226 / 229
第七章 ケモナーと精霊の血脈
氷の魔法
しおりを挟む
ケルンが人ではない?そういわれて思い当たるところがある。
確かに人ではないってほど顔が整っている。子供の顔っていうのは日を追うごとに大人になっていく。
どちらかというと父様に似ているんだが、ふとしたときに微笑んでいるときなんか母様もだが、人じゃないといわれたら納得してしまうほどだからな。
それだけじゃない。
優しさの化身かな?というぐらい他人を思いやれる子だ。そして男女平等思考を持っているが、紳士としてレディファースト精神をすでに持っているし、俺がいうのもなんだが、歳のわりに物事をよく考えている。
賢く紳士なんだから将来はモテること間違いなし。すでにお嫁さん候補がいたりもする。体力は…見ないことにして。
フェスマルク家の生まれで魔法の才能はあるし…ああ。一番大事なことがあった。
ケルンはこんな姿の俺が大好きだという。ほとんど俺と一緒に過ごしているが、感覚的に子育てしてる気になる。
一言でいうならかわいすぎか。
思考を加速させてゼロコンマの時間でつらつらと浮かんできてしまった。だからかぽろっと杖相手にいってしまった。
「は?天使ってときもあるが人間だぞ?」
杖に自慢するのも変だからと端的に思ったことを伝えたんだが、失敗だ。
伝えるんじゃなかったとすぐに後悔する。
『何、馬鹿なこといってんっす?』
ブリザードとかの魔法でも使っているのか?ってくらい冷めきった声音と、空気も冷えた気がした。
おかしいな。こいつも今は目とかないのに、頭のおかしいものを見たような視線を感じるんだけど。
ってかお前だけにはいわれたくねぇ!
いい返してやろうと思ったんだがいきなり『はっ!』とわざとらしい声を出す。
『まさか、エフデってばいたいけなご主人と受粉』
「ぶっ壊すぞ」
そういう冗談は嫌いだ。それもケルンを使っての冗談だと?
削るぞ、マジで。
わりと本気で半分に折ってやろうと探す。小さくすれば少しは性格もマシになってくれねぇかと思う。ってかなれ。
ちっ…刃物がねぇ…あってもこいつは硬いからケルンの宝箱にいれてある彫刻刀を借りて…いや、他にハンマーとか手頃なもんがあればそれをガンガンと…そうだ叩けばこの歪んだ性格も直るかもだしな。
『冗談っすよ!だから刃物とかを探すのはやめるっす!不穏な気配はさよならしてっす!でも…ばちこい!いやらしい視線っす!』
「あーもう…いいから…ただ次はねぇかんな」
くねくねする葉っぱをみていると精神がおかしくなりそうなうえに、同レベルになるかもしれないと思うから話を切り上げる。構えば図に乗るからな。
めんどくせぇ杖。イニシャルMだし。
といっても…俺がおかしなことをいったからこうなったのか。別におかしなことをいったつもりはねぇんだけどなぁ。
『ああん!…いけずなとこも…あ、それよりも!ご主人のことっす!ただの人なら負担がすごいことになるっす!』
喜んだ声のあとに真剣になる。切り替えが早い。
ケルンのことならこいつも真剣になるから、俺も仲間だとこいつを認めている。
かなり疲れるがな。
「負担っていうが…氷の魔法は父様も使っていたが、そんなに負担になるのか?」
本の受け売りだが、氷の魔法は使い手といわれるほど有名な人が少ないが、使い手が全然いないわけじゃない。初級なんて氷を作る程度だから飲食店でも使われているらしい。
上級だと使い手が少ない上に、名前が本に載るとなると…父様の父様、俺たちの祖父であるクオーレお祖父様がいる。
クオーレお祖父様は戦場で魔法の使いすぎによる衰弱で亡くなった。
妻であるお祖母様も同じ戦場で亡くなったこと本に書いてあったが…そういやお祖母様は異名しか載ってなくて名前を知らないな。
その異名は『死なさずの花』だ。
儚げの美人らしいことはそこそこの腕前の肖像画で知っている。
お祖母様はエルフの先祖返りで、見た目はエルフだった。
エルフの先祖返りだから儚げの美人なのは当然だ。
あ、今はケルンのことに集中しないと…やたらと思考がまとまらないが、眠気でもきたのか?
