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1章

魔工宝石原型師

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「――って事があったみたいなんですよ」
「へぇ……」

 リッカは宝石商から事の顛末を聞いて想像を巡らせていた。

「まー、確かに通路塞ぎそうだなとは思ってました」

 職人だけであの人だかりなのだから、客が入ればそうなるだろうとリッカは思った。

「結局事務局の人が来て簡易的に列整理したみたいですけど、技師さんは怒られたみたいですよ」
「仕方ないですね。実際自分のブースの前を塞がれたら迷惑ですし」
「ですよねぇ。……で!」

 宝石商は懐から紙袋を取り出してリッカに渡す。

「これがそのブースの作品なんですが」
「え!購入したんですか?」
「いえいえ。実はそこに石を卸している人と知り合いでサンプルを貰ったんですよ。リッカさんに見てもらいたくて」
「私に?」

 紙袋を開けるとサシェに入ったブローチが出て来た。大きめの石を緻密な装飾が囲っている。

「魔工宝石のオパールですか?」

 ブローチに留めてあったのは赤い遊色を持った立派なオパールだった。

「はい。どうですか?リッカさん的には」
「……正直驚きました。魔工宝石のオパールは色々見て来ましたけど、これは『天然』の物とあまり変わりがない位良く出来ていますね。違和感が無いと言うか」
「そうでしょう。実はこれ、開発中でまだ表に出ていない商品なんです。オパールマニアとして名を馳せているリッカさんの話をしたら是非感想を聞きたいと彼女が言っていたので持ってきたんです」
「未発表の技術って事ですか」
「はい。それがなかなか面白いもので。私も一人の石愛好家として興味があるのです。もし可能であれば彼女に会ってみまませんか?」

 魔工宝石は魔工宝石技師によって作られている。魔工宝石技師は魔工宝石の「原型」を製作する原型師、そして複製魔法で量産をする「複製技師」の二種類に分かれており、魔工宝石の質は原型師がいかに質の良い宝石を作れるか、複製技師がいかに成功に複製出来るかにかかっている。複製宝飾品を作っている企業はそれぞれお抱えの技師を持ち、独自の技術を日々研究しているのだった。

 リッカは魔工宝石否定派ではない。魔工宝石が出始めた頃と比較すると今の技術は格段に進歩しており、天然物の宝石と遜色ない物も多い。しかし、製品用に調整された傷や内包物が一つもない複製品に面白味を感じないのだ。

 天然石のような「他に同じものが一つとして存在しない物」に出会えた時の感動が無いのはつまらない。石との一期一会の出会いを求めているのも自分の作品に天然石ばかり使う理由の一つだった。

「天然石が好きなのは分かります。ですが彼女はちょっと変わっていまして。リッカさんに悪いようにはなりませんから」

 そう言って宝石商はリッカに一枚の名刺を渡す。

「フリー魔工宝石原型師……コハル?」
「はい。魔工宝石の原型師をやる傍ら、ご自身で磨いた天然石を即売会で売っていたりする面白い方ですよ」
「なるほど。……分かりました。その方にお会いします」
「良かった!では、また後日その方と一緒にお店に伺いますね」

 宝石商がこんなに推すくらいなのだから悪い人では無いのだろうとリッカは思った。それに、普段は滅多に会う機会のない原型師に少しだけ興味が湧いたのだ。

(それにしても、こんなに綺麗な魔工オパールを作るなんて。一体どんな人なんだろう)

 まだ見ぬ魔工宝石原型師の顔をぼんやりと想像しながら手元に残ったブローチを眺めるのだった。
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