25 / 49
1章
与えられた課題
しおりを挟む
「あんた…いや、リッカと呼ばせてもらっても良いか?リッカはオカチマチの夜市に出るのか?」
「一応その予定です」
「新作の予定は?」
「まだ決まっていなくて」
「よし!じゃあ丁度いい。一つで良いからオパールの作品を出してみろ」
「え!」
「そうでもしないと理由をつけて練習しないだろ?」
「う……」
確かにそうかも、とリッカは思った。今までオパールを傷つけたくないという理由で避けてきたが、このままでは一生作る気がしない。
「いい機会ですし、挑戦してみたらどうですか?」
宝石商が言う。
「私もリッカさんのオパールの装飾品を見てみたいですし」
「……そうですね」
これも何かの縁。いつか向き合う時が来る。それが今なのだ。リッカはアタッシュケースの中に並ぶ無数のオパールに目をやる。この子達を練習に使うのは忍びない気がするけれど、せっかく譲って下さるのだからこの機会を無駄にしては石にも悪い気がする。
「分かりました。やってみます」
「よし!」
コハルは満足そうな顔で頷いた。
「夜市、見に行くからな。楽しみにしてるぜ」
「頑張ります」
「あ、そうだ」
コハルはアタッシュケースをリッカに渡すと、白衣の下に身に着けているポーチから何かを取り出す。
「年末の即売会、来るんだろ?オレも研磨した石を出すからブースに寄ってくれ」
白くてしっとりとした紙に金の箔押しで装飾がしてあり宝石の水彩画が描かれている。中央部に「春風製作所」と書かれたショップカードだ。裏面にコハルの連絡先とブース番号が書きこまれている。
「最近は魔工宝石作りが忙しくてあまり店側として参加は出来ていないが今回は作り貯めた物を持って出る予定なんでな。少しオマケも出来るから寄ってくれ」
「ありがとうございます。絶対行きますね」
あれほどの魔工宝石を作れるのだ。天然石の研磨も絶対に上手いに違いない。むしろオパールを見たいのでこちらから進んで馳せ参じますと心の中で唱えたリッカだった。
二人が帰った後、残されたアタッシュケースを眺めながらどうしようかと考える。とりあえずは新作のデザインを考えつつ石座と爪留めの練習をすることになるだろう。
オパールは柔らかい石で傷がつきやすい。爪留めをする際に力加減を間違えたり石にタガネが当たったりしてしまうと大きな傷がついてしまう事がある。石自体も同じ遊色を示すものはこの世に一つとして無いので失敗すると取り返しがつかないのだ。
大昔にその失敗をやらかして以来苦手意識が芽生えてしまいオパールを避けて通って来た。今回の練習はリッカにとってオパールを克服するまたとない機会とも言えるのだ。
「石、本当は廃棄なんてしなくても良いものだったんでしょう?」
「まぁな。造形魔法なら基本的に失敗しても『再利用』出来るからな。でもそんな事言ったらリッカはあの石を受け取らないだろ」
帰り道、宝石商はコハルと件のオパールについて話していた。造形魔法は材料に反応して形を変化させたり合成したりする魔法。故に失敗してもその失敗作を材料としてやり直しが出来るのだ。
「まぁ、魔工宝石はそういう使い方で良いのさ」
コハルはそう言い残して去って行った。
「素直じゃないですねぇ」
雑踏に消える後ろ姿を見ながら宝石商は呟いたのだった。
「一応その予定です」
「新作の予定は?」
「まだ決まっていなくて」
「よし!じゃあ丁度いい。一つで良いからオパールの作品を出してみろ」
「え!」
「そうでもしないと理由をつけて練習しないだろ?」
「う……」
確かにそうかも、とリッカは思った。今までオパールを傷つけたくないという理由で避けてきたが、このままでは一生作る気がしない。
「いい機会ですし、挑戦してみたらどうですか?」
宝石商が言う。
「私もリッカさんのオパールの装飾品を見てみたいですし」
「……そうですね」
これも何かの縁。いつか向き合う時が来る。それが今なのだ。リッカはアタッシュケースの中に並ぶ無数のオパールに目をやる。この子達を練習に使うのは忍びない気がするけれど、せっかく譲って下さるのだからこの機会を無駄にしては石にも悪い気がする。
「分かりました。やってみます」
「よし!」
コハルは満足そうな顔で頷いた。
「夜市、見に行くからな。楽しみにしてるぜ」
「頑張ります」
「あ、そうだ」
コハルはアタッシュケースをリッカに渡すと、白衣の下に身に着けているポーチから何かを取り出す。
「年末の即売会、来るんだろ?オレも研磨した石を出すからブースに寄ってくれ」
白くてしっとりとした紙に金の箔押しで装飾がしてあり宝石の水彩画が描かれている。中央部に「春風製作所」と書かれたショップカードだ。裏面にコハルの連絡先とブース番号が書きこまれている。
「最近は魔工宝石作りが忙しくてあまり店側として参加は出来ていないが今回は作り貯めた物を持って出る予定なんでな。少しオマケも出来るから寄ってくれ」
「ありがとうございます。絶対行きますね」
あれほどの魔工宝石を作れるのだ。天然石の研磨も絶対に上手いに違いない。むしろオパールを見たいのでこちらから進んで馳せ参じますと心の中で唱えたリッカだった。
二人が帰った後、残されたアタッシュケースを眺めながらどうしようかと考える。とりあえずは新作のデザインを考えつつ石座と爪留めの練習をすることになるだろう。
オパールは柔らかい石で傷がつきやすい。爪留めをする際に力加減を間違えたり石にタガネが当たったりしてしまうと大きな傷がついてしまう事がある。石自体も同じ遊色を示すものはこの世に一つとして無いので失敗すると取り返しがつかないのだ。
大昔にその失敗をやらかして以来苦手意識が芽生えてしまいオパールを避けて通って来た。今回の練習はリッカにとってオパールを克服するまたとない機会とも言えるのだ。
「石、本当は廃棄なんてしなくても良いものだったんでしょう?」
「まぁな。造形魔法なら基本的に失敗しても『再利用』出来るからな。でもそんな事言ったらリッカはあの石を受け取らないだろ」
帰り道、宝石商はコハルと件のオパールについて話していた。造形魔法は材料に反応して形を変化させたり合成したりする魔法。故に失敗してもその失敗作を材料としてやり直しが出来るのだ。
「まぁ、魔工宝石はそういう使い方で良いのさ」
コハルはそう言い残して去って行った。
「素直じゃないですねぇ」
雑踏に消える後ろ姿を見ながら宝石商は呟いたのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~
山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝
大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する!
「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」
今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。
苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。
守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。
そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。
ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。
「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」
「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」
3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる