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1章
1日目の終わりに
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秋の手仕事祭一日目が終了し、リッカは作品の片付けをしていた。二日目も参加をするので什器はそのままにし、防犯のために作品だけ持ち帰るのだ。片付けをしながら「売れて良かった……」と心の中で安堵していた。有難い事に作品の売上は上々で在庫が少なかった物の中には売り切れる物も出始めている。初日に売れてくれるだけで二日目に向かう心の軽さが全く違うのだ。
「一日目お疲れさまという事で、ラーメンでも食べて帰りますかー」
荷物を纏め終え、路面電車の駅に向かう。客が帰った後なので電車があまり混んでいないのが嬉しい。乗り換え駅の外に美味しいラーメン屋があって、ヴィクトリアサイトでの催事の帰りはいつもここでラーメンを食べて帰るのだ。
乗り換え駅を降りてすぐの路地にある魚介系のラーメン屋。魚介と言っても季節限定で色々なメニューを出しているのでその限りではない。店内も広いので大きな荷物を持っていても支障が無いのが良い。
(さてさて)
早速カウンター席に座りメニューを眺める。いつものつけ麺でも良いが、限定品も良い。冬らしい柚子と塩のつけ麺なんて魅力的だ。
「すみません!柚子塩つけ麺ください」
注文してから出来上がるまで、今日の出来事を回想する。
(はぁー……本当に売れて良かった……)
まずはこれだ。安心感に浸ることが出来るというのは何と幸せな事だろうか。
(特に新作が売れたのが嬉しかったなぁ。いつも新作を出すときはドキドキするんだよね。売れなかったらどうしようって)
今回の新作は客の反応が良く、まずますの売れ行きだった。「無垢」として求める客だけでなく、普通に装飾品として買い求める客も多かったのが嬉しい。
(にしてもあのブース、大丈夫だったのかな)
次に思い浮かぶのは「黒き星」の事だ。宝石商の話を聞く限りではトラブルになっていたようだが、大丈夫だったのだろうか。被害を被った周辺の職人たちも気の毒である。二日目に向けて対策がなされれば良いのだが、今回の事で造形魔法に対する心象が悪くなるのではないかとリッカは思った。
ただでさえ造形魔法が手仕事祭に参加するのを嫌がる人達がいるのだ。このトラブルをきっかけに何も起こらなければいいのだが。
「お待たせしました。柚子塩つけ麺です」
そんな事を考えているとつけ麺が運ばれて来た。
(これは当たりの予感がする)
漂ってきたスープの香りを嗅いで思わずごくりと喉が鳴る。一人で参加していたのでお昼ご飯を食べる暇が無くて空腹なのだ。
「いただききます」
金色に輝く透明感のあるつけ汁。柚子が浮いたスープの中には鶏のつくねやメンマが入っているのが見える。太くてしっかりとした麺の上には水菜が乗せられていて彩りを添えている。美味しそうだ。
まずはスープだけで飲んでみる。あっさりとしつつもまろやかさのある濃いめのスープ。鶏の旨味と塩のシンプルなスープだがつけ麺に合うように濃厚でとろっとしている。スープに麺を入れズッと啜ると口の中に旨味が広がる。麺もコシと歯ごたえがあってリッカの好みだった。
(あ~……しあわせ)
1日頑張った自分へのご褒美と明日への栄養補給。この時間が至福だ。鶏のつくねは軟骨が入っておりコリコリしている。スープが染みていて美味しいのだ。
麺を全て食べ終えると付属のポットに入っている継ぎ足し用のスープを入れてつけ汁を薄め、薬味を加えて飲む。これもまたつけ麺の楽しみである。
「ごちそうさまでした」
美味しい物を食べると元気が出る。疲れている時は尚更である。美味しかった、と満足をしながらリッカは帰路に就いたのだった。
「一日目お疲れさまという事で、ラーメンでも食べて帰りますかー」
荷物を纏め終え、路面電車の駅に向かう。客が帰った後なので電車があまり混んでいないのが嬉しい。乗り換え駅の外に美味しいラーメン屋があって、ヴィクトリアサイトでの催事の帰りはいつもここでラーメンを食べて帰るのだ。
乗り換え駅を降りてすぐの路地にある魚介系のラーメン屋。魚介と言っても季節限定で色々なメニューを出しているのでその限りではない。店内も広いので大きな荷物を持っていても支障が無いのが良い。
(さてさて)
早速カウンター席に座りメニューを眺める。いつものつけ麺でも良いが、限定品も良い。冬らしい柚子と塩のつけ麺なんて魅力的だ。
「すみません!柚子塩つけ麺ください」
注文してから出来上がるまで、今日の出来事を回想する。
(はぁー……本当に売れて良かった……)
まずはこれだ。安心感に浸ることが出来るというのは何と幸せな事だろうか。
(特に新作が売れたのが嬉しかったなぁ。いつも新作を出すときはドキドキするんだよね。売れなかったらどうしようって)
今回の新作は客の反応が良く、まずますの売れ行きだった。「無垢」として求める客だけでなく、普通に装飾品として買い求める客も多かったのが嬉しい。
(にしてもあのブース、大丈夫だったのかな)
次に思い浮かぶのは「黒き星」の事だ。宝石商の話を聞く限りではトラブルになっていたようだが、大丈夫だったのだろうか。被害を被った周辺の職人たちも気の毒である。二日目に向けて対策がなされれば良いのだが、今回の事で造形魔法に対する心象が悪くなるのではないかとリッカは思った。
ただでさえ造形魔法が手仕事祭に参加するのを嫌がる人達がいるのだ。このトラブルをきっかけに何も起こらなければいいのだが。
「お待たせしました。柚子塩つけ麺です」
そんな事を考えているとつけ麺が運ばれて来た。
(これは当たりの予感がする)
漂ってきたスープの香りを嗅いで思わずごくりと喉が鳴る。一人で参加していたのでお昼ご飯を食べる暇が無くて空腹なのだ。
「いただききます」
金色に輝く透明感のあるつけ汁。柚子が浮いたスープの中には鶏のつくねやメンマが入っているのが見える。太くてしっかりとした麺の上には水菜が乗せられていて彩りを添えている。美味しそうだ。
まずはスープだけで飲んでみる。あっさりとしつつもまろやかさのある濃いめのスープ。鶏の旨味と塩のシンプルなスープだがつけ麺に合うように濃厚でとろっとしている。スープに麺を入れズッと啜ると口の中に旨味が広がる。麺もコシと歯ごたえがあってリッカの好みだった。
(あ~……しあわせ)
1日頑張った自分へのご褒美と明日への栄養補給。この時間が至福だ。鶏のつくねは軟骨が入っておりコリコリしている。スープが染みていて美味しいのだ。
麺を全て食べ終えると付属のポットに入っている継ぎ足し用のスープを入れてつけ汁を薄め、薬味を加えて飲む。これもまたつけ麺の楽しみである。
「ごちそうさまでした」
美味しい物を食べると元気が出る。疲れている時は尚更である。美味しかった、と満足をしながらリッカは帰路に就いたのだった。
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