選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第七章 ケモナーと精霊の血脈

知らない道具

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「…ってことがあったんだが、どう思う?」
『どんな魔法使いだったんっすか。ありえねぇっすよ』

 杖の言葉にだよなと思いつつ俺は思い返す。

 あれからクヤに詳しく聞こうかと思ったのだが、時間もかなり過ぎていた。
 扉の先を調べようかと思ったとき、くぅくぅとなる音が部屋に響く。

「お腹なっちゃったぁー」

 えへへと笑うケルン。ミルディと頷きあってすぐに決めた。

「帰るか。ケルン、ご飯の時間だぞ」
「そうですね。坊ちゃま。すぐにハルハレまでお食事を受け取りに行ってきます」
「はーい!お腹ぺこぺこだからたくさん食べる!」

 調査なんていつでもできる。今はケルンへ必要な栄養を与え、健やかな成長を助けることが最優先だ。しっかり食べさせて身長を…ごほっ…健康な体を作らないとな。
 たくさん食べるなんてあんまりいわないから、たくさん食べさせよう。

「かえ…る?…どこ…ま…で?」

 適当に戦利品というか、お土産?記念品か?ケルンに本をポケットにつっこませて、俺もポケットにつっこもうとして、大きさが合わずに諦めていればクヤが声をかけてくる。
 もしかして、俺たちが帰るのが寂しいのか?…連れて帰ってやるべきか?

「んとね、食堂だからあっちの方!」

 単語だけだからか、ケルンもクヤの言葉がわかるのか返答をしている。
 いまいちクヤが話す言葉のことはわからないが、俺やケルンがわかるんだからどこかで学んだ言葉なんだろう。俺は忘れないが、ケルンは忘れっぽいからな。

 食堂か。

「食堂で食べてもいいが、俺たちだけなら部屋で食べた方がいいだろ」
「お部屋?」
「時間的に食べている人もいるだろうけど…知らない人しかいないぞ?」
「それは…ちょっとやだなぁ」

 時間的にミケ君たちはいないし、他に仲のいい子も食べ終わっているだろう。クランの人も…教室で寝泊まりどころか食事もすませたり、寮代わりにしているような連中だから食堂では食べずに食堂で購入したり、市場で買ってきて教室で食べているかもしれない。

 授業のときは隠しているけど、教室の奥にはいつの間にか食事用のテーブルとか食器棚が置かれていたからな…教室だったはずが、事務所というか、なんとか荘みたいな感じになっていっている…いや、生活臭はないけど…あいつらは本当にあれでいいのか…給金とかまともに払ってないんだけど、自分たちの仕事に支障がでてねぇかな?

 思わず遠い目になってしまう。目玉はねぇけど。

「部屋?どこ?」
「あ?男子寮だよ」

 クヤが首をこてんとかしげる。ロボットだけど愛嬌があって賢いな…性能がかなりいいってか、あざとい。

「カードキー…見せる」
「カードキー?ああ、もしかしてカードか?ケルン、カードをクヤが見たいってさ」
「はーい。どうぞー。でも、なんでか教えてね?」

 ケルンがカードを見せる。まぁ、見たいってだけしか聞いてないからな。
 それをクヤに尋ねようとしたときだった。

「では…ご帰宅…ケーン!」

 クヤがぽんとカードを叩き、一鳴きすると、俺たちは寮の入り口前に立っていた。

 狐がコンコン鳴くというイメージがあるけど、実際はケーンって鳴くんだよなとか、鳴き方がロボットにしては様になってたなとか思うが、それどころじゃない。

 なにが起こった?

 運がいいことに、時間帯もあってか誰もいなかった。もしも誰かがこの光景をみたら根掘り葉掘り聞かれたことだろう。俺ならそうする自信がある。

「…なんで寮が目の前に?」
「すごーい!『転移』の魔法だね!クヤって使えるんだー!」

 なんでここに飛んだのかわからなかった。
 確かに『転移』で飛んだんだろう。でも、クヤが魔法を使ったようには思わなかった。

「どっちかっていうと、カードが原因な気がしたんだけどな」

 カード…カードキーってクヤはいっていたが、これは鍵の代わりだけじゃなく『転移』の魔道具なのかもしれない。
『転移』の魔道具なんてこの世にあるなんて知らなかった。もしあれば…どれだけの価値があるか想像もつかない。

 ケルンが『転移』系の魔法の特訓を繰り返していたが、それでもほぼ使えないとおり『転移』系は難しい。難易度が高い魔法を魔道具で再現する技術がある人間がいたなんて驚きしかない。
 一番の理由はそれだけじゃないんだけどな…それこそ不可能なはずなのだ。

 そんな衝撃が重なりすぎたのか、そのあとのケルンは…テンションが上がりまくっていた。
 夜になっても興奮したように同じ話を繰り返すし、明日も必ず行く!といって聞かない。
 難色をミルディが示しているから明日も行けるかはわからないけどな…俺はあの扉の先が知りたいからケルンが授業中にこっそり行きたいところなんだが…まぁ、ケルンが許すわけもねぇから、一人で行動はできないな。

 ケルンと一緒にいるか、クランの人間と一緒にケルンが授業を終えるまで待つかしないと…ケルンが泣く。もう、ポロポロと涙を流してそのあとの授業は胸ポケットにしまわれてしまう。

 これ、クランの人間じゃない生徒と話し込みすぎて離れただけでなった話だからな。ちょっと実験の話をしていたら、クランのやつらが囲んで圧をかけて…ざっとその人垣が割けるようにケルンが泣きながら来たときは心底震えたな…ミルディがいないときに離れたってエセニアにケルンが報告したからな。

 死にかけてすぐだったからケルンがピリピリしてたのもあるけど、今はだいぶましだ。何かあったら『取り寄せ』っていう手が…俺は季節限定の商品かって思わなくもない。

 まぁ、大事に想われているのは素直に嬉しいけど。

 興奮していてもケルンを寝かしつけることに関してはプロといっても過言ではない。風呂で軽く遊んで、布団に入ってゆっくりと絵本を読めば秒で寝る。そのあとベッドから抜け出すのはかなり大変だったけどな。抱き人形みたいな存在になってるからな、俺。

 ちゃんと寝たのを確認して、寝室を出て杖を作った場所へとむかう。
 机の上には寝る前にケルンにいっておいたから杖が置いてある。

 話をしようと思ってなんだが…目の錯覚か?葉っぱがぐでってしながら葉先だけ杖についたら離れたり…まるで寝息をたてているような…いや、寝るのかよ。杖だよな?

「起きろ」
『あっひゃん!』

 軽く蹴れば変な…かなり喜んだような声を出して痴じょ…杖が葉っぱをぶんぶんと振る。

『ひどいっす!寝込みを襲うななんて!』
「杖が寝てどうすんだよ!…ってか、杖から出てこねぇのか?」

 ほいほい出てこれないってことだが、一人で話すのも嫌だからあの妖精モードにならないかと誘った。

『あれがいいっすか?でもちょっと今は…あ!もしかして受粉したいっすか!なら、無理して作るっす!それでめしべにおしべをぶっこむっすよ!』
「どっちもお互いねぇよ」

 葉っぱにかかと落としをしてつっこみをいれる。
 訂正だ。このままでいい。

 寝ぼけて…ねぇんだよな。こいつはこれがデフォルトだった。あんまり話したくはないんだが…魔法関係にはこいつが強いし…棒神様の選んだサポートなんだし…すげぇ、嫌なんだけど俺はその日にあったことを全て話した。

「『転移』の魔道具はやはり普通は作れないのか?」

 用意しておいた果実水を一口飲み疑問に思ったことを口に出す。
 糖分がこの体に影響を与えるかは疑問だが、ないよりはましだ。
 色んな意味で甘い物が欲しかった。主にまともに話をするようにするまでに溜まった疲労のせいだ。

