハルは目を輝かせて語るナギサを見てため息をついた。
「アキがどうしてあんなに前時代的な方法に拘るのかは分からなかったけど、色々なブースを見て分かったよ。まだまだ造形魔法を広める余地があるってことがね」
「お前は根本的な所から間違っている。ここに集まっているのは造形魔法を『あえて』使わない連中ばかりだ。手で作るのが好きなんだよ。理解出来ないならそれでいい。ただ、お前のエゴを押し付けるな!」
そう言い捨ててコハルはアキのブースに戻って行くコハルをナギサはぽかんとした顔で見つめていたのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる