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1章
委託販売
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「あー、いい買い物をした」
そう言いつつリッカはコレクション棚に購入したオパールをしまい込む。
帰り際に出会った大き目のウォーターオパール。黒いケースの中で光青と緑のオーロラのような輝きに抗えるはずもなく、「これ下さい」という言葉を発してしまったのだった。
「うーん、そろそろケースも買い足さないとなぁ」
コレクション棚に入れている鍵付きの小箱収容ケースももうオパールの小箱で一杯になりつつある。その中にずらっと敷き詰められたオパールが増える度、リッカは幸福感に満たされるのだった。
(そういえば)
コレクションを収納し工房に降りると机の上に1通の手紙が置いてあった。それを手に取りペーパーナイフで封を開けると中から1枚の紙が出て来た。
(今月はそこそこ売れたな)
委託販売に出している店からの売上表。毎月前の月に売れた金額と手数料、振込金額を記した紙が送られてくる。工房での仕事と催事の他にリッカの生活を支える細い糸。それが委託販売である。
少し離れた大きな町の魔法付与素材専門店に簡素な装飾品を送り代理販売してもらっているのだ。「市販品を使いたくはないが他人と同じものは嫌」という若者が購入するらしく、簡素な作りで比較的安価な為そこそこ売れているようだった。
しかし販売数が多くとも代理販売の委託手数料を引かれるとその売上は豊かな物ではなく、だからこそ先日の蚤の市の失敗が痛手だったとリッカは頭を抱えた。
(「秋の手仕事祭」の新作も作りつつ委託先への納品もしつつ……頑張らねば)
工房の作品展示棚の下部にある引き出しを開けると大量の小さな箱のような物が現れる。「複製型」と呼ばれるもので、これを鋳造屋に持ち込むと作品を複製鋳造して貰えるのである。
魔法での複製と異なるのはあくまでもそれをそのまま複製するのではない事。造形魔法での複製は仕上げまで行った完成品の宝飾品をそのままコピーする方法である。つまり複製したらそのまま出荷し販売することが出来る。
一方鋳造屋による「複製」は一度作った原型を基に「複製型」を作り、そこに溶かしたロウを流し込んで鋳造前の原型として複製する。その複製原型を使用して鋳造し、それを再び職人が磨いて仕上げ、石留めやメッキなどの加工を施し完成するのだ。
つまり「複製」と言っても素体を複製するだけなので、完成までの仕上げは全て手作業で行う事になる。このように「複製型」を使った複製は造形魔法に比べてとてつもない手間と時間がかかる為、完成品の価格も高価になってしまうのである。それゆえにあえて手間のかかる「前時代的」な技法を好む職人たちは変わり者、と言われがちだ。
(結構売れたから多めに鋳造しておこう)
委託先に納品している物のうち良く売れている作品の型をいくつか持って鋳造屋へ向かう。鋳造屋が残っているのもオカチマチなどの専門街特有である。
「すみません、これを15、これを5……」
各型についていくつ鋳造するのか、何の金属で鋳造するのかを伝え、鋳造品との引換用の紙を貰って店を出る。鋳造には5日程度かかるようだった。
(ここの鋳造屋さんもお世話になって長いけど、ずっと続けてくれると良いな……)
昨今の造形魔法の浸透により「前時代的」な技法を使う人は少なくなりつつあり、それと共に鋳造屋も数を減らしつつあった。願わくば通っている鋳造屋が無くならない事を願うばかりである。
そう言いつつリッカはコレクション棚に購入したオパールをしまい込む。
帰り際に出会った大き目のウォーターオパール。黒いケースの中で光青と緑のオーロラのような輝きに抗えるはずもなく、「これ下さい」という言葉を発してしまったのだった。
「うーん、そろそろケースも買い足さないとなぁ」
コレクション棚に入れている鍵付きの小箱収容ケースももうオパールの小箱で一杯になりつつある。その中にずらっと敷き詰められたオパールが増える度、リッカは幸福感に満たされるのだった。
(そういえば)
コレクションを収納し工房に降りると机の上に1通の手紙が置いてあった。それを手に取りペーパーナイフで封を開けると中から1枚の紙が出て来た。
(今月はそこそこ売れたな)
委託販売に出している店からの売上表。毎月前の月に売れた金額と手数料、振込金額を記した紙が送られてくる。工房での仕事と催事の他にリッカの生活を支える細い糸。それが委託販売である。
少し離れた大きな町の魔法付与素材専門店に簡素な装飾品を送り代理販売してもらっているのだ。「市販品を使いたくはないが他人と同じものは嫌」という若者が購入するらしく、簡素な作りで比較的安価な為そこそこ売れているようだった。
しかし販売数が多くとも代理販売の委託手数料を引かれるとその売上は豊かな物ではなく、だからこそ先日の蚤の市の失敗が痛手だったとリッカは頭を抱えた。
(「秋の手仕事祭」の新作も作りつつ委託先への納品もしつつ……頑張らねば)
工房の作品展示棚の下部にある引き出しを開けると大量の小さな箱のような物が現れる。「複製型」と呼ばれるもので、これを鋳造屋に持ち込むと作品を複製鋳造して貰えるのである。
魔法での複製と異なるのはあくまでもそれをそのまま複製するのではない事。造形魔法での複製は仕上げまで行った完成品の宝飾品をそのままコピーする方法である。つまり複製したらそのまま出荷し販売することが出来る。
一方鋳造屋による「複製」は一度作った原型を基に「複製型」を作り、そこに溶かしたロウを流し込んで鋳造前の原型として複製する。その複製原型を使用して鋳造し、それを再び職人が磨いて仕上げ、石留めやメッキなどの加工を施し完成するのだ。
つまり「複製」と言っても素体を複製するだけなので、完成までの仕上げは全て手作業で行う事になる。このように「複製型」を使った複製は造形魔法に比べてとてつもない手間と時間がかかる為、完成品の価格も高価になってしまうのである。それゆえにあえて手間のかかる「前時代的」な技法を好む職人たちは変わり者、と言われがちだ。
(結構売れたから多めに鋳造しておこう)
委託先に納品している物のうち良く売れている作品の型をいくつか持って鋳造屋へ向かう。鋳造屋が残っているのもオカチマチなどの専門街特有である。
「すみません、これを15、これを5……」
各型についていくつ鋳造するのか、何の金属で鋳造するのかを伝え、鋳造品との引換用の紙を貰って店を出る。鋳造には5日程度かかるようだった。
(ここの鋳造屋さんもお世話になって長いけど、ずっと続けてくれると良いな……)
昨今の造形魔法の浸透により「前時代的」な技法を使う人は少なくなりつつあり、それと共に鋳造屋も数を減らしつつあった。願わくば通っている鋳造屋が無くならない事を願うばかりである。
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