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1章
安さの秘訣
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「勿論それはコレクション用だぞ。ちゃんと製作用も用意してある」
コハルはそう言ってトレーの上のルースケースを指差す。丁度練習に使っているのと同じ位の大きさの石が一つのルースケースに2つずつ入っていた。
「ペアで用意して下さっているとは……有難い」
「イヤリングやピアスにも使えるし単体としても使えるからな。色味も似たような物をペアにしておいた」
カボションカットの使いやすい大きさの石だ。小さいけれど虹色に輝く遊色が綺麗に出ている。完全な透明ではなく半透明な所がミルキーで可愛らしい。
「透明な、それこそ水滴みたいなウォーターオパールも良いですけど、こういう半透明なのも可愛いんですよねぇ」
「ウォーターオパールと言っても千差万別だからな。半透明なタイプは見た目が可愛いから若い子にウケるぜ」
「確かにファンシーな見た目ですからね。それに、これなら装飾品に加工しても遊色が見えやすいかも」
「遊色が見えやすい?」
「はい。透明無色なウォーターオパールって石座に留めると遊色が見えにくくなりがちなんですよね。黒い服の上とかだと見えやすいんですけど…」
「あー……。石が無色透明な分背景の色に溶け込みがちだからな。そういう意味では半透明なオパールは向いていると思うぞ」
「不透明なホワイトオパールで作ろうと思っていたんですけど、確かにこっちでもありですね」
目の前に並べられたウォーターオパールを手に取る。許可を得てペンライトで照らしてみるが特に傷などが無く美しい。小さいけれど厚みがあるカボションカットで、どれも奥行きのある遊色が楽しめそうだ。
夜でも変わらぬ色味を楽しめるホワイトオパールを仕立てようと思っていたが、このウォーターオパールならランタンや夜間照明の灯りでも映えるかもしれない。
「このトレーのやつ、全部下さい」
「良いのか?」
「はい。傷も無く素晴らしいオパールばかりなので。おいくらですか?」
「大きいやつは銀貨3枚と銅貨5枚。小さいやつはそれぞれ銀貨1枚と銅貨5枚だ」
「え、安っ!こんなに安くて大丈夫なんですか?」
もっと値が張るかと思っていたリッカは驚いた。特にこの大きなウォーターオパールがあの大きさ、色味、綺麗なカットで銀貨3枚と銅貨5枚とは。個人的にはもっと払っても良いくらいだ。
「ああ。自分で磨いていると言うのもあるが、最近は通信技術の発達で産地から直接原石を自分で買い付けられるようになったからな。業者を通さない分安くできるようになったんだ。良い時代になったもんだよ」
「産地から直接?」
「蜃気楼通信システムって知ってるか?遠隔地から立体映像でまるでその場に物があるかのように見せる技術なんだが、それを投影魔法を付与した魔道具で簡単にできるようにした会社があってな。
蜃気楼通信を使えば現地に行かなくても自宅で原石を360度ぐるりと観察してから買い付け出来るようになった上に、転移魔法の宅配システムを使えば一瞬で手元に届くから便利なんだぜ」
「初めて聞きました。そんな便利なシステムがあるんですね」
最先端の魔法に疎いリッカは初めて聞く言葉に目を白黒させている。普段あまり魔法を使わない仕事をしているので最新の魔道具には疎いのだ。代金を支払い梱包したオパール達を受け取るとコハルはリッカをじっと見つめて言った。
「そういえば、進捗はどうなんだ?」
「コハルさんに頂いたオパールのお陰で練習が捗っていますよ。基本的な石座を作って留めての繰り返しですけど、本物のオパールと変わりないので力の加減や留めやすい爪の研究などが出来て助かりました!」
「それは良かった。やっぱり実物で練習するのが一番だからな。順調そうで一安心だ。夜市がますます楽しみだな」
「あまりプレッシャーかけないでくださいよ!」
リッカは苦笑いする。練習はしているものの、上手く行くかはまだ分からないのだ。もし完成しなかったら恥ずかしい。
「宝石商の店はもう行ったのか?」
「いえ、これから伺おうかと」
「そうか。あいつも良い石を取り揃えているだろうから財布を空にしないように気をつけろよ」
「はい……」
秋の手仕事祭で予算に余裕が出来たとはいえ油断大敵だ。この会場内にはリッカを惹きつけてやまないオパール達があちらこちらに鎮座しているのだ。
(今日は予算内でしか買わない!カードは使わない!)
