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1章
秋の手仕事祭
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ついにやってきた秋の手仕事祭。リッカは路面電車を乗り継いで文化の街「ヴィクトリアサイト」へやってきた。什器と作品を担いでやって来るのはなかなか骨が折れるが、この日は特別だ。
文化の女神ヴィクトリアは様々な職人に信仰されている。そのヴィクトリアへの感謝を伝えるために開催されるのが「秋の手仕事祭」なのだ。ヴィクトリアサイトの中心部にある大きな展示棟。何棟も連なったその展示棟で一年を通して様々催事が行われている。今回もその展示棟が会場だ。
路面電車の駅から展示棟への道は祭りの参加者でごった返している。店を出す職人たちと作品を買い求める客とで大賑わいだ。
職人用のチケットを提示して展示棟の中へ入ると自分に割り振られた区画を目指して進む。展示棟一つだけでも巨大なのにそれが何個も連なっているのだからとても多くの職人が集まっている事が分かる。勿論1日では全ての店を回りきれないので祭りは2日間行われ、場所によってはその間に出店する店が入れ替わるというスタイルだ。
リッカの区画は展示棟の南側にある宝飾品が集まった場所だ。全国各地から宝飾品を作っている職人が集まって来るのでリッカ自身もブースを周るのが楽しみなのだった。
自分のブースに到着すると左右のブースには既に人影があり、什器の設営に取り掛かっていた。「おはようございます」と挨拶をかわし、早速リッカも什器の設営に取り掛かる。
いつものように手早く机を広げ、什器を広げる。作品の配置は新作を中心に据え、一番目立つ位置に置いた。星のオブジェを周囲に配置して作品に込められた物語を感じられるようなディスプレイにした。
作品を陳列し終えると上から布をかけて見えないようにする。開場までに時間があるのでこの隙に他のブースを周るのだ。自分の周辺にあるブースを周るだけでも個性豊かな宝飾品が多くて面白い。
宝石をメインに据えた豪奢なデザインの物もあれば、無骨で力強い荒々しいデザインの物もある。かと思えば金属の線のみで作られたシンプルな物もあり、見ているだけで楽しい。
「リッカさん」
ブースを眺めながら歩いていると後ろの方からリッカを呼ぶ声がした。
「あっ」
振り向くと見覚えのある顔が見える。
「トウジさん!」
以前蚤の市で立ち寄った「古都の銀細工工房」のブースだった。
「おはようございます。銀細工工房さんも出展されていたんですね」
「うん。やっぱり手仕事祭には出ないと。お客さんも沢山来る催事で稼ぎ時だし」
トウジそう言って笑った。そう。秋の手仕事祭は全国一と言っても過言ではない程集客力があるイベントなのだ。
「あれからどう?今回は新作とか出すの?」
「あー……。相変わらず細かいのを作るのは苦手ですけど、今回は納得のいくものが作れたかなって」
リッカはチラと胸元に輝くブローチを指さす。身に着けた様子を見てもらうためのサンプルとして新作のブローチを着用しているのだ。
「おっ!それが新作?」
「はい。星とラピスラズリで夜の星空を表現してみたんですけど、どうですか?」
「良いじゃん。ラピスラズリの金色の内包物を星に見立てたんだよね?デザインが纏まっていて素敵だよ」
「良かった」
お客さんに褒められるのも嬉しいが、同業者に褒められるのも同じ位嬉しい。技術や工程が分かる分厳しい目を向けられがちだからだ。
「トウジさんは今回新作作ったんですか?」
「ああ。これだよ」
トウジはそう言うと花の形をした簪を指差す。銀で作られた花が三つ連なったデザインで、真ん中の花に一粒だけ石が留めてある。
「かわいいデザインですね。石が一粒って言うのも素敵」