『普通のは問題ないっす。でもご主人が習得した氷の魔法はかなり特殊みたいっすよ。普通の人族では負担なしでの行使は無理っす』
「特殊?」
『たぶん、魔族の炎や氷とも戦えるっす』
「炎はわかるが…魔族の氷?どういう意味だ?」
杖のいう特殊の意味がわからなかったのだが、返ってきた言葉に首をかしげる。
『魔族の氷は冷たくて鋭いっす。でもご主人の氷は熱く広いっす!』
魔族の氷は冷たくて鋭い…氷だもんな…ケルンの氷は熱くて広い?氷が熱くて?…広さとか関係あるのか?
「わかるように説明してくれ」
杖に限ったことじゃないが、魔法を説明する人はだいたい感覚で説明している。授業でもこんな感じでイメージさせている。ケルンや他の生徒たちはわかっているが、俺にはわからん。どうも具体的に魔法を説明するのは難しいようだ。
『魔法を知らないなら、仕方ないっすねー。いいっすか?魔族の氷は炎でも溶かせないっすからね。同じ氷でも性質が異なる氷だと溶かせるっす…魔族には気をつけるっすよ?』
「そうか…まぁ、魔族なんかと会うなんてないだろ。この辺でも魔物すらいないんだぜ?」
魔法だから氷の融点が違うってことか?
やはり専門外のことだといまいちわからないものだな。
杖が心配しているが、魔族に会うなんてない。魔物も見たことがないのに、魔族を見るなんてどんな確率だって話だ。
このサイジャル周辺ではたまに猛獣が出るらしいが、今は違うところに行ってしまったのか見かけなくなったって話だし。ティルカからも太鼓判を押してもらっている。
「若様や坊ちゃまの付近に魔物なんていませんよ」
さわやかな笑顔でいいきっていた。あいつが俺に嘘をつけるはずもねぇし…魔族や魔物は気にしないでいいだろう。
『それはおかしいっす…対応されてんじゃねぇっすか?確か…冒険者?とかいうのが駆除してると思うっすよ』
「冒険者か…」
あんまりいい思い出がねぇんだけど…まともな冒険者からは話を聞いてみたいんだけど、王都まで行けば冒険者とかと話せるだろうか?
護衛は必要とかいわれるなら…ティルカでいっか。暇だっていってたし…軍でも下っ端ってのは気楽でいいな。
『そんなことよりも、本題っす。ご主人には人間じゃない血が入ってるっすか?』
ああ、そうだった。やたらと話がずれてしまうな。やっぱり眠気がきてるせいだな。
「それは当然だろ。他の種族の血は流れてるぞ。獣人とか…あ、お祖母様はエルフの先祖返りだったから、エルフとかもな。スキルとかを考えれば…たぶん、ドワーフも流れてるはずだ」
純潔主義が横行してもまったく興味がなく、恋愛一直線っていうのがフェスマルク家の家風だ。元凶は…初代のフェスマルクの奥さんがぞっこん押しかけ女房だったらしく、うちは一目惚れでしか結婚しない呪いがかかっている。
なんて父様が酒を飲み交わしながら、にやっと笑って俺とエセニアを見て教えてくれた。
母様にのちほど父様は叱られるように仕向けたのはいうまでもない。
一目惚れか…まぁケルンはまさに血筋というか呪いを受けているな。
かなり美人の人だったらしいけど、呪い関係のスキルでも持っていたんだろうか。
『エルフ…精霊はどうっすか?』
「精霊様?精霊様と結婚?そんなのが可能なのか?」
『なくはないっす。精霊はエルフに転じるっす!…ただ、下級とかじゃないとできないっす。器が壊れるっすからね』
「転じる…転生か?」
精霊様と結婚をするなんてお伽噺でも聞いたことのない話だ。いや、この世界の中ではないだけで、別世界では聞いたことがあるが…とはいえ、お伽噺の話でしかない。
転生だとしても棒神様いわく記憶は無へと帰るっていってたから、前世が精霊様とはわからないと思うんだけど。
『転生…なんか聞いたような言葉っすが、人とし生まれるってことすか?』
「ああ。輪廻転生っていうのはわかるか?」
『なんすか?それって?』
人間に限らず生き物は生と死を繰り返し、あるときは人間、あるときは動物、あるときは魚、あるときは虫と転生を繰り返す。