既に軽くなりつつある財布を握りしめながらすぐに破れそうな誓いを立てるリッカだった。
コハルはそう言ってトレーの上のルースケースを指差す。丁度練習に使っているのと同じ位の大きさの石が一つのルースケースに2つずつ入っていた。
「ペアで用意して下さっているとは……有難い」
「イヤリングやピアスにも使えるし単体としても使えるからな。色味も似たような物をペアにしておいた」
カボションカットの使いやすい大きさの石だ。小さいけれど虹色に輝く遊色が綺麗に出ている。完全な透明ではなく半透明な所がミルキーで可愛らしい。
「透明な、それこそ水滴みたいなウォーターオパールも良いですけど、こういう半透明なのも可愛いんですよねぇ」
「ウォーターオパールと言っても千差万別だからな。半透明なタイプは見た目が可愛いから若い子にウケるぜ」
「確かにファンシーな見た目ですからね。それに、これなら装飾品に加工しても遊色が見えやすいかも」
「遊色が見えやすい?」
「はい。透明無色なウォーターオパールって石座に留めると遊色が見えにくくなりがちなんですよね。黒い服の上とかだと見えやすいんですけど…」
「あー……。石が無色透明な分背景の色に溶け込みがちだからな。そういう意味では半透明なオパールは向いていると思うぞ」
「不透明なホワイトオパールで作ろうと思っていたんですけど、確かにこっちでもありですね」
目の前に並べられたウォーターオパールを手に取る。許可を得てペンライトで照らしてみるが特に傷などが無く美しい。小さいけれど厚みがあるカボションカットで、どれも奥行きのある遊色が楽しめそうだ。
夜でも変わらぬ色味を楽しめるホワイトオパールを仕立てようと思っていたが、このウォーターオパールならランタンや夜間照明の灯りでも映えるかもしれない。
「このトレーのやつ、全部下さい」
「良いのか?」
「はい。傷も無く素晴らしいオパールばかりなので。おいくらですか?」
「大きいやつは銀貨3枚と銅貨5枚。小さいやつはそれぞれ銀貨1枚と銅貨5枚だ」
「え、安っ!こんなに安くて大丈夫なんですか?」
もっと値が張るかと思っていたリッカは驚いた。特にこの大きなウォーターオパールがあの大きさ、色味、綺麗なカットで銀貨3枚と銅貨5枚とは。個人的にはもっと払っても良いくらいだ。
「ああ。自分で磨いていると言うのもあるが、最近は通信技術の発達で産地から直接原石を自分で買い付けられるようになったからな。業者を通さない分安くできるようになったんだ。良い時代になったもんだよ」
「産地から直接?」
「蜃気楼通信システムって知ってるか?遠隔地から立体映像でまるでその場に物があるかのように見せる技術なんだが、それを投影魔法を付与した魔道具で簡単にできるようにした会社があってな。
蜃気楼通信を使えば現地に行かなくても自宅で原石を360度ぐるりと観察してから買い付け出来るようになった上に、転移魔法の宅配システムを使えば一瞬で手元に届くから便利なんだぜ」
「初めて聞きました。そんな便利なシステムがあるんですね」
最先端の魔法に疎いリッカは初めて聞く言葉に目を白黒させている。普段あまり魔法を使わない仕事をしているので最新の魔道具には疎いのだ。代金を支払い梱包したオパール達を受け取るとコハルはリッカをじっと見つめて言った。
「そういえば、進捗はどうなんだ?」
「コハルさんに頂いたオパールのお陰で練習が捗っていますよ。基本的な石座を作って留めての繰り返しですけど、本物のオパールと変わりないので力の加減や留めやすい爪の研究などが出来て助かりました!」
「それは良かった。やっぱり実物で練習するのが一番だからな。順調そうで一安心だ。夜市がますます楽しみだな」
「あまりプレッシャーかけないでくださいよ!」
リッカは苦笑いする。練習はしているものの、上手く行くかはまだ分からないのだ。もし完成しなかったら恥ずかしい。
「宝石商の店はもう行ったのか?」
「いえ、これから伺おうかと」
「そうか。あいつも良い石を取り揃えているだろうから財布を空にしないように気をつけろよ」
「はい……」
秋の手仕事祭で予算に余裕が出来たとはいえ油断大敵だ。この会場内にはリッカを惹きつけてやまないオパール達があちらこちらに鎮座しているのだ。
(今日は予算内でしか買わない!カードは使わない!)
既に軽くなりつつある財布を握りしめながらすぐに破れそうな誓いを立てるリッカだった。
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