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2章
弟子と師匠
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「今からそちらに行っても良いですか!」とアキから連絡が入ったのはとある日の午後だった。どうやら宝石商から連絡先を聞いたコハルがアキに伝えたらしい。リッカは委託先へ納品する作品を作るくらいしかやる事が無かったので快諾した。
「こんにちは!」
アキは元気な声で挨拶をするとそわそわしながら辺りを見回す。
「これがリッカさんの工房……!」
憧れの「手仕事」をする場所。見る物全てが輝いて見えているに違いない。そんなアキを見て微笑ましいなと思うリッカだった。
「どうします?何か作ってみます?」
「は、はい!」
何やら大きなカバンから色々な物を取り出す。
「一応ヤスリとかを揃えて来たのですが……」
どうやらヤスリ一式を購入してきたらしい。凄い気合の入れ方だ。持参したエプロンを身に着けるとリッカに誘われ彫金机に向かった。
「これが彫金机!」
「造形魔法だと彫金机使わないんですか?」
「はい。基本的に魔法だけで全てが完結してしまうので、机一つあれば作業出来てしまうんです」
「へー!場所を問わないのは良いですね」
同じ宝飾品・装飾品作りでも手仕事と魔法とでは全く別の畑である。リッカにとってもアキとの会話は新鮮で造形魔法に関する知識に触れるのは楽しかった。
「では、今日は簡単な指輪を作ってみましょうか」
「はい!宜しくお願いします、師匠」
アキの呼び方に手が止まる。
「えーっと、その師匠っていう呼び方なんですけど」
「ダメですか?」
「ちょっと恥ずかしいかも……」
「似合うと思いますよ。師匠」
何度か押し問答をし、諦めなさそうなので渋々「師匠」という呼び方を受け入れた。図らずとも「弟子」が誕生した瞬間だ。手ほどきをしながら銀の角棒を使った基本的な指輪を作っていく。糸鋸の刃を引っ掻けて何本も折ったり力一杯叩きすぎて地金に打痕がぼこぼこと残ったり、ヤスリの角度のせいか指輪が斜めに削れていたり、アキの言う「不器用」とはきっとこういう事なのだろうなとリッカは思いながらその都度丁寧にアドバイス重ね、1時間ほどかけて少し不格好ではあるが一本の指輪が完成した。
「うわ……出来た……!」
アキは何度も指輪をかざして初めて作った指輪を眺めている。
「どうでした?」
「難しかったです。ヤスリもまっすぐかからないし糸鋸は引っかかって折れちゃうし。やっぱり職人さんは凄いですね」
「最初は誰でもそんな感じですよ。私も上手い方では無かったし。練習あるのみですね」
「練習……」
何か考えるような仕草をしたあと、アキはリッカに向かって「もう一度作ってみても良いですか?」と具申した。リッカから許可が出ると製作した指輪の上に手をかざし造形魔法を起動させる。すると指輪がみるみるうちに変形し、削り落とした銀粉と交わって角棒の形に戻った。
「凄い」
造形魔法を初めて間近で見たリッカは思わず声を漏らす。
「こうすれば同じ素材で何度も練習出来るんです。造形魔法の職人特有の練習方法ですね」
「へー。練習するのに素材を消費しないのは良いですね。銀も安くは無いですし。ロウだったら似たような感じで何度もやり直しが出来ますが、地金だと練習事に素材が必要になりますから」
「そうなんです。お財布にも優しい練習法ですよ。リッカさんも簡単な造形魔法を覚えれば出来るようになるはずです」
造形魔法は「物を作るための魔法」だと思っていた。手仕事でものづくりをする自分には縁のない魔法だと。まさか練習での使い道があるとは……。練習に使う銀の価格を考えると基本的な造形魔法だけでも勉強する価値はあるかもしれないとリッカは思った。
「宜しければ今度お教えしましょうか?」
「え!良いんですか?」
「勿論!師匠にはこうして彫金を教えて頂いていますし、私に出来る事なら何でもおっしゃってください」
「ありがとうございます。じゃあアキさんは私の造形魔法の『師匠』ですね」
「し、師匠!」