その輪から離れることを目的とした宗教は意外と多くの世界にある。生と死の克服や存在をあげるというお題目を持っている。
そんなことをかいつまんて説明する
『んー…ちょっと違うんっすよね。精霊が転じるのはそのまま人に転じるんすよ。記憶もそのままっす。受肉して肉体を人にするっす。でも、肉体が朽ちたら精霊に戻るっす』
どうも輪廻転生ではないようだ。
杖の言葉で浮かんだのは『取り憑かれる』だ。もしくは寄生なんだが、中身のない肉体に精霊様が入り込むってことなんだろうか。
あと記憶がそのままっていうのはやはり転生ではないんだろう。
「記憶もか…ってことは、本人のまま肉体の種族だけが変わるってことか?…つまるとこ俺とかお前みたいな感じってことか?」
俺たちのように意識だけを人形にいれることができるってことなのかと問えば杖は葉っぱを縦に振る。
『その認識でいいと思うっす。自分も受粉のときはあの姿じゃないとだめらしいっすから』
「受粉は置いておいて…精霊様が肉体を得て人になるか…珍しいんじゃねぇか?それって」
人族と精霊様では時間の概念が違う。一緒にいる時間は精霊様にとっては一瞬だろう。紛れ込んで生活をする精霊様が本当にいるのかと思ってしまったのだ。
あっても珍しいのかと思えば否定された。
『そうでもないっす。昔っからあるみたいで、エルフの血統が魔法の才能があるのも、魔法に耐えれるってのも精霊の記憶があってのことっす。それを子供に伝えればエルフが魔法を得意になるのも変じゃないっすよ』
そういや、エルフは精霊の子っていわれてたりするが、そういう事実があってのことか。
なるほどな。杖の言葉で確信が持てた。
「ご先祖様がもしかしたらそうかもしれないが、だったらケルンは精霊様ではないな」
ケルンは魔力が那由多もある棒神様に選ばれた子供だ。精霊様の記憶はない。もちろん、取り憑いているような状態の俺も記憶はない。
むしろ棒神様に記憶はなくなったといわれたのだから、俺が精霊様ってこともないな。
『でも、本人でないとすると魔法を使う器はなかなか広がらないっすから…自分が歯止めになるっすけど…極力避けた方がいいっすね』
俺に眉があればぴくりと動いただろう。
ケルンに危害がある魔法なのか?
「それって…反動が強いのか?」
『回復も遅くなるっす。肉体も精神も衰弱していくっす』
衰弱。クオーレお祖父様の死因だ。
「お祖父様が氷の魔法使いだったのもご先祖様の影響があったんだろうか?…短命だったのもそれが原因か?」
『ご主人のおじいさんのことは知らないっすけど、そうだと思うっすよ。前線とかにいたら便利っすからね』
便利…便利だからとお祖父様は前線にいたのか?そう思うと…怒りではないが、もやっとした気持ちがわいてくる。
『それと気に』
「お兄ちゃん?どこー?」
葉っぱを話好きなおばさんのようにぶんぶんと手招きしていた杖だが、ケルンの声にびくっと反応してすっと杖に巻き付いて動きをとめる。
またろくでもないことをいうつもりだったんだろうな。
「俺はここだぞー。飲み物を飲んでたんだ。起きたのか?」
ちゃんと寝かしつけていたんだが、まだ眠りが浅かったのか。
「うん…おしっこ…」
「そうか。ついていこうか?」
「うん…待っててね?」
「おう」
さすがにトイレの中には入らないが扉の前で待っていてやる。寝ぼけてたまにトイレの中にも連れてかれるが今日は寝ぼけてないようだ。
子供の成長って本当に早いもんだな。
そんなことを噛み締めてトイレを済ませたケルンと部屋に戻って一緒に寝た。
手を繋いで寝たからか、子供体温に引きずられて俺も熟睡してしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八月はほぼ毎日投稿します。
次の章のプロトを書いたり、夜勤の仕事を始めたりとわたわたしておりますが、更新をしていきたいと思います。
それと賞に応募しました。人が読んでくれている実感が持てると執筆速度が速くなるのもあります。
