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2章

新作の石選び

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 ものづくりの祭典「手仕事祭」。年明けから暫く経った頃、リッカは「春の手仕事祭」に向けた準備を始めていた。小さな蚤の市などには出店をしているが大きなイベントは久しぶりな為、ここでしっかり稼いでおきたいと新作作りにも熱が入っている。

 前回はブローチを作ったから今回は別の物が良い。ペンダントは既存の作品が沢山あるから指輪を増やそうか。ピアスをバラで作っても面白いかもしれない。紙に書きだして考えを纏める。

 リッカの作品は「夜の装飾品店」という屋号に合わせ寒色系の色石を使う事が多い。今回も青や紫系が多めで、たまに赤や黄色など違う色を混ぜても可愛いかもしれない。石の色とカット、仕立てた際のデザインを想像しながら方向性を決める。

 ふと目線を上げると昔どこかの蚤の市で購入した古い宝石箱が目に入った。何かのディスプレイに使えそうだと購入したのは良い物のずっと放置していた物だ。

(これだ!)

 宝石箱は薬箱ほどの大きさで木製の地に真鍮の装飾がついている。中綿を入れ替えれば十分使えるだろう。

(この宝石箱一杯に指輪を入れよう。色々な石で作って見た目だけでも楽しめるようにしたら面白いだろうな)

 新作は指輪に決定だ。宝石箱を色とりどりの指輪で満たすにはそれだけ宝石を用意する必要がある。ストックしてある石を確認すると少し心もとない数だったので新たに調達する事にした。 

 この先しばらく石の即売会が無いのでオカチマチにある宝石屋を巡る。オカチマチには宝石商の営む宝石屋以外にも安価な宝石を売っている店や宝石ビーズを売っている店、サンゴやパールを専門で扱っている店など多種多様な宝石専門店があるのだ。リッカは何店舗か巡って目ぼしい宝石を探す事にした。
 
(青系の石だとアパタイト、カイヤナイト、ブルートパーズ辺りが綺麗だな。安い石だと色が薄かったり不純物や亀裂が入っている物も多いけど選別すれば問題なさそう)

 迷った末にカイヤナイトとブルートパーズを購入することにし、ルースケースに入っている石の中から綺麗な物を選別する。宝石専門店では一つのルースケースに同じ種類の石が何個も入って売られており、購入する際はルースケースから購入する分だけ取り出す形式になっている。玉石混交という訳ではないが天然石の場合同じルースケースに入っていても一個一個色やカットの甘さ、傷や不純物の入り方が違うため、買い手は良く見極めて買う必要があるのだ。

 別の店に移動し、再び良さそうな石を探す。先ほどは寒色系の石を購入したので今度は暖色系の石を買うつもりだ。

(あ、ルビー)

 ルビーのコーナーで足が止まる。カットや色の濃さが違う何種類ものルビーがルースケースに入れられて棚に並んでいる。価値が高いとされる濃い赤色のルビーと比べてピンク系の色味や暗い色味の小さいルビーならば手が出しやすい価格だ。
 
(サンストーンも綺麗だなぁ)

 サンストーンは光が当たるとオレンジ色の透明な地の中にキラキラと粒子のような輝きが見られる特徴的な石である。石の角度が変わる度に揺らめく光はオパールの遊色のように見ていて飽きない。太陽をイメージさせるところから「夜」との対比でムーンストーンと一緒に並べるのも面白そうだ。暖色系だとトルマリンやピンクトパーズなども可愛らしいが、今回はルビーとサンストーンを購入することにした。

 新作はストックしてある石とこの前のオパールの余り、そして今回購入した四種類の石で作る指輪で決定だ。指輪のデザインはシンプルな一粒石の指輪と腕の部分を少しだけ凝ったデザインにした指輪の二種類にすることにした。全て型を作らない一点物である。
 
「忙しくなるぞー」

 春の戦に向けた新作との戦いの火蓋が切って落とされた。
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