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1章

トラウマを乗り越えて

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 いよいよ夜市に向けて新作の製作に入る。今回作るのはオパールの指輪とピアスだ。初心に帰って一粒石のシンプルなデザインにする事にした。

 石が小さいのでリングも細い方が合う為、少し太めの銀線を叩いて曲げてリングを作り、そこに買ってきた石に合わせて作った石座をロウ付けする。そのままのシンプルなタイプとリングの腕(外周)の部分にミル打ち(タガネで打ち込んだ飾りの事)したタイプを作り、バリエーションを作った。

 ピアスは石に合わせて作った石座にピアスの芯をロウ付けする。芯の底に皿がついているタイプだとロウ付けしやすいので便利だ。全てのロウ付けが終わったらひたすら磨いていく。目立つ傷をヤスリや荒い紙やすりで取ってから、番手の多い目の細かい紙やすりで磨く。ある程度綺麗になったらリューターで番手の若い順に磨き、最後に研磨剤を付けたバフで磨けば土台は完成だ。

「ふー」

 一気に作業をしたので一息入れる。ここから先は石留め。気を遣う作業の連続だ。

(ここまでは順調だけど、問題はこの先。上手く出来ると良いけど)

 朝から作業をし続けて既に日が暮れていた。お腹が空いたので冷蔵庫にある食材を使って夕飯を作る。使い古した鍋に固形の調味料と野菜、ソーセージを突っ込み煮込む。コショウや塩で味を調えるだけで結構美味しく出来るのだ。ご飯は冷凍してあった物を熱源魔道具で解凍して済ませる。手早く暖かいものを食べられるのは素晴らしい事だ。

(ぱぱっと美味しいものが食べれるって最高―)

 スープにドバっとチーズをかけて、ふーふーと冷ましながら食べるのが好きだ。冬の寒い日にコショウが効いたスープが良く沁みる。

(にしても、もう年末かー。一年って早いなぁ)

 リッカの一年はイベントを中心に回っている。イベントが終わればまた次のイベントに向けて新作を作り、その隙間に委託先へ納品する作品を作り続けるのだ。そうしていると忙しくて息つく間もなく1年が終わってしまう。夜市の作品を作りながら毎年年の瀬を感じるのが恒例となっていた。

(今年も色々あったけど、まぁ……暮らせて行けてるから良かった)

 リッカの頭にぼんやりと実家の家族の顔が浮かぶ。食っていけないから造形魔法を学べと言う両親の反対を押し切ってオカチマチへやって来たリッカ。オカチマチへ来て以来実家には帰っていない。

 最初はどうなる事かと思ったが、イベントの収入と委託販売でどうにか食いつないでいる自分を褒めてあげたいと思った。それもこの先どうなるかは分からないが。

 休憩を挟み、作業を再開する。完成した土台を固定して石を留めるのだ。

「大丈夫。練習通りにやれば留まる」

 自分に言い聞かせるように独り言を呟く。同じ組成を持った魔工宝石で練習したとはいえ、天然のオパールを留めるのは緊張する。失敗したら石が傷ついて取り返しがつかない。

 オパールが動いてずれないように小さく切ったテープで固定し、爪をゆっくり倒し始める。力を入れて一気に倒れないように、四つの爪を順番に少しずつ倒していく。オパールの曲線に沿って隙間が出来ないように、絶妙な力加減でゆっくりと。

 小さい石座なので爪からタガネが滑り落ちないように細心の注意を払いながら爪の先までしっかりと接地するよう留める。石と爪との隙間が大きいと服に引っかかったりする原因になるからだ。

 慎重に慎重を重ねながら、リッカは一個目のリングを完成させた。

「やった!」

 石を留め終わった時、思わず声が出た。それと同時に安心感と達成感が湧いてくる。上手く出来たのだ。

 石留め自体は他の石で何度もやっているし、作品も何個も作って販売している。しかし、オパールだけはどうしても留める事が出来なかった。好きな石の石留めを失敗したという記憶が心の中に留まり続け、どうしても踏み出す事が出来なかったのだ。

 しかし、ようやくその一歩を踏み出すことが出来た。たかが石留めかもしれないけれど、リッカは長年刺さっていたとげが抜けたように心が軽くなったのだった。

「よし!残りも留めるぞ!」

気合を入れ直し、残りのリングとピアスの石留めに乗り出す。その日の夜遅く、夜市に向けた新作が無事に完成したのだった。
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