「ありがとう。石を留めるか迷ったんだけど、石の色でバリエーションが作れそうだから入れてみたんだ。今回はお試しでピンクトパーズ、ブルートパーズ、ペリドットの三色。追々はセミオーダーみたいな形にしても良いかなと思って」
「セミオーダーですか。確かに自分の好きな石で作って貰えたら嬉しいかも」
「リッカさんはセミオーダーとかはやらないの?」
「うーん……。考えた事はあるんですけど……」
実際セミオーダーをしようか考えた事はあった。でもまだその自信がリッカには持てなかったのだ。自分で用意した石だけではなくお客様から預かった大事な石を留める場合、失敗は許されない。確実に傷や欠けをつけずに石を留める。その自信が持てずにいた。
「いつかって感じですかね……」
悩むリッカの表情にトウジは感じるものがありながらも、「そっか」と言って流した。
「そういえば、あのブース見た?」
話の流れを変えるかのようにトウジはあるブースの話を切りだす。
「あのブース?」
「大手の会社で造形魔法技師をやってる人のブース。今回出てるからさっき見て来たんだけど凄いよ」
「え?造形魔法って手仕事祭に出展出来るんですか?」
「それがさ、『造形魔法』も創作には変わりがないから手仕事祭へ参加させろって運営に抗議があったらしくて今回参加が認められたみたいなんだよね」
「えー……」
「造形魔法」と「手仕事祭」については今までも何度か議論が巻き起こった事があった。魔法で作品そのものを産み出す造形魔法は手仕事とは言えない。魔法を介さずに手作業で生産する行為が「手仕事」であるとされ、「手仕事祭」には造形魔法で製作した物は持参不可となっていた。
それがこの度「造形魔法も魔法を媒介としているだけで創作活動の一環であり、造形魔法という技術を用いた手仕事である」「よって手仕事祭にも造形魔法での作品を出品させろ」との抗議が届いたことによって「お試し」で参加が認められたらしいのだ。
「やっぱり造形魔法と複製魔法は物量が違うね。ブースも大がかりで2スペース取って常設店舗みたいな店構えだったよ。個人的にはあれは既製品であって手作り品とは言えないとは思うけどね」
トウジは眉間に皺を寄せながらそう言い切った。
「まぁ、そうですよね」
「リッカさんも見に行った方が良いよ。ブース番号は……」
文化の女神ヴィクトリアは様々な職人に信仰されている。そのヴィクトリアへの感謝を伝えるために開催されるのが「秋の手仕事祭」なのだ。ヴィクトリアサイトの中心部にある大きな展示棟。何棟も連なったその展示棟で一年を通して様々催事が行われている。今回もその展示棟が会場だ。
路面電車の駅から展示棟への道は祭りの参加者でごった返している。店を出す職人たちと作品を買い求める客とで大賑わいだ。
職人用のチケットを提示して展示棟の中へ入ると自分に割り振られた区画を目指して進む。展示棟一つだけでも巨大なのにそれが何個も連なっているのだからとても多くの職人が集まっている事が分かる。勿論1日では全ての店を回りきれないので祭りは2日間行われ、場所によってはその間に出店する店が入れ替わるというスタイルだ。
リッカの区画は展示棟の南側にある宝飾品が集まった場所だ。全国各地から宝飾品を作っている職人が集まって来るのでリッカ自身もブースを周るのが楽しみなのだった。
自分のブースに到着すると左右のブースには既に人影があり、什器の設営に取り掛かっていた。「おはようございます」と挨拶をかわし、早速リッカも什器の設営に取り掛かる。
いつものように手早く机を広げ、什器を広げる。作品の配置は新作を中心に据え、一番目立つ位置に置いた。星のオブジェを周囲に配置して作品に込められた物語を感じられるようなディスプレイにした。
作品を陳列し終えると上から布をかけて見えないようにする。開場までに時間があるのでこの隙に他のブースを周るのだ。自分の周辺にあるブースを周るだけでも個性豊かな宝飾品が多くて面白い。
宝石をメインに据えた豪奢なデザインの物もあれば、無骨で力強い荒々しいデザインの物もある。かと思えば金属の線のみで作られたシンプルな物もあり、見ているだけで楽しい。
