夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~

スズシロ

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2章

新たな星

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「今度の手仕事に『新星社』が出るって聞いたか?」

 新作の石座を作りながらアキやコハルと通話を繋いでいると、コハルが急にそんな話題を切り出した。最近二人に誘われ作業をしながら通話をするのが習慣になりつつあり、その日も各々仕事をしながらだらだらと会話を楽しんでいたのだった。

「『新星社』って確か最近新しく出来たっていう……」
「そうだ。最近と言っても数年前だがな。『黒き城シャトー・ノワール』ほどじゃないが今勢いのある宝飾会社の一つだな。そこの代表が手仕事祭に出るんだよ」
「へー。アキさんみたいに凄い子なのかな」
「私よりも凄い子ですよ」

 アキははっきりと言った。

「その職人さんと知り合いなの?」
「知り合いと言うか、私が学生時代に出していたコンテストでいつも一番を取っていた方です。それでいてどこの学校にも通わず独学だとかで、造形魔法で宝飾をやっている人達の間では有名でしたよ」
「え!そんなに技量がある方なんですか?」
「うーん。分かりやすく説明できるか分かりませんが、造形魔法って魔力を注いで金属を変形させるんですけど、上手い人ほど少ない魔力で加工出来るんです。
 完成した作品には作り手の魔力の残滓が残るのでどれくらい残滓が残っているかで上手い下手が簡単に分かるんですけど、彼女の作品は全くと言っていいほど魔力を感じないんです。魔力の操作が『うますぎる』って言うんですかね……」
「まるで『手仕事』で作られた作品みたいなんだよ。全く魔力を感じないって言うのは。それでいて繊細緻密な作品を仕上げてくる。どんな魔力操作をすればあんなのが出来るのか想像できないぜ」

 アキとコハルの話を聞く限りとてつもない技術の持ち主なのだろう。おまけに独学だという。「新星社」は著名な造形魔法の技師である彼女の両親が彼女のために作った会社で、設立数年にしてハイブランドとしての立場をあっと言う間に確立させた新進気鋭の工房だ。

黒き城シャトー・ノワール」が日用品路線のファストブランドなのに対し「新星社」は造形魔法と複製魔法での製造でありながら「ジュエリー」と呼ぶにふさわしい高価格路線を選択した。一般人にはなかなか手が届かない価格帯だがコンテストを蹂躙した「天才」が作る宝飾品という触れ込みで飛ぶように売れているらしい。

「そんな人が手仕事祭に?」
「ああ。前回同様造形魔法での参加が認められたからな」
「私が言うのも何なのですが、多分凄い事になると思います」

 アキ曰く、彼女自身が「新星社」のモデルを務めるほどの美貌でファンも相当数いるらしい。なので当日は相当混雑するのではないかという見立てだ。

「まぁ、催事慣れしてそうだからそこら辺は何か対策をしてくるとは思うがな」
「ご自身がモデルをやっていらっしゃるから人前に出る機会が多くて、サイン会も開いたことがあるらしいですよ」
「え!もはやアイドルですね……」

 まさに才色兼備とはこのことだろう。しかしそこまで言われると実際に「作品」も「本人」も見てみたくなる。少し早めに行ってブースを見に行こうと思ったリッカだった。

「そういえば、アキさんは今回も参加するんですか?」
「はい。前回の失敗を活かして今回は広めのスペースを取ろうかと。展示方法も見直して整理券を準備しようと思っています」

 「さすがにまた失敗する訳にはいきませんから」と恥ずかしそうにアキは呟く。前回の経験がトラウマになっていなくて良かったとリッカは少しほっとした。

「今回は最初からオレも手伝うから安心してくれ」

 リッカの心情を察したのかコハルがフォローに入る。それなら大丈夫そうだ。

「前回終わった後社長にこってり怒られたので、もう同じ轍は踏みません」
「滅茶苦茶怒ってたよな」
「あんなに怒った社長は初めてでした」

 秋の手仕事祭終了後、会社に戻ったアキは騒ぎを聞きつけた社長にたっぷりとお説教されたのだった。「なんとなくこうなると思っていました」「だからあれほど『一度見学しに行かなくていいの?』と聞いたのに」と眉間に皺を寄せる社長にアキはただ謝るしかなく、次のイベントでは必ず汚名返上してみせると誓ったのだ。

「次こそ平穏無事にイベントを終えて見せます!」

 そう意気込むアキを温かい目で見守るリッカだった。
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