選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
上 下
225 / 229
第七章 ケモナーと精霊の血脈

知らない道具

しおりを挟む
「…ってことがあったんだが、どう思う?」
『どんな魔法使いだったんっすか。ありえねぇっすよ』

 杖の言葉にだよなと思いつつ俺は思い返す。

 あれからクヤに詳しく聞こうかと思ったのだが、時間もかなり過ぎていた。
 扉の先を調べようかと思ったとき、くぅくぅとなる音が部屋に響く。

「お腹なっちゃったぁー」

 えへへと笑うケルン。ミルディと頷きあってすぐに決めた。

「帰るか。ケルン、ご飯の時間だぞ」
「そうですね。坊ちゃま。すぐにハルハレまでお食事を受け取りに行ってきます」
「はーい!お腹ぺこぺこだからたくさん食べる!」

 調査なんていつでもできる。今はケルンへ必要な栄養を与え、健やかな成長を助けることが最優先だ。しっかり食べさせて身長を…ごほっ…健康な体を作らないとな。
 たくさん食べるなんてあんまりいわないから、たくさん食べさせよう。

「かえ…る?…どこ…ま…で?」

 適当に戦利品というか、お土産?記念品か?ケルンに本をポケットにつっこませて、俺もポケットにつっこもうとして、大きさが合わずに諦めていればクヤが声をかけてくる。
 もしかして、俺たちが帰るのが寂しいのか?…連れて帰ってやるべきか?

「んとね、食堂だからあっちの方!」

 単語だけだからか、ケルンもクヤの言葉がわかるのか返答をしている。
 いまいちクヤが話す言葉のことはわからないが、俺やケルンがわかるんだからどこかで学んだ言葉なんだろう。俺は忘れないが、ケルンは忘れっぽいからな。

 食堂か。

「食堂で食べてもいいが、俺たちだけなら部屋で食べた方がいいだろ」
「お部屋?」
「時間的に食べている人もいるだろうけど…知らない人しかいないぞ?」
「それは…ちょっとやだなぁ」

 時間的にミケ君たちはいないし、他に仲のいい子も食べ終わっているだろう。クランの人も…教室で寝泊まりどころか食事もすませたり、寮代わりにしているような連中だから食堂では食べずに食堂で購入したり、市場で買ってきて教室で食べているかもしれない。

 授業のときは隠しているけど、教室の奥にはいつの間にか食事用のテーブルとか食器棚が置かれていたからな…教室だったはずが、事務所というか、なんとか荘みたいな感じになっていっている…いや、生活臭はないけど…あいつらは本当にあれでいいのか…給金とかまともに払ってないんだけど、自分たちの仕事に支障がでてねぇかな?

 思わず遠い目になってしまう。目玉はねぇけど。

「部屋?どこ?」
「あ?男子寮だよ」

 クヤが首をこてんとかしげる。ロボットだけど愛嬌があって賢いな…性能がかなりいいってか、あざとい。

「カードキー…見せる」
「カードキー?ああ、もしかしてカードか?ケルン、カードをクヤが見たいってさ」
「はーい。どうぞー。でも、なんでか教えてね?」

 ケルンがカードを見せる。まぁ、見たいってだけしか聞いてないからな。
 それをクヤに尋ねようとしたときだった。

「では…ご帰宅…ケーン!」

 クヤがぽんとカードを叩き、一鳴きすると、俺たちは寮の入り口前に立っていた。

 狐がコンコン鳴くというイメージがあるけど、実際はケーンって鳴くんだよなとか、鳴き方がロボットにしては様になってたなとか思うが、それどころじゃない。

 なにが起こった?