 杖は葉っぱの二つに割けた先を腕組みするように組む。変なとこで器用だな。

『エフデも知っていると思うっすけど、『転移』は精霊でも中級…複数なら高位じゃないと…そのトーマっていう人間の契約していた精霊の属性は何だったんすか?』

 高位の精霊様と契約をすることで、複数の人を『転移』させれるようになる。
 だからこそ魔道具があるのがおかしいのだ。
 魔道具は魔法を理解しているから作れる。けれども『転移』は誰も理解していない魔法なのだ。

 もしトーマお祖父様が契約していた精霊様がわかれば『転移』のことも解明できるかもしれない。
 だがそれはできない話だ。

「わからん」
『わからんって…』

 手紙には書いていないし、トーマお祖父様のことは話と本でしか知らない。契約していた精霊様のことなんてどこにも書いていなかったのだから、知りようがないのだ。
 父様も知らないっていっていた時点でこの世に知っている人はいないといいきっていいだろう。

『それにたった一体の精霊で容量を超えるて…魔法が使えなくなるなんて、おかしいっす』
「そこも気になるところなんだよ」

 トーマお祖父様はまともに魔法が使えなくなった人だ。魔法を組み込むことには魔法が使えるが、それは他の人のサポートがあったからだ。

『高位の精霊と契約をしても、他の魔法は使えるはずっす…かなり高位の時の精霊ならもしかするかもしれないっすけど…そこまでいくと、神っすから人間には無理っす』
「そこまでの精霊様なら、契約も大変だったろうし…なんで情報が残っていないんだろうな?」

 ちょっとした冒険でも話が残る。形を変えて嘘か本当かわからない代物になってもだ。
 そして高位の精霊様の話なら残っているものなのだ。どんな精霊様がどんな人物と契約をしていたかは本にまとめられる。もし同じように高位の精霊様と契約をするときに参考になるからだ。

 でもトーマお祖父様の精霊様の話は当時トーマお祖父様に近かった人たちすら残していない。

『たぶんっすけど、改変されたんだと思うっす』
「改変?」
『精霊でも高位なら人の意識を改変することができるっす…簡単にいえば、記憶をいじるなんて魔法一つでできるっすから』

 思い出すのはあの自称天使のおねぇさんが使っていた魔法のことだ。確かに、あのときそんなことをいっていた。

「高位の精霊様が使う魔法か…」

 自分を天使とかいっちゃうような精霊様が…あ、自称乙女もいたから変じゃ…いや、変だよな。
 もしくは濃い。

『それに関係して、覚えてほしいことがあるっす。ご主人の氷の魔法についてなんっすけど…』
「ケルンの?何か問題があったのか?」

 脳裏によぎった濃い存在たちを消し去って杖の話に集中する。
 杖がしばらく大人しくしていたのも、氷の魔法についてアップデートのようなことしていたからだ。
 ことケルンに関してなら聞いておかないと。

『簡単なのはいいっすけど…攻撃に特化した氷の魔法はあまりご主人には使わせないようにした方がいいっすよ』
「それはどうしてだ?」

 攻撃に特化した魔法を使わないことには賛成だが、攻撃をさせたがる杖がわざわざいうなんて、どんな理由だろう。

『ご主人の氷の魔法は特殊なんす』
「特殊?」
『氷は水と風の適性だけじゃなく、時の力も必要っす。体のできてないご主人にはかなりに負担になると思うっす』

 俺に目があれば大きく見開いていただろう。
 そしてすぐにでも氷の魔法をケルンには使わせないと杖にいかなる手段を用いても実行させていただろう。

 それすらできない言葉を杖が俺に投げかけた。

『本当に…ご主人は人間なんすかね?』


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忙しさと体調不良などで遅れました。
遅くなって申し訳ないです。
八月からは毎日更新に戻したいです。
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