こうしてリッカとアキは時々それぞれの技術を教え合うことになった。練習に使う銀の量が減り、その分リッカが美味しい物を少しだけ多く食べられるようになるのはもう少し後の事である。
「こんにちは!」
アキは元気な声で挨拶をするとそわそわしながら辺りを見回す。
「これがリッカさんの工房……!」
憧れの「手仕事」をする場所。見る物全てが輝いて見えているに違いない。そんなアキを見て微笑ましいなと思うリッカだった。
「どうします?何か作ってみます?」
「は、はい!」
何やら大きなカバンから色々な物を取り出す。
「一応ヤスリとかを揃えて来たのですが……」
どうやらヤスリ一式を購入してきたらしい。凄い気合の入れ方だ。持参したエプロンを身に着けるとリッカに誘われ彫金机に向かった。
「これが彫金机!」
「造形魔法だと彫金机使わないんですか?」
「はい。基本的に魔法だけで全てが完結してしまうので、机一つあれば作業出来てしまうんです」
「へー!場所を問わないのは良いですね」
同じ宝飾品・装飾品作りでも手仕事と魔法とでは全く別の畑である。リッカにとってもアキとの会話は新鮮で造形魔法に関する知識に触れるのは楽しかった。
「では、今日は簡単な指輪を作ってみましょうか」
「はい!宜しくお願いします、師匠」
アキの呼び方に手が止まる。
「えーっと、その師匠っていう呼び方なんですけど」
「ダメですか?」
「ちょっと恥ずかしいかも……」
「似合うと思いますよ。師匠」
何度か押し問答をし、諦めなさそうなので渋々「師匠」という呼び方を受け入れた。図らずとも「弟子」が誕生した瞬間だ。手ほどきをしながら銀の角棒を使った基本的な指輪を作っていく。糸鋸の刃を引っ掻けて何本も折ったり力一杯叩きすぎて地金に打痕がぼこぼこと残ったり、ヤスリの角度のせいか指輪が斜めに削れていたり、アキの言う「不器用」とはきっとこういう事なのだろうなとリッカは思いながらその都度丁寧にアドバイス重ね、1時間ほどかけて少し不格好ではあるが一本の指輪が完成した。
「うわ……出来た……!」
アキは何度も指輪をかざして初めて作った指輪を眺めている。
「どうでした?」
「難しかったです。ヤスリもまっすぐかからないし糸鋸は引っかかって折れちゃうし。やっぱり職人さんは凄いですね」
「最初は誰でもそんな感じですよ。私も上手い方では無かったし。練習あるのみですね」
「練習……」
何か考えるような仕草をしたあと、アキはリッカに向かって「もう一度作ってみても良いですか?」と具申した。リッカから許可が出ると製作した指輪の上に手をかざし造形魔法を起動させる。すると指輪がみるみるうちに変形し、削り落とした銀粉と交わって角棒の形に戻った。
「凄い」
造形魔法を初めて間近で見たリッカは思わず声を漏らす。
「こうすれば同じ素材で何度も練習出来るんです。造形魔法の職人特有の練習方法ですね」
「へー。練習するのに素材を消費しないのは良いですね。銀も安くは無いですし。ロウだったら似たような感じで何度もやり直しが出来ますが、地金だと練習事に素材が必要になりますから」
「そうなんです。お財布にも優しい練習法ですよ。リッカさんも簡単な造形魔法を覚えれば出来るようになるはずです」
造形魔法は「物を作るための魔法」だと思っていた。手仕事でものづくりをする自分には縁のない魔法だと。まさか練習での使い道があるとは……。練習に使う銀の価格を考えると基本的な造形魔法だけでも勉強する価値はあるかもしれないとリッカは思った。
「宜しければ今度お教えしましょうか?」
「え!良いんですか?」
「勿論!師匠にはこうして彫金を教えて頂いていますし、私に出来る事なら何でもおっしゃってください」
「ありがとうございます。じゃあアキさんは私の造形魔法の『師匠』ですね」
「し、師匠!」
こうしてリッカとアキは時々それぞれの技術を教え合うことになった。練習に使う銀の量が減り、その分リッカが美味しい物を少しだけ多く食べられるようになるのはもう少し後の事である。
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