「リッカさん」
ブースを眺めながら歩いていると後ろの方からリッカを呼ぶ声がした。
「あっ」
振り向くと見覚えのある顔が見える。
「トウジさん!」
以前蚤の市で立ち寄った「古都の銀細工工房」のブースだった。
「おはようございます。銀細工工房さんも出展されていたんですね」
「うん。やっぱり手仕事祭には出ないと。お客さんも沢山来る催事で稼ぎ時だし」
トウジそう言って笑った。そう。秋の手仕事祭は全国一と言っても過言ではない程集客力があるイベントなのだ。
「あれからどう?今回は新作とか出すの?」
「あー……。相変わらず細かいのを作るのは苦手ですけど、今回は納得のいくものが作れたかなって」
リッカはチラと胸元に輝くブローチを指さす。身に着けた様子を見てもらうためのサンプルとして新作のブローチを着用しているのだ。
「おっ!それが新作?」
「はい。星とラピスラズリで夜の星空を表現してみたんですけど、どうですか?」
「良いじゃん。ラピスラズリの金色の内包物を星に見立てたんだよね?デザインが纏まっていて素敵だよ」
「良かった」
お客さんに褒められるのも嬉しいが、同業者に褒められるのも同じ位嬉しい。技術や工程が分かる分厳しい目を向けられがちだからだ。
「トウジさんは今回新作作ったんですか?」
「ああ。これだよ」
トウジはそう言うと花の形をした簪を指差す。銀で作られた花が三つ連なったデザインで、真ん中の花に一粒だけ石が留めてある。
「かわいいデザインですね。石が一粒って言うのも素敵」
「ありがとう。石を留めるか迷ったんだけど、石の色でバリエーションが作れそうだから入れてみたんだ。今回はお試しでピンクトパーズ、ブルートパーズ、ペリドットの三色。追々はセミオーダーみたいな形にしても良いかなと思って」
「セミオーダーですか。確かに自分の好きな石で作って貰えたら嬉しいかも」
「リッカさんはセミオーダーとかはやらないの?」
「うーん……。考えた事はあるんですけど……」
実際セミオーダーをしようか考えた事はあった。でもまだその自信がリッカには持てなかったのだ。自分で用意した石だけではなくお客様から預かった大事な石を留める場合、失敗は許されない。確実に傷や欠けをつけずに石を留める。その自信が持てずにいた。
「いつかって感じですかね……」
悩むリッカの表情にトウジは感じるものがありながらも、「そっか」と言って流した。
「そういえば、あのブース見た?」
話の流れを変えるかのようにトウジはあるブースの話を切りだす。
「あのブース?」
「大手の会社で造形魔法技師をやってる人のブース。今回出てるからさっき見て来たんだけど凄いよ」
「え?造形魔法って手仕事祭に出展出来るんですか?」
「それがさ、『造形魔法』も創作には変わりがないから手仕事祭へ参加させろって運営に抗議があったらしくて今回参加が認められたみたいなんだよね」
「えー……」
「造形魔法」と「手仕事祭」については今までも何度か議論が巻き起こった事があった。魔法で作品そのものを産み出す造形魔法は手仕事とは言えない。魔法を介さずに手作業で生産する行為が「手仕事」であるとされ、「手仕事祭」には造形魔法で製作した物は持参不可となっていた。
それがこの度「造形魔法も魔法を媒介としているだけで創作活動の一環であり、造形魔法という技術を用いた手仕事である」「よって手仕事祭にも造形魔法での作品を出品させろ」との抗議が届いたことによって「お試し」で参加が認められたらしいのだ。
「やっぱり造形魔法と複製魔法は物量が違うね。ブースも大がかりで2スペース取って常設店舗みたいな店構えだったよ。個人的にはあれは既製品であって手作り品とは言えないとは思うけどね」
トウジは眉間に皺を寄せながらそう言い切った。
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