 運がいいことに、時間帯もあってか誰もいなかった。もしも誰かがこの光景をみたら根掘り葉掘り聞かれたことだろう。俺ならそうする自信がある。

「…なんで寮が目の前に?」
「すごーい!『転移』の魔法だね!クヤって使えるんだー!」

 なんでここに飛んだのかわからなかった。
 確かに『転移』で飛んだんだろう。でも、クヤが魔法を使ったようには思わなかった。

「どっちかっていうと、カードが原因な気がしたんだけどな」

 カード…カードキーってクヤはいっていたが、これは鍵の代わりだけじゃなく『転移』の魔道具なのかもしれない。
『転移』の魔道具なんてこの世にあるなんて知らなかった。もしあれば…どれだけの価値があるか想像もつかない。

 ケルンが『転移』系の魔法の特訓を繰り返していたが、それでもほぼ使えないとおり『転移』系は難しい。難易度が高い魔法を魔道具で再現する技術がある人間がいたなんて驚きしかない。
 一番の理由はそれだけじゃないんだけどな…それこそ不可能なはずなのだ。

 そんな衝撃が重なりすぎたのか、そのあとのケルンは…テンションが上がりまくっていた。
 夜になっても興奮したように同じ話を繰り返すし、明日も必ず行く!といって聞かない。
 難色をミルディが示しているから明日も行けるかはわからないけどな…俺はあの扉の先が知りたいからケルンが授業中にこっそり行きたいところなんだが…まぁ、ケルンが許すわけもねぇから、一人で行動はできないな。

 ケルンと一緒にいるか、クランの人間と一緒にケルンが授業を終えるまで待つかしないと…ケルンが泣く。もう、ポロポロと涙を流してそのあとの授業は胸ポケットにしまわれてしまう。

 これ、クランの人間じゃない生徒と話し込みすぎて離れただけでなった話だからな。ちょっと実験の話をしていたら、クランのやつらが囲んで圧をかけて…ざっとその人垣が割けるようにケルンが泣きながら来たときは心底震えたな…ミルディがいないときに離れたってエセニアにケルンが報告したからな。

 死にかけてすぐだったからケルンがピリピリしてたのもあるけど、今はだいぶましだ。何かあったら『取り寄せ』っていう手が…俺は季節限定の商品かって思わなくもない。

 まぁ、大事に想われているのは素直に嬉しいけど。

 興奮していてもケルンを寝かしつけることに関してはプロといっても過言ではない。風呂で軽く遊んで、布団に入ってゆっくりと絵本を読めば秒で寝る。そのあとベッドから抜け出すのはかなり大変だったけどな。抱き人形みたいな存在になってるからな、俺。

 ちゃんと寝たのを確認して、寝室を出て杖を作った場所へとむかう。
 机の上には寝る前にケルンにいっておいたから杖が置いてある。

 話をしようと思ってなんだが…目の錯覚か?葉っぱがぐでってしながら葉先だけ杖についたら離れたり…まるで寝息をたてているような…いや、寝るのかよ。杖だよな?

「起きろ」
『あっひゃん!』

 軽く蹴れば変な…かなり喜んだような声を出して痴じょ…杖が葉っぱをぶんぶんと振る。

『ひどいっす!寝込みを襲うななんて!』
「杖が寝てどうすんだよ!…ってか、杖から出てこねぇのか?」

 ほいほい出てこれないってことだが、一人で話すのも嫌だからあの妖精モードにならないかと誘った。

『あれがいいっすか?でもちょっと今は…あ!もしかして受粉したいっすか!なら、無理して作るっす!それでめしべにおしべをぶっこむっすよ!』
「どっちもお互いねぇよ」

 葉っぱにかかと落としをしてつっこみをいれる。
 訂正だ。このままでいい。

 寝ぼけて…ねぇんだよな。こいつはこれがデフォルトだった。あんまり話したくはないんだが…魔法関係にはこいつが強いし…棒神様の選んだサポートなんだし…すげぇ、嫌なんだけど俺はその日にあったことを全て話した。

「『転移』の魔道具はやはり普通は作れないのか?」

 用意しておいた果実水を一口飲み疑問に思ったことを口に出す。
 糖分がこの体に影響を与えるかは疑問だが、ないよりはましだ。
 色んな意味で甘い物が欲しかった。主にまともに話をするようにするまでに溜まった疲労のせいだ。

 杖は葉っぱの二つに割けた先を腕組みするように組む。変なとこで器用だな。

『エフデも知っていると思うっすけど、『転移』は精霊でも中級…複数なら高位じゃないと…そのトーマっていう人間の契約していた精霊の属性は何だったんすか?』

 高位の精霊様と契約をすることで、複数の人を『転移』させれるようになる。
 だからこそ魔道具があるのがおかしいのだ。
 魔道具は魔法を理解しているから作れる。けれども『転移』は誰も理解していない魔法なのだ。