少しでも楽しんでもらえる作品になるようにしていきたいです。
確かに人ではないってほど顔が整っている。子供の顔っていうのは日を追うごとに大人になっていく。
どちらかというと父様に似ているんだが、ふとしたときに微笑んでいるときなんか母様もだが、人じゃないといわれたら納得してしまうほどだからな。
それだけじゃない。
優しさの化身かな?というぐらい他人を思いやれる子だ。そして男女平等思考を持っているが、紳士としてレディファースト精神をすでに持っているし、俺がいうのもなんだが、歳のわりに物事をよく考えている。
賢く紳士なんだから将来はモテること間違いなし。すでにお嫁さん候補がいたりもする。体力は…見ないことにして。
フェスマルク家の生まれで魔法の才能はあるし…ああ。一番大事なことがあった。
ケルンはこんな姿の俺が大好きだという。ほとんど俺と一緒に過ごしているが、感覚的に子育てしてる気になる。
一言でいうならかわいすぎか。
思考を加速させてゼロコンマの時間でつらつらと浮かんできてしまった。だからかぽろっと杖相手にいってしまった。
「は?天使ってときもあるが人間だぞ?」
杖に自慢するのも変だからと端的に思ったことを伝えたんだが、失敗だ。
伝えるんじゃなかったとすぐに後悔する。
『何、馬鹿なこといってんっす?』
ブリザードとかの魔法でも使っているのか?ってくらい冷めきった声音と、空気も冷えた気がした。
おかしいな。こいつも今は目とかないのに、頭のおかしいものを見たような視線を感じるんだけど。
ってかお前だけにはいわれたくねぇ!
いい返してやろうと思ったんだがいきなり『はっ!』とわざとらしい声を出す。
『まさか、エフデってばいたいけなご主人と受粉』
「ぶっ壊すぞ」
そういう冗談は嫌いだ。それもケルンを使っての冗談だと?
削るぞ、マジで。
わりと本気で半分に折ってやろうと探す。小さくすれば少しは性格もマシになってくれねぇかと思う。ってかなれ。
ちっ…刃物がねぇ…あってもこいつは硬いからケルンの宝箱にいれてある彫刻刀を借りて…いや、他にハンマーとか手頃なもんがあればそれをガンガンと…そうだ叩けばこの歪んだ性格も直るかもだしな。
『冗談っすよ!だから刃物とかを探すのはやめるっす!不穏な気配はさよならしてっす!でも…ばちこい!いやらしい視線っす!』
「あーもう…いいから…ただ次はねぇかんな」
くねくねする葉っぱをみていると精神がおかしくなりそうなうえに、同レベルになるかもしれないと思うから話を切り上げる。構えば図に乗るからな。
めんどくせぇ杖。イニシャルMだし。
といっても…俺がおかしなことをいったからこうなったのか。別におかしなことをいったつもりはねぇんだけどなぁ。
『ああん!…いけずなとこも…あ、それよりも!ご主人のことっす!ただの人なら負担がすごいことになるっす!』
喜んだ声のあとに真剣になる。切り替えが早い。
ケルンのことならこいつも真剣になるから、俺も仲間だとこいつを認めている。
かなり疲れるがな。
「負担っていうが…氷の魔法は父様も使っていたが、そんなに負担になるのか?」
本の受け売りだが、氷の魔法は使い手といわれるほど有名な人が少ないが、使い手が全然いないわけじゃない。初級なんて氷を作る程度だから飲食店でも使われているらしい。
上級だと使い手が少ない上に、名前が本に載るとなると…父様の父様、俺たちの祖父であるクオーレお祖父様がいる。
クオーレお祖父様は戦場で魔法の使いすぎによる衰弱で亡くなった。
妻であるお祖母様も同じ戦場で亡くなったこと本に書いてあったが…そういやお祖母様は異名しか載ってなくて名前を知らないな。
その異名は『死なさずの花』だ。
儚げの美人らしいことはそこそこの腕前の肖像画で知っている。
お祖母様はエルフの先祖返りで、見た目はエルフだった。
エルフの先祖返りだから儚げの美人なのは当然だ。
あ、今はケルンのことに集中しないと…やたらと思考がまとまらないが、眠気でもきたのか?
