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1章

誤算

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 今回の秋の手仕事祭も人出が多く、午前中から通路は客で溢れていた。リッカのブースに立ち寄る客も多く、新作も既存の作品も流れるように売れている。やはり手仕事祭の魅力はこの集客力だ。

「ありがとうございましたー」

 順調に売れ行きを伸ばし心穏やかだ。売れない時の焦燥感は苦痛でしかない。手紙を送った常連さんや「チラシを見て来た」と言う客も多く宣伝の効果を感じる。多めに在庫を用意したが「売り切れる事もあるかも」と密かに期待していた。

「リッカさん」

 午後になってリッカのブースに宝石商が現れた。

「宝石商さん!お久しぶりです」
「今回は順調そうですね」
「おかげさまで」
「ここから少し離れた場所に出ている造形魔法のブース、見ましたか?」
「あー。開場前に少しだけ。なんか大がかりで凄いですよね。なんでも『黒き城シャトー・ノワール』の技師さんだとか」
「そうそう。なんか今揉めてるみたいですよ」
「え?」

 宝石商は何か話したそうな表情でそわそわしている。「企業」と揶揄された巨大な城で、どうやら何か揉め事が起きているようだった。

「だから、困るんです!うちのスペースまではみ出して来られたら……。完全に塞がっちゃってるので!」

 「黒き星エトワール・ノワール」のスペースでそんな声が聞こえた。

「そう言われましても」

 人だかりの中で二人の女性が言い合いをしている。一人は「黒き星エトワール・ノワール」の造形魔法技師。もう一人は隣のスペースの職人だった。

「そちらで列形成をするなりしてもらわないと困ります!うちのスペースの前までお客さんがはみ出してきて、完全に前を塞がれているんです。うちのスペースにお客さんが来れないんです」
「と言われましても、並ぶスペースがもう無いので」

 「黒き星エトワール・ノワール」はリッカの見立て通り飛ぶように売れていた。いや、売れ過ぎていた。遠くからでも目を引くブース作りと大量に陳列された安価で質のいい作品は通行人を呼び寄せるのにうってつけだ。開場後すぐにブース前には人だかりが出来始め、購入するのを待つ人と作品を見に寄った人で通路を塞ぎ離れたスペースの前まで渋滞が出来ていた。

「もういいです。運営に言いますから!」

 隣のスペースの職人はそう言うと運営スタッフを探しに去って行った。

「うわ、なんだよこの列。通路塞いでて通れないじゃん」
「迷惑だなぁ」

 「黒き星エトワール・ノワール」に並ぶ意思のない通行人からはそんな声が漏れている。周りのスペースの職人たちも自分のスペースの前を塞がれて嫌そうな顔をしている。

(こんなはずでは……)

 「黒き星エトワール・ノワール」の造形魔法技師、アキはごった返す人混みと周囲の視線を浴びながらそんな事を考えていた。

(お客様が来ることは想定していた。だからカード決済端末を多めに用意して素早くレジ対応出来るようにしていたのにまさかこんなに現金決済が多いなんて……)

『まずは一般参加者としてイベントの様子を見て来たら?』

 脳裏に社長の言葉が響く。

『大丈夫です』

 自信満々に答えた自分が恥ずかしかった。

 安価な「黒き星エトワール・ノワール」の作品は飛ぶように売れていた。購買層の中心は小さな子供や学生が中心だ。高価な手作り品に手が届かないけれどお小遣いで買える。それが若年層の関心を引いたのだ。彼らはカードを持っていないため現金での買い物が中心となる。結果、人混みの多くが現金対応のレジに殺到し、少数しか用意されなかった現金対応窓口がパンクしてしまったのだった。逆に大人の購買層は素通りか、作品を見には来るが購入しないで去っていく者が多い。

(どうして?)

 他のブースに比べて安いし、石も傷一つ内包物一つ無い素晴らしい。細工だって手作り品に比べて美しく仕上げている自信がある。それなのにどうして購入に至らないのだろう。

(やっぱり造形魔法は『手作り品』として認められていないんだ)

 アキは通り過ぎてゆく人々を眺めながらうつむいた。
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