 もしトーマお祖父様が契約していた精霊様がわかれば『転移』のことも解明できるかもしれない。
 だがそれはできない話だ。

「わからん」
『わからんって…』

 手紙には書いていないし、トーマお祖父様のことは話と本でしか知らない。契約していた精霊様のことなんてどこにも書いていなかったのだから、知りようがないのだ。
 父様も知らないっていっていた時点でこの世に知っている人はいないといいきっていいだろう。

『それにたった一体の精霊で容量を超えるて…魔法が使えなくなるなんて、おかしいっす』
「そこも気になるところなんだよ」

 トーマお祖父様はまともに魔法が使えなくなった人だ。魔法を組み込むことには魔法が使えるが、それは他の人のサポートがあったからだ。

『高位の精霊と契約をしても、他の魔法は使えるはずっす…かなり高位の時の精霊ならもしかするかもしれないっすけど…そこまでいくと、神っすから人間には無理っす』
「そこまでの精霊様なら、契約も大変だったろうし…なんで情報が残っていないんだろうな?」

 ちょっとした冒険でも話が残る。形を変えて嘘か本当かわからない代物になってもだ。
 そして高位の精霊様の話なら残っているものなのだ。どんな精霊様がどんな人物と契約をしていたかは本にまとめられる。もし同じように高位の精霊様と契約をするときに参考になるからだ。

 でもトーマお祖父様の精霊様の話は当時トーマお祖父様に近かった人たちすら残していない。

『たぶんっすけど、改変されたんだと思うっす』
「改変?」
『精霊でも高位なら人の意識を改変することができるっす…簡単にいえば、記憶をいじるなんて魔法一つでできるっすから』

 思い出すのはあの自称天使のおねぇさんが使っていた魔法のことだ。確かに、あのときそんなことをいっていた。

「高位の精霊様が使う魔法か…」

 自分を天使とかいっちゃうような精霊様が…あ、自称乙女もいたから変じゃ…いや、変だよな。
 もしくは濃い。

『それに関係して、覚えてほしいことがあるっす。ご主人の氷の魔法についてなんっすけど…』
「ケルンの?何か問題があったのか?」

 脳裏によぎった濃い存在たちを消し去って杖の話に集中する。
 杖がしばらく大人しくしていたのも、氷の魔法についてアップデートのようなことしていたからだ。
 ことケルンに関してなら聞いておかないと。

『簡単なのはいいっすけど…攻撃に特化した氷の魔法はあまりご主人には使わせないようにした方がいいっすよ』
「それはどうしてだ?」

 攻撃に特化した魔法を使わないことには賛成だが、攻撃をさせたがる杖がわざわざいうなんて、どんな理由だろう。

『ご主人の氷の魔法は特殊なんす』
「特殊?」
『氷は水と風の適性だけじゃなく、時の力も必要っす。体のできてないご主人にはかなりに負担になると思うっす』

 俺に目があれば大きく見開いていただろう。
 そしてすぐにでも氷の魔法をケルンには使わせないと杖にいかなる手段を用いても実行させていただろう。

 それすらできない言葉を杖が俺に投げかけた。

『本当に…ご主人は人間なんすかね?』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
忙しさと体調不良などで遅れました。
遅くなって申し訳ないです。
八月からは毎日更新に戻したいです。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

剣しか取り柄がないという事で追放された元冒険者、辺境の村で魔物を討伐すると弟子志願者が続々訪れ剣技道場を開く

burazu
ファンタジー
剣の得意冒険者リッキーはある日剣技だけが取り柄しかないという理由でパーティーから追放される。その後誰も自分を知らない村へと移住し、気ままな生活をするつもりが村を襲う魔物を倒した事で弓の得意エルフ、槍の得意元傭兵、魔法の得意踊り子、投擲の得意演奏者と様々な者たちが押しかけ弟子入りを志願する。 そんな彼らに剣技の修行をつけながらも冒険者時代にはない充実感を得ていくリッキーだったのだ。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

処理中です...