『普通のは問題ないっす。でもご主人が習得した氷の魔法はかなり特殊みたいっすよ。普通の人族では負担なしでの行使は無理っす』
「特殊?」
『たぶん、魔族の炎や氷とも戦えるっす』
「炎はわかるが…魔族の氷?どういう意味だ?」
杖のいう特殊の意味がわからなかったのだが、返ってきた言葉に首をかしげる。
『魔族の氷は冷たくて鋭いっす。でもご主人の氷は熱く広いっす!』
魔族の氷は冷たくて鋭い…氷だもんな…ケルンの氷は熱くて広い?氷が熱くて?…広さとか関係あるのか?
「わかるように説明してくれ」
杖に限ったことじゃないが、魔法を説明する人はだいたい感覚で説明している。授業でもこんな感じでイメージさせている。ケルンや他の生徒たちはわかっているが、俺にはわからん。どうも具体的に魔法を説明するのは難しいようだ。
『魔法を知らないなら、仕方ないっすねー。いいっすか?魔族の氷は炎でも溶かせないっすからね。同じ氷でも性質が異なる氷だと溶かせるっす…魔族には気をつけるっすよ?』
「そうか…まぁ、魔族なんかと会うなんてないだろ。この辺でも魔物すらいないんだぜ?」
魔法だから氷の融点が違うってことか?
やはり専門外のことだといまいちわからないものだな。
杖が心配しているが、魔族に会うなんてない。魔物も見たことがないのに、魔族を見るなんてどんな確率だって話だ。
このサイジャル周辺ではたまに猛獣が出るらしいが、今は違うところに行ってしまったのか見かけなくなったって話だし。ティルカからも太鼓判を押してもらっている。
「若様や坊ちゃまの付近に魔物なんていませんよ」
さわやかな笑顔でいいきっていた。あいつが俺に嘘をつけるはずもねぇし…魔族や魔物は気にしないでいいだろう。
『それはおかしいっす…対応されてんじゃねぇっすか?確か…冒険者?とかいうのが駆除してると思うっすよ』
「冒険者か…」
あんまりいい思い出がねぇんだけど…まともな冒険者からは話を聞いてみたいんだけど、王都まで行けば冒険者とかと話せるだろうか?
護衛は必要とかいわれるなら…ティルカでいっか。暇だっていってたし…軍でも下っ端ってのは気楽でいいな。
『そんなことよりも、本題っす。ご主人には人間じゃない血が入ってるっすか?』
ああ、そうだった。やたらと話がずれてしまうな。やっぱり眠気がきてるせいだな。
「それは当然だろ。他の種族の血は流れてるぞ。獣人とか…あ、お祖母様はエルフの先祖返りだったから、エルフとかもな。スキルとかを考えれば…たぶん、ドワーフも流れてるはずだ」
純潔主義が横行してもまったく興味がなく、恋愛一直線っていうのがフェスマルク家の家風だ。元凶は…初代のフェスマルクの奥さんがぞっこん押しかけ女房だったらしく、うちは一目惚れでしか結婚しない呪いがかかっている。
なんて父様が酒を飲み交わしながら、にやっと笑って俺とエセニアを見て教えてくれた。
母様にのちほど父様は叱られるように仕向けたのはいうまでもない。
一目惚れか…まぁケルンはまさに血筋というか呪いを受けているな。
かなり美人の人だったらしいけど、呪い関係のスキルでも持っていたんだろうか。
『エルフ…精霊はどうっすか?』
「精霊様?精霊様と結婚?そんなのが可能なのか?」
『なくはないっす。精霊はエルフに転じるっす!…ただ、下級とかじゃないとできないっす。器が壊れるっすからね』
「転じる…転生か?」
精霊様と結婚をするなんてお伽噺でも聞いたことのない話だ。いや、この世界の中ではないだけで、別世界では聞いたことがあるが…とはいえ、お伽噺の話でしかない。
転生だとしても棒神様いわく記憶は無へと帰るっていってたから、前世が精霊様とはわからないと思うんだけど。
『転生…なんか聞いたような言葉っすが、人とし生まれるってことすか?』
「ああ。輪廻転生っていうのはわかるか?」
『なんすか?それって?』
人間に限らず生き物は生と死を繰り返し、あるときは人間、あるときは動物、あるときは魚、あるときは虫と転生を繰り返す。
その輪から離れることを目的とした宗教は意外と多くの世界にある。生と死の克服や存在をあげるというお題目を持っている。
そんなことをかいつまんて説明する
『んー…ちょっと違うんっすよね。精霊が転じるのはそのまま人に転じるんすよ。記憶もそのままっす。受肉して肉体を人にするっす。でも、肉体が朽ちたら精霊に戻るっす』
どうも輪廻転生ではないようだ。
杖の言葉で浮かんだのは『取り憑かれる』だ。もしくは寄生なんだが、中身のない肉体に精霊様が入り込むってことなんだろうか。
あと記憶がそのままっていうのはやはり転生ではないんだろう。
「記憶もか…ってことは、本人のまま肉体の種族だけが変わるってことか?…つまるとこ俺とかお前みたいな感じってことか?」
俺たちのように意識だけを人形にいれることができるってことなのかと問えば杖は葉っぱを縦に振る。
『その認識でいいと思うっす。自分も受粉のときはあの姿じゃないとだめらしいっすから』
「受粉は置いておいて…精霊様が肉体を得て人になるか…珍しいんじゃねぇか?それって」
人族と精霊様では時間の概念が違う。一緒にいる時間は精霊様にとっては一瞬だろう。紛れ込んで生活をする精霊様が本当にいるのかと思ってしまったのだ。
あっても珍しいのかと思えば否定された。
『そうでもないっす。昔っからあるみたいで、エルフの血統が魔法の才能があるのも、魔法に耐えれるってのも精霊の記憶があってのことっす。それを子供に伝えればエルフが魔法を得意になるのも変じゃないっすよ』
そういや、エルフは精霊の子っていわれてたりするが、そういう事実があってのことか。
なるほどな。杖の言葉で確信が持てた。
「ご先祖様がもしかしたらそうかもしれないが、だったらケルンは精霊様ではないな」
ケルンは魔力が那由多もある棒神様に選ばれた子供だ。精霊様の記憶はない。もちろん、取り憑いているような状態の俺も記憶はない。
むしろ棒神様に記憶はなくなったといわれたのだから、俺が精霊様ってこともないな。
『でも、本人でないとすると魔法を使う器はなかなか広がらないっすから…自分が歯止めになるっすけど…極力避けた方がいいっすね』
俺に眉があればぴくりと動いただろう。
ケルンに危害がある魔法なのか?
「それって…反動が強いのか?」
『回復も遅くなるっす。肉体も精神も衰弱していくっす』
衰弱。クオーレお祖父様の死因だ。
「お祖父様が氷の魔法使いだったのもご先祖様の影響があったんだろうか?…短命だったのもそれが原因か?」
『ご主人のおじいさんのことは知らないっすけど、そうだと思うっすよ。前線とかにいたら便利っすからね』
便利…便利だからとお祖父様は前線にいたのか?そう思うと…怒りではないが、もやっとした気持ちがわいてくる。
『それと気に』
「お兄ちゃん?どこー?」
葉っぱを話好きなおばさんのようにぶんぶんと手招きしていた杖だが、ケルンの声にびくっと反応してすっと杖に巻き付いて動きをとめる。
またろくでもないことをいうつもりだったんだろうな。
「俺はここだぞー。飲み物を飲んでたんだ。起きたのか?」
ちゃんと寝かしつけていたんだが、まだ眠りが浅かったのか。
「うん…おしっこ…」
「そうか。ついていこうか?」
「うん…待っててね?」
「おう」
さすがにトイレの中には入らないが扉の前で待っていてやる。寝ぼけてたまにトイレの中にも連れてかれるが今日は寝ぼけてないようだ。
子供の成長って本当に早いもんだな。
そんなことを噛み締めてトイレを済ませたケルンと部屋に戻って一緒に寝た。
手を繋いで寝たからか、子供体温に引きずられて俺も熟睡してしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八月はほぼ毎日投稿します。
次の章のプロトを書いたり、夜勤の仕事を始めたりとわたわたしておりますが、更新をしていきたいと思います。
それと賞に応募しました。人が読んでくれている実感が持てると執筆速度が速くなるのもあります。
少しでも楽しんでもらえる作品になるようにしていきたいです